目前に迫ってくる小型ワームの群れへと、
奏は背中に担いできたショットガンを構え、射撃。
散弾がばら撒かれるように撃たれるものの、
小型ワームの足を一瞬止めるだけで撃退までにはいたらない。
「わかっていたけど硬い!」
『足を止めて撃つな!囲まれるぞ!』
「言われずとも、一旦逃げる!」
『今日はそればっかりだな!』
「最適解なんだよ!」
逃げ出す奏たちを追おうとする小型ワームだったが、
動きは遅くあっという間に距離が離れていき、
やがて追うの諦めて花と化した巨大ワームへと向かい出す。
花とは逆方向に駆けながら、ちらりと振り返る奏。
「……全然追いかけてこないな」
『いや、一匹だけこっちに来ている』
「ほんとだ」
よく見れば、ほとんどが花へと向かうなか、
一匹の小型ワームだけはヴィニシスの方へと寄ってきている。
奏が近づいてしゃがんでみても、意に介さず機生体だけを追う動きだ。
よじよじと地面を這いずり、やがてヴィニシスの足にたどりつくも、
疲れた様子で一休みをいれたあと、改めて口でがじがじしだす。
が、ぽいっと足蹴にされて蹴飛ばされたあとじたばたしだす。
「……びびって損した気がする」
『いや、今のでがっつり削られたぞこれ』
そう言ってヴィニシスがかじられた足を見せれば、
そこには鋭利に削られた浅い痕。
「げぇ……小さくてもワームはワームってことか」
『そして、その小さいワームどもが、あの花に向かうということは』
「……なんか虫かなんかでいた気がする。
親の体を子どもが食べて育つとかそういうの」
『地球にはそんなのがいるのか……自己犠牲が強いというのか』
「さあ、虫とかにそんなのがあるとも思えないけど」
銃器を構えなおして呼吸を整えて、もう一度花を見上げる。
動く様子はなく、周辺から小型ワームが近づいている。
そして、背後遠くからはビルが倒壊する音。
「前門の小型ワームの群れに、後門はアレかあ。
そろそろβチームも到着してもいい頃合いだろうけど」
『通信を試みてるがノイズがひどくてわからんな。
アレをなんとかしないと無理だろう』
「はあー……作戦通りにいくとは思ってなかったけど、
こうもアレコレ起きてると嫌になる、寝たい」
『おい、こら、急にやる気をなくすな。
もう目標は目の前なんだぞ』
「冗談だって、じょーだん。
……ちょっと考えるからあっちのビルに隠れよう」
新たにビルが倒壊する音が響いてくるなか、
数十mほど離れた場所のテナントビルを顎で示して駆けだす。
そして、無遠慮にドアを蹴り破ってなかに入り、
椅子に積もった埃を払ってから座る奏。
続いて室内へと入ってきたヴィニシスは八本脚を広げて待機。
『マーカーの信号は……花の根本あたりか。
真上の花あたりではない分、近づくのは簡単だが』
「あれ以上動かないって前提ならね。
ただし周囲には花に群がる小さいワームがいる」
奏は椅子に座ったまま銃器と装備の点検を始める。
その動きを止めないまま、口を動かして考えを場に落としていく。
「……もし花をそのまま食べ出すのなら、
むしろほっといたほうが好都合、か……?」
『マーカーまで食われる危険性もあるぞ。
さっきオレに興味を向けていたってことは、
中にいるセニアも対象ってことだ』
「そう都合よくはいかないよなー
それにのんびりしてるとアレが来る」
倒壊音はどんどん近づいてくる。
室内にいてもはっきりわかるほどにだ。
「先にβチームと合流して、
マーカー回収とアレの相手と分けたほうがいいか」
『問題は、βチームが来てるかわからん』
「それなんだよなー」
思わずうめき声を出しながら地図を広げる。
目標地点に対して南から北上するのがαチーム。
対して西から東へと進むのがβチームのルートだ。
「こういうときに信号弾があればよかったんだけど。
支援物資にはなかったし、しょうがないか」
こんな事態になると想定していたわけではないし、
この間の支援物資は事前に頼んでいたものしかない。
が、そこに響くのは銃声。
「今の」
『間違いない、カーラたちだ。
おそらくさっきの銃声を聞いて、
向こうがこちらに駆けつけてきたのだろう』
「ってことは、もう近くまで来てたか。
考えるのはあとにして急ごう」
『ああ』
互いに立ち上がり、急いでテナントビルを飛び出れば、
花に群がろうとする小型ワームへと銃撃している機生体が見えた。
崩れたビルの二階から緑と黄色が、
サブマシンガンをワームたちへと向けて撃っている。
しかし、ほとんど意味がなく足止めにもなっていない。
「おーい!こっちこっち!あと弾の無駄!」
『だから一言多い!
カーラ!キート!こっちだ、合流するぞ!』
手を振りながら声を出せば、二体ともこちらに気づいた様子を見せ、
キートがカーラに捕まって地上へと降りてくる。
『……何から聞けばわからんが、ひとまずタンクは無事か?
自分のは無事なままだが』
「こっちのも無事だよ。まあわけわかんないのはわかる」
『あっちのアレについては知ってるか、二体とも』
『エレクトラ様から聞いてるけど……あんなのまでいるなんて、
あたし聞いてないんだけどぉ』
あんなのと言いながらカーラが指差すのは小型ワームの群れ。
『まさかとは思うが、お前たちが先になにかやった結果じゃないだろうな?
巨大ワームがあんな形になったのは』
キートから疑惑ガン盛りの視線が奏たちに飛ばされる。
あまりにも信用されていないのが丸わかりである。
「ちがうちがうちがう。そこはほんと違う。
もう俺たちが来たときからああなってた」
『オレはお前らに嘘はつかない。だからソーの言うことは本当だ』
ヴィニシスがそう言えば、カーラとキートは揃って肩を落とす。
ため息もおまけでついてきた。
『キート、どうするの……あたしはちょっと混乱してる』
『作戦続行、するしかないだろう。
障害が増えたとはいえ、自分たちに支障はどこにもないはずだ』
双方が運んできたタンクが無事であるならば、
爆破させることに問題はない、ないのだが。
「その障害をどうするのかがネックなんだよね……」
『ひとまずキート、お前のタンクをオレに渡せ。
そうすればお前は飛べるだろ』
『それはそうだが……どうするつもりだ?』
キートが背負っていたタンクを差し出せば、
ヴィニシスが受け取り体の前面部に持てるようセットしだす。
「ああ、そうか飛べる二人で囮になってもらうのか」
『その方が爆破作業するのも安全だろうからな』
『あたしらの安全は???』
「そこは頑張ってもらうということで」
『もう少し、言葉の掛け方というものがあるのでは……』
奏の言葉に呆れるキート。
しかし、近くのビルが倒壊しだすのを見て、
全員がそれぞれの獲物を構え出す。
「もう近くまで来てる!
というわけで作戦会議終わり!」
『くっ、こうも不確定要素が多いとは思わなかった!
カーラ行くぞ!』
『全くもう、あんたたちに付き合うと、
毎回ろくなことにならないのよ!』
『とにかく頼んだ二体とも!オレたちも急ぐぞ!』
「ああ!」
再びそれぞれのチームと別れて行動しだす奏たち。
そのままαチームは小型ワームにその身を削られる花へ、
βチームは車輪ゲイターが花に向かわないよう囮を務める形になる。
チラリとヴィニシスがボディの前後に担ぐタンクを見る奏。
手持ちにいくつかの爆薬はあるが、これは爆破用であり、
群がる小型ワームを排除するには心許ない。
「……一か八かってのは、今更か」
『おいバカ。ろくでもない考えをしてるなら言え。
あとで怒られるのはオレも一緒なんだぞ』
「一緒に怒られるなら言わなくても一緒じゃない?」
『同意して巻き込まれるのと、同意もしないまま巻き込まれるのでは、
意味が違うと言ってるんだ!』
「先がわかんないほうが楽しいっての知らないの?」
『さっさと何するか言え!ワームどもが間近だぞ!』
「はいはい、わかったって。
そんじゃタンク一個貸りるから」
『うおっ!? って、おいまさか』
ヴィニシスの背後へと回って無理矢理にタンクを奪ったあと、
一歩、二歩とステップを踏んでから奏は思いっきりタンクを投げる。
投げた方向にいるのは花へと群がろうとするワームたち。
即座にアサルトライフルを構えながら膝立ち。
スコープを覗き込んで放物線を描くタンクへと照準を合わせる。
まだ撃つには早い、地面からは距離がある。
1秒、2秒、3秒と落ちていくタンクから照準を離さない。
3.6秒の辺りでもう地面に落ちる寸前、
そのタイミングを見計らってアサルトライフルのトリガーを引けば。
数m先でタンクが爆破して、
一気に周囲の小型ワームを吹き飛ばす。
ついでに奏たちも当然吹き飛ばされそうになるが、
ヴィニシスが奏を爆風からかばうように立ち回り、
八本脚をアンカーのように地面へと刺して爆風を耐えきる。
爆風が過ぎ去ったあとにヴィニシスの背から出てきた奏。
「ナイス盾」
『貸し二つ、貸し二つだからな。今のは』
「けちくさいこと言うなよ、男なのに」
『男も女もあるかぁ!このボディでなかったら諸共吹っ飛んでたぞ!』
「そこはエレクトラさんに感謝しとけよ」
『どうしてお前が偉そうに言うんだ……!』
「そんなことより邪魔は消えた、走るぞ」
誤魔化すように駆け出す奏のあとを、
ああくそ!と追いかけ出すヴィニシス。
駆け出すそばを小型ワームたちがじたばたしているものの、
奏たちを気にしてるそぶりはなく素通ししていく。
そして花へと化した巨大ワームへと近づいていくことで、
彼らの視界には新たな情報が入ってくる。
「あれ、見えてるか?」
『この距離で見えないはずがない。
……穴が空いているな』
「だよね、一瞬見間違いかと思ったけど、そうじゃないんだ」
いまだじたばたともがいてる小型ワームへの警戒を怠らないまま、
花の根本へとたどり着いた奏たちが見たものは、
ガラスが割れたような見た目の穴であった。
「花になってるのは予想外すぎたけど、
タンク一個で穴が開くなんて……それも予想外だ」
『形が変わったことで、もしかして脆くなったのか?』
「どうなんだろう……というかマーカーの位置は?」
目の前に穴が開いているのならば、
ワンチャン入れるんじゃねと考えて奏は問いかける。
『待て……ここから数m下、だな』
「ってことは、入って降りて、回収して上がってこないとダメか」
開いた穴のそばへと立って、奏が覗き込めば、
視界に入ったのは真っ暗闇な金属の洞穴。
生きているような雰囲気は感じられない。
試しにその辺の石を投げ入れてみれば。
「……何度もすぐにぶつかって落ちていく音が聞こえる。
となると内部は曲がりくねってるっぽい」
『こうなると飛べる二体をこっちに向かわせるべきだったな』
「同じこと思ったけどこんな状況だとわからないからしょうがない。
それにほら、向こうは向こうで仕事に必死だし」
周囲への警戒をしながらβチームが飛んでいった先を見れば、
廃墟のビル群を飛び飛んでいく緑と黄色のラインが見える。
そのあと追いかける車輪ゲイターはあいかわらずな様子で、
ビルを倒壊させていくのだった。
「ちっ、あれだけビルとぶつかってるのに、
あいつらの数が減ってないな」
『だが無傷とも言えないようだ。
あの二体がうまく誘導してくれてるうちにどうするか決めろ、ソー』
聞こえてくる嗤い声と哭き声が確かに減ってはいた。
それでも以前として脅威であることは変わらないし、
カーラたちがやられてしまえば次はこっちに来る。
マスクをずらし、息を大きく吸って、吐き出す。
考えている余裕はない、こうなったら行くかどうかの二択。
「行くに決まってるでしょ」
『その迷いのなさ、頼もしいな』
「こういのは蛮勇って言われるんだ、覚えとくといいよ」
『ならオレも、その蛮勇に乗るとするかッ!』
「ああ、そんじゃ足元ご注意ってな!」
馬鹿野郎の一人と一体は、どちらも迷うことなく、
金属は巨大花もとい巨大ワームの腹の洞穴へと歩みを進めていく。
奏はバックパックから取り出した小型ライトを、
かぶっている帽子の横に並ぶマウント部位へと装着し、
視界の明るさを確保して進み出す。
対してヴィニシスはボディを明滅させて周囲を照らしていく。
『オレが先導して足場を作りながら進む。
そのあとからついてこい』
「わかった、頼む」
まるで鍾乳洞を思わせる光景に息を呑みながら、
奏はヴィニシスの言葉に頷いて中へと入っていく。
そしてヴィニシスは自らの八本脚を器用に動かし、
時に壁へと突き刺して固定したり、
時には奏の足場へと真横に刺したりしつつ進む。
内部はあちこちから金属質の組織が飛び出ており、
奏たちの行く先を阻むかのように邪魔をする。
だが、それを切り刻む高周波ブレードの軌跡。
「いい仕事するじゃん。将来は伐採職人になれるよ」
『うれしくない褒め方だが……将来の生き方、か』
紅いブレードで金属の障害を薙ぎ払いながら、
ぼやくようにヴィニシスは言う。
『……セニアのいない将来など、考えたこともなかった』
「それを言われたら、セツカのいない将来なんて、
俺も考えたことがなかったよ」
『つくづく嫌になるな、お前と似ていることが』
「俺も嫌だから安心してほしい」
『どこに安心できる要素があると言うんだ』
互いに苦笑を浮かべながら、
伸びている金属棒をへし折っていく。
「けど、ひとまずやることはひとつあるかな」
『なんだ』
「……セツカを、家族のもとに帰す」
陽気さも軽さもない、冷たい声色。
見たくもない現実を直視した上で、奏が決めたことだった。
『……そう、か』
「そっちは、どうすんのさ」
『オレ、は……どうしたらいいんだろうな』
「うっそ、この後におよんでまだ決めてないんだ?
キートさんのほうがよっぽど考えてたのに」
『なに?キートが?』
そうだよ、と言いながらヴィニシスの足に立ちながら、
邪魔な金属質の棘を蹴り砕く。
「セニアさんの遺体を見つけたら、
心岩だけでも形見に持っていたいって言ってたよ」
『…………いや、それは兄貴であるオレの役目だろ』
「あれ……?確かにそうだな。
なんでキートさん、俺にそんなこと言ったんだろ」
『……まさか、ちょっと待て、待て待て待て。
もしかしてもしかしてなのか???』
「うおぉ!?急に動き止めるなバカ!落ちるところだったろ!」
『す、すまん!だが、その……あいつが、
オレを差し置いて言うってことは、だ……』
わなわなと震え出す紅い機生体。
『あいつ……オレに隠れて、セニアと付き合っていたのか……!』
「わあ、やぶへびぃ」
余計なこと言っちゃったなあと。
『あの野郎……あとで問い詰めなきゃダメだな。
ふざけやがって、ふざけやがってえええ』
「まだ確定してないんだから落ち着けって。
その場の勢いで言った可能性もあるんだからさ」
『それでもオレは、オレは許さんぞ!許さんぞぉおおおおお!』
怒りなのか悲しみなのか、
よくわからない感情に駆られたヴィニシスは、
全身から紅いラインを輝かせながら、
腕に構えた高周波ブレードを乱舞させて道を切り開いていく。
「わーぶれーどのあとがきれいだなー」
『クソックソックソックソッ!
なんでセニアが、キートの野郎なんかと!クソッタレ!』
ついでに奏は真横にされた脚の一本に腰掛け、
道の障害を切り刻む姿を眺めていた。
今は余計なこと言わないでおこう、そう思いながら。
そうして、奏たちが突き進むこと数十分。
やがて、金属ではない石壁のようなものへと辿り着く。
「おい、ヴィニシス……これって」
座っていた脚から降りて、
奏は石壁へと近づきながら問い掛ければ。
『……ああ、マーカーが示しているのはその中。
つまり、守りの壁ということだな、これは』
「これが……消化できなかったのかワームは」
石壁をよく見てみれば丸みを帯びているのがわかり、
全体が球状をしていることが理解できた。
「これ……なんだっけ守り石だか、そういうやつだっけ」
『ああ、オレも実際に見るのは初めてなんだが。
……本当に効果があったのだな』
手で触ってみればつるりとした感触が返ってくる。
ついでに手の甲で叩いてみると、内部が空洞なのか響く音。
ただ、厚みがあるらしく音自体は硬い。
「あのさ、ここまで来といてなんだけど」
『なんだ、どうしたソー』
「これ……どうやって壊すの」
わずかな沈黙が、互いの間を流れる。
その後、揃ってタンクを見て、首を振る。
「いやいやいやないないない、
ここで爆破とかしたら埋まるから絶対埋まる」
『それどころからセニアたちが爆破でバラバラになる。
それは絶対にできん』
今度は揃って頭を抱え出す始末であった。
しかし、閃いたように奏が顔をあげれば、ヴィニシスを指差す。
「って、そのブレードがあるじゃん!
ついでに言えば石壁なんだから割ればいいんだよ脚で」
『おお!そうだ、そういえばブレードがあったな!
よーし、それなら……覚悟はいいか?』
「……ああ」
機生体からの問いかけに、奏は真剣な面持ちで頷く。
ついに、ついにこの時が来たのだと。
きっと、セツカは変わり果てた状態だろう。
ショックを受けることは間違いない、だけど心の準備はできてる。
さあこいと言わんばかりに、奏は口を開いた。
「ぶっこわせ!」
その言葉とともに振るわれるブレードが、
紅い軌跡を残して石壁へと切り傷をつけていく。
中身を傷つけてしまわないよう、
表面を慎重に削っていきやがて壁を壊すのに十分な、
傷跡を縦横無尽につけたあとは。
『せーのっ!』
「おらぁ!」
二人がかりの蹴りで石壁を砕くのだった。
石壁が砕けて巻き起こる煙に身を引きながら、
やがて落ち着いていく煙に互いの心拍音が高まっていく。
果たして中身はどうなってるのかとか、
実際に見たらどうなってしまうんだとか、
お互いがあれこれと考えているうちに煙が晴れて見えたのは。
「……さらに、石壁?」
『いやこれは……なんだこれは?』
「わかんないのかよ」
思わずツッコミを入れる奏の視界のなか、
石壁のなかにあったのは、円筒形をした石のオブジェクトだった。
これだけしかないのかと思い、砕けた石壁のなかを覗き込んでみても、
そのオブジェクト以外はなにも見当たらない。
「てっきりセツカの骨があるのかと思ったんだけど……
どうなってるんだ?」
『オレも、朽ちたセニアのボディがあるとばかり……』
困惑する二人だったが、周囲を振動音が包み出す。
ハッとした顔で頭上を見上げた奏は、
金属壁を食い破ってくる小型ワームを見つけてしまう。
「まずい、もうここまでワームたちが来てる!
ヴィニシス、そのタンク捨ててそれ運んで!」
『これをか!?』
困惑しながら石のオブジェクトを指差すヴィニシス。
「そうだよ!マーカーがそこから信号だしてるなら、
それ運ばないとダメでしょ!」
『確かにそれは、そうなんだが……ええい、わかった!』
「げ、あっちこっちからワーム出てきてる。
もしかしたらここ崩れるかもしれない、急げ!」
『ぐっ、思ったより重いなこれ』
「だあああ、俺も後ろからかつぐから走れ走れ!」
ゆっくりしていられる状況ではないため、
奏も石のオブジェクトを後ろから持ち上げて走り出す。
「んぐ、重い!重たいなこれ!」
『石に包まれてるからな、それにしても重いな!』
「どあ!?ワームが顔面横かすめたぁ!」
『うお!脚に噛みついてくるなあっち行けぇ!』
だがしかし、巨大ワームの洞穴を食い荒らしながら、
小型ワームたちは容赦なく奏たちの邪魔をしてくるのであった。
「ああ、くそ!なんでこんな石なんて運ぶはめになってんだ!」
『知るか!そんなのオレが聞きたいくらいだ!』
互いに愚痴を口にしながらも、必死で運んでいく奏たち。
途中何度もワームに邪魔されるわ、
崩落しだしている巨大ワームの洞穴に冷や汗かくわで、
命の危機がそこらじゅうで踊っている極限状況であった。
「ああ、くそ邪魔だ!」
悪態をつきながらマスクとゴーグルを脱ぎ捨て、
汗だらけになりながらオブジェクトをかつぐ奏。
『どけどけどけぇ!オレたちの邪魔をするなぁ!』
後ろの足だけで器用にオブジェクトを持ちながら、
両腕で握った高周波ブレードを、
道を塞ぐワームたちへと何度も何度も振り回していくヴィニシス。
やがてヴィニシスのボディが赤熱化しつつ、
奏が流れる汗すら無視して走ること数分。
「で、出口だ!出口出口出口、出口出口出口出口だあ!!」
『何度も叫ぶな!というか熱い!熱すぎるぅ!!!!!』
ライトで照らされる光とは違う、外の光。
人工ではない自然の光だ。
洞穴の坂道を駆け上がり、
ワームを振り払いながら出口の光へと奏たちは駆け込んでいく。
やがて、二人の足は地上の地面を踏んだ。
「はぁ、はぁ……や、やっと、着いたぁ……」
『うおおおおお、放熱放熱放熱放熱放熱放熱放熱ぅぅうぅうぅぅうぅう』
洞穴から出た奏たちは疲労困憊な様子のまま、
石のオブジェクトを担いで息絶え絶えに走るったら走る。
「はぁ、はぁ……ワームは、あっちに夢中、だな……」
振り返ってみればあれほど邪魔してきたワームたちは、
二人を追いかけてくることはなく洞穴の金属を食らうのに必死だった。
その様子を確認して安堵の息が漏れたところで、
続け様に聞こえてくる地響きと倒壊音。
『んん!?』
オーバーヒート気味になって放熱をしているヴィニシスが、
なんだと思って周囲を見渡せば、近くのビルが倒壊していく。
その倒壊のなか突っ切ってくる影は、あまりにも見慣れた車輪ゲイター。
「うっそだろ~~~~~なんでこっちくんだよ!
カーラさんたち何してんのぉ!?」
『放熱中止!もう一回運ぶぞソー!
ぐぅぅぅ、半端に放熱したせいで関節が曲がらん!』
「だああああ!もう!今日は厄日だ!厄のバーゲンセール!」
『バカ言ってないで早くしろ!轢かれるぞ!』
一度足を止めていたところで、
もう一度走り出そうとする奏たちだったが、
疲労困憊なうえ満身創痍な身ではそれは難しかった。
奏は、目の前の状況を見て、考える。
数十mまで迫ってくる車輪ゲイター。
腕に抱えている石のオブジェクト。
赤熱化により動きが鈍いヴィニシス。
今、いま、優先しなければいけないものは、なんだ、と。
だからこそ、奏は自分の判断に躊躇うことなく、手を離した。
『おい!?』
ヴィニシスの声を無視して、背中に担いでいたショットガンを手に取る。
ワームには効果がなかったものの、ゲイター相手ならば通じるはずだ。
ついでに、ここぞとばかりに腰のベルトマウントにセットしてある、
手榴弾を複数個手に取り一気にピンを抜いていく。
「どらああああああッ!」
額から流れてくる汗で視界が歪むのもお構いなしに、
大声で叫びながら右手にもった手榴弾を車輪ゲイターへと投げつけ、
すぐさまショットガンを構える奏。
もはや数m近くまで来ている車輪ゲイターへと投げつけた手榴弾を、
狙うようにしてショットガンの照準を合わせていく。
ヴィニシスは動けない、爆風を防ぐ盾はない。
それでもやるしかない、やらねばならない。
生き残るために、撃つんだ。
そう心に命じて、引き金を引くと同時に奏は目をつぶる。
瞬間、熱と風が、奏を焼く──ことはなかった。
『本当に無茶ばかりするのだから。
これではドクトルの胃が休まらないわ』
聞こえたのは聞き覚えのある電子音声。
ハスキーな女性の音声だ。
思わず目を見開いて前をみれば、
背中からのサブアーム二本で大きな鉄板を構えたエレクトラがいた。
鉄板で奏たちを爆風から守って見せたのだ。
「エレクトラさん……!?どうしてここに!?」
『HQを破棄してきたの。
あなたたちへの通信が届かなくなってしまったから』
「そうだったんだ……た、助かった……」
『残念だけど、休んでいる暇はないわ』
「えっ」
爆風がおさまったところで鉄板を投げ捨てたエレクトラは、
サブアームで奏をその身に担ぎ上げる。
『作戦は中止、撤退するわ』
「えっ、あっ違うんだエレクトラさん!
それ、そこの石の塊、それ!それマーカー!」
『…………え、えぇ?』
二度、いや三度も石のオブジェクトを見てしまうエレクトラ。
ついでにものすごい胡散臭そうに見ている。
『まさか……目標を達成してきたの?
想定外がいくつも起きてる状況で……?』
「疑うのはわかるけどほんとなんだってば!
だからそれも持ち帰らないと!」
『なんてこと、でも今は一旦撤退よ。
前を見てみなさい』
言われて視線を爆風があったほうへと向ければ、
車輪状態からバラバラになったゲイターたちが蠢いていた。
その数、数十匹。とてもではないが相手にするのは無理な数だ。
今は爆風の衝撃で動きが鈍いが、すぐにでも襲いかかってくるだろう。
「……ごめん、エレクトラさん」
『なっ!?』
そう言って奏は、身を捻ってサブアームの拘束から抜け出す。
以前から捕まった際にどう抜け出すか考えていたのだ。
そのまま着地すれば、疲れた体に歯を食いしばって、
石のオブジェクトへと走り出す。
「俺は、もう、セツカと、離れたくないんだ……!」
たとえもう二度と、あの笑顔を見せてくれなくても。
もう二度と、あの黄金を拝めなくてもいい。
どうであろうと、セツカを取り戻したかった。
汗を垂れ流し、腕を振り、地面を蹴り、
石のオブジェクトへと駆け寄ろうとする最中、
いち早く衝撃から復帰した一匹のゲイターが奏へと襲い掛かろうとする。
ヴィニシスへと駆け寄ろうとして反応が遅れるエレクトラ。
赤熱化しているため動けないヴィニシス。
嗤うゲイターの鋭利な触手は、走る奏の背中へ迫ろうとしていた。
その間際。
「ソーちゃん危ない!!!!!」
響き渡る誰かの声。
えっと奏が思った瞬間、手を伸ばそうとしていた石のオブジェクトに、
一気にヒビが入って割れると同時に──
円筒型をした石のオブジェクトは砕け散り、
中に内包していた存在を解き放っていた。
● ● ●
奏は自分の視界に映ったものがなんなのか、理解できなかった。
幼馴染そっくりの顔をして、胸元に桜色の心岩が生えている。
さらには身体のところどころには、機生体のボディパーツがあり、
背中には飛行ユニットまで備えていた。
「…………はぁ?」
なんて間抜け声を漏らした瞬間、
真横を突風が駆け抜けていき吹っ飛ばされる。
そのまま地面を転がりながら、理解できない存在を見れば、
奏に背後から襲い掛かろうとしていたゲイターがぶっ飛ばされていた。
「……え、なにこれ」
あまりにも理解ができない。
何が起きてるのか脳が受け入れようとしない。
なにもわからないことだけしかわからない。
「ソーちゃん、大丈夫?怪我はない?」
あまりにも懐かしい声が耳に届く。
もう二度と聞けないと思っていた声だ。
思わず心岩が生えている胸元を見てしまう。
「黄金だ……黄金がある……」
「また言ってる……え、まってどうして泣いてるの?
やっぱり怪我してるんだ、どこ、どこ怪我したの?」
『セツカ、そっちの心配よりも周囲に気をつけて!
ゲイターはまだいる!』
「うん、わかってる。だから」
聞き慣れない電子音声に応えるセツカと呼ばれた少女は、
ヴィニシスの方へと駆けていく。
『お兄ちゃん!ブレード借りるね!』
『はっ????え、あ、セニ、ア??』
「ごめんなさい、これお借りします」
『あとお兄ちゃんたち、重いって言ったの許さないから』
そのまま少女はヴィニシスが持っていたブレードを借りて、
ゲイターたちへと向き合う。
「……ソーちゃんかっこよかったよ。
今度は……私たちの出番だね」
『ボディアシストはこっちに任せて。
セツカの思い通りに動けるはずだから』
「うん、頼りにしてるセっちゃん」
剣道の構えを取るようにしてブレードを構える少女。
眼前の姿に、奏は思わず動揺を隠せない。
本当に、本当にセツカなんだなと。
なにがどうして生きてるのかはわからない。
でも生きてるのなら、生きてるのならそうだ、
こんなところで倒れてる場合じゃない。
身体を起こせ、銃を構えろ、リソースを確認しろ。
戦いはまだ終わっていない、歯を食いしばれ。
背中にもう一本担いであったアサルトライフルを取り出し、
痛む身体を無視して立ち上がる。
そのまま少女に襲い掛かろうとするゲイターへと発砲し、
彼女を援護するように立ち回る。
「セツカ!そいつらは目と口が集中してるところが弱点だ!」
「うん、わかった。ソーちゃんは無理しないで!」
「いま無理しないでいつするんだよ!いいから気にするな!」
「そういうところ、ほんと変わらないなー安心しちゃった」
「ばっっっっか!」
思わず赤面しながら銃撃する奏。
さっきから感情がおかしい、どんな顔してるかもわからない。
ただ、ひとつだけわかるのは、生きてて良かった。それだけだ。
その後ろ、少年と少女の奮闘を見守っている機生体の二体。
『エレクトラ様……一体、なにが起こっているのですか?』
『私に聞かれてもわからないわ。
ただ……そうね、ひとつ言えるのは』
『言えるのは?』
『そろそろSHOW TIMEってことよ』
『……はっ?』
疑問の声を放つヴィニシスを横目に、
空を見上げたエレクトラの視線の先に彼らはいた。
倒壊していないビルの上、
そこでドクがハンドサインでエレクトラに合図を送る。
それ見てシグナルサインで返答したのち、
サブアームでヴィニシスを担ぎ上げ声を出す。
『二人とも、これ以上の時間稼ぎは無用。
さあ、逃げるわよ』
「えっ?あ、はい!」
「逃げるってどこへエレクトラさん!?」
『いいから着いてきなさい。
でないと……巻き込まれるわよ』
妙に嬉しそうな声で言うエレクトラを見て、
奏は非常に嫌な予感がしてきたのだった。
その瞬間、頭上を飛んでいく二体の影。
緑と黄色の機生体が空中にとどまってサブマシンガンを斉射し、
ゲイターたちの足止めを行う。
『さあ行け行け!でないとSHOWに巻き込まれるぞ!』
『これからここは派手に燃えるからね!』
● ● ●
やがて十分にゲイターたちと奏たちに距離ができたところで、
ビルの屋上にいたドクはここまで運んできた予備のタンクを掴む。
「ぼくの出番がないことを祈っていたけど、
こうなってしまったらやるしかないよな……」
地上を見下ろしながら思わずぼやくドクだったが、
ゲイターたちを見ながら眉を顰める。
それは上から見下ろしているドクにしか気付けないことだったからだ。
「……後ろのゲイターたち、自分たちで争ってる?」
正確には嗤うゲイターに哭くゲイターたちが襲いかかっていたのだが、
ビルの屋上から見ているドクには判別できなかった。
「いいや、考えるのはあとだ。
悪いけど、君たちはここで火炙りになってもらう!」
予備のタンクには念の為にと入れておいたガソリンが詰まっていた。
粉塵爆破とは別のアプローチで、巨大ワームを燃やすためのものであり、
そのタンクを180cmはある肉体でドクは両手でハンマー選手のように、
回転させながら方向違わずまっすぐゲイターたちの上へと放り投げ、
セットしておいた小型爆薬のスイッチを入れるとともに伏せた。
直後、鳴り響く轟音と熱。
数秒ほどして熱気がおさまってから迷彩フードを被ったドクが、
物陰から身を起こして地上を見れば、そこには燃え続けるゲイターたち。
いくつかは範囲から漏れてしまったようだが、
奏たちのほうへといかず逃げていくのが見えた。
「……ミッション、コンプリート。
ああ、まるで映画みたいな出来事だ」
作戦にない想定外が何度も起きた挙句、
プランBでドクたちまで動くことになった結果、
最後の最後でこんなド派手なことをやるなんて思いもしなかったからだ。
「さて、それじゃ合流しないと。
拠点に帰るまでが任務だからね」
そう言ってドクこと、
廃ビルの屋上から降りていくのだった。
● ● ●
後方から追いかけてくるゲイターがいないことを確認し、
奏は安堵するように息を吐き出す。
「……エレクトラさん、後方確認オッケー
ゲイターたちは追ってきてない」
『こちらのセンサーでも確認したわ、ありがとうソー』
ゴーグルとマスクを脱いでしまったため、
ぼさぼさ頭を揺らしながら言えば、近くにいたエレクトラが応える。
『あとはドクトルの合流を待って、帰還ね』
「そうだね、まあすぐにくると思うけど……」
双眼鏡で見てたドク、すっごい嬉しそうにタンク投げてたなと。
まるで映画みたいなシチェーションだったしなあ、
などと考えながら歩きつつ視界に彼女たちが映る。
『本当にセニア、セニアなのか!?その身体はどういうことなんだ!?』
『お兄ちゃん、いいからまず落ち着いて。
というかその頭と足はなんなの?イメチェンしすぎじゃない?』
「セ、セっちゃんも落ち着いて。あとそちらのお兄さんも……」
幼馴染である
いまだに信じられない自分がいることも自覚していた。
どうして幼馴染が生きているのかとか、
胸元から生えた機生体の心岩はどうなってるんだとか、
セニアの声はどっから聞こえてるんだとか。
聞きたいことは山盛りあるはずなのに、言葉が出ない。
けれど、視線だけは外すことができなかった。
ずっとずっと、自分も周りも騙しながら求め続けた彼女が、
本当にいますぐそこにいる事実が、目の前の現実が受け入れきれてなかった。
「…………夢じゃ、ないんだよ、な……」
彼女をまっすぐ見つめながら、こぼれる言葉。
瞬間、エレクトラの尻尾が奏の尻を勢いよく叩く。
「いったぁ!?なに!?なんで!?」
『……戦士ソー、ちゃんと彼女と向き合いなさい。いいこと?』
「は、はい」
叩いた相手を見たら、すごく圧のある言葉を向けられた。
ゴーグルもマスクもないため、表情を隠すこともできない。
髪はぼさぼさで髭だって生えてるし、汚れてもいる。
ああ、こんなんでいいのかなという躊躇いと恥じらいがあるあたり、
崩壊前の日常がまるで戻ってきたかの感覚もあった。
だから意を決して息を吸って、吐く。
それから一歩、二歩と彼女がいる方向へと歩き出せば、
奏に気づいた彼女もこちらへと振り向き、笑みを向ける。
「おかえり、セツカ」
「ただいま、ソーちゃん」
壊れてしまった日常は、もう戻らない。
けれど、また取り戻せばいい。
また彼女と一緒に歩んでいけるのだから。
嬉し涙をこぼしながら、奏もまたセツカへと笑みを浮かべたのだった。
以上でCASE1終了となります。
来週には登場人物紹介をしたのち、
CASE2のプロット作成に一月ほど更新を停止する予定です。
よろしければ一言感想やここすきなどしていただけますと、
執筆の励みになりますのでよろしくお願いいたします。