名探偵コナンとフランドール Cathedral The Apocrypha   作:アサシン・零

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第1話「経済危機と破壊の欲求」

Ⅰ. 貧すれば鈍す

 

ルーマニア、トランシルヴァニア地方のシギショアラに佇むスカーレット家所有の古城。その石造りの壁は重厚感を保っていたが、室内にはどこか、張り詰めた空気が漂っていた。

「咲夜、もう一度確認するけれど、本当に**『底をついた』**の?」

レミリア・スカーレット(500歳、人間換算14歳、IQ600)は、深紅の瞳を細めて、メイド長の十六夜咲夜を見つめた。

咲夜は完璧なメイドの姿勢を崩さず、手元の古い帳簿を提示した。

「はい、レミリアお嬢様。幻想郷との次元を越えた送金ルートが、こちらの世界の複雑な国際金融法に抵触しまして。罰金と、古城の維持費用、そしてお嬢様方の嗜好品にかかった費用を差し引きますと……現存する流動資産は、あと三ヶ月で底をつきます」

「なんて退屈で、非論理的な事態なの!」

フランドール・スカーレット(495歳、人間換算14歳、IQ450)は、能力が使えない鬱憤もあり、ソファのクッションを握りしめた。彼女の能力が消えたことで、能力を使った発電も不可能になり、それがこの城の維持費高騰の一因でもあった。

レミリアの夫、アレクシス・オーギュスト・ラグナレスク(1230歳、人間換算16歳、IQ1200)は、頭を抱えた。

「資金繰り、居住地の選定、全て私が引き受けよう。私のIQ1200をもってすれば、この程度の金融危機などすぐに解決できる。だが問題は、この城の資産凍結だ。当面、まともな収入源がない」

古城の図書館では、パチュリー・ノーレッジと小悪魔が、経済関連の魔導書と、現代の証券市場の本を読み比べていた。

「資金稼ぎなら、私の魔導書を売却する手もあるが…この世界の人間には、価値が理解できまい」とパチュリーはため息をついた。

「つまり、当面は**『資金と住居の確保』**が、私たちの最優先事項なのね」レミリアは決断した。「そして、フランドールが退屈しないことも重要だわ」

 

Ⅱ. 嗅覚15倍と破壊された密室

 

そんな最中、地元の警察がスカーレット家を頼ってやってきた。シギショアラは観光地ではあるが、裏社会の闇取引も多く、事件が頻発していたのだ。

事件は、シギショアラ旧市街の有名な時計塔の密室殺人。

時計塔最上階の宝物庫で、地元の闇金業者が死体で発見された。部屋は内側から鍵がかかっており、唯一の窓も厳重な鉄格子で閉ざされていた。

フランドールは、規制線で囲まれた現場で目を閉じ、深く息を吸い込んだ。能力は使えなくとも、吸血鬼の超感覚は健在だ。

(嗅覚15倍…血と鉄の匂い、古い木材と埃。そして、微かな**『カモミールの香水』**。これは被害者のものではない。犯人のものね)

彼女は、密室の鍵がかけられたドアを、まるで透視するかのように見つめた。

(聴覚2km…この空間で最後に聞こえた音は、被害者の叫び声と、その後に続いた**『油圧の微かな音』。そして、床板が軋む、ごく小さな『摩擦音』**)

警察の誰もが密室のトリックに頭を悩ませる中、フランドールは宝物庫の隅にある、目立たない古い天文観測機器に近づいた。

「この密室は**『嘘』よ」フランドールは断言した。「犯人はこの部屋から一歩も出ていない**。そして、被害者も殺されてはいないわ」

地元の警部が驚愕した。「何を言っているんだ! 彼は頭部を強く殴られて死んでいる!」

フランドールは無感情に答えた。

「私のIQ450の論理と、この超感覚を以てすれば、この単純なトリックはすぐに破壊できる。まず、被害者は死んでいない。彼は、強い脳震盪を起こしたか、仮死状態に陥っているだけ。彼の体から嗅覚で捉えられる血の匂いの量に対して、流血量が少なすぎる」

「次に、密室について。犯人は、この天文観測機器を使ったわ」

フランドールは、観測機器の古びたネジを指差した。

「私の聴覚で捉えた**『油圧の音』はこれよ。この観測機器は、時計塔の裏の巨大な歯車と連動し、塔の最上部の避雷針**と繋がっている。犯人は、観測機器の油圧を操作し、避雷針の台座をわずかにスライドさせた」

彼女は、窓の外の避雷針の基部を指差した。

「見て。避雷針の台座が、窓の鉄格子とコンマ数ミリの隙間を作っている。犯人は、その隙間から、細い、硬質の紐を部屋の中に滑り込ませた。それが、聴覚で捉えた**『摩擦音』**の正体よ」

そして、フランドールは宝物庫の床板の一点を踏みしめた。

「犯人は、被害者をその紐で気絶させ、観測機器を元の位置に戻し、密室を完成させた。ただし、最も重要な証拠が欠けているわ」

フランドールは、天文観測機器の台座の裏側を、暗視効果のある視力で覗き込んだ。

「ここに、小さな焦げ跡がある。犯人は、紐を隠すために、これを焼却処分しようとした。そして、その焦げ跡には、微かに残ったカモミール香水の残留物が付着している。犯人は、この時計塔で働く、カモミール香水を愛用する女性職員よ」

フランドールの超感覚と論理の破壊により、事件は瞬時に解決した。被害者はすぐに病院へ運ばれ、女性職員が逮捕された。

 

Ⅲ. 東京への高跳び

 

事件を解決したフランドールだったが、達成感はすぐに飽和した。

「ふん。結局、**『物を動かして、元に戻す』**という単純なトリック。私でなくても、アレクシスでも解けたわ」

アレクシス(IQ1200)は、彼女を咎めることなく頷いた。

「その通りだ、フラン。君の『論理の破壊』は鮮やかだったが、君にとってこの国の事件はパズルのピースが多すぎる。もっと**『人』の機微や、『裏の組織』**といった複雑な要素が絡む場所でなければ、君の知性は満たされないだろう」

レミリアは、再び咲夜が用意した東京の不動産資料を見て、満足げに笑った。

「決まりね。ルーマニアの城は一旦、売却して資金化する。そして、私たちは日本へ行くわ」

「なぜ日本なの?」パチュリーが問う。

「咲夜の調査によると、日本には**『米花町』**という、毎日毎日、人が死ぬ、世界一の事件多発地帯があるらしいのよ」レミリアの顔は、新たな獲物を見つけたように輝いていた。

「そして、その街で、私たちの能力の秘密と、生活費を稼ぐための**『新たなビジネス』**を立ち上げるわ。咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔。準備はいい?」

一同が了承する中、フランドールは窓の外、広大な夜の闇を見つめていた。

「米花町……論理を壊す楽しみが、待っているかしら」

こうして、スカーレット一族は、資金と住居の問題、そしてフランドールの退屈を解消すべく、殺人事件の街、米花町へと向かうこととなった。

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