量産型闇深系クローン美少女にTS転生した男は、百合に挟まりたい 作:霧夢龍人
ハルヒが流血でフラフラになっていた頃、互いを深く抱きしめあっていた二人はようやくハルヒが危険な状態であったことに気付き、慌てて手当を開始した。
包帯型回復キットによって、刃で貫かれた右腕を巻いていく。
数分もすれば、中の傷は完璧に治癒するだろう。
しかし、痕が残るかもしれない。
「ご、ごめんなさい!イルゼを貴方が庇っていたというのに、呑気に抱き合っていたばっかりに……!」
「ねぇ。ハルヒ……大丈夫?……私の、せいだよね。ごめ、んね……」
保護対象を二人とも守れなかったミレイナと、庇われた挙句放置してしまったイルゼは半ば泣きながら治療を行っていた。その他にも痛々しい傷がチラホラとある。
こんな美少女に付いていいとは思えないほど、身体に残った深い傷の数々だ。
普通ならば泣いていてもおかしくない傷だ。何せクローンというのは、人間よりも五感が鋭い。
なぜなら感情や心がないため、それを補うために五感を補填しているからだ。しかし、心がないということは痛みによる恐怖心や、敵前逃亡するリスクもないため本来ならデメリット足り得ないはずの五感の鋭さ。
しかしこの男にとって、五感の鋭さというのはもはやデメリット盛り沢山のバーゲンセールに等しい。
例を上げるなら、注射器で腕を刺されれば並の男なら痛みによってショック死するほど。
だがそれをこの男は───なんと、気合いで耐えきっていた。
「気にしないでください。こんな傷なんて、痛くも痒くもありません。むしろ二人が安心して抱き合えるのを見れて、心の底から嬉しかったです。なんならもっと抱き合って貰っても──」
なんなら猛烈な痛みの中でも、更に百合を要求するほど余裕を見せていた。
控えめに言って狂っている。
「「さ、流石にそういう訳にはいかない!」」
勿論二人は狂っていない(多分)ので、手早く治療を済ませた。数分後、イルゼは包帯を巻き終え、息を整えるように手を膝に置く。
ボロボロになった部屋を見渡して、ため息をついた。
この少女に、襲われた理由を話すべきか。
勿論、襲撃者が襲ってきた理由をべらべらと喋った訳ではなくあくまでも話していた内容による推測だが、あながち間違ってはいないだろうという確信、イルゼとミレイナにはあった。
そしてお互いに視線を交差し───話す事にした。
「……さっき襲ってきたあの人たちのこと。本当は、ハルヒにはまだ早い……話だと思ってた。でも……巻き込んでしまったから、ちゃんと説明しなきゃ……って」
イルゼの声音は優しく、躊躇いがちだが誠実だ。
襲われた理由の大半は自分。恐らく、C.D.Sドームと自身の鍵の能力を狙った犯行だろう。
学園都市では珍しくもない日常風景だが、ハルヒを狙われた上に“鍵”の能力まで使いかけたのが問題だ。
だが犯人は自分を殺すつもりはなかったように思える。
顔は見えなかったが、まだ学園に潜伏している危険性を多く孕んでいた。
そんな環境に身を置くことになれば、心理的なストレスは計り知れない。無闇矢鱈に守るなんて言っといて、結局守られてしまった。
だから、罵倒されるのも甘んじて受け入れるつもりだった。
「ああ、大丈夫ですよ」
だが、ハルヒは罵倒をしなかった。
それどころか、説明をしなくていいと言ったのだ。何を思っているか悟らせない瞳が僅かに煌めき、イルゼを見据える。
まさか、知っているんだろうか?
大丈夫ですよ、というのは説明をしなくても詳細を“知っている”から、説明不要という意味での大丈夫ですよなのだろうか?
……いつの間に?誰から聞いた?いや、こんな短時間で情報を知り得ることはできないはずだ。黒瞳の修道服の仲間の可能性は低いし……ということは、元々この学園都市の仕組みを知っていた?
考えれば考えるほど辻褄が合う。
イルゼとハルヒの調査の日にちに全裸の美少女が居て、その子のお陰でこの襲撃を何とか乗り越えられた。なんて都合がいいんだろうか。
「っ……!!!」
ゾッとする。
目の前の少女は一体何を思って、何を知っているんだろうか。
……なんてイルゼは考えていた。
全てはハルヒの放つ、隻眼な上に闇深なセリフと達観したような顔付きが引き起こす勘違いである。
当のハルヒは「いつ話してくれるんだろうなァ」と、呑気に話し出すのを待っていた。完全に言い方が悪かったのである。
日本語って難しい。
イルゼからすれば、“全部把握してます”と言っているようにしか聞こえない。ちなみにミレイナはずっと涙目でハルヒを見つめていた。
可愛い。
「……ハルヒは、どこまで……わかってるの?」
恐る恐る問い掛ける。
これは半ば答え合わせであった。
「えと、イルゼ?貴女が一番分かっているのでは?」
「そう……」
イルゼは確信した。
ハルヒは全て知っていると。彼女自身の事情を知っていてなお、接触して助けているのだと。
鍵の能力は、学園都市全体のあらゆる行使権限の贈与。
つまり、学園都市という膨大な大きさの都市を思いのまま、自分のルールを押し付けて実現させる能力だ。
そして、強大な能力ゆえに代償も大きい。他の学園都市の連中から命を狙われる事も少なくなく、ミレイナが普段から守っていなければ普通に生きていくのも難しい。
そんな自分を知っていて、ハルヒは助けに来たのではないだろうか?
──勿論そんなことはない。
ハルヒは本当に一ミリも知らないし、AIに聞いても答えをはぐらかされているから、イルゼが話し出すのを今か今かと待っているだけである。
そんなハルヒに、イルゼは涙を浮かべてボロボロの手のひらを握る。
「……ありがとう。私のこと……それでも、見捨てないでくれて」
「えぇ?」
ハルヒは素で間抜けな声を漏らした。
しかし隻眼美少女がただ小首を傾げただけで、事情をすべて受け入れた上での優しい肯定に見えてしまう。美少女は存在が罪という言葉があるが、今のハルヒはそれを体現していた。
イルゼ視点は「えぇ?」ではなく、「えぇ」である。言葉って難しいね。
「……やっぱり、わかってるんだね。私の“代償”のことも……」
(だいしょう?……もしかして俺、何回か話聞き逃してたかァ?いきなり会話の内容が漫画のページを読み飛ばしてたくらい、置いてけぼりになってんだが)
ハルヒの頭の中では大混乱が始まっていた。だが外見は平然とした態度で“全てを受け止める静かな美少女”である。
「えっと……その……」
言葉を探すハルヒ。正直に何を言っているか分からないというべきか非常に迷った。
「……やっぱり、言いたくない……よね。でも、大丈夫。無理に話さなくて、いい」
しなしその沈黙ですら、深い意味で捉えられてしまう。
(なんで会話が成立してんだァ?)
「……ハルヒは知ってると思うけど、私ね……その代償のせいで、いずれ……普通じゃいられなくなる。でも……それでも、こうして……受け入れてくれるんでしょ?」
イルゼが震える声で尋ねる。
その瞳には、諦めと希望が綯い交ぜになっていた。
それはもう、ハルヒが“全て知っている前提の信頼の目”である。
(ちがう!!!!! 知らない!!!!! 誰か字幕つけてくれ!!!!!)
なんて脳内で叫ぶハルヒだが傍から見れば、静かに片目を細めて優しく微笑んでいる美少女だ。
ただ困惑しているだけの顔なのに、イルゼには悟りきった天使の微笑みに見える。そんなイルゼにハルヒは──。
「……はい。もちろんですよ、イルゼ」
「……っ」
(もういい、俺が悪い、世界が悪い)
ハルヒは諦めた。
もうこのビッグウェーブに乗るしかないと、文字通り死んだ目で受け入れたのである。すれ違いって怖い。
もはや分からない自分がおかしいのか。
おっさんの知能と美少女の知能ではそこまで性能が違うのかと思い悩むが、何でも知っていますよ?という表情を浮かべているお陰で気付かれてはいない。
「イルゼ、どういうことですか?」
「実は、ね。ハルヒは……」
同じく着いていけてないミレイナがハルヒに問い掛ける。でかした!と内心褒めちぎっていたハルヒだが、仲が良すぎて目で会話してる二人の会話内容が分かるわけがない。
最終的には「なん、ですって……?」と驚いた表情のミレイナがそこにいた。全て理解していたようだった。
ハルヒも理解した。
これで分からない俺が悪いんだなァ、と。
「……イルゼの……全部を知って……それでも側にいてくれるなんて……ハルヒ、貴女……っ」
「えっ、あっ、その……」
全く着いていけないハルヒは慌てて弁明しようとするが、ミレイナの中ではもう“答え合わせ後”の状態だった。
「……ありがとう、ハルヒ。君がイルゼを助けに来てくれて、本当に嬉しいです」
「本当に、ありがとう……私を助けに来て、くれて」
得心が言ったような表情を浮かべた二人は、互いに微笑み合い──やがてハルヒを片方から抱き締め合う。
いい匂いがして柔らかかった。
だがそれ以上に罪悪感が刺激されて、堪能できない。
《ゲーム風に言うなら。【進捗:百合の間に挟まる女達成】です。良かったですね》
今だけはお前を殴りたい、と。
一連の流れの間、ずっと笑っているか沈黙をしていたポンコツAIにハルヒは青筋を立てた。
こっからいよいよ本格的に百合に挟まりますわ〜〜〜!
皆さんの曇らせ展開参考になりまくりですわ!参考にさせて頂きますので、協力してくださり感謝の言葉が溢れますの!
早く四肢を捥ぎたいですわ〜〜〜!!!