量産型闇深系クローン美少女にTS転生した男は、百合に挟まりたい 作:霧夢龍人
圧倒されるほど巨大な壁と扉。その全体を包み込むように、巨大なドームが街を覆っていた。
外壁とドームの境目には、透明な膜が張られている。近づいてみると、その表面がうっすら虹色に揺れているのが分かった。
二人に連れられるまま、その膜を通り抜ける。
すぅっと、肺に入ってくる空気が一気に澄んだ気がした。
どうやら、本当に赤錆の脅威から守っているらしい。どうなってんだこれ?
つか、こんな馬鹿でかい学園都市を丸ごと覆うバリアって、エネルギー源はどうなってんのかねェ。
技術が発展してんだから、やっぱり小規模でとんでもないエネルギー使ってるとかか?
《解析……高密度多層バリアです。赤錆粒子と有害物質を遮断しています。エネルギー源は……知ると後悔すると思われます》
(おお、SFっぽいな。テンション上がる。……んだがよ、“知ると後悔する”エネルギー源って、どう考えても厄いなァ。もうこれ以上の厄ネタは勘弁だし、今は知りたくねェ)
《そうだと思いました。ちなみに一定以上の戦闘力を持つ個体なら、このドームは物理的に破壊可能です》
(……なんでそういうこと言うんだよ、物騒だろォが)
脳内で突っ込みを入れているうちに、今度は巨大な扉の前に到着した。
キラキラと輝く粒子が扉からこぼれ出し、虫が葉を喰うように穴を穿っていく。
やがて、完全に開いた先に広がっていたのは──やはり、別世界だった。
俺を見るなり、一斉に目を剥いた。
まァ、そりゃそうだ。
片目潰した全裸ローブ女が保護されながら歩いてきたら、誰でも二度見する。
と、そこでふと違和感に気付く。
隊員たちを含め、見渡す限りの人間は、皆ミレイナと同じくらいか、ちょっと年上程度の年齢にしか見えない。
学園都市だからか? あるいは──いや、よそう。
更なる厄ネタの気配がする。厄ネタに継ぐ厄ネタに、そろそろ心が擦り切れてきた。
転生するならもうちょっと甘い世界がよかったんだが?
例えばそう、き〇ら時空みたいな。……ま、これ以上僻んでも仕方ないが。
「なぁ、あれ」
「中央聖堂と外装治安部の二人じゃないか」
「やっぱりお美しい!」
「てかその間に挟まれてる奴、誰だ?」
「下半身はだ……いや全裸じゃないか」
……どう考えても怪しまれている。
まぁ、仕方ない。
外から見れば、ただの“面倒くさい属性の塊”だ。俺自身、そんな奴を見たら絶対に警戒する。
だが、二人は違った。
ミレイナの眼差しは鋭いのに、根底にあるのは「守るため」の覚悟で。
イルゼは、ただ純粋に「かわいそうな人」を見るような目で俺を見ていた。
まぁ、イルゼはともかく、ミレイナはちゃんと警戒心も持っているみたいだがなァ。んだが、警戒心をこのまま持たれ続けるのは少々頂けねぇ。
どうしようかねェ。
《個体名ハルヒ、こういう状況ではとある方法が効果的です》
(あ? どんな方法だよ)
《ボケましょう》
(……は?)
《提案は以上です》
思わず、ピクッと口元が歪む。
コイツ、もしかしてボケまで出来ちまうタイプのAIか? 「ボケましょう」って、お前、その提案自体がボケなんだがなァ!?
てかこの状況でボケれるわけないだろうが。
「提案は以上です」じゃねぇよ。「提案は異常です」の間違いだろ。
っと、しまった。
ツッコミに夢中になりすぎて、地面ばっか見てたわ。
警戒心を抱かせないためにも顔上げて挨拶くらいした方がいいよな。
なんて思い至って顔を上げると、ミレイナの視線がこちらを捉えていた。
俺がさっき急に俯いて、急に笑顔を浮かべたせいだろうか。悲痛そうな面持ちで俺を見ている。
……なんか誤解されてる気がするんだが。まぁ、気のせいだろ。
ともかく、この空気を誰かほぐしてくれ。なんて、アラサーのおっさんらしからぬ願いで二人を眺めていると、言いずらそうにミレイナが話し掛けてきた。
「その目、研究施設から逃げ出した際に付いたと言いましたね?」
「はい。記憶こそ曖昧ですが、多分……」
そう答えると、ミレイナは少しだけ間を置いてからまた口を開く。
「では、包帯で顔を覆いましょうか? ついでに身体中の傷も治しますよ」
ああ、そうか。
イルゼが俺の傷を見るたびに、キュッとローブを握っているのを、ずっと気にしていたんだろうな。
それは流石に───。
──最高だ。
着々と俺の隻眼が、いい感じに“属性”として定着しつつある。もはや隠すなんて勿体ない。
だから返答は、もう決まっていた。
「いいえ。お気持ちは嬉しいんですが、この傷……隠したくはないんです。そうしちゃうと、私じゃなくなる気がして」
「……なる、ほど。差し出がましい真似をして申し訳ありません」
「私は……そのままでいいと思うよ。かっこいい」
───
──
─
イルゼの素直な一言が重なって、ミレイナはさらに申し訳なさそうに俯いた。
気まずい質問をした、とミレイナは唇を噛む。
“この子は何か地獄をくぐってきたに違いない”。そんな確信が脳内を支配していた。学園都市の包帯は、巻くだけで傷が癒えるスグレモノだ。
それなのに隠さない、消さないという返答にミレイナは聞いた事を深く後悔した。
それに、門番たちの目に晒された瞬間のあの眼差し。
凍てつき光を感じさせない瞳孔には、僅かに諦めが混じっていた。
(私は……なんてことを聞いてしまったんだ)
きっと、何か深い理由があるだろうから。
きっと、消したくない理由があるから。
きっと、隠したくない何かを抱えてるから。
そんなことを思うミレイナのすぐ横で、ハルヒ本人は
「折角の隻眼なのに勿体ない!」
という理由だけで拒否していた。その考えが、見事に誤解を加速させているとは露ほども知らず。
なんなら心の中で、
「決まった。完全に闇深系美少女だ」
とキャッキャしていた。
イルゼもヴェールの下でニコニコしていた。
二人とも、方向性は違えどちょっとズレているあたり、完全に似た者同士である。
そして空気は、完全に死んでいた。
─
──
───
(空気きまず……おっさんのトークスキルでも、どうにもならんぞこれ)
《貴方のせいだと思われます》
(……しょ、しょうがねェだろ!?)
反省は、しよう。だが──後悔はしていない。
連れられて歩くこと数分。
だだっ広いSF世界に迷い込んだような気分のまま、俺は、凱旋門もかくやという巨大な門の前まで連れてこられた。
俺のローブを握りながら、前を向いて歩いていたイルゼが、そこでくるりと振り返る。
「紹介するね……ここが私の所属する組織、マギア中央聖堂だよ。今日からここでハルヒを預かるから」
イルゼの声を聞きながら、俺は荘厳な景色を目に焼き付ける。
赤錆のせいで植物の
聖堂らしき建物の周りには、紛れもない花と木々が生い茂っていた。
蝶や小さな鳥の姿もあり、砂と鉄錆よりも遥かに目に優しい光景だ。
まさしく、花園。
……だが、俺からすれば、これはまだ序の口だった。
真に驚くべきは、その圧倒的な女の数。
聖堂という名は伊達じゃない。
シスターとよく似た制服を着た女子生徒たちが、中庭で賛美歌を歌っていたり、
掃除や洗濯をしながら、キャッキャウフフとふざけ合っていたり、
肩と肩を寄せ合いながら、聖書か何かを朗読し合っている百合カップルの後ろ姿があったり。
──もう一度言おう。正しく
俺は、この素晴らしき景色に思わず息を飲み、片目から涙を流していた。
「なんて、美しいんでしょうか」
気付けば、自然と合掌していた。
「っ、そ、そんな! 泣くほどのことですか!?」
「な、泣かないでほしい」
慌てふためく二人には申し訳ねェが、本当に美しい光景だ。
こんな美しい百合の花たちの中に、俺は入るのか? お世話になってしまうのか?
今まで散々「百合に挟まりたい」だの宣っていたが、
そんな男の性すら、思わず浄化されかけていた。
……いや、やっぱり浄化はされないな。されかけただけだな。
だから、一応確認しておくべきだろう。
「本当にこんな場所で、私のような者を預かっても宜しいのですか? あの美しい百合の花達の間に……私が」
遠慮がちにそう言うと、イルゼがローブを掴んでいた手を離し、今度は俺の手をそっと包み込んだ。
柔らかく、小さな手。だがほんのりと暖かくて、
まるで「大丈夫」と安心させるかのように、優しく力を込めてくる。
続くようにミレイナが、俺の肩をそっと引き寄せた。
「大丈夫。きっとハルヒは辛い思いをした。でも、今後も辛い思いをする必要なんてない」
「えぇ、そうです。むしろ赤錆のせいで芽生えなかった百合の花と、こうして戯れられる場所に行かないのは、勿体ないと思いますよ」
「……いいのですか?」
え、本当にいいのか?
百合の花達と戯れちゃっていいのか?
全然間に挟まりにいくぞ? なんなら百合カップルを新しく作り出した上で挟まりに行くぞ?
そんな罪深いことをしようとしている俺が、本当にお世話になっていいのだろうか。
「本当に、いいのですか?」
大丈夫? 本当にいいのか?
今ダメって言わないと、俺、本当に百合と戯れるぞ?
そんな確認の念を込めて、もう一度問う。
「うん」
「もちろん」
やはり、その答えは揺るがなかった。
優しい笑みを浮かべたミレイナと、ヴェールの下で笑っているであろうイルゼ。
その二人の顔が、俺には──罪人を赦してくれる女神のように見えた。
──また、涙を流した。
(なんて素晴らしい世界なんだ。厄いなんて言って済まなかった。ありがとう、女神様)
二人の女神(仮)に、俺は心の中で手を擦り合わせ、
今後は自重せずに百合に挟まろうと、改めて固く決意する。
《……どうなっても知りませんよ、お二方》
(ん? なんだ、何か言ったか?)
《いいえ、なんでもありません》
皆さんの好きな百合展開と曇らせを教えて欲しいですわ〜〜!!
参考にさせてもらいますの!!!(邪悪な笑み)