欠損奴隷は愛されたい   作:非検体No.007

4 / 4
004 つーかそもそも、目玉焼きで米は食えない

 大人たちの叫ぶ声が聞こえた時、少女は狭い自室に監禁されていた。

 部屋にはベッドが一つと、本棚が一つ。ベッドには辛うじて薄い布が敷かれていたが、本棚には本はおろか、何も収納されていない。

 

 大人たちの声を聞きながら、この声はあの人で、あの声はあの人、と心の中で考える。

 長い時間この狭苦しい部屋から出してもらえなかったせいで、次第に、時折聞こえてくる声と話し方で、誰が誰なのかを当てられるようになった。

 

 しかし、声までは聞こえても、何を言っているのかはわからない。

 抑揚やトーンで人を判断できるというだけで、特別耳がいいわけではなかった。

 

 だがその日は違った。

 

 魔物が出た。と、隣の家のガウディの声で、確かにそう聞こえたのだ。

 魔物。魔物ってなんだろう。灯り一つない薄暗い部屋で、少女は少しの間考えて、

 

「やい悪魔!」

 

 と村の子供たちに何度も揶揄われたことを思い出す。子供たちは、寄ってたかっては少女をそう揶揄した。

 

 両親が自分を狭い部屋に閉じ込めるのも、そこからほとんど出すことが無いことも、全ては自分が彼らにからかわれる事の無いようにするものだと思っていた。

 両親の愛なのだと信じていたのだ。

 

 でも、それであるなら、悪魔とは何だろう。悪魔と魔物とは、一体何が違うのだろう。

 少女の頭の中に、いくつもの疑問が浮かぶ。

 

 その間にも、部屋の外から聞こえる騒ぎは徐々に規模を増していく。聞こえてくる声も、誰が誰なのか判別のしようがないほどに入り乱れ、ついには悲鳴のような物まで響き始めた。

 

 何が起きているのかを、少女に知る術はない。

 

 少女にとって、魔物とは悪魔の事だった。そして、悪魔とは自分の事だった。

 白い髪を持って生まれた自分は、生まれつきその身に悪魔が宿っているらしい。

 

「お前は悪魔の子だ」

 

 両親にはそう教えられた。

 

 それなら、村に現れたという魔物は、自分の事を知っているのかもしれない。自分と仲良くしてくれるかもしれない。自分を愛してくれるかもしれない。

 

 やがてしばらくして、少女は部屋の扉をゆっくりと開けた。

 

 閉じ込められてから、一度も鍵はかけられていなかった。それでも自分から外に出たことはなく、出られても、決まって眼帯を付けられ、父親に背負われていた。

 ことはなく、出れても、決まって眼帯を付けられ、父親に背負われていた。

 

 外の世界を見せず、悪魔が顕現する可能性を限りなく低いものにする。

 それが、悪魔憑きである自分たちの娘に向けることの出来る、両親からの最低限の敬意だったのだ。

 

 この時数年ぶりに、少女は部屋の外を見た。そこには、部屋と同じく、薄暗い廊下が広がっていた。おぼつかない足取りで、一歩ずつゆっくりと、自分に足がついていることを忘れないように。

 曖昧な家の構造の記憶を頼りに歩き出す。

 

 突き当たりは父の、その隣は母の部屋。二つ年上の兄は向かい側で、その奥を抜けた先に居間がある。

 

 昔のまま、何も変わっていなかった。けれども、家には誰もいなかった。

 少女はそのことに少し安心して、胸の高鳴りを押さえる事が出来ずに、玄関へと向かう。

 連れて徐々に、外から響く悲鳴が大きくなっていく。この先に、みんながいる。

 

 取っ手に指を掛け、期待に突き動かされるがままに、その扉を開いた。

 

 

 彼女の目に飛び込んできたのは、阿鼻叫喚の地獄だった。黒い体毛に覆われた狼のような獣に、生きたまま喰われている女。その女を見て泣き叫んでいる子供。子供を抱きかかえて獣から守ろうとする男。血の中に倒れている、もはや性別もわからない肉の塊。

 

 その地獄の中で、少女は父親の姿を見つけた。すぐそばには兄もいて、探したが母親はいなかった。

 少女は名前を呼び、剣を構える父の元に走り出す。そして、振り向いた父が言う。

 

「——来るな、あ、悪魔め!!」

 

 父は少女を腕で払い、少女はその場に尻もちをついた。

 少女は、父の酷く怯えたようなその声と、彼が自分を拒絶したことに絶望した。

 

 誰も自分を愛してなどいなかった。子供らの言う通り、やはり自分は悪魔で、今目の前で人を貪り食っているこの獣たちと同じ、愛されない存在なのだ。

 

 誰も自分を愛さない。誰も自分を好かない。

 わたしは、悪魔だから。しょうがないことなのだ。

 

 

 そして気付いたときには、少女の周りに人はいなかった。

 あるのは血だまりと、食い散らかされた誰かの肉塊。それから、少女に恭しく頭を垂れくぅんと甘えた声で鳴く、生き残った数匹の獣だけ。

 

 それから少女は悟る。

 やっぱり、悪魔と魔物は同じ存在だったんだ、と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生者、魔法少女世界に転生するも洗脳悪堕ち魔法少女にされて妹と戦わされる(作者:辻契約マスコット)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 悪の組織『シン・アーク』と魔法少女達が日夜戦う世界にTS転生した光の魔法少女オタク(自称)は、ある日悪の組織に連れ去られ、洗脳悪堕ち魔法少女にされてしまった!▼ 一方その頃、彼/彼女の今世の義妹はマスコットと契約し、魔法少女として戦う覚悟を決める。▼ これは、愉快な悪の組織の洗脳悪堕ち魔法少女と、愉快なニチアサ風光の魔法少女の、姉妹の戦いのお話し。


総合評価:2167/評価:8.24/連載:6話/更新日時:2026年07月11日(土) 21:51 小説情報

魔法少女の幼馴染(♂)、悪の魔法少女に改造されてしまう(作者:偽りの名つむぎん)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 白銀アオイは魔法少女の幼馴染だ。ある日、魔族に襲われて死んだ白銀アオイは、卑弥呼という組織に悪の魔法少女として改造されてしまう。▼ 死んだし、大した目的もないから、悪の魔法少女ムーブしまくるか!!▼ そんな軽いノリで悪の魔法少女ムーブを始めたら、魔法少女は曇るわ、脳を焼かれるわ、おまけに物語の本筋まで変わっていくわ。▼ 自分が世界に大きな影響を与えていると…


総合評価:1979/評価:8.05/連載:11話/更新日時:2026年03月21日(土) 20:00 小説情報

TS転生悪の組織の研究者VSど変態(魔法)少女(作者:こばみご)(オリジナル:現代/コメディ)

魔法少女パワーをチューチューするために原石を誘拐したら、とんでもねえ変態だった。恐ろしい!


総合評価:3350/評価:8.72/完結:30話/更新日時:2026年10月30日(金) 23:00 小説情報

TS外道人外ロリは怖すぎ聖女に遊ばれる(作者:適当うなぎ)(オリジナル:ファンタジー/ノンジャンル)

人食い幸薄青髪アルビノ美少女である俺は、恐ろしい森の中で食料となる人間を探していた。▼運のいいことに、すぐに食べごろそうな女を見つけるが……▼その女は恐ろしいロリペドサイコパス野郎だったのだ!!▼あっけなく囚われた俺は、この先どうなってしまうのか?!▼可哀想な目にあう彼(女)の生活を不定期で更新します。▼カクヨム様でマルチ投稿をしていますので、そちらでも評価…


総合評価:8094/評価:9.25/完結:16話/更新日時:2026年10月18日(日) 21:00 小説情報

意味深に助言を送る見た目だけミステリアス女、弟子が大成して大汗をかく(作者:ミスジョ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

ミルシアは見た目だけミステリアスなうすほそ銀髪TS転生者である。▼如何にも神秘的な見た目から繰り出されるのは、酒とギャンブルが大好きなだらしない姿。▼しかも、初めて出会った若人を勝手に弟子と呼び、意味深な助言を送るのが趣味だった。▼周囲からは見た目だけ残念女と呼ばれ、本人もそれを自認していたが――ある時、彼女の弟子が世界を救って英雄になってしまう。▼そして堂…


総合評価:1453/評価:8.25/連載:5話/更新日時:2026年09月10日(木) 17:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>