私のいつめんの不思議なところ。―――あんなにいるのに、部活は3つしかない。
詳しく説明する、ってほどでもないけど説明すると、要するに、あんなにいるのに、部活の種類が3つしかないってこと。
私、靖友、金城、待宮、黒田、純太は自転車競技部、小湊くん、伊佐敷くん、御幸、倉持、真田は野球部、及川くん、赤葦くんはバレー部。
オール運動部!オール部活!ノットサークル!
我らが自転車競技部は、数少ないクライマーの黒田と純太が入ってくれたのは大きくって、元々そんなに弱いところじゃなかったけど、最近さらに強くなってるんだよね。今じゃ明早大ともいい勝負できるくらい。あそこはかなり強いし、名門だから、結構な進歩なんだよ!
金城と荒北の凸凹コンビもいい感じで結果残してるし、待宮もそれなりに結果出してる。黒田なんか、クライマーだけど運動神経がいいから、オールラウンダーとしても全然行けちゃうんだよね。実際、去年のインハイは葦木場くんのアシストしてたっけな。いやー、やっぱりインハイ出場者が多いのは助かる!
まあ、総北の青八木くんやハコガクの泉田くんなんかは明早大に行っちゃったから、スプリント勝負では新開もいるしで勝てない現状なんだけどさ。
…ゴール前じゃ負けてないからいいもんね!
野球部は全国屈指のチームらしい。まぁ、実際やったことないからわかんないけど、本当にすごいらしい。先輩もよく話してるしさ。
実際、御幸がドラフト受けないで入ってくるような大学なんだし、強いんだと思う。じゃないと東京出身者が地方の大学来ないでしょ。小湊くんと伊佐敷くんは神奈川、倉持は千葉出身って言ってたけど、真田も東京出身って言ってたっけ。
神奈川と千葉って、ハコガクと総北っぽいよね!何かと縁がある県ですね!
御幸はキャッチャー、真田はピッチャー、小湊くんはセカンド、伊佐敷くんはセンター、倉持はショートだったっけな。
真田は靖友ともよく話してる。昔ピッチャーやってたし、話が合うのかもしれない。
真田以外は青道高校って高校の出身者。私が高校時代に甲子園では聞くことのなかった名前だけど、地区大会でも熱戦を繰り広げるからニュースによくなってた。因縁のライバルは甲子園出場してた稲実と、薬師高校って高校。そこは真田の出身校だったはず。
元はライバル校だった御幸と真田が、今じゃ同じチームで仲間としてバッテリーを組むなんて…めちゃくちゃいいドラマじゃん!バッテリーって、野球にしかない特別なものだよね!エースとアシストも似た感じだけど、やっぱり野球のバッテリーは違うよね。絆の強さっていうか、なんていうかさ。
最後にバレー部。バレー部のマネージャーの助っ人してから、少し興味が沸いて、今じゃ試合見て楽しめる程度には知識あるんですよね、実は!
及川くんも赤葦くんもセッターっていうポジションだから、ライバルなんだろうけど、お互いにあんまり意識してないっぽい。
その理由を聞いたら、なんでも洋南のバレー部はツーセッター制らしい。言葉のとおり、2人セッターがいるってこと。これは、要するにスパイカーなりを1人減らさなきゃだから、セッターも攻撃できないといけないんだって。2人がレベルの高いセッターだからこそ出来ることだって及川くんが言ってたっけな。…自信家なのはいいけどさ、自分でそういうの言っちゃうところとか、やっぱりどこかの東堂庵の嫡男の尽八くんを思い出さずにはいられないよね、うん。
―――とまあ、こんな感じで部活が3つしかないわけ。
自然に部活ごとに分かれることも多いんだけど、私は及川くんと高校からの付き合いってことで話したりするし、文学部ってことや地元のことで小湊くんとも話したりする。
もういまさら驚かない偶然だけど、潔子ちゃんは元バレー部のマネージャーで、及川くんとは知り合いだったとか。噂で聞いた話だと、口説いたことがあるとかないとか。
貴子ちゃんは元野球部のマネージャー。小湊くんと伊佐敷くんとは同級生で同じ学校ってことで、付き合いはそれなりに長いみたい。まあ、男子部活のマネージャーって最初は気恥ずかしい感じもするけど、慣れれば部員と同じくらい固い絆で結ばれたりするもんね。私?多分結ばれてるはずだよ!うん!
なんていうかさ、私の周り、運命の赤い糸じゃないけど、そういうものが渦巻いてる気がするよね。
「相良、ちょっといいか?」
そんな中、私の所属する自転車競技部。金城が汗をたらして背後に立ってた。
「どしたの?でも、その前にお疲れ。ふい、タオル」
「あぁ、ありがとう」
部室に常備しているふわふわのタオルを手渡す。自分の家のタオルだってこんなにふわふわじゃないのにね。なんで部室のはふわふわなんだろ。羨ましい限りですよ、本当。
顔の汗を拭きつつ、金城の話を聞く。
「今年も行くんだろ、夏」
「夏…あー、もうそんな時期?」
夏といえば、インターハイ!…あれ、でも今はまだ6月だけど…?
「あれ、でも…あと2ヶ月くらいあるんじゃない?インハイまで」
「それもそうなんだがな。巻島が私用もあり早めにに日本に帰ってくるんだ。それで、インハイ前に総北とハコガクのメンツで会うという話をしていてな。早めに予定を聞いておこうと思ったんだ。東堂の実家でやる話で進んでいるからな」
「なるほどねー。まあ、東堂庵は早めに予約取らなきゃだもんね。今年も巻島くん、帰ってくるんだ。去年はインハイ来てたよね?」
あの緑頭は去年もおそらく今も変わってなくって、分かりやすすぎて思わず笑っちゃったんだよねー。
「あぁ。今年は小野田や真波の代だからな。見に行かないわけには行かないだろう」
「まあね。靖友の妹の友香ちゃんのマネージャーもチェックしないとね!」
「ハハ。3年間引退なしにマネージャーをやった相良だからこそだな」
「だねー!」
大学で一緒になってから、金城は意外と笑う人だってわかった。あと、待宮も。まあ、レース中と普通の生活は違うよね。当たり前か。
その後やってきた待宮と靖友に連れて行かれた金城を見送って、敷地を飛び出して近くのドラッグストアまで備品を買いに行く。
その途中にあるのが野球部のグラウンド。中学時代は、こっそり靖友のいる野球グラウンドを見てたっけな。こっそりの理由は、恋なんかじゃないよ?ただね、うん…髪の毛ピンクとか、あんまり堂々とグラウンド見れなくってね、うん。
「7年も前かー、中学って。若かったな…青かった…。いや、私の場合ピンクだった?」
何うまいこと言おうとしてんの、私ってば。青かったじゃなくて、ピンクかった?髪の色の話でしょーがね。
ちょっと覗いていこうかなー、なんて思ってグラウンドに行こうとすれば、後ろから声をかけられる。
「相良さん?」
「どうしたんスか、こんなとこで」
振り返ればそこにいるのはイケメンバッテリーの御幸と真田。同じ様な整った顔立ちだし、実は料理がうまいとか、双子って言われても違和感ないよね、こいつら。
「そっちこそどうしたのさ、サボり?」
「いやいや、ただの使いっぱしりッスよ」
苦笑して否定する2人はまたそっくりで。やっぱり双子だよ!
「一番下は大変だねー」
「本当ッスよ」
んじゃ、と軽く頭を下げると、ユニフォーム姿の2人は走って去っていく。身長もほとんど変わんないのね、あの2人って…。
ドラッグストアで無事備品を買い終えて、ちょっと喉が乾いてコンビニに寄る。
おーい、と呼びかけられるようなお茶を買って外に出ると、何やら高校生らしき姿。
見るからに元気のいい感じのブレザー少年と、ちょっとおどおどした感じのブレザー少年と、ものすごく背の高い金髪っぽい学ラン少年。制服が違うから同じ学校ではないんだろうけど、そもそも同級生なのか…?
―――あれ、おどおどした感じのブレザー少年…どこかで…。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!小野田坂道くん!!!」
いきなり名前を呼ばれて、彼はどひゃー!なんて声上げてる。間違いない、小野田君だ!インハイで何度姿を見たか!てか、話したことあるしね!
一瞬顔をしかめる小野田君。あいかわらずおどおど。そっか、私、今髪短いんだった。高校時代はウェーブかかってたり茶髪だったりは同じだけど、長かったっけ。去年のインハイでは髪くくってた気がするし…。今はボブだからなー。
「あの…もしかして…ハコガクの…?」
「そうそう、わかってくれた!?相良香咲!久しぶりだね、小野田君」
「は、はいっ!」
私だってわかったら、まるで花が綻ぶように笑顔になる小野田君。…表現を文学部っぽくしてみました!こんなのどうでもいいんだけど!相変わらずの癒し要素っぷり!
今や総北のエースクライマーだもんね、この子。こんなに可愛いのにさ!
そういえば、小野田君のそばにいる2人は誰なんだろ?
元気の良さそうな方は、キョロキョロしたと思えば私をガン見して…犬か!ご主人様に構って欲しくてたまらないワンコか!…黒田の回りくどいツッコミを真似てみたけど、本家には勝てませぬな…ぐぬぬ。
もう1人のほうは、あれだ。私の人生に無縁なタイプの人。無駄なことはしないし、親の引いたレールがあればそれ歩くし、クレバーっぽいし。身長高すぎですよ、この人。
そもそもこの3人は何関係…?
「あのっ」
じっくり眺めてると、ワンコ男子くんが話しかけてくれた。
「ん、どうしたの?」
「あの、その、えーと…」
難しい顔したり、猫みたいな目したり、忙しい少年だなぁ、この子。あれだ、うざいけど憎めないタイプ。実際可愛くてたまらない後輩ってこういう子だったりするんだよね。男子の場合は特に。
「よ、ヨーナンダイガクってのは、ここらへんでしょーか!?」
「ヨーナンダイガク…あ、洋南大学?」
あまりに棒読み過ぎてわかんなかったよ!
「そう!それっす!それ、どこにあるかおしえてつかあさい!」
つかあさい…?何時代の人でしょうか…?
いろいろツッコミたいところがあったけど、とりあえずスルー。じゃないと頭が持たないよね、うん。
「いいよいいよ!ってか、私洋南大学の生徒だし!」
「あー、それは助かります」
全く感情のこもらない笑顔と声で金髪君が言う。コミュ障…?そういうわけじゃなくて、あれか。使えるものは使うタイプ。無駄なことには口挟まないタイプ。
「金髪くんさ、もうちょっと感情込めてよねー?まあいいけどさ。んじゃ、行きますか!」
「おしおしおーし!」
「はっ、ひゃい!」
ワンコくんと小野田君は可愛げがあるなー!金髪くんは可愛げが足りぬな!
話を聞くと、ワンコくん―――沢村栄純くんと小野田君は揃って迷ったらしく。そこに偶然通りかかった金髪くん―――月島蛍くんに道を尋ねたと。
しかし、月島くんも全てをメモしていたスマホの電池が切れ、迷いかけていたところだったとか。どうするか悩み、とりあえずコンビニへ入ったら、偶然私にあったってことだったらしい。いやー、私ナイス!なんちゃって。
洋南大学は確かにちょっとわかりにくいところにあるししょうがないかも。キャンパスや校舎は見えるんだけど、入口がわからないから余計もどかしいんだよねー。
「3人は洋南、受験するの?」
当たり前と言えば当たり前だけど、ちょっと聞いてみる。
小野田君と沢村君は大きく激しく首を縦にブンブン振り、月島くんは小さく縦に振る。
「僕は、金城さんがいるし、荒北さんもいるし、手嶋さんもいるし、洋南でまた皆さんと走りたくて…!」
か…か…可愛い…!何この子!めちゃくちゃ可愛い!
「あ、あと!マネージャーさんが相良さんってのも、自転車についてのいろんなこと、知っててかっこいいなーと思っててですね…!」
私のことまで褒めてくれるの!?もうやばい!可愛すぎる!ぜひ入って欲しいね!
「小野田君、ありがとう!じゃあ、沢村君は?」
私の問い掛けに、沢村君はちょっと照れたように目をそらす。
「俺は…ある人を追いかけて…」
「へーっ。私の後輩にも、先輩追いかけてここに来た人いたなぁー」
ちなみに黒田のことね!靖友追っかけてきたんだって!私もおまけで追いかけたって言われたよ!同じようなこと言ってるのに、小野田君と違って可愛げなかったな!まあ、高校時代からそれなりに可愛い後輩だけどさ!
「…その人のこと、尊敬してるんだ?」
後輩に尊敬されるなんて、その人、本当にすごいんだろうな―――
「いえいえ!とんでもない!」
―――え…?
沢村君は、また猫の目になって首を今度は横にブンブン振る。
「尊敬なんて滅相もない!そりゃあ、すごいとは思いますけど、性格悪いし、サッカード下手だし、いいのなんて顔だけだし!」
えっと…滅相もないの使い方をまず正してほしいね、まず。
っていうか、尊敬してるから追いかけてきたんじゃないの?うむ、よくわからぬ…。
ただ、サッカー少年じゃないってことはわかったね、うん。
「じゃあ、なんで追いかけてるの?」
改めて聞くと、今度は私の瞳をまっすぐ見据えてる。ものすごくキラキラした瞳…。見られてるこっちも目を離せないような、そんな瞳…。
「ミットの…ミットの音が頭から離れないんですよ」
ミット…野球…?ピッチャーなのかな…?
「俺、その人と出会ったの、中3の頃なんです」
「へー…結構前だね」
「そう、っすね…。その時、出会ったばかりなのに相棒って呼ばれて戸惑ったけど、ミットの音がずっと頭から離れなくて…」
「そっか…。その人、ものすごく後輩に愛されてるね。それってさ、先輩からしたら嬉しいんじゃない?」
すると難しい顔をしてしばらく黙り込んだ沢村君は、やがてまた頭をブンブン振る。もちろん横に。
「滅相もない!奴が嬉しい顔をしたことなんてございやせんし!」
「あ、そうなの?うーん、私なら嬉しいのになぁ…」
「くっ…おのれ御幸一也め…奴も相良さんのような先輩なら、どれだけ良かったことか…!」
ん…今、沢村君は何といった…?ミユキカズヤ…御幸一也…!?
「えぇぇ!!さ、沢村君、御幸の後輩!?」
急に声を上げた私に3人がまたびっくりしちゃう。でも、びっくりだよ!御幸が追っかけられてるなんて!
「相良さん、御幸センパイと知り合いっすか?」
「知り合いもなにも、一緒にご飯食べに行ったり…いわゆるいつめんなんだよ!」
「な、なに…っ!?御幸一也…こんな可愛いセンパイとラブラブしてやがるのか…!」
「いや、ラブラブはしてないよ…」
いやー…にしてもびっくり。やっぱり私の周り、何か運命みたいなものが渦巻いてるよね!
「あ、御幸の後輩ってことは、小湊くんとか伊佐敷くんとか倉持とか、貴子ちゃんとも知り合いなの?」
「あー…っす。藤原センパイはマネージャーでしたけど、お兄さんとかスピッツ先輩とかもっち先輩とか…懐かしいっすね」
「そっかそっかー。実は全員いつめんだよー」
「うええええ!?!?それは、俺も入るしかないじゃないっすか!ってことでセンパイ、もしこの沢村、無事に洋南大学に合格できたら、そのいつめんにいれてつかあさい!」
あ、またでた。“つかあさい”。なんだかかわいいなぁ、沢村君。
「オッケーオッケー!待ってるぞ、少年!もちろん、小野田君と月島くんもね!」
「どひゃー!い、いいんですか!?」
「僕はいいですよ…」
ふっふっふ、月島くん。私はこの流れ、最早運命だと思ってるんだよね。
「月島くん、及川徹と赤葦京治という人を知ってるかね?」
「なんですかその口調…。まあ、一応…はい」
低燃費少年らしい回答だね、月島くん。うん、親しみを込めてツッキーと呼ぼうかな!
「やはりな、ツッキー!親しみを込めてこう呼ばせてもらうよ!」
「…別にいいですけど」
あ、これは学校かどこかでそう呼ばれてるパターンか。
「それで、大王様…及川さんと赤葦さんがどうしたんですか?」
「話の内容から察そうよ、ツッキー…。あと大王様ってなに。まあいいや。…要するに、この2人もいつめんなの。ちなみにもしかして潔子ちゃんも知り合いだったりするのかな?清水潔子ちゃん」
「まぁ、はい。僕が1年生の頃のマネージャーです」
「はー…やっぱり。私、なんか3人に運命感じるよー…。世界って狭いね」
実際そう思うよね。こんなに知り合いばっかだとさ!
「ついでに沢村君、真田も知ってるよね?」
「うす!薬師高校の人っす!」
「そいつもいつめんね」
「おお!」
「小野田君も、広島の待宮とかハコガクの黒田もいつめんなんだよ?」
「うひょー!す、すごいですー!」
あからさまにはしゃぐ沢村君と、驚いている小野田君、そして心なしか驚いている月島くん。…なんだ、全員可愛い後輩じゃんね!
こうして、私のドラッグストアへの旅は幕を閉じたのだった。
そして始まるは、3人にキャンパス内を案内するという旅なのだけど、まぁそれは別の話ってことで!