PSYCHO-Archive 透き通る世界に落ちた猟犬 作:elimin
そういえば砂漠地帯の冬ってやっぱ暑いのかな
ではどうぞ( ᐡ. ̫ .ᐡ )
アビドス地区のホテルに泊まっていた縢は、ベッドの上で思いっきり酒を飲んで酔っ払っていた。ちなみにホテルは経費で落ちるので思いっきり使い倒していた。
「ふへぇぇ…やうぁ、のみすぎたはらぁ……〜oO」ポヤポヤ
『先生、もう5本飲んでますよ!明日起きれなくなっても知りませんよ…?』
初めての遠征と先生としての務めを果たした日なのでこれくらいはしてもいいだろうと思っていた。翌日の仕事に響かないかアロナは心配していたが、そんな声は縢には届いていなかった。
「アロナちゃぁん…おれのころあしらおこしれくれゆ…?〜oO」ポヤポヤ
『えと…俺のこと明日起こしてくれる…ですか?まあ…先生が困るのは私もあまり見たくはないですし…』
「ふっへへ…アロナちゃんすき、たよれる…〜oO」ポヤポヤ
『ふぇっ!?も、もう!先生調子良すぎです!!』
ぷんすか怒るアロナだったが、既にさっきのセリフの直後から思いっきり縢は爆睡をかましていた。
翌日
「やべぇぇぇぇえぇええええぇぇぇぇ!!!!」
バイクをフルスロットルにしてアビドス高校まで全速力で向かう縢の姿があった。酒は飲んでも呑まれるな、という教訓を得た。まあ、こうなるのも無理はない。執行官は公安局にプライベートルームが充てがわれていたため、職場まですぐ行ける距離にあった。故に酒を何本飲んで酔い潰れようが、始業時刻に間に合うように起きればすぐに職場へと向かえるためあまり問題ではなかった。その感覚が抜けきっていなかったことが今回の事態である。アロナの4回目のアラームでようやく飛び起きて水をガブ飲みし、そのままバッグを抱えて全速力でバイクに乗り込み、今こういう状態といった具合である。
急いでバイクを校舎に停め、全速力でダッシュしながら対策委員会の部屋へと辿り着く。汗だらっだらの縢の姿が、既に部屋にいた5人の生徒達の前に映された。
「ギリギリせーーーーふ……間に合った…」
「ん、おはよう先生」
「おはようございます!すごい汗ですね…?」
「運動してたんですか〜?汗ふきふきしましょうね〜☆」
「おはよ〜先生、おじさんと違って朝からアクティブだねぇ」
「………」
ノノミに額の汗を拭いてもらいながら縢は着席する。一息つくとセリカの方に視線を向ける。彼女の方向から何やら鋭い意識が向けられているのを感じたからだった。
「…えーと、セリカちゃん?どーしたのさじっと見つめちゃって」
「っ…なんでもないわよっ」
そっけない態度で返される縢。幼少期以来、潜在犯の烙印を押されたときから世の中から向けられる冷たい視線にはとっくに慣れていたが、彼女の視線には妙な違和感を感じていた。
「ひょっとして俺汗臭い?それとも酒臭い?俺大丈夫かな?」
「ん、先生の匂いは嫌いじゃない。むしろ大人な感じがしてクセになる」スンスン
「ちょ、シロコちゃん!?」
急に間近でこんなこと言われたら普通にビビる。しかもまだ汗を拭いている上に、年齢差も22歳と16歳という犯罪みたいな感じなので尚更やばい。しかし距離はかなり近く、息が首筋に当たってくすぐったい。
「うへ、ほんとだ〜…先生の匂いおちつく〜…」ギュ
ついでにホシノまで真正面から抱き着いてきた。シロコはそれを見て少し頬を膨らませた。
「ん…ホシノ先輩に先を越された」
「あのぅ…離れてくれると助かるんだが」
「先生、あとで私にもお願いしますね♪」
「は、早く今日の会議を始めますよ…!あ、でも私もちょっと気になりますけど…」
なんか謎に人気が集まっている縢。酒に酔い潰れて寝坊して遅刻ギリギリの汗だくという、割とダメな大人な姿を見せてしまったはずなのに、何故か咎められることがない。
「あーもう!馴れ馴れしくしない!というかギリギリに来て謝罪もナシになんなのよ!」
ここで今まで黙ってたセリカがついにフラストレーションを爆裂させた。一瞬で先程までの空気が彼女の一喝によって吹き飛んで何処かへと消えていった。
「セ、セリカちゃん…?どうしちゃったんですか?」
「…私、アンタのことまだ認めてないから」
縢の目の前で指を差しながらセリカが告げる。たしかにダメな大人の一面を見せてしまい、信用を下落させてしまった点に関しては縢が完全に悪い。本人もそれを理解している。しかし、セリカの言葉は容赦なく縢を突き刺していく。
「大体、急に介入してきた大人を信じろなんて言われても…私にはそんなことできない。だいたい、この学校について真剣に考えてくれるんだったらこんなギリギリに来るわけがないじゃない…!」
「あはは…いやぁ、まあ…そりゃ悪かったな…」
完全に自分の不手際だったので冷や汗をかくことしかできない縢。バツ悪く苦笑を零すしかなかったが、そんな態度がセリカの逆鱗に触れてしまった。
「っ…ふん、もういい!」
セリカはそのまま踵を返し、教室を出ていってしまった。数秒間の沈黙が空間を支配する。
「……いや、マジで…昨日疲れから酒に逃げてこのザマだ、ほんっと悪い…」
合掌して頭を下げる縢を残った4人が見つめている。しかし別に怒っているわけではなさそうだった。
「あはは…おじさん達は別に怒ってないから大丈夫だよ〜、セリカちゃんは結構張り詰めちゃってるとこあるから」
ホシノが空気をなだめながら縢の頭をぽすぽすする。そのまま縢は机に両肘をついてくっつけてる両手に額を当ててため息をつく。
「えぇと…とりあえずセリカちゃん連れ戻したほうがいいんじゃねーかなって思うけど、そこんとこどーする…?」
「んー…とりあえず、私とノノミさんで行ってきましょうか」
「先生はここで待っていてください♪」
「助かる…今俺から行っちゃ逆効果かもしれねーし頼むわ」
アヤネとノノミが教室から出ていき、飛び出していったセリカを連れ戻しに向かった。その最中、縢はシロコとホシノにガッツリ挟まれていた。
「あのぅ…シロコちゃんホシノちゃん、これは一体…」
「ん、先生の匂いを覚える」
「安心しすぎておじさん眠くなってきちゃった〜…」
「はやく戻ってこぉぉぉぉぉい!!」
両手に花だったが絵面が犯罪だったのでただ叫ぶしかなかった。
その後セリカは不機嫌ながらも戻ってきて、とりあえず廃校の対策の会議を始めた。現在の細かな状況、借金返済のあらゆる方法の模索などで話し合っていたが、現状の把握だけでかなり時間を使い、具体的な対策を考えるのは後日に回すことになった。気づけば時間は午後を回っていた。
「じゃあ、私この辺で…」
さっさと教室から出ていくセリカ。その背中から縢が声を出して呼び止める。
「あの、セリカちゃん?」
セリカはあからさまに不機嫌な声で応じる。
「あぁもう…!ほんっとメーワク…アンタに頼らなくったって私達で借金くらいなんとかできるんだから…アンタの居場所なんてここにないんだから!!」
ピリピリしていたセリカはつい思いっきり言葉のナイフで縢のことを刺してしまった。流石にホシノが止めに入る。
「セリカちゃん、ちょっとそれは言い過ぎなんじゃないかな」
「っ…そうね…言い過ぎた……そのことはごめん…っ」
そのままセリカは背を向けたまま走り出し、校舎をあとにしてしまった。重い空気が狭い空間を支配する。
「…いやまあ、元はといえば俺のせいだしあんま気にすんなよ」
「流石に今のはセリカちゃんが悪いよ〜、ちゃんと謝らせなくちゃね」
「いやさっき謝ってたしもうチャラでよくね?これ以上引っ張るのもアレだしよ」
ちゃんと謝罪させるべきという立場のホシノと、謝ってたからチャラでいいと言い張る当事者の縢。
「にしてもなんであの子あんなツンツンしちゃってるんだろ、なんか理由わかる子いる?」
「セリカちゃんはその…最初は外面だけ優しくして、結局自分の利益だけ求める大人しか見てこなかったんです…何度も裏切られて、大人という存在にすごく疑心暗鬼になってしまって…」
「…そこに新しくやってきた俺が不誠実な態度見せちゃったからこうなっちまった、と……」
ノノミの補足を受けて縢の中で全てが繋がった。天井をじっと見つめながら、セリカのことを自分の半生の生き写しのように感じていた。潜在犯の収容施設にやってきた公安局の執行官を14歳のときに殴ったという問題行動を起こしたり、とにかく狂犬のようにあらゆる方向に敵意を剥き出しにしていた。それに近いものをセリカの中に感じていた。違いは不信の目が大人という対象に向けられているか、社会そのものに向けられていたか。
「はぁ〜…難儀なもんだねぇ……今の状況、征陸のとっつぁんの気持ちがちょっと分かる気がするわ…」
ぼやいた縢の言葉にシロコが反応する。
「先生、征陸のとっつぁんって…?」
「…あぁ、俺のかつての仲間にして同僚にして先輩…そんでもって立派な大人さ……色々あって今の俺みたいな状況を10年以上経験してるってゆーか…」
軽く過去にまつわる情報をぽろっとこぼした縢に視線が集中する。あまり過去のことを語らないのもあって、ますます縢の過去が気になってきた対策委員会だった。
「先生、いつか私達にちゃんと過去のこと教えてくれますか…?」
「え、まあいいけど…今そんな話するわけにもいかねーよ、色々問題が解決したら話すかもな…まあ酒の肴にもならねぇようなつまんねー話だけど……ひとまずセリカちゃんのことどうする?」
自分のことをしっかり教える約束を未来に取り付け、現状の問題をどうするかにシフトした。
「ん、そういえばセリカって放課後いつもどうしてるんだろう」
「そういえば、モモトークの返信もいつも遅いですね…?」
「たしかに…じゃあ今からセリカちゃんのこと尾行してみませんか?♪」
「…あ、いいねそれ、さんせーい」
ノノミの提案で分隊に分かれ、アビドスの街へと繰り出すことになった。
ビルの屋上からセリカ追跡をシロコとアヤネが行っていた。人混みの中からセリカを双眼鏡で見つけ、アヤネが情報をタブレットに入力する。
「…ターゲット、ポイントAを通過」
続いてノノミがセリカの背後から声を絞って連絡を入れる。距離を取って怪しまれないように対策をしている。
「ターゲット追跡中、このまま尾行を続けます」
そのままホシノが路地裏から出てきてノノミと交代する。
「ハウンド、交代」
「引き続き追跡をお願いします」
そんなとき、縢がやけにいい声で通信に割り込む。普通にASMRみたいな音質とねっとりした声で耳が溶けそうになる。
『こちらHOUND4…ターゲットの進路変更に基づき、ルート算出できましたよぉ』
先回りしながらガチガチにルートを作っていた。執行官の経験がこんな形で役に立っていることが本人にとっても面白かった。
『この地図だともう建物は個人の家くらいしかないし、その周りだと民間施設はここしか思い浮かばないけど…どうすかぁ?』
データを送信すると、その場所がとある店舗だという推測がタブレットの画面に映った。
「ここって…ラーメン屋さんですか?」
『ビンゴ…ターゲット、店内に入っていきました〜…ポイントDで合流〜…』
自分のいる地点に集合するように伝え、縢は通信を切った。しばらくすると他のメンバーも集まってきた。するとシロコがうつむきながらお腹を押さえる。
「ん、みんなも今日はここで食べる?」
「ちょうどいい、腹も減ったしここで飯にするか〜」
「そうですね♪じゃあ入っちゃいましょう☆」
入ろうとすると
「柴関ラーメン2丁!ごゆっくりどうぞー!」
聞き覚えのある声が、建物の外にいる5人の耳に飛び込んできた。
「…もうこれ確信に変わってますよね」
「よし、じゃあ入ろっか」
ガラガラとホシノが引き戸を開ける。
「いらっしゃいませー!柴関ラーメンへようこそー!」
すると眼の前にラーメン店の制服を着たセリカが立っていた。一気に笑顔のはずだった彼女の顔が引き攣った表情へと変わる。間髪入れずにノノミが笑顔で人数を提示する。
「あの〜☆5人なんですけど〜!」
「あはは……セリカちゃん、お疲れ様」
「お疲れ」
「み、みんな……なんでここが…!?」
「うへ、やっぱりここだと思ったよ」
びっくりした顔のセリカの目に縢の姿が映る。
「やっぱり…アンタストーカーだったりしない!?」
「いや違ぇよ、誤解されるから声抑えろって…!」
かなり好感度は低めのようで、征陸のとっつぁんの追体験的なことをひしひしと感じていた。
「おや…セリカちゃん、その方達は?」
大人の男性の声が厨房の方から聞こえてきた。暖簾の向こうから二足歩行の柴犬の姿の男性が出てきた。
「た、大将!?」
「私達、セリカちゃんの友達で…」
「ほーぉ、アビドスの生徒さん達か!ってことは…そこのお兄さんが先生か」
「え、俺のこと知ってんの?」
きょとんとした声で縢が自分のことを指差す。大将は気前良く高らかに笑い声を上げた。
「はは、そりゃもう有名人よ!あのカタカタヘルメット団を追い返したシャーレの先生って話題で今のアビドスは持ち切りだからね!」
「へーぇ…そりゃまあ、どうも…」
素直に褒められるのにあまり慣れてないからか、微妙な反応しか返せない縢だった。
「じゃあセリカちゃん、おしゃべりもそこまでにして、奥のテーブルに案内してあげて」
「は、はい!」
5人はそのまま複数人で座れるテーブルへと案内された。着席するとそれぞれの食べたいラーメンを注文し、厨房で出来上がるまでの待ち時間ができる。そんなとき、ホシノが先程少し話した縢の世界の人物について訊ねた。
「ねぇ先生、さっき言ってたとっつぁんって人の話もうちょっと気になるなぁ〜、教えてくれない?」
「とっつぁんの話?そうだなぁ…掻い摘んで言うと元々俺は警察に所属してて凶悪犯を始末する部署にいたんだけど、とっつぁんは昔ながらの優秀な
「ん、先生って追跡とかすごく手慣れてたのさっき見たけど、そういうことだったんだね」
「ほんとにもう、背中がでっかくて父親の背中って感じよ!この人の背中になら着いていけるっていうか、着いていきたくなるっていうか……まあ、それでもシビュラの管理に置かれたことのストレスだったりケダモノを追う仕事の中で色相濁らせて、濁った人間が大勢淘汰された辛い時期を生きてたギノさんの気持ちもわからんでもないけど……」
途中から物思いに耽る感じで独り言のように呟く縢。シビュラやら色相やら、聞き馴染みのない単語にはてなマークを浮かべる生徒達を他所に、縢は小さな窓の外の青空を見ていた。少しの静寂のあとにアヤネが声を出す。
「さっきその人の気持ちがわかるって言ってたのは…どういうことですか?」
「それ聞いちゃうかぁ…まあ纏めると実の息子にずっと嫌われてたってことよ、ざっと10年くらい…とっつぁんの対応の仕方がすごく大人でさぁ、それ真似できねーかなって、今の俺の状況とちょっと似てるし」
「あ…ご、ごめんなさい」
「いいっていいって、とっつぁん本人いないし多分大丈夫でしょ…多分」
そうこうしてるうちにラーメンが到着する。少し暗かった雰囲気をラーメンのいい匂いが塗り替えていく。
「わぁ、美味そうだなぁ…んじゃ、いただきまーすっ」
「ん、「「「いただきます」」」」
「ご馳走様でした〜」
縢の持つカードで全員分の支払いを終え、店をあとにする5人。支払いのときにノノミからゴールドカードをこっそり渡されそうになったが、縢は大人としてのメンツを守るために自分のカードで全員に奢る選択をした。
「それにしても、セリカちゃんあそこでバイトしてるの初めて知りました。借金返済のために頑張ってくれてるんですね♪」
「ん、美味しかったって改めて伝える」
「うへ、なんとなく目星はついてたけどね〜」
オレンジの夕日がアビドスを照らす中、5人は都市部を歩きながらそれぞれの自由時間を過ごそうとしていた。
「とりあえず、諸々のことは明日に回すということで…んじゃ今日は解散!」
「先生、明日もよろしくお願いします」
その夜
「はぁ…バイト先みんなにバレちゃった……」
ため息をつきながらセリカはバイトから上がり、帰路についていた。夜のアビドス都市部は人がほとんど通っていない。セリカはアサルトライフルを肩にかけながら道を歩いていた。すると急に不気味な金属音が路地裏の方から鳴り響いた。
「…何かしら?」
顔を覗かせるとそこには二人の怪しい人影があった。
「黒見セリカだな?」
「な…何よアンタ達」
「随分派手にやってくれたな…こいつぁ仕返しってやつだ!」
ピンを外す音が聞こえると同時に路地裏を煙が包み込む。煙を吸い込んだ対象を昏睡させるスモークグレネードだった。
「アンタ達まさかヘルメット団の…!っ…なによ、これ……!?っ……」
なすすべもなくセリカは路地裏に倒れ込んでしまった。彼女の身体を二人の影が不気味に覆う。
「連れてけ、こいつは人質だ」
「にしてもこんな簡単にひっ捕らえられるとは、ツイてるなぁ」
金属の匂いで満たされた闇の空間。振動によって意識が覚醒し、ゆっくりと目を開いたセリカは、自分の置かれている状況を察した。
「あれ…私は…なんでここに…たしか、バイトおわって……」
朧気な記憶を必死に思い出そうとする。唐突な出来事に頭が働いていなかった。
「…そうだ、眠らされて…今ここにいるんだ…これ、誘拐されちゃったのかな…」
手足を縛られて身動きが取れず、鳥籠の中に有無を言わさずぶち込まれた状態。闇しか目に映らない光景は、彼女の心を砕くのに十分だった。
「この揺れって鉄道…アビドス郊外の砂漠…ってこと…?…通信も繋がらない…水も食糧も…」
あまりにも辺境すぎる土地の空気が入り込んでくる。脳裏に一つの結末を思い浮かべてしまう。
「…………このまま誰にも知られないまま、砂漠の中に生き埋めにされちゃうのかな……借金返済のために今まで頑張ってきたのに、みんなに裏切られたって思われちゃうのかな…さよならも言えないまま…」
次々と脳裏に焼き付く最悪の光景。金属に反響する声はか細くなっていき、震えている。
「…お願い…だれか……たすけて…!」
涙と共に弱音を絞り出した刹那、その声に応えるかのように爆発音が響き、自分のいる空間ごと大きく揺れる。爆風は彼女の涙をあっさりと拭った。
「!?な…なんなの!?」
爆発で歪んだ金属の箱の隙間から外の光が差し込んでくる。闇の中から見るそれはとても眩しく、目をしぱしぱさせながら外の光景を確認する。
なんと、砂漠を駆けるオフロードカーとバイクがこちらの車両を猛追していた。更に上空には見知った友達の使うドローンが見える。
「え…みんな…!」
対策委員会の面々と縢の姿がそこにはあった。ノノミとホシノはアヤネの運転するオフロードに乗りながらそれぞれの銃口を列車に向けている。そして縢はシロコをバイクの後部に乗せながら列車を猛追していた。
「うへ〜、うちのセリカちゃんは返してもらうよ〜」
「お仕置きの時間です☆」
列車の機関部を弾幕が襲い、機能不全に陥った列車はスピードを落とし、停止する。すると中からセリカを拉致したヘルメット団が出てきた。
「こ、こいつらまた来やがった!こうなったら…」
反撃しようと武器を構えるが、そんな団員の頭上を影が覆う。
「ん、遅い」
「ぎゃあ!?」
縢がバイクのギアを上げて揚力によって飛び上がり、太陽を背に後ろに座るシロコが的確に銃撃を団員に加える。太陽が目に入る角度から視界を封じ、一方的にこちらから攻撃するという蹂躙にも等しいやり方で、次々に団員を無力化していく。
「てっ、てめぇ!!これでも喰らいやがr」
「あー聞こえねぇなぁ?」
手榴弾を投げようとした団員の頭上に、縢が飛び上がったバイクを丸ごと激突させて沈黙させる。あまりにも酷い絵面である。ついでに着地と同時にアクセルを吹かして砂煙をタイヤで巻き上げ、残存勢力の視界を潰す。
「す、砂煙で何も見えない!撤収しろ!」
完全に一瞬で形勢逆転されたヘルメット団はまたもや撤収しようとした。しかしそれをみすみす許すほど対策委員会は優しくない。
「ん、させない」
「おいたが過ぎましたね〜☆」
「徹底的に痛めつけないとね〜」
「今日という今日はもう堪忍袋の緒が切れました!」
殺気立つ対策委員会のプレッシャーと共に向けられる銃口はヘルメット団を囲んでいた。一人を鳥籠に閉じ込めた結果、今度は自分達が殺意に満ちた銃口という名の怨嗟の鳥籠にぶち込まれるという、綺麗な因果応報を食らっていた。
「残念だけど俺達は一度キレたら中々収まんないんでね…アンタらの行き先は病院なんて生易しいもんじゃねぇ、地獄行きさ」
前にも増して非常に鋭い殺意の灯った「猟犬」の瞳のギラつきとバイクの甲高いエンジン音が合図となり、囲まれた団員達への一斉掃射が始まった。視界を封じた上でのアサルトライフル、ミニガン、ドローンミサイル、ショットガン、三点バースト+サブマシンガンの銃撃は、セリカから見ても残酷に映っていた。しかも縢に至っては倒れた団員をバイクで撥ね飛ばしながら銃撃している。もう色相ゴリゴリに濁っててもおかしくない。
「う、うわぁ…助けに来てくれたのは嬉しいけど…」
銃撃が止み、煙が収まると死んでないけど屍の山とも言える光景が出来上がっていた。
「ふぅ、終わった終わった〜…立てるかな?」
「セリカ、助けに来たよ」
「ホシノ先輩…シロコ先輩…」
二人がコンテナの中に入るとセリカの拘束を解いて外に連れ出す。自由になったセリカはおぼつかない足取りで砂の大地に降り立つ。
「でもどうしてみんな、ここが分かって…?」
セリカはふと疑問を口に出すが、そのフォローをノノミとアヤネが始めた。
「昨日バイトが終わったあとのセリカちゃんの家に行って少しお話しようと思ったんです、そしたら誰もいなくて…疲れてるだろうから寄り道もしていないだろうと思うとおかしくて」
「そこから先生が大将さん達に連絡を入れて、目撃情報を集めながらサンクトゥムタワーの情報を覗いてセリカちゃんの居場所と犯行グループの捜査をしてたんですよ、とても真剣な顔でかっこよかったです♪」
「バレたら始末書もんだけどね〜、大丈夫かな?」
「先生が…そんな…」
そんな当の本人は倒れている団員達を逆さまにして砂に上半身を埋めながら遊んでいた。いぬや◯き。
「都市部じゃ騒ぎに一般人を巻き込めねーし敵の増援が来るかもわかんねぇから、一旦人気のない場所に追い込む必要があったんだ、そのために怖い思いをさせちまったな…」
団員を砂に突っ込んで墓標のように見立てる遊びをしながら真剣な声で呟く縢。よくわかんない光景だった。各々苦笑したり真顔でそんな縢の姿を見つめるなか、セリカは生まれたての子鹿のような足取りで縢のもとへと向かう。砂に足跡を刻む音が聞こえると、いつもの明るい顔をした縢が振り返ってセリカの前に立つ。
セリカは顔を少しうつむかせながら手をぎゅっと強く握り、声を絞り出した。
「…えっと…あの…っ…昨日はごめんなさいっ!」
大きな声で頭を下げてセリカは縢に謝った。一瞬なんのことか縢はわからなかったがすぐに思い出した。本人も忘れるくらい必死だったのか、それとももう単に割り切っていたのか。
「え?あぁあのこと?別に気にしてねーし気に病む必要もねーよ」
「…でもっ…ひどいこと言っちゃったのは…っ…変わらないし…」
涙声で少し途切れ途切れになりながら言葉を綴っていく。
「大丈夫だって、それにそっちがいくら嫌おうが俺は構いやしねぇよ…何せ元はといえばこっちが悪いんだし、俺も悪かったな」
泣かれると困るのか、縢は場を収めるためにも改めて自分の非をセリカに詫びた。
「それにそっちが俺のことを嫌っていても、俺はこの任務から手を引くまではできる限り力を貸すし、責任も背負ってやる…俺もまだあまりわかっちゃいねぇが、先生ってのはそういうもんだろ、多分」
「っ…!」
セリカは何も悪くないことを遠回しに伝え、縢は踵を返してバイクに向かう。
「だから気にすんな、さーて…動いて腹も減ったしなんか食いたくなってきた」
「…た…助けてくれて…ありがと……」
「ん?」
「た、助けてくれてありがとうって言ったのよ!!このバカ!!」
照れ隠しにツンデレを発動したセリカのもとに、対策委員会の少女達が集まる。
「セリカちゃんのツンデレだ〜」
「泣いちゃってるんですか?かわいいですね☆」
「泣いてないわよ!泣いてないんだってばー!」
「ほらセリカちゃん、そろそろみんなで帰りましょう!」
「ん、おかえりセリカ」
そこに帰る居場所はある。普遍的で温かい光景をため息混じりに見つめながら、ふと縢は上を向いて空を仰ぐ。
「はぁ、元気になりやがって……とっつぁん、こんな感じでいいすかね…子供を導く大人ってのは」
砂漠を照らす青い空の向こうに思いを馳せるように小さな声で語りかけた。
その夜
「っ…な、なんなんだお前ら!?」
銃声と共に都市部の闇の中で数多くのヘルメット団が容赦なく制圧されていた。
「あー、こっち終わったよ〜」
「こっちも制圧完了」
かわいい声と冷静な声が暗い空間に響いていた。
「こ、こっちも終わりましたぁ……」
直後、炸裂音と共に震えた声も響く。
「いいことを教えてあげる、あなた達はもう用済みだってお達しがあったの」
「まさか…カイザーが…ぐはっ!?」
そのままリーダーと思しき最後の一人が美しい声の持ち主にトドメを刺され、情けない断末魔と共に黒い空間に消える。
月明かりに照らされながら狙撃銃を上品に持ち、月面にシルエットを映すように佇みながら闇に言葉を吐き捨てた。
「私たちは便利屋68。金さえ貰えば何でもやる───何でも屋よ」
また10000字超えた
セリカちゃん誘拐の概要をPSYCHO-PASSっぽいタイトルにするとこうなるのかなぁ…と思ってこうなった、てへ。
セリカちゃんに序盤で本編よりきついこと言わせたのは、アビドス編の後日談で縢の詳細な過去を語る回を描く予定なので、そのための布石です。めっちゃ曇らせたい。てへ。( ᐡ. ̫ .ᐡ )
改めてSinners of the Systemの第2章「First Guardian」を今後のために久々に見たけどやっぱり泣いちゃう…涙腺弱いのかなぁ(´•̥ω•̥`)
次回から便利屋登場です、みんなかわいくて好き