洋南大学にて。   作:御沢

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目が覚めたら。1

 

―――目が覚めたら知らない世界だった。

 

ふざけているわけではない。起きてすぐ、毛布の色が違うことに違和感を覚えた。

でも窓からの景色は同じ。起きる時間もいつもと一緒。

自分で自分がわからなかったけど、とりあえず毛布は買い換えた、ということで自分の気持ちを落ち着かせた。

 

その後、いつも通りにコーヒーを飲もうとしてまた違和感。

「あれ…コーヒー豆…切れてた?」

いつもは豆から挽くコーヒー。ちょっとだけ砂糖を加えたブラック寄りのコーヒー。

豆はまだあったはずなのに、いつの間にか切れている。

 

―――絶対に、なにかがおかしい。

 

ここで私のこの違和感は、確信に変わった。

スマホのロックを解除してみる。…番号は一緒。自分しか知らない秘密の番号。

時間はいつもどおり。冷蔵庫の中は…やっぱり。少しずつ違う。何より私は牛乳は滅多に買わない。それなのにここには牛乳パックが2本もある。

違和感は確信へ、そして不安へ。

「なら…ここは一体どこ…?」

 

 

大学に行く時間になって、家を出る。…うん、住んでいる家も一緒。

ここがどこなのか、そもそも部屋の主は誰なのか。何もわからないけど、とりあえず大学に行かないといけない。悪いと思いながらもスマホとカバンを探り、知っている名前を見つけた。

「あっ…荒北…!」

だけど、ファーストネームは…

「靖友…?お、男…!?」

 

―――なんで?私の知っている荒北は、女なのに…!?

 

とりあえず電話をかけてみる。数コール後、その人は電話に出た。

『香咲ィ?朝っぱらから何だァ?』

語尾をのばす独特な喋り方。私の知っている“荒北”と似ているような、似ていないような…

「あ、あの…」

『ン?』

「荒北…靖友さん…ですか…?」

『ハァ?何言ってんだテメェ…香咲じゃねェの?』

「いえ、香咲は香咲…なんですけど…」

『…すぐ部室に来い。話はそれからだ』

「え、あ、はい」

どうやらこちらの荒北も聡い奴らしい。とりあえず私が行くべき場所は大学の部室。

「…大学って、そもそも洋南であってるのか…?部室は…自転車競技部…?」

 

 

―――私は相良香咲。洋南大学の二回生。学部は文学部、部活は自転車競技部マネージャー。

中学時代から生徒会長などをこなし、出身校である箱根学園には推薦入学をした。その箱根学園で女子自転車競技部のマネージャーを務め、同時に生徒会活動も行い、大学にも推薦入学。いわゆる優等生というやつだ。

 

私には姉と兄が居る。

共に優等生。自分に厳しく他人にも厳しく優しい理想の姉と兄。兄弟仲も家族仲もいい、そんな家族。

また、私には幼馴染がいる。

荒北靖香という女の子。ものすごくスタイルのいいかっこいい幼馴染。そして美人。3姉妹の長女でしっかりもの。運動神経抜群で理系女子。小学校から大学生の今現在まですっと一緒。いいところしか浮かんでこない、そんな大好きな幼馴染。

 

その幼馴染も含めて、高校時代は仲のいい友達が4人いた。もちろん今でも仲良しだけど。

福富寿里。髪は金色に染めているのに全然違和感がなくて、しっかりしてそうでド天然な女の子。ちなみに女子自転車競技部の部長でエースだった。男気あふれる性格。

新開隼乃。明るい茶髪にぽってり唇、大きな垂れ目の瞳。ものすごく可愛くて、私からすれば若干あざとい感じの、でもやっぱり可愛い女の子。いわゆるむっちりとした太ももと豊かな胸を持つ美少女。

東堂尽奈。この子はとにかく可愛い。カチューシャに長くて綺麗な黒髪。大きな瞳の釣り目。美人で可愛い。スタイルもちょうどいい。とにかくとにかく可愛い。一緒に生徒会なんかもしていたしっかりもの。実家は老舗旅館。

 

 

―――…そのはずなんだけど。この世界はどうもおかしい。

まず“荒北”は“靖香”ではなく“靖友”というらしい。

そして毎朝飲んでいるコーヒーはなく、代わりにたくさんの牛乳。毛布の色は私はブラウン、こっちは黄緑。

その反面ロックの番号は一緒、住んでいる部屋も一緒。

 

「一体全体なんなの…?」

 

 

いつもどおりの道を通れば無事洋南大学についた。

部室集合と言われたから、いつもどおり女子自転車競技部へ向かおうとして考える。

「さっきの荒北…さんは男性…ってことは、自転車競技部は男子のもの…?」

こっちの方が信ぴょう性があったので、そっちへと向かうと見事ビンゴ。

「よォ、香咲」

「えっと…荒北…さん?」

「…話は後で聞くとしてェ…とりあえず、その“荒北さん”っての、やめてくんね?あと敬語も」

「…えぇ、わかった。なんて呼べばいいの?」

敬語を外して話せば、彼はちょっと驚いたような顔をする。

「別に…靖友でいいヨ」

「そう。なら靖友、さっそく話を聞いてもらってもいいかしら?」

「あー、ウン」

パイプ椅子に腰掛けて、私は朝起きてからのことをすべて話した。

 

そしてその結論は。

「それってさァ…入れ替わったんじゃねェの?」

大方予想をしていたこんなもの。つまり、この世界の私と私が入れ替わってしまったってわけ。理由はわからないけれど。

「入れ替わり?そんな馬鹿なこと、あってたまるものですか」

でも、そんな現実離れしたこと、信じろっていう方が無理な話。それでも信じるほか手段がないなら信じるしかない。

事実だけを告げれば、靖友はびっくりした顔をする。

「…なによ」

「フーン、そっちの香咲チャンはそんなこと言うワケね」

「そっちの香咲ちゃんってね…こっちの香咲ちゃんはどんな子なの?」

好奇心で聞いてみる。

「こっちの香咲ちゃん…つーか香咲とは小学校からの付き合い。好奇心旺盛で、活発でめちゃくちゃ明るい。んで…中学ン時、一緒に荒れた」

「荒れ…っ!?そ、それって…ヤンキーってこと!?」

「そーだけど…何、そっちの香咲はちげーの?」

驚いた顔をする。驚きたいのはこっちの方。

 

―――こっちの私と荒北はヤンキーだったの!?

 

こっちの荒北こと靖香は、確かに少し喧嘩っ早いところがあるけれど、決してヤンキーではない。いわゆる姐御肌というやつだ。

「違うわよ!私なんて生徒会長してたもの!靖香だって…」

「靖香ァ?だれそれ?」

「えっと、靖香っていうのは…私の幼馴染なの。荒北靖香。荒北3姉妹の長女」

その言葉に靖友の顔がこわばる。

「え、そっちの俺、女なわけェ?」

「えぇ、そうよ。私もびっくりしたの。まさか男だなんて」

「ふーん…冗談…ってわけじゃあ、ねぇよなァ…」

ポリポリ頭を掻きながら、それでも理解しているあたり、やはり“荒北”は聡い。

 

「そ、それで」

ひと騒動収まって、話の続き。

「今はヤンキーじゃない…のよね?」

「そりゃあ、まぁネ。高校入学してからは足洗ったし、朝から晩までチャリ乗ってたなァ」

「そうなの…こっちには、女子自転車競技部はあるの?」

「いーや、ねぇな。男子のチャリ部だけ」

「そうなの」

そして、ふと思う。

「…ちょっと待って。こっちの私、男子と仲いいの?」

男子自転車競技部のマネージャーなんて…。

こっちの世界に男子の部はあったけれど、関わろうとしなかった。

もしかしたらこっちの私は、男とばかり一緒にいるような人なのかもしれない。

「んー…まぁ。でも、多分香咲チャンが思ってるのとはちげぇ」

まるで私の考えを読んだようなそんな言葉に驚きを感じる。

「そ、そんなこと…」

「…まぁいいケドな、香咲はそんなんじゃねぇヨ」

元ヤンというのが頷ける、そんな声で言われれば頷くほかない。

「そう、なの…わかったわ。ごめんなさい」

 

それにしても、私とこっちの私、性格が随分違う。今日1日はどうにかするしかないけれど、なんとかできるのか不安になる。

「ねぇ、靖友」

「ア?」

「こっちの私は文学部なの?」

「そーだけどォ…ちげーの?」

ほっと一息つく。

「いえ、これは同じなの。だったら多分授業の時間とかも一緒よね」

「かもねェ。一応、文学部の奴呼んどくか?」

「あら、靖友は違うのね。ちなみに靖香はパラレルワールドとか調べてるわよ」

電話をしながら康友は素っ頓狂な声を上げる。

「パラレルワールドォ?」

「えぇ。私も最初はバカバカしかったんだけど、あまりに一生懸命だから」

「ふーん…。あー、わりぃわりぃ」

電話の相手に再び謝りながら会話を再開。靖友はパラレルワールドなんて調べてないのね。そのことにちょっと驚く。

 

 

その後しばらく部室で待っていると、3人の人がやってきた。

「やっほー!及川さんだよ!」

「うるさいよ、及川」

「ハハ」

2人は見覚えがないけれど、1人は今までの流れからして予想がつく。黒縁メガネの濃い顔立ち。私が知っているのは長くて豊かな黒髪に豊満なバストを持ってるけど、目の前にいる彼は坊主頭と正反対だ。

「金城…さん…?」

「あ、あぁ。荒北から事情は聞いている。一応、自己紹介をしておく。金城真護だ」

金城真護。私が知っているのは金城は金城でも、金城真。ライバル校の総北高校のエースだった。かなりの美人。

「は、初めまして…っていうのは変だけど、相良香咲です」

「そうだな、はじめましてはおかしいな…。まあ、敬語はなしで頼む。あと俺のことは金城で構わない」

「わかったわ、金城。よろしく」

知り合いとのやり取りを済ませて、知らない2人を見据える。

 

ピンク頭とチャラ男。いい印象はしない。

私の正しい世界でも見たことがある気がしないでもないが、話をしたことはない。

「えっと、そちらの2人は…?」

「えーっ!香咲ちゃん、俺のこと忘れちゃったわけ!?」

「すいません、こっちでは知り合いじゃなくて…」

「なるほどね。俺は小湊亮介。んで、こっちのうるさいのは及川徹」

「うるさいのって亮ちゃん!あっ、えっと、及川徹です!よろしく!」

ピンク頭の小湊くんは真面目そうというか、まともな印象に変わった。しかし及川くんはチャラい。こっちの私はいろんな人と仲がいい。

「こいつらは文学部だからァ、困ったらこいつらを頼れ」

「えぇ、わかったわ。ありがとう、靖友」

 

ヒラヒラ手を振る靖友と金城。同じ理工学部だから講義がかぶることが多いらしい。

今日はまだ講義がないから、ひとっ走りしてくるらしい。

ちなみにの“金城”―――真ちゃんは同じ文学部。正反対なものだ。

「それじゃあ行こうか、相良」

「あ、はい」

「敬語は無しね!」

「…えぇ、わかったわ」

 

 

―――目が覚めたら知らない世界だった。

私の不思議な1日は、こうして幕を開けたのだった。

 

 

 




一旦切ります。

次はいつもの香咲ちゃんsideの予定。
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