灰色の空に中指をおっ立てて生きる   作:四葉マーク

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011 泣きっ面に蜂

「えーこちらコマンドα、コマンドα。

 HQ、HQ、応答願います」

『はいこちらHQのドク。何かあったかい矢車くん』

「何かあったかと言われると、大絶賛何か起きてる」

『……作戦開始してまだ20分も経ってないのに?』

 

通信先から困惑してる声が聞こえるなか、

奏は紅い機生体とともに廃墟のガレキに身を隠しつつ通信を続ける。

 

視線は先ほど視界に入った、

巨大な輪っかとなって爆走するゲイターに向けたまま。

なんなんだあれと思いつつ口を動かす。

 

「ゲイターが何匹も合体して……なんだろ。

 ホイールのないタイヤ?みたいなのになって、

 街のなかをあっちこっち走ってる、のかな」

『ゲイターと遭遇することは想定してたけども……

 そんな意味不明なゲイターとの遭遇は、考えてなかったなあ』

 

ぼやきとも取れるような声が返ってくるなか、

奏は隣でじっとしているヴィニシスへと声を掛ける。

 

「そっちから見てて、なんかわかることあった?」

『……スコープで拡大して眺めてみたが、

 何匹かのゲイターは……まるで泣いてるかのような顔をしている』

「えぇ……?いつも嗤ってるゲイターが?」

『オレたちが知らないだけで、そういうのもいるかもしれんが。

 普段とは違う何かが起きてるのだけはわかる』

「そこは同意」

 

今までに見たことがない状況であることには変わりなく、

奏は警戒心を研ぎ澄ませていきながら、再度ドクへと通信する。

 

「ひとまず、そういう変なゲイターがいるって報告。

 もしかしたらカーラとキートのほうにも変なのがいるかもしれない」

『了解。あとで彼らのほうにも共有しておくよ。

 通信終わり』

「通信終わり」

 

通信を終えて、息を吐き出す。

マスク越しに白い息が見えて、思わず体の冷えを自覚。

隣で静かに観察を続けている機生体に視線を向けつつ、

 

「もっとストーブみたいに熱くなれない?」

『オレを暖房器具扱いするのはやめろ』

「そのボディ、発熱性高いって話じゃん」

『複数の脚を動かすため、発熱性は高いが……

 その分、オーバーヒートしやすいとも言われた』

「通りで頭にそんな飾りつけてるわけだよ。

 ミュージシャンにデビューでもしたのかって」

『ミュージシャンとはなんだ?

 あっ、エレクトラ様、情報ありがとうございます。

 ……”ハガン”における歌巫女のようなものか』

 

奏はアサルトライフルを、

ヴィニシスは二本の高周波ブレードを、

それぞれ油断なく構えながら軽口を叩いていく。

 

爆走する合体ゲイターのほかにも、

ゲイターが潜んでいないか警戒しているからだ。

 

「歌巫女ってなに」

『儀式において浄化の役割を為すものだ』

「説明下手くそって言われない?」

『喧嘩なら買うぞ???』

「作戦が終わったあとで買うよ、将棋で」

『オレが勝てない勝負をするな……!』

「オセロでもいいけどね」

『それ以外にしろ!』

 

喋りながら紙の地図を取り出し開く。

作戦前のブリーフィングでドクに渡されたものだ。

地図にはαチームの移動ルート、βチームの移動ルート、

そしてHQの位置がそれぞれ書かれている。

 

「……がっつりルートとかぶってるんだよな。アレ」

 

アレとはさっきから暴走している車輪ゲイターである。

 

『迂回するべきだろう、あんなのと正面からやり合う気はせん』

「そこは賛成一択なんだけどさ、迂回すると最低30分は遅れる」

『βチーム、カーラたちとの合流が遅くなるか』

「そこがネックなんだよね」

 

合流が遅れればαβチーム、互いにゲイターとの遭遇率があがる。

そうなるとそれぞれに分けた爆破用タンクが、

失われる危険性があると事前に説明されていた。

 

ヴィニシスが背負うタンクを見つつ奏は考える。

強行突破を仕掛けるメリットはあるかどうかを。

手持ちの武装はひとつひとつ確認しつつ、頭を回す。

 

「あー考えるのめんどくさ」

『どうせ考えても答えは変わらんだろ』

「あ、そういうこと言う?言っちゃうんだ」

『言ってやるさ、オレたちはここに何のために来た?

 臆病者のごとくせこせことガレキに隠れて、

 作戦成功だけに命賭けますってわけじゃないだろ』

「……あとでドクとエレクトラさんに怒られるとしても?」

『正座……何時間になるだろうな……』

「まあ、黙っておけばバレないでしょ」

『そうだといいんだがな、で……行くんだろ』

 

タンクを背負い直しながらヴィニシスが言えば、

奏は応えるように頷いてみせる。

 

「ああ、狩りの時間だ」

 

その手にアサルトライフルを構えて。

 

   ●  ●  ●

 

「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!!!!」

『何が狩りの時間だ!!!!!

 狩られるのはこっちだろ!!!!!』

「いいから二手に分かれるぞ!」

『それは最悪どうしようもないときだけだ!

 いま別れると合流も厳しいぞ!』

「たまに本気でそのとおりなこと言うの。

 ほんと嫌いだな!」

『素直に従うって言葉を学べ!』

 

数十mほど背後から奏とヴィニシスを追う車輪ゲイター。

距離が離れたところを見計らって、

強行突破を狙った一人と一体だったが案の定見つかり今に至る。

 

不快な嗤い声と哭き声が重なり響くなか、

武装を向けることもなく逃走をしている奏たち。

 

「あれさ!バラバラにしたらまずいと思う!?」

『数が多いからな!今とどっちがマシかと言われたら、

 どっちもクソッタレとしか言えん!』

「それな!」

 

軽口を叩き合いながら現実逃避しつつも奏は考える。

このまま逃げてるだけでは追いつかれるし、

体力も尽きるのが目に見えてる。

そうなる前に何か手を打たないと考えて。

 

「あそこ、あそこのまだ壊れてないビル!

 青と白のツートンカラーで、

 長ネギもった女の子が壁面に描かれてるビル!」

『人類の美的感覚を疑うような絵だなこれは!』

「エレクトラさんと似た反応どうも!

 そこのビルに駆け込んで、そのまま抜ける!」

『ええい、ままよ!』

 

ガレキがころがる、ひび割れたアスファルトの道路を、

なんとかこけないよう駆けながら奏たちはビルへと飛び込む。

当然、その後を追う車輪ゲイターがビルへとぶつかり、

ビルを衝撃で揺らすがすぐには倒壊しない。

 

『保たんぞ!』

「わかってる、だからすぐ出るんだ!」

 

互いに息を整える暇もなく、

入った場所とは反対側へと続く扉を開こうとするが、

運悪く鍵が掛けられたままだった。

 

「くそがッ!」

『どけ!』

 

ビルが何度も衝撃で揺らされるなか、

奏の前に出たヴィニシスは紅い軌跡を数度扉へと放ち、

続け様に数本の脚で蹴りつけて吹っ飛ばす。

 

「さすがマスターキー!」

『便利道具扱いはやめろ!』

「褒めてるんだよ!」

『褒め方に文句がある!』

 

ぎゃーぎゃー言い合いながらビルを出れば、

背後で崩れる音が響き渡り間一髪であったことがわかる。

咄嗟に顔面を舞い上がる粉塵などからかばいつつ、駆ける。

 

「このままビルを抜けていく!

 そうすれば追ってこれないはずだ!」

『諦めの悪そうな連中だがな!』

「人間だったらストーカー罪で訴えたいね!」

『人外に人権とやらは適用されないだろうからな!』

 

背後でビルが倒壊する音とともに、

再び車輪ゲイターの声が響いてくるなか、

奏とヴィニシスは笑いながら走り出していく。

 

笑っていないとやってられないからだ。

 

   ●  ●  ●

 

αチームがいると思わしき方向から、

派手な音が響き出してキートは思わず視線を向けた。

 

『なんだ……?あっちは何が起きてるんだ』

『キート!タンク落としたりしないでよ!』

『言われずともわかっている。ただ気になっただけだ』

『多分アレよ、さっきエレクトラ様から共有された、

 合体してるゲイターとかいうやつじゃない?』

『おそらくな』

 

カーラへと頷き返しながらキートは歩く。

タンクが重いため飛行ユニットが使えないためだ。

 

『こっちは変わらずゲイターの反応なし。

 目視での結果も同じ』

 

代わりにタンクを背負っていないカーラが飛行しつつ随伴し、

周囲への警戒と索敵を担っている。

 

『むしろあれだけ派手にやっていれば、

 向こうにゲイターたちが集まっていくかもしれん』

『その分こっちが楽なのはいいことだけ……』

『……バカ二人が無茶苦茶やってないかだけ心配だ』

 

ついにキートからもバカ認定された奏だった。

とはいえ悪い意味ではなく親しみを込めたバカ扱いである。

 

『気難しくて頑固なヴィスとあんなに打ち解けるとはな』

『ソーくんとあのバカ、結構似てるんだろうね』

『そうか?自分からは反対にしか見えないが』

 

足元に気をつけながら歩くキートは、

訝しそうな声とともに言う。

 

『根っこ、根っこが似てるんだと思う。

 ソーくんもよく無茶するってドクトル言ってたし、

 エレクトラ様はわりと呆れてた』

『おまえ……なんかエレクトラ様と仲いいよな』

『ふっふーん、そこはギュネーを信仰するものゆえの、

 親近感ってやつだと思う』

『ああ、エレクトラ様と同じ信仰だったか。

 おまえ憧れてたもんな、あの方に』

 

あいかわらずαチームのほうから響き渡る破砕音。

あいつらなんか仕掛けたのか?と思わずにはいられないが、

ひとまず自分たちのことを優先しようと考えるキート。

 

『そう、だから今あたしは嬉しいし楽しいよ。

 ……ほんとは船を出るの、すっごい迷ったけど』

『…………すまない』

『そこで謝るのはあんたの悪い癖。

 勝手にあんたのせいにしないでキート』

『す、いや、ああ。そうだな、その通りだ』

『ほっとけないバカが二人もいると、あたしは苦労するの』

『自分まで含めるのはやめてくれ』

 

笑って言われた言葉に、苦笑してしまうキート。

とはいえバカに付き合っている自分もバカか、

と考えずにはいられない。

 

『故郷を離れて遠い星で、こんなことになるとはな』

『なによ、もしかして後悔してるの?』

『後悔、後悔か。

 ……セニアの偵察部隊志願を止めれなかったことのほうが、

 後悔は強いな』

『みんなで止めたけど、あの子、

 行くって言い出して聞かなかったもんね』

『頑固なところはあのバカと同じで困ったもんだ』

 

地球に、人類に憧れを抱いてしまったからには、

止められない熱意があの子にはあったなとキートは思い出す。

 

しかし、キートの足が止まる。

 

『……地響きだ』

『えっ、もしかして揺れてる?』

『ああ、まさか……』

 

飛んでいるカーラがキートに振り返って問うなか、

嫌な予感がキートの頭に浮かぶ。

意味不明なゲイターが出たのも想定外だったが、

もうひとつ想定外なことが起きたのではないかと。

 

そう考えているうちにさらに地響きが強くなっていく、

これは覚えがある地響きだと。

 

『HQ、HQ!こちらβチーム、応答願います!

 現在ルートを進行中だが、地響きあり!地響きあり!

 巨大ワームが……活動を再開している可能性、あり!』 

 

最悪の想定外が起きた。

 

   ●  ●  ●

 

何本目かのビルを駆け抜けて、

車輪ゲイターの勢いが落ちてきた頃合いを見計らい、

奏たちはビルに入ると見せかけて路地へと駆け込んでいく。

 

「はあっふうっ……はあっはっはっ……」

『ぐぐぐ……熱い、熱すぎる……』

「うっわ……まじで熱い、あっつ。

 ちょっと離れて、離れろ。ぶはぁ、すぅ〜〜〜」

 

ボディを動かしすぎて放熱しているヴィニシスから、

距離をとってマスクとゴーグルは上下にずらして奏は息を吸う。

しかし脚を互いに止めない、まだ車輪ゲイターが追いかけてくるからだ。

 

「酸素足りなくて、頭回らないや……

 ええと、装備落としてないか、チェックチェック」

『こっちも装備は落としてない……タンクに傷もないようだ。

 しかしここまで発熱するのかこのボディ……』

 

ヴィニシスのボディはほぼ全身が紅いラインとともに発熱しており、

立ち上がる熱気のせいでぼんやり歪んでいるほどだった。

歩きながらパックパックからストローを伸ばし、水を飲む奏。

 

「……ゲイターに抱きついたら、焼けるんじゃない?」

『そんなことをしてる間に、背後から殴られるから却下だ』

「それもそうか。発熱ボディって案外役に立たないな」

『こういうのは時と場合と相手による。

 もっともこのボディが有効に働く相手がいるかは知らんが』

「その発熱、コントロールできたら便利だろうに。

 コミックだったら熱線とかそういうのできそうだし」

 

水分補給を済ませてストローを戻しながら、

手首にセットした腕時計型のウェアラブルデバイスを起動。

地図を取り出しデバイスが表示する座標と照らし合わせる。

 

「結構ルートからそれてるな……

 もう少し北に行かないと」

『迂回するよりかは早く来れているが、

 巨大ワームに辿り着いてもアレの相手をするハメになるぞ』

「そこなんだよなあ〜

 かといって逃げ切れる気がしないし。

 タンクだけ目標地点に置いて、アレを別の場所に誘導して」

『カーラたちに起爆してもらうのも手か』

 

放熱をし終えて熱気がおさまっていくヴィニシスに、

奏は頷いてみせる。

そこへ近くのビルが揺れる衝撃。

 

「おっと、まだ諦めないのか」

『一体なにがゲイターどもを動かすのか』

「それがわかれば苦労はしてない。

 けど、ドクたちはゲイターにも知性があると考えてるけど」

『エレクトラ様が調査しているコアには、

 確か通信の痕跡があるとおっしゃっていたな』

「ついでにドクの分析によると、

 生命体に必要な臓器がまるで見当たらないから、

 アレはおそらく……端末かなにかじゃないかって」

『端末、だと?何のためだ?』

「そんなの聞かれてもわからない。

 けど、破壊ばかりしてるあたり……ろくでもないってだけだ」

『そうだな、そこは同意だ』

 

さらに近くのビルが揺れるのを感じて、

早足で路地から立ち去ろうとする奏たち。

背後から襲ってくる衝撃に気を取られるあまり、

足元から響いてくる地響きには気付けていなかった。

 

   ●  ●  ●

 

「こちらHQ、HQ。αチーム応答願う、応答願う!

 ……だめだ、ノイズがひどくて通信が届いてる様子がない」

 

車のバッテリーに接続された長距離無線機、

その無線機へとケーブルでつなげたノートPCを前に、

ドクはヘッドセットを着けたままうなだれる。

 

『ゲイターたちと交戦に入ったと考えるべきね。

 途絶前に報告があった合体ゲイターと』

「矢車くんたちの性格を考えると……

 素直に迂回しているはずもないよなあ……」

 

悪い方向への信頼があった。

 

「しかし、ゲイターの出す霧は何なんだろうね。

 どうしてこうも通信が悪くのなるのか」

『それどころか光まで遮るのは不可解ね。

 光に当たりたくない理由でもあるのかしら』

「その割には、昼間でも行動しているのがわからないな……

 かといって夜間に行動してるようにも思えない」

『ドクトル、考えるのは作戦のあとにしましょう。

 いまはβチームからあった報告にどう対処するか、

 それが重要よ』

「そうだね、エレクトラ……しかし、まいったな、うん」

 

作戦の前提が覆ってしまったなとドクは思わず頭をかく。

βチームからの報告で巨大ワームが再活動してると知り、

飛べるカーラに先行してもらって目標地点へと向かってもらった。

 

「こうなると作戦を中止にすべきだとは、僕は思う、思うんだけど」

『ソーたちが素直に引いてくれるかどうか、ね』

「そこが問題、大問題、むしろ一番の障害。

 あ〜〜〜〜よりによってヴィニシスくんと組ませてるから、

 絶対引いてくれないと思うんだよ〜〜〜」

『そこはしょうがないわ、私だってソーと組むなら彼が適任だと考えたから』

 

ソーに対して遠慮と距離のあるキート・カーラに対して、

物おじすることなく接しているヴィニシスのほうが、

作戦行動しやすいだろうと考えての配置だった。

 

「……こうなったらプランB、プランBかなあ」

『プランB、できれば使いたくないわね』

「ほんとにね……でも不測の事態は起こり得る、

 そう考えていたのは確かだ」

『予備のタンク、私が担いでいくわ』

「了解」

 

そう言ってドクは再び通信を試みる。

 

「こちらHQ、HQ。βチーム応答願います。

 ……これよりHQを破棄、γチームとして現場へ向かう。

 以後、機生体同士での通信に切り替えて連絡すること。

 ……すまないね、状況があまりに想定外だから、

 プランBで動くことにしたよ。

 カーラくんには合流したら伝えておいてほしい。

 ……うん、ヴィニシスくんに通信できそうならしておいて。

 では通信終わり」

 

通信を終えたところ息を吐いてヘッドセットを外し、

パイプ椅子から立ち上がるドク。

そのまま車内から武装を取り出して身につけていく。

 

「鬼が出るか、蛇が出るか……くわばらくわばら」

『確か、不運を避けるおまじない、だったかしら』

「そんなところだね、今ではすっかり迷信ではあるけど。

 エレクトラの星にも、似たようなのはあったかい」

『私たちは不運を避けるよりも、

 試練に打ち勝つことを願っていたわ』

「はは、戦士である君らしい内容だ。

 ……臆病者の僕には、そんな願いはもてないな」

 

自ら廃墟へ向かうことに緊張と恐怖を抱きながらも、

顔と態度には出さないでドクは軽く笑ってみせる。

戦場を経験したからといって、痛みや恐怖に慣れるわけでなかった。

 

『戦士でなくても、勇気あるものはいたわ。

 私の目の前にも』

「……ありがとう、エレクトラ。

 その言葉だけで背中を押された気になる」

『どういたしまして。

 それでは行きましょう』

「うん、さて間に合うといいのだけど」

 

予備のタンクを背部に固定したエレクトラは、

武装とバックパックを身につけたドクとともに、

γチームとして219番地区へと向かい始めた。

 

想定外の事態へと対処するために。

 

   ●  ●  ●

 

ビルの間にある細い路地を抜けていく奏たち。

駆けながら通信を試みるものの、つながらない。

 

「だめだ、ノイズが酷すぎて何も聞こえない」

『こっちも同じだ。HQだけでなくβともつながらない』

「数匹程度ならノイズ掛かるぐらいだけど、

 あの数がまとまってるせいか」

 

いまだに奏たちを追いかけてくる車輪ゲイターは、

ざっと見て十数匹はつながっているのが見えた。

もしかしたらビルの倒壊に巻き込まれて、

数匹は死んでるかもしれないが期待はできない。

 

『こうなると作戦続行するかどうかもままならんな』

「最悪、俺たちだけでなんとかしないといけない。

 そこはブリーフィングのときにも言ってたし」

『わかってはいたが、撤退する気は?』

「ないに決まってるだろ」

 

マスクとゴーグルの下で笑う。

相手の機生体も同じく笑みを浮かべた。

 

『だろうな。そうではなくては困る』

「とーぜん、腹は括ったし、借りは返す。

 それが狩人の礼儀ってやつだ」

『戦士としてはやられたままでは格好がつかん』

 

走りながら互いの拳をぶつけあう。

 

「さーて、そろそろ巨大ワームが見えてくる頃合いだけど……

 というか、なんか揺れてね」

『ああ……揺れてる、揺れてるなこれは』

 

目標地点に近づいていくにつれて、

ビルの揺れとは別の地響きが足を伝ってくる。

そのことに眉をひそませながらも、奏たちは駆けるしかなかった。

 

「もしかして……巨大ワームが動いてる?」

『ゲイターに襲われて、また尻尾を振り回してるかもしれん』

「排除しなきゃいけないのが増えるかあ……」

『爆破に巻き込めればいいのだが、

 大人しくタンクを設置させてはくれんだろうな』

「もしくはゲイターが尻尾でぺちゃんこになるのを、

 待つっていうのもありだけど」

『アレがいなければそうしたいところだった』

「ほんとそれな」

 

意識だけを車輪ゲイターに向けて、うんざり声で言う奏。

言いながら、足元から伝わってくる地響きに違和感を得る。

 

「……なんか、変な揺れ方、してないこれ」

『……ずっと揺れているな。尻尾を動かすだけなら、

 止まったりするはずだが』

「まさかまさか、再活動してたりしないこれ?」

『おいばかやめろ、口にするなそういうのは』

「いやだって言うって、こういうの。言っちゃうって」

『ええい、いいから黙って走れ!

 次の角を曲がればもう見えるはずだ!』

 

そう言いながら一人と一体が暗い路地を駆け抜けて、

蜘蛛の巣を払いつつ角を曲がって路地から抜ければ──

 

そこに見えたのは、巨大な花であった。

 

「……はあ?」

 

奏は一瞬、自分がなにを見ているのか理解できなかった。

視界に映っているのは暗褐色に花びらを輝かせる、

ヒマワリのような形をした花であり、

その大きさは10階建のビルすら上回るものだった。

 

よくよく見ればそれらが金属質の光沢をもち、

全身が鉱物らしいことがわかった。

 

「え……あ、え?巨大ワームは、どこだ……?」

『ソー、しっかりしろ!マーカーの信号はあの花から出ている!

 だから、だから……あれが巨大ワームだ!』

「マジで言ってる!?本気のマジで!?

 どこが巨大ワームなんだよ、どう見ても花にしか見えないんだけど!」

『だから落ち着け……!オレにだってわからん!』

 

互いに混乱しているなか、

足元の地響きは静まることなく続いている。

 

「待て、この揺れはなんだ。

 何が動いて揺れてるんだこれ、あの花は動いてるように見えない」

『少し待て、センサーでスキャンしてみる』

 

一歩前に出たヴィニシスは、自身に備え付けられたセンサーを用いて、

辺りを調べてみれば。

 

『なにか……小型の生物らしいものが、その辺りの地面にいる』

「おい、おい、それって……それってまさか、やめろよ」

『なんだ言いたいことがあるならはっきり言え。

 思わず言っちゃうんだろう』

「言いたくないときだってあるんだよ!ちくしょう!」

 

そんな叫びを奏があげると同時に、

花が咲いている修正の地面から一斉に顔を出すものたちがいた。

 

そう、幼体の小型ワームの群れだ。

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