量産型闇深系クローン美少女にTS転生した男は、百合に挟まりたい   作:霧夢龍人

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ガキがしゃしゃってんじゃねぇ

ハルヒが魔性遺産(デヴィタス)に潜り、死にかけている最中。

教会内の祭壇にて、イルゼたちのような聖堂所属の学園生は礼拝(ミサ)を行っていた。

 

祈りと賛美を数多の学園生たちが済ませた後、聖書の朗読へと移る。

 

Petite et accipietis(求めよ、さらば与えられん)

 

聖書の一節には、残酷なこの世界で生き抜くための道標が綴られている。

赤錆が支配するこの世界で、学園都市の生徒たちは生き抜いていかねばならない。

 

十五歳になれば大人として他の都市へ移るか決められる訳だが、その年齢にまでなってくると、人生の折り返しポイントを既に過ぎていることになる。

 

二十九歳になる前に大多数は死ぬ、という事実が人生の残り時間の少なさを加速させるのだ。

 

だがそんな短い人生にも、価値を見出して必死に生きていく──それが“典礼聖堂会”の教えであり、聖堂所属の学園生たちを支える唯一の拠り所でもあった。

朗読を任された上級生が、静かにページを閉じる。

 

沈黙が落ちた。

 

聖堂に差し込む光は弱く、外の赤錆の霧に吸い込まれていくかのようだ。

それでも、生徒たちは誰一人として席を立とうとはしない。

 

イルゼもまた胸の前で手を組み、祈りを続けていた。

 

(……ハルヒ、無事でいて)

 

彼女は祈りの言葉を口には出さない。

 

典礼聖堂会の教えでは、個人の願いを声にすることは禁止されている。

祈りは“行為”であり、願いは“心”で捧げるもの。

声に出した瞬間、それは「神ではなく自分に向けた嘆願」になってしまうからだ。

 

代わりに、司祭が静かに言葉を紡ぐ。

 

「──我らに試練を与え給え。その果てに、救いの光があるのならば」

 

学園生たちは一斉に頭を垂れ、返礼の言葉を重ねる。

 

「我らは歩む。命尽きるその時まで」

 

それは祝福の言葉ではない。

むしろ、この世界の過酷な現実を受け入れながら、それでも前に進むという意思表明だった。

 

しかしこの日のミサには、どこか落ち着かない気配があった。

 

イルゼは鋭い聴覚を持つわけではない。それでも、変な胸騒ぎだけが身体を支配している。

 

──何かが、起きている。

 

祭壇の奥。

閉ざされた祈祷室の扉の向こうに、見慣れない“揺らぎ”が立ち上っている気がした。

 

それは、祈りの熱でも、焚香の煙でもない。

もっと……冷たく、重く、禍々しいもの。

 

そして同時刻──魔性遺産《デヴィタス》の浅層では、ハルヒの意識が闇に沈みつつあった。

 

 

───

──

 

 

「……っぐ、ぁ」

 

クソが。

何だこのクソゲーは。

 

「ギュイギュイ!」

 

なんで序盤の生き物らしきイモムシに、こんなにボコボコにされてるんだ。

 

クローンが沢山いた研究所の壁をぶち壊した時より、イモムシを蹴飛ばした時の方が感触が鈍い。つまり、鋼鉄より硬い皮膚のせいで全く攻撃が通らない。

 

《恐らく、硬さ自体は鋼鉄の二倍程かと。ですが内側の柔らかい脂肪部分によって、衝撃とダメージを吸収していると思われます》

 

「……くそ、そうだよな。見た目イモムシだもんなお前」

 

妙に納得してしまいつつ、常に謎の闇深美少女を演じていた仮面が剥がれる。

 

もし俺が子供なら、駄々を捏ねてやりたくないと漏らすだろう。

もし俺に責任がなければ、他の誰かにやらせればいいと任せるだろう。

 

だがそういう訳にはいかない。

 

「ハハ……こちとら。もうアラサー通り越してアラフォーに差し掛かってんだ。今更子供面して生きてく訳にはいかねぇなァッ!」

 

プルプル震える脚に喝を入れて、大振りなナイフを構えた。

右脚で思い切り踏み込み、イモムシの早すぎるタックルを回避。そのまま魔性遺産(デヴィタス)の壁を蹴って、反対側の壁へと移動した。

 

壁面を蹴った衝撃で足首がジンと痺れるのを無理やり無視して、ナイフを再び構える。

 

(……若い身体でも、痛ぇもんは痛ぇんだよな)

 

《若い身体というのは?この肉体は十五歳程度なので、年老いても痛みは変わらないと思いますが》

 

(変わるさ。節々の痛みで目覚める様になる)

 

軽口すら頭の中でしか出てこない。

余裕なんてなかった。

 

イモムシが再びこちらへと向きを変える。

ギュルギュルと腹部の節が擦れ、鉄板を引き裂くような音が響いた。

 

──だが。

 

道の先に、人影が見える。

 

学園生だ。まだ十代半ば。細い腕、慣れていない構え。

それでも必死に、同じイモムシ型の魔性と向き合っている。

 

「……ったく」

 

気づけば足がそっちに向かっていた。

 

若い身体は軽い。でも、今まで背負った人生は軽くない。

 

“助ける義務はない”

“見捨てても誰も責めない”

 

そう頭では理解してる。

 

だが、三十代を越えて積み重ねた──後悔が、経験が、人生が。その全部が勝手に身体を動かす。

 

《警告。あの個体はあなたのものより一回り大きいです。単独での撃破は危険だと──》

 

「うるせェ、わかってんだよ」

 

若い身体が前へ。老いた(おっさんの)心が後押しする。

 

死ぬのは当然怖い。

百合の間に挟まるために死ねるならいいが、赤の他人のガキを助けたって俺に利益はねェ。むしろ危機に晒すだけだ。

 

だが、後悔は間違いなく残る。

どうせ死んだ身だ。俺よりも若人の方が確実に未来がある。

 

だから。

 

「ここで見捨てて死ぬほど後悔するより、助けた方がマシなんだよ!」

 

叫びと同時に床を蹴る。

横から飛び込む形で、学園生に迫るイモムシの軌道へ割り込んだ。

 

避けるなんて無理だ。

真正面から、触角を掴んで止める。

 

「ギュアァァッ!!」

 

(うるせぇ!!)

 

握力が皮膚に食い込み、指が痺れる。

硬い。とんでもなく硬い。巨大な猪の突進を受け止めているかのような重圧を感じて、ミシミシと骨が軋みをあげる。

 

だが、動きは止まった。

 

「逃げろッ!」

 

背後の学園生が、驚いたようにこちらを見る。

 

震える瞳。まだ死ぬことを知らない年齢。

それでも必死に武器を構えようとしていた。

 

(……っち、あぁそうだよな。俺も昔はそうだった)

 

「バカ走れ!武器構える暇があんならさっさと行けェ!!!」

 

学園生が唇を噛み、短く頷いて駆け出す。

イモムシは暴れ、触角ごとハルヒを振り回した。

 

肩が抜けそうになる。

 

「はは、若い体じゃなきゃ死んでるわ、これ」

 

《……貴方は頭がおかしいのですか?なぜ助けたのです?お陰で今大ピンチですよ》

 

「あ?ガキ助けたくらいで死ぬくれェなら、俺はその程度だったってことだよ」

 

自嘲混じりに吐き捨てながら、ナイフを逆手に握った。

 

思い出すのは、イルゼとミレイナの笑顔。そしてその裏で浮かべる、生きるのに絶望しているような表情。

 

闇深美少女を演じていたからこそ分かった。

 

(……イルゼのあの力。どう見ても“裏”があるよなァ)

 

あの子は強い。恐ろしく強い。

だがその力を誇ることをせず、使う時も躊躇っていた。

 

──恐らく、あれは何かを削っている力だ。

 

生命か、身体の一部か、はたまた魂か。

 

現代社会で生きていたせいで何を犠牲にしているか検討もつかないが、年下の少女が、自分では気づかぬまま傷を増やしていく。

そんな未来を思うだけで、腹の底が重くなる。

 

(ガキがあんな表情してんじゃねぇよ)

 

闇深美少女を演じている自分を見て、心を痛めている顔。

そしてどこか自分と重ねているような表情。

赤錆の外から来訪する人物に対して、治安自治組織の監獄へと入れずに聖堂預りにしたのは、自分と似た境遇の人間を助けたいという思いもあったのだろう。

 

そしてそんなイルゼを見て、ミレイナも俺を信用した。

 

イルゼもミレイナもハルヒを気遣ってくれている。

笑って送り出してくれた。信じてくれた。

 

子供に、ガキに見送られて……大人である俺がすべきこと。

 

「私が……俺が強くならねェと」

 

少女の顔のまま呟くと、胸の奥で老獪な声が返す。

 

(そうだよ。“挟まる”ためにはな、守る力も要るんだよ)

 

百合の間に入ってぬくぬくするだけなら簡単だ。

けれど──二人を曇らせるような勝ち方はごめんだ。

 

彼女たちの笑顔の中に入りたいのであって、

涙の中に入りたいわけじゃない。

 

(だからってよ……なんで俺だけボロボロになる役引いてんだ?)

 

苦笑が漏れた。

 

「……でも、子供(ガキ)に背負わせるよりは……良いよなァ」

 

イルゼはまだ年端もいかぬ少女だ。

そんな子が“世界を守る責任”みたいな顔して頑張っているのは、どうにも気に食わない。

 

青春は泣きながら戦うものじゃなくて、笑いながら騒ぐものだろ、と。

ヤンチャして暴れて、学校から抜け出して、恋愛をして、沢山遊んで……それを抑え込んで一端の大人みたいに振舞ってんじゃねぇ。

 

生意気なんだよ。

 

(子供は子供らしく……普通の悩みで泣いてろよ。恋とか、将来とか、テストとかよ)

 

だから代わりに、俺が傷だらけになる。

それでバランスが取れるなら安いもんだ。

 

前々から強くなろうとは思っていた。

それが顕著になったのは、爆弾で爆破された時だ。あれほど自分が無力に感じた時はない。

 

天啓を貰った時は丁度いいと思ったんだ。

まぁ、まさかこんな難易度だとは思わなかったがなァ。

 

《……なぜ、貴方はここまで出来るのです?》

 

「さァな。だがまぁ、ガキのガキらしくないとこ見たら、俺みたいなおっさんは世話を焼きたくなるんだよ」

 

《り、理解できません》

 

「そりゃそうだ、出来なくていいんだよ。お前は俺の補佐をしてろ」

 

ナイフを構えて狙うは──唯一、皮膚の薄い“節のつなぎ目”。

 

(十五歳のピチピチの筋力……それに三十代後半の知識と、後悔と、経験全部乗せだ──)

 

「食らいやがれッ!!」

 

渾身の一撃が、関節の隙間へ突き刺さった。

 

「ぎゅッッッ!?」

 

肉が裂け、青黒い体液が噴き出す。

イモムシが絶叫をあげて暴れ始めた。

 

車の衝突もかくやという衝撃が身体を襲うが、突き立てたナイフを離すつもりはない。

 

そしてイモムシは。

 

「くたばれ」

 

「ギュ、イ……」

 

崩れ落ちた。

デフォルメ調の目元の光が消え、徐々に身体が崩壊し始める。

 

俺はそれを確認して、壁にもたれて息をつく。

ただのイモムシ相手にとんでもない激戦を繰り広げてしまった。

 

だがまぁ。

 

「俺の──“勝ち”だ」

 

今日くらいは自分を褒めてもいいかもしれない。

まだまだ、初戦で目も当てられないような戦いだとしても、な。

 

 

 

《第零夜、“夢無階層(レベル0)”突破──初喰(はつがみ) 第一夜 夢芽階層(レベル1)到達》




主人公は自分がボロボロになっても全く気にしないのに、周りがめちゃくちゃ動揺してこれ以上傷つかないで!って止める展開大好きですわ〜〜〜!!!
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