量産型闇深系クローン美少女にTS転生した男は、百合に挟まりたい 作:霧夢龍人
「止まりなさい」
声を張ったとき、私は自分でも驚くほど冷静だった。
でも──目の前の“それ”を見た瞬間、心の中ではこう言っていた。
(……何この子。なんで裸なんだ)
護衛対象であるイルゼとともに、私たちは学園都市の外の世界に調査に来ていた。
赤錆の濃度の測定と、
とは言っても、通算数十度目になる調査は私たちにとって慣れたものだ。
今回も特に異常なく、調査を終えて戻ろうとした矢先。
「おっと」
少し驚いたような声を上げる、全裸の女がいたのだ。
赤錆の嵐の中を全裸で疾走してきて、息一つ乱れていない。
片目は潰れているのに、平然としている。
肌には赤錆焼け特有の発疹もない。
しかも、素っ裸のまま学園都市《マギア》の正面に突っ立つなんて。
正気じゃない。
いや、正気の人間ならとっくに赤錆で死んでいるか。
だが一つ確かなのは、羞恥心はおそらく死んでいるということだ。
ゴクリ、と生唾を飲み込み、光線銃七十二式を構える。この距離なら間違いなく当たる距離だ。もしただの人間であれば、この一発で即死だろう。
ただの人間であれば、な。
普通の人間は“三十”まで生きられない。とある手段を用いなければ、平均寿命は二十八歳程度だ。
何故かって?
夢と希望を“あいつ”に食いちぎられて死ぬからだ。
だからこそ、赤錆の外に出るなんて愚行は誰も犯さない。
なのに、この子は……。
(……なんで笑ってるんだ)
銃口を向けても、怯えより困惑の色が強い。ドン引きである。
反応が薄い。
“人”っぽさが希薄だ。
横にいるイルゼも、不思議そうに首を傾げていた。
彼女は私よりも鋭い。
(いや、そもそも何で平気なの?)
この世界では、赤錆は“死”そのものだ。
大戦の残滓が空気そのものを腐らせ、人間をゆっくり蝕んでいく。
イルゼはその侵蝕を止めるために、寿命を削ってドームを張ってる。
彼女の命なんてあと───いや、考えても無駄か。
そんな短い命でも、私はイルゼを守らなければならない。毎日必死に生き続けなければならない。
それでも。
目の前の子は、死という概念を笑って無視しているみたいだった。
恐怖より、不快より、最初に胸を満たしたのは強烈な違和感。
(こいつ、本当に“人間”なの……?)
だから私は、銃口を一ミリも下げなかった。
「貴女は、何者ですか?服を着ておらず、さらには何か武器を持っている様子もない。その状態で赤錆の外に居るなんてありえません。所属組織、もしくは出生を答えなさい」
「……」
問い詰めても、彼女はきょとんとしている。
なんて答えようか悩んでいる節も見えるため、ますます怪しい。
所属も出生も分からない、或いは答えられないなんてスパイかテロリストか、もしくは狂った放浪者か。
最悪、赤錆に適応した“化け物”の可能性もある。
だから私は警告した。
「──答える気がないなら、撃ちますよ?」
それが、この世界の常識。
この街を守るための当然の対応。
でもそのとき──
彼女の口から出た言葉は、私の想定の斜め上を跳ね飛んでいった。
「分かりません」
「なんですって?」
「何も分かりません。所属組織も、何かも。私はどうやら、記憶が曖昧みたいです。気付けば荒野の中に一人で座っていて、ただ目的もなく彷徨って……いつしか、この場所に辿り着いていました」
悲しげな表情で傷の入った片目を抑え、淡々と話す不審者。
嘘か真実か、私には分からない。
「記憶喪失……? 都市伝説のような話を信じると?」
「信じて欲しいとは言ってません。ただ──それが事実です」
理解不能だ。記憶があるかどうかじゃなく、私は正体を知りたいだけだ。
そうでなければどうしようもなく不審者で、隻眼で、冷たい目をした素っ裸な信じきれないような女でしかない。
だが私は何故か、この少女を信じたいと思ってしまった。
───銃を突きつけてしまったせいでぷるぷる震えて泣かれてしまった時は、罪悪感で胸が締め付けられた上にイルゼに凄い目で見られたが。
私は貴女のためにやっているというのに……気持ちが伝わらないというのはままならないものだ。
ちなみに不審者の名前は、ハルヒというらしい。
───
──
─
結果として、私の信じたいという気持ちはどうやら裏切られずに済みそうだ。
勿論警戒は怠っていないが、死んだ目をしている癖に学園都市に入った途端僅かに目がキラキラしていたり、聖堂に足を踏み入れた際には感動したのか涙を流したりと、見た目以上に感情が豊かなようだ。
まぁ、相変わらず目は死んでいるし口を開けば闇が深い記憶がじゃんじゃん出てくるのは、流石にやめて欲しいところではあるが。
「ね、ハルヒ早く着替え終わらないかな」
「そうですね、赤錆を落とした彼女の姿は可憐でしたから。少し気になります」
浄化室で赤錆を落としてイルゼとともにハルヒが着替え終わっているのを待っている今、保護対象が二人に増えた事に少しの面倒さを感じつつも、会話に興じる。
元々イルゼは無口な子だったが、嬉しいことに私と居る時は面と向かって喋ってくれる。
「むっ、私よりもハルヒの方がかわいい?」
「ふふっ、もしかしてあの子に嫉妬してます?」
「っ!しらない」
ほっぺを膨らませて、黒いヴェールの下でむくれるイルゼ。
顔が見えなくても案外表情が分かりやすいこの子は、私にとってかけがえのない存在だ。
怒ってたり、笑ってたり、照れていたり、そういう表情を私に向けてくれるのが嬉しい。
例えば。イルゼが照れているときは、肩がほんの少し上がる。声がいつもより小さくなる。
そして何より——
(……可愛い。ほんと、可愛い)
ハルヒが増えたことで私の負担が増えたはずなのに、むくれた顔のイルゼを見ると少し気持ちが和らいだ気がする。
緊張の糸が張りっぱなしだった日々が、少し緩んだような……そんな感覚。
「……冗談です。可憐と可愛らしさでは意味合いが違いますが、可愛さという面では、私はイルゼに軍配が上がると思いますよ」
「……ほんと?」
「ほんとです。私はあなたを守る“護衛”ですから。嘘はつきません」
「……っ。なら、ゆるす」
ヴェールの奥で小さく俯いた気配。
イルゼの黒衣の袖が、そっと私の袖口を引いた。
ああもう、そんな仕草をされたら守る気力なんて、いくらでも湧いてしまう。
可愛らしくて純情で、面倒くさがり屋な一面もなお好ましい。
「……ミレイナ、離れないでね」
「もちろん。離れませんよ。護衛ですから」
「護衛、だけ?」
「え?」
イルゼの指先が、袖をつまんだままきゅっと力を込めた。
胸が一瞬だけ跳ねる。
こんなふうに“踏み込んだ言葉”を口にする子ではないのに。
「……その。わたし……ミレイナといると……安心、するから」
声がかすれていた。
弱音にも似たその一言は、胸の真ん中に落とされたように重く温かい。
「それは……嬉しいですね」
イルゼの頭を撫でながら、より一層彼女のことを守らなければならないと決意を固める。グリグリと頭を手のひらに擦り付けるように撫でられるイルゼに、心が暖かくなった。
その瞬間。
空間が爆ぜ、私は轟音とともに吹き飛ばされた。
先程まで撫でていた柔らかな髪の毛の感触が掻き消え、温もりが爆発の熱に奪われ───イルゼは消えていた。
衝撃は咄嗟に庇ったが、爆風までは守れない。
意識が朦朧とした中で握りこんだ掌に彼女の温もりはない。
私の意識はやがて、闇へと落ちた。
私は男が百合に挟まるのは絶許派ですが、女の子になって挟まるのは許可するタイプですわ。ですが、こんな素敵な百合に挟まるのなら主人公もそれ相応の代償を支払わなければならないと、お思いになりませんか?
だからこれは第一の試練ですわね。
もちろんこれから沢山の百合な女の子たちが出て来ますが、主人公なら周りを曇らせてでも百合に挟まるために頑張れると思ってますわ〜〜〜!!!頑張ってくださいまし!
ちなみに曇らせエピソードは参考にしたいと思っていますゆえ、何度でも送って貰って構いませんわ!