量産型闇深系クローン美少女にTS転生した男は、百合に挟まりたい 作:霧夢龍人
イモムシ型の魔性物が、ギュイッ! と叫びながら飛びかかってきた。
ついさっきまでは、避けられるかどうかギリギリの速度だった。
アドレナリン全開でどうにか死なずに済んだだけの、普通にやべぇ突進だ。
──だったハズなのに。
「……は?」
跳んだ魔性物を“しっかり視認”し、俺は無意識に足を半歩ずらす。
ただそれだけ。
それだけで──魔性物の突進が“スロー再生みたいに”空を切った。
(おい待て、なんでこんなに……遅ェ?)
イモムシは不思議そうにうねりながら、巨大な顎を俺に向けてガバっと広げる。
だがその動きが、もう笑えるほど遅い。
いや、正確には──
「お前、ふざけてやってんだろ?」と突っ込みたくなるペースで、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。
(嘘だろ……? 俺、こんな相手に苦戦してたのか?
いや、落ち着け。実はこれが罠かもしれねぇだろ!)
疑心暗鬼で脳がフル回転していると、頭の中にいつものムカつく声が響く。
《ハルヒ。貴女の等級は既に
あのイモムシも同じく夢芽相当。つまり同階層なら、より優れた方が勝つだけのことです》
「夢芽……?あぁ、そういやあの黒い瞳の修道服の奴も言ってたな。なんだっけ……えぇと……」
《“夢幻”ですね。レベル2相当です》
「あ、それそれ。この調子なら、俺も案外すぐそこまで行けそ──」
《不可能です》
食い気味に突っ込まれた。
《
しかし、そこから
五年という響きに、思わず眉唾を飲む。
それと同時に、あの白い修道服の異常性が垣間見えた。
顔はよく見えなかったが、年若いのは分かる。ミレイナより少し年上ぐらいだな。つまり、青春真っ盛りだ。
そんな時期に、一体何のためにそこまで強くなったのか。
自分の為?もしくは誰かの為?わからねェ。
「……マジか。いや、そりゃそうか。一朝一夕で強くなれってのは虫が良すぎるよなァ。んで?その階層とやらを上げるには何すりゃいいんだ?」
《自身の揺らがぬ夢や信念を以て──“対峙する相手の夢を奪うこと”です》
静かに、しかし冷酷に響く言葉。
……やっぱりこの世界、厄ネタだろ。
イモムシの顎が、パク……パク……と漫然と開閉している。
もはや脅威でもなんでもなく、ただのスローモーション映像だ。
《警告です。レベル差があっても、不注意な一撃で死ぬ確率は0.7%存在します》
「……その0.7%のためにビビれって?まだ単発で星五が当たる確率の方がたけーだろ」
《事実ですので》
「事実ですので、じゃねーよ……ビビってもしゃーねーんだよ」
ちょっと笑いそうになった瞬間、イモムシが再び伸び上がる。
だが今度は、怖くなかった。
ゆっくりと迫るその巨大な顎が、まるで“止まった時の隙間”に浮かんでいるようだ。
「──じゃ、やってみるか」
気づけば、足が地を蹴っていた。
跳ぶというより、自然に前へ出ただけ。
それなのに、世界が流れる。
イモムシの胴の節、表皮のざらつき、空気を切る音。
全部が、手でつかめそうなほど近い。
(こんな……簡単に?)
すれ違いざま、俺は拳を叩き込んだ。
ただの素人のパンチ。
技量なんてゼロ。
……けど。
「ンギィッ!?」
乾いた破裂音。
イモムシの体が、信じられない速度で横へ吹っ飛んだ。
地面を転がり、そのまま数秒ピクピクして──動かなくなる。
《撃破を確認。夢芽《レベル1》としては極めて順当な結果です》
「……いや待て、順当ってレベルじゃねーだろ今の。俺、何した?」
《殴りました》
「それは分かってんだよ!!」
《補足します。夢芽とは“夢力発芽段階”の総称で、身体能力・認識密度・夢出力が通常比で約3〜5倍へ跳ね上がります。
ハルヒの場合、特に“認識密度”の向上が顕著です》
認識密度。
さっきから世界がゆっくりに見えるアレか。
「……そりゃイモムシも止まって見えるわけだ」
《はい。そして、夢芽《レベル2》に到達すれば、さらに倍の伸びを期待できます》
「ば、倍!?どんだけだよ!」
《夢力とは指数関数的に増大するものですので》
(マジかよ……夢芽って、そんなヤベェ代物だったのか)
胸がドクン、と高鳴る。
“もっと強くなれる”そんな実感が、初めて現実として手のなかにあった。
強くなれば情けない姿を晒さず、大人ぶるガキ共の前に立って庇い、そしてなんやかんやあって間に挟まれる。
うん、完璧だ。
《一番大事な工程があやふやですが》
「臨機応変にってことだよ」
それに闇深美少女の戦闘能力が高いのは解釈一致だ。
「その程度の力で世界が救えるとでも?……ほざかないで貰えますか」って言って欲しい。てか言いてぇ。
あとは百合に挟まる時に、「楽しそうなコトしてますね、私も混ぜて貰えますか?」って言うのもありだな。
なんて妄想を膨らませていると。
次の瞬間。
──“何か”が這いずってくる音がした。
ギ……ギチ……ギチ……
鉄の壁が軋んでいるわけじゃない。
床が鳴っているわけでもない。
音の正体は──“天井”。
「……おいおい、もっと妄想に浸らせてくれよ」
天井の内側を、巨大な影が這っていた。
───
──
─
???side
白い壁の部屋は、嫌いだ。
光を吸わない、冷たい白。
声を反響させる、薄っぺらな白。
まるで“罪を塗りつぶす色”みたいだ。
私はその中央に一人立ち、三名の監査官に囲まれている。
治安自治組織のトップ共だ。
淡々と机を叩く音が響いた。
「──ノワール=エイセス。あなたの行動は、学園都市の第一規範に抵触しています」
「……規範は存じています」
「なら何故、外来者に対して殺傷を試みたのです?彼女は学園に登録済みの、聖堂の“保護対象”ですよ」
(保護? 誰が誰を?)
胸の奥がざらつく。
弱っていくイルゼ様を見て見ぬふりをし、赤錆の負荷を全部押し付けておきながら──この人間たちは、私に“規範”を説くのか?
吐き気がした。
「……外来者だから、です」
私は静かに答えた。
「外来者は、学園都市管理プログラムに管理されていません。また、死んでも都市のレイヤーに響かない。
むしろ──イルゼ様が力を使う理由の一部になっていました」
監査官の一人が眉をひそめる。
「その判断はあなたの独断です。かのイルゼ=ヴァンデルトール本人が庇った相手ですよ?」
「だからこそです」
声がわずかに震えた。
隠す気はなかった。
胸の奥の焦りも、恐怖も、罪悪感さえも。
全部、隠しながら少しだけ本音を零す。
「イルゼ様は、弱りすぎています。毎日、赤錆の圧を“鍵”で受け止め続けている。このままなら……」
そこで言葉が詰まった。
言いたくなかった。
現実の形を与えたくなかった。
しかし、言わなければ届かない。
「……このままなら、イルゼ様は死にます」
室内の温度が一瞬で下がった。
監査官たちは互いに視線を交わし、
そのうちの一人が静かに言葉を落とす。
「ノワール。確かに君は“鍵”の負荷について正しく理解している。しかし──だからといって“生贄を選ぶ権利”は、君にはない。第一、なんの罪もない外来者を殺めていい理由などないはずだ」
「分かっています」
分かっている。
そんなもの、私にあるはずがない。
だけど。
「……それでも、イルゼ様が苦しんでいるのに、私に何もしないでいろと言う方が……間違っています」
床を睨む。
イルゼ様は、俯く私に光をくれた。
聖堂でどれだけ祈っても得られなかった輝きを、私に灯してくれた。
なにが【
喉の奥が焼けるように痛む。
「私は……助けてもらったんです。あの日、あの赤錆の中で。
泣きながら“鍵”を使って、自分の記憶を削ってまで、私を救ってくれた」
監査官たちが静かに目を伏せる。
あの日のことを知る者はほとんどいない。
知っていても、語ろうともしない。
イルゼ様もきっと覚えていないだろう。
それでも私は。
「なら……今度は私が返す番でしょう。彼女が死ぬくらいなら、外来者の一人くらい──なんなら私が」
「ノワール」
最年長の監査官が言った。
低く、しかし優しい声だった。
「君がイルゼを想う気持ちは……理解できる。だが君の行為は“救い”ではない。それは“選択の強制”だ。
わかっていると思うが、かの少女はそれを望まない」
「……っ」
望む、望まないの話ではない。
“必要な犠牲”が誰なのか、私はただ選んだだけだ。
学園都市管理プログラムがなければ、死んでも死んだことが分からない。
そもそも、外来者という危険性をコイツらは知らないのだ。
二十年以上前に起きた“四大都市”の一つ、
一体なぜ。なぜコイツらはそれに理解を
何故だ。何故なんだ。
「外来者の少女──ハルヒは、助かったそうだ。イルゼが“鍵”を使ったおかげで」
その名を聞いた瞬間、指先が震えた。
イルゼ様はまた……自分を傷つけたんだ。きっと今だって苦しんでいるはずなんだ。
「今後、外来者への干渉は固く禁じる。命令だ、ノワール=エイセス」
命令。
その単語も、私は凄く嫌いだ。昔の惨めな自分に戻った気がして。
でも私は元々、“そういう立場”で、拒否をすることは許されていない。
「……承知しました」
形式上の返事だけを残し、私は部屋を離れた。
廊下に出た瞬間、足が止まる。重たい扉が、後ろでゆっくりと閉じた。
ギィィ……ン。
部屋に残った白い光と議員たちの視線の圧──すべてが、扉の向こうに遮断された瞬間。
私は、ごく浅く息を吐いた。
表情はいつも通り。
だが、胸の奥に渦巻く感情だけは微動だにせず“黒い熱”を放ち続けている。
(……処分保留。あの場で咎められなかったのは、ただの“猶予”にすぎない)
靴音が石造りの廊下にコツ、コツ、と響く。
何歩も進んだところで、ふと立ち止まった。
ゆっくりと宙を睨む。
さっき報告会で、委員たちに散々突かれた“あの失敗”が脳裏に浮かんだ。
──外来者を生贄にしてイルゼを救う作戦。
──そのために配置し、計算し、感情を捨てて選んだ“最適解”。
──それが、たった一人の例外によって崩された。
私の指先がかすかに震えた。
怒りではない。
もっと静かで、もっと冷たい、殺意そのもの。
(失敗の原因は一つだ……あの外来者。)
唇が、ほとんど無音で歪む。
(あの子さえ、いなければ。
いや──あの子が“もっと素直に”死んでくれていれば……)
胸奥で燃えるのは激情ではなく、純粋な計算の果てに生まれた殺意。
ミレイナはイルゼ様を守る方だから、爆発は控え目にした。しかし、あの外来者──ハルヒと名乗る少女の部屋は、複数種の魔導炸薬をかなりつぎ込んだ。
それなのに。
「……くそっ、なんで上手くいかなかったの?」
何故か生きている。
ハルヒは邪魔だ。そして間違いなくこれからも邪魔になる。
私は再び歩き出した。
だが途中で、もう一度だけ立ち止まり、伏せた瞳の奥で鋭い光を宿す。
頭の中で、あの外来者をどう殺そうかずっと悩んでいるからだ。
(……アイツはいつか必ず消す。
ただの事故として。自然死として。
“理由”なんて、いくらでも作れるじゃない──イルゼ様の世界を乱す存在に、居場所なんてない)
最後に、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「必ずよ……
準備は既に整っている。
イルゼの代わりに能力の代償を受け、イルゼ自身にダメージを与えない装置は、既に科学魔技部に依頼していたお陰で既に届いている。
あとは、あの目の死んだドブネズミのような女を仕留めるだけ。
私の影が、ゆっくりと闇へ溶けていく。
その黒い瞳は、我ながら生贄を欲する悍ましさが滲んでいた。
ちなみにイルゼは鍵の能力を使っていませんわ!
使いかけただけですのよ〜〜〜!
貴方の好きな人が貴方のために傷付いちゃったから、もうこういう事は辞めなさい!って嘘をついて止めるつもりだったのに、余計加速させちゃったのは最っ高に愉悦ですわ〜〜〜!
てか筆が乗りすぎて長くなりすぎてしまいましたの。
申し訳ございませんわ。