灰色の空に中指をおっ立てて生きる   作:四葉マーク

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004 抑えきれない激情

迫力あるBGMがスピーカーから流れている。

ドクと呼ばれる言語道断 三叉(てくらだ さんさ)の所有するジープからだ。

 

選択されているのは彼が好む映画のサントラ曲から。

一人の男が戦闘機に乗り込んで敵へと挑む、

激しい戦いを予感させるシーンにマッチしたものだった。

 

「ドク、もっとかっこいい曲にしてよ」

「えぇ!? これすっごい合ってると思ったんだけど!?」

「なんか重い、この曲」

「そんなことないと思うんだけどな〜熱いシーンの曲だよ!」

「俺はそれよりゲームの音楽とかのほうが好き」

「若者だぁ、若者のセリフだなあ」

「そうかな、好みの問題じゃないの」

 

なんて言ってるうちに、(ソウ)はハンドル横にあるコンソールを操作して、

とあるゲームの軽快なバトルBGMをチョイスする。

 

「うん、こっちのほうが戦いに行くって気分になる」

「無法者たちがヒャッハーしにいく曲じゃないっけこれ」

「違うよ、賞金首を狩るときのBGMだよ。

 大破壊に襲われた世界でもタフに生きる連中だらけで、

 好きなんだよね」

『ソーの好みって、私から見ても変わってると思うわね』

 

後部座席にいるエレクトラからの呆れた声が、

助手席で装備チェックしている奏へと飛ぶ。

 

「そう? でも俺はこのゲーム好きだし戦車とかも乗ってみたいなって。

 そうだドク、このジープにも武器とか取り付けようよ、ミサイルランチャーとか」

「そんな装備、陳情しても支給してくれないよ……

 あと軍用ジープじゃないから積載量に余裕はないし、

 君の好きなゲームみたいにアレコレ積んだら動けなくなるって」

「あーエンジン積み替えないとダメなんだ。

 ゲームだと簡単なんだけどなー」

「ゲームだからねえ、そういうのは」

『よくわからないけれど、ソーが無理を言ってるのはわかるわ』

「簡単な話じゃないし、そもそも積み換えるエンジンもないからねえ」

 

運転席に座るドクが苦笑を浮かべていると、

山間を進む道路の先から219番地区、

今はもう人類が住まない廃墟の街が見えてきた。

 

「……矢車くん、一人で突っ込むようなことはしないでね」

「わかってる、わかってるから”ティー先生”」

「はあ……ドクだよドク、いまはそう呼んでくれって。ユーコピー?」

「…………アイコピー、ドク」

 

奏は、装備の点検を終えるとアサルトライフルを強く握る。

人型タイプの機生体に対して、強く敵意をにじませながら。

 

  ●  ●  ●

 

219番地区の近くにある、まだ破壊されてない、

しかして人気のない住宅地、そこへと停められたジープ。

二人と一体が徒歩による行軍を開始する。

 

二人はマスクにゴーグル、フードを被り込み、

手袋もしてなるべく肌を野外にさらさないスタイル。

対してエレクトラは黒いボディに銀色のラインを脈動させつつ、

背部には武装ユニットを積んでいる。

 

人のいない住宅地を会話もなく徒歩で進んでいき、

やがて破壊された街並みへと、建物の影に隠れながら侵入していく。

 

合間合間にエレクトラが現在位置を二人に示しつつ、

今回の目標となる三体の機生体がどのあたりにいるかも予測図で伝える。

最初に報告のあった場所からどこへと移動したかを、

廃墟に潜り込ませていた地上ドローンによって観測していたのだ。

 

「あいつら……A地点のほうへ向かってる。ドク」

「ああ、うん。おそらくでもなく、彼らは……巨大ワームが狙いだろうね」

 

エレクトラが示すマップに表示される、彼らの移動方向から、

何を目的としているかを予測したものの、理由がわからない。

 

「……狙うにしてもたった三人で? 自殺行為としか思えないけど」

「もしくは、なにか奥の手がある、のかな。すぐには思いつかないけど」

 

君はどう思う、とドクはエレクトラに聞くが。

彼女もまた首を振る。

 

『現状の情報だけでは何も答えられないわ。

 最初に観測された映像でも、彼らの装備は軽装だった。

 大型を相手にするような火器は確認できなかった』

 

三体とも銃火器のような武装をもっているだけで、

肩や背中に背負うような大口径の武装は見当たらなかった。

となると考えられる可能性は少ない。

 

『第一に調査目的、と考えるならば少数編成かつ軽装なのも納得できる。

 ただし、なぜ今になってなのか、という疑問はつくわ』

「第二は、それ以外の目的があるケースだけれども、

 いまのところはわからないってところだね」

「ドク、あいつらに聞けばわかることだよ」

「もーアサルトライフル構えないでって、

 まだやり合うと決まったわけじゃないんだから」

『ソー、戦場において情報収集は大事なことよ。

 無知な戦士では何の役にも立たない、赤ん坊でもわかること』

「はいはい、アイコピーアイコピー」

 

わざとらしく拗ねてみせる奏に苦笑を浮かべる二人だったが、

相手が相手だけに戦闘は避け難いだろうなと。

 

「事前の打ち合わせどおり、最初はエレクトラから接触してもらって、

 その後にぼくらが出ていく、OK?」

 

標的までの距離はまだまだあったが、

改めての確認をそれぞれにとるドク。

両者とも頷いて、その意思が確認できれば、ドクもまた頷いて言う。

 

「では改めて行軍を続けよう。

 そして今回はゲイターとの戦闘は避けて、迂回ルートで進もう」

 

  ●  ●  ●

 

視点は切り替わって、三体の機生体が飛行する姿。

しかしそのうちの一体は突出しており、速度も加速していく。

残りの二体がなんとかして追いつこうとしている図だ。

 

『おいぃ!突っ走りすぎだヴィシニス!聞いてるのか!?』

『待って、待ってって言ってるわよね、さっきから!

 マーカーはずっと動いてないから急ぐなって!』

 

二体からの呼びかけを無視して、

一体の機生体は飛行ユニットの出力を上げて加速を続ける。

まるで焦るかのように、その身で風を切り裂いていく。

 

『……ようやく、ようやくなんだ。

 許可が降りて準備を終えて、ずっとこの日を待っていた……!』

 

人型をした黒いボディに、鮮やかな赤色のラインを走らせる機生体。

顔面は真っ黒なフルフェイスであるため表情を知ることはできない。

しかし、その言動はあまりにも周囲を冷静に見てないことぐらいはわかる。

 

ゆえに、彼は自分たち以外の存在がいることにも気づけず、

なおかつ人気のない廃墟に罠がある可能性すら考慮していなかった。

空を飛ぶ、目立つ存在にあいつらが気づかないわけがない。

 

『ッ!そっちの経路はだめだ、引き返せヴィニシス!』

 

右手を頭部に当てて何かの情報を得た機生体が、

慌ててヴィニシスへと叫ぶ。

だがしかし、すでに罠へと彼はハマっていた。

 

『うがッ!?な、なんだこれは!?』

 

倒れかけた鉄塔を潜り抜けようとした瞬間、

その影から伸ばされた上下からの触手めいたものに、

絡め取られることとなるヴィニシス。

 

飛行ユニットの出力を上げて脱出を試みるも、

触手はふりほどけるどころかより強く体を締めてくる。

 

『いけない!ゲイターたちよ!

 こんな近づくまで気づけないなんて!』

『くっそ、霧が濃すぎたせいだ!

 そのせいで感知するのが遅れた!待ってろヴィニシス!』

 

廃墟に漂う霧は、人類には体を蝕む毒となる一方で、

機生体にはセンサーなどを鈍らせる効果があった。

そして響き渡る音。

 

嗤い声。

 

ゲイターたちは、破壊活動をしながら嗤う。

それは喜びなのか、悦びなのか、歓びなのか。

誰にもわからない嗤いだ。

 

体を締める圧に呻きを漏らしながらも、

ヴィニシスは諦めようとはしなかった。

やつらと自分たちでは基礎スペックが違う、

真っ向から相手をするなと指導もされた。

 

だが、だがだ。

そんなことは百も承知で挑んでいるのだと。

 

『戦士であるオレを……舐めるなッ』

 

左腕は銃器ごと触手に締められて動かせないが、

運良く右腕はまだ動かせる。

ゆえに腰裏に刺してある刃渡20cmはあるブレードを掴み、

鞘からぬきだし現れたのは紅い色をした刃。

 

『貴様らの体といえど、

 高周波には耐えられまいッ……!』

 

ヴィニシスのボディを流れるラインが一段と輝きを増す。

自らのボディとケーブルで直結されたブレードもまた輝き、

振動する刃が紅い光を放っている。

 

そして、上下から伸びてきている触手を切り裂かんと、

ブレードを振りかざせば一瞬の抵抗があったあと、

ゲイターたちの触腕は切り裂かれるのであった。

 

触腕から解放されれば、体を締めていた圧が消え、

地上へと落下していく。

その先にいるのは触腕を切り裂かれ、悶えるゲイターが一匹。

 

痛むボディに痩せ我慢を通してゲイターに迫るヴィニシスは、

再び高周波ブレードを振りかざして切りつけようとしたが、

 

『んぐッ!?』

 

突如背後からの衝撃に怯む。

 

それは鉄塔から飛び降りてきたもう一匹のゲイター。

こちらも触腕を切り裂かれているが、痛みに嗤っていた。

嗤いながらヴィニシスを破壊しようと襲いかかってきたのだ。

 

全身から触手を生やした、まるでウニのような造形をしたゲイターは、

どこにあるかもわからない口から哄笑をあげ、

再びその触腕でヴィニシスを締め上げていく。

 

右腕のブレードが虚しく空を切るばかりで、

自らを締め上げる触腕をどうすることもできない。

 

ゆえにヴィニシスは歯噛みする、こんなところで死ねるものかと。

最悪、頭部さえ残ればいいと考え、自爆を試みようとする。

 

『ば、ばか!待て、早まるなっておいぃ!?』

『待ちなさいよこのシスコンバカ!って、新たな熱源感知、これは!?』

 

遠くからなんとか駆けつけようとする二体であったが、

突然センサーに現れた高熱源に気を取られる。

 

その瞬間、ヴィニシスを締め上げていたゲイターと、

地上でいまだ痛みに悶えていたゲイター、

その二匹が飛来したレーザーによってその身を焼かれた。

 

大声の嗤い声が絶えたことで、

今度こそ絶命したゲイターから解放されたヴィニシスは、

受け身も取れないまま瓦礫へと落下。

 

『い、いまのは……何者、が?』

 

幸い地上近くだったためボディに落下時の痛みはなかったが、

先ほどの締め上げが効いていたようで、絞り出した声は弱かった。

そこへ近づく足音に、彼が視線をやれば。

 

『久しいわね、同胞たちよ。

 すんでのところで救援が間に合ったようで何より』

 

背部武装ユニットの火砲から排熱させながら、

ゆったりとした足取りで近づくエレクトラだった。

ボディに流れる銀色のラインを視認した瞬間、

ヴィニシスは思わず馬鹿なとつぶやく。

 

『あ、貴方は、アシメニオス導師……では!?』

『私のことを知っているのね、それは話が早くて助かるわ。

 でもね、ひとつだけ訂正させてくれるかしら』

 

倒れ伏していたヴィニシスに近づく、二体の機生体を警戒しつつ、

四つ足ボディのエレクトラは言う。

 

『その名はもう捨てたの。今はエレクトラ、そうただのエレクトラ。

 そう名乗っているわ』

『そんな、導師のお立場を捨てられたのですか……!?

 い、いったいなぜ、どうして!』

 

問いかけには答えず、エレクトラは静かに火器をヴィニシスに向ける。

 

『戦士であるならば、まずは生き抜くことを第一とせよ。

 疑問はその後にしなさい、そう教えられて生きてきたはず』

『…………はい、導師。おっしゃる通りです』

『こっちへ来なさい、三体とも。

 少なくともここより安全な場所があるわ、その代わり』

 

彼女は冷たく言う。

 

『軽率な行動を取れば、汝らのスパークは、

 宇宙に還されると知りなさい』

 

同胞相手であっても容赦はしないと言外に含めた。

 

  ●  ●  ●

 

エレクトラたちがやりとりしているところを、

離れた場所から瓦礫に隠れつつ、双眼鏡で見ている二人。

 

「前々から思ってたけど、やっぱSFだよSF」

「なんだろうねあの剣……なんでゲイター切れてるんだろう。

 それにエレクトラのビーム、いやレーザーだっけ。

 すごい威力だよねえ、あれ……」

「地球との技術格差に絶望した」

「本人曰く、燃費が悪いとは言うけれども、

 こっちの技術で再現しようとしたら都市一個分の電力使いそう」

 

とある作戦で使われたポジなんたらライフルかな、と思う奏。

 

「けれども、襲われてるところを助けたってのはラッキーだね。

 おかげで彼らも敵意はそこまでなさそうだ」

「こっちに無いとは言っていない」

「……抑えて、抑えてね矢車くん。気持ちは、わかるかさ」

「冗談だよドク、エレクトラさんが急いで先行したのを、

 ダメにする気はないから」

 

さっきは驚いたなあと。

 

「……あのゲイター、ここへ来る前に観測したのとは違うタイプだったからね。

 別ルートから廃墟に来たようだけど彼女のセンサーを抜けてきた」

「あれかな、隠蔽特化してるタイプかも。

 見た目もなんか……トゲトゲみたいでぱっと見わかりにくいし」

「そうかもしれないね。いずれにせよ常識の通じない相手だ。

 引き続き警戒していこう」

「アイアイサー」

 

エレクトラがこちらをチラリと見た、合流する合図だ。

ゆえに立ち上がった二人は比較的破壊の少ない建物へと歩き出す。

 

音を立てずに建物の裏口から入り込み、

確認済みである1Fフロアへとつながる通路で待機する。

やがて、重い足音とともにエレクトラたちがフロアへと入ってきた。

 

『導師、我々がここへ来たのは……その……』

『おいぃ、まだ何も聞かれてないのに説明しようとするな!』

『そうよ、その前にボディの負傷状態を確認しなさい!』

『うるさい二人ともっ、オレは平気だ!』

『いーや全然平気じゃないね、自分には丸わかりだバカ』

『そーよ、ほんとバカ。今更になってついてきたのを後悔してるわ!』

 

エレクトラの通信を通して、

解析された会話の音声がイヤホンから聞こえる。

 

「なんか、賑やかなやつら、ですね……」

「だね……彼らの事情はわからないけど、

 少なくとも悪いやつ、ではないかな」

 

我ながら希望的観測すぎるなと苦笑しつつも、

ドクは油断しないよう銃器を構えている。

あくまでもエレクトラが相手しているからであり、

もし自分たちがいると知ればどう動くかわからないからだ。

 

「……例えいい奴らだったとしても、対立派なのは変わらないでしょ」

 

一方で奏は冷徹に相手のエンブレムを見つめつつ、言葉を口にする。

 

あの黒いボディに人類の銃器はほぼ意味を為さないと聞いているため、

ならばと折りたたんであったグレネードランチャーを展開し、

腐食弾を装填し始めていた。

 

ゲイターに用いた硫酸弾とは違う弾丸、

とりわけ金属部分が多い機生体相手には特攻とも言える効果を秘めた弾だ。

とはいえ、それはまともに当てられたならばの話。

 

当てるならば相手の動きを封じてから、

特に屋内ならば容易に回避はできないはずだと、

奏はその手に力を込めてグレランを握る。

 

「それも彼女との話次第だよ。

 ……頼むから早まらないで矢車くん」

「アイコピー」

 

目に殺意を浮かべて、少年は答えた。

 

  ●  ●  ●

 

騒がしくしていた三体が落ち着いたころ、

フロアから通路を確認できる位置にエレクトラは座り、

三体の視線がそちらへ向かないよう注意する。

 

最悪のケースを想定して、彼らが不意打ちできるようにするためだ。

すでに通信封鎖もできるようにしてあるため、

目の前にいる三体は、ここが罠のなかだと気づいてすらいない。

 

そのことにエレクトラは思わずアイカメラを細めてしまう。

戦士として危機感が足りていない、と。

だがしかし、すでに導師を辞めた身な以上、余計な思考かと考える。

 

『では改めて問うわ。

 貴方たちはどうしてここへ訪れたの?

 その腕章を身につけているということは人類敵対派、

 つまり人類を攻撃するために来たと思考するけれど』

 

嘘である、今彼らが積極的に人類へと攻撃している様子はない。

ゆえにそうではないと知っていたが、

情報を引き出すために挑発的に問いかけを投げかけたのだ。

 

問いかけの言葉へ反射的に答えようとしたヴィニシスだったが、

彼の肩を隣の機生体が掴んで下がらせる。

 

『ど、導師……オ、オレはそんな、つもりではなくッ』

『だめだ、ヴィニシス。お前はいま冷静じゃない、怪我もしてる下がれ。

 ……導師もそんな言い方はやめていただけませんか。

 自分は、少なくともここにいる自分たちは、人類を攻撃する意志はありません』

『その言葉、同胞として信用はしてあげたいけれども、

 今の私は人類側としてここにいる。

 信頼するには、言葉も証拠も足りないと教えてあげましょう』

 

エレクトラからの辛辣な物言いに、

ヴィニシスの代わりに答えた機生体は苦々しい声を出す。

 

『手厳しいですね導師、エレクトラ様とお呼びいたしましょうか。

 自分はキートゥリノと申します』

『あたしはカラプラーシノスと言います。

 このバカはヴィニシスです』

『バカとはなんだ、バカとは……!』

『いいから黙ってろぉ、バカァ!』

 

バカは黙れなかった、バカではないからだ。

 

『うるさい、いいからオレに喋らせろ!

 導師、導師こそどうしてここにいたんですか!

 人類との共存を唱える一派はいることはもちろん存じてましたが、

 それがアシメニオス導師だとは知りませんでした!』

『エレクトラと呼んで、そう教えたわよね。

 私、物覚えの悪い子は嫌いだわ』

 

静かな口調とともに、レーザー砲がすっと向けられた。

思わず固まる三体だったが、数度呼吸らしき動作をしたのち、

ヴィニシスが一歩前へ出て告げる。

 

『……謝罪いたします、エレクトラ様。

 オレは、オレは……』

 

まるで搾り出そうとするような言い方に、

キートゥリノが彼の肩に手をおいて、首を左右に振る。

無理をするなと言わんばかりに。

 

『自分からも重ねて謝罪を。

 こいつは今、冷静になれない状態なんです』

『もったいぶった言い回しはもてないわよ、

 特にレディに対しては、ね』

 

レーザー砲の向きを元へと戻しながら先を促せば、

キートゥリノがひとつ息を吸うような音を立てていう。

 

『我々は、ここへ確認に参ったのです。

 ……先だってこの地へと向かった偵察部隊、

 彼らがどうなったかを』

 

その言葉を聞いたうえでエレクトラは彼の後ろに立つ、

カラプラーシノスにも視線を向ければ頷きが返ってくる。

動じた様子もなく頷いたところから、嘘はないと見る。

 

エレクトラは秘匿回線で通路に待機する二人へと連絡を飛ばす。

“信用してもいいと思うわ”と。

同意するように二人の頷きが見えたので、話を続けることにした。

 

なお、逆に”どういう身の上なの?”と奏から秘匿回線が飛んできたものの、

エレクトラはあえて無視した。

女の過去は聞かないものよ、などと思考しながら。

ドクトルならばきっと聞かない、そのはずとも思って。

 

『その偵察部隊がここへと来たのは10ヶ月前、合ってるかしら』

『間違いありません、他の偵察部隊が訪れたという記録もありません。

 そして……ここへ訪れた偵察部隊が壊滅したと記録がありました』

 

キートゥリノの言葉に、彼の後ろにいたヴィニシスは、

音を立てるほどに拳を握り込む。

 

『後ろの彼の様子からして、親類でもいたのかしら』

『おっしゃる通りです、こいつの妹が偵察部隊にはおりまして、

 壊滅したという報告を受け取った際には独断で出撃しようとしました』

『当然、そんなこと許されるわけもなく、あたしらで捕まえましたけどね』

 

カラプラーシノスが苦笑しながら補足するように言う。

 

『そう、私には好ましく感じられるわね。

 戦士ならば例え間違っていようとも突き進むべきだわ』

『……下手なことをおっしゃらないでくださいエレクトラ様。

 今回も何度も導師長へと掛け合った末に、ようやく許可が下りたところなのです。

 壊滅した原因を探らねば、また同じことが起きると説得して』

 

エレクトラは、彼の言葉にふむと案じる。

一体、心配なのはいるものの他の二体は理性的に話すことができるし、

彼らの目的に対しては譲歩することができる、と。

 

すなわち協力しあうことは可能だと考えたわけだ。

 

となると残りの問題は、

とまで思考したところでエレクトラは思わずカメラアイを見開いた。

グレネードランチャーを構えた奏がいつのまにか、

三体の真後ろにいたからだ。

 

『ソー!待ちなさい、撃ってはだめよ!!!!』

 

ドクトルはどうして彼を止めなかったのかと視線を向ければ、

通路の奥から詫びるように頭を下げて飛び出すのが見えた。

止める暇もなく奏が動いていたようだった。

 

そして、突然叫んだエレクトラに三体は身構えて振り返る、

そこに佇む異様な雰囲気の少年を目撃して、一歩後ずさる。

 

少年が一歩、踏み込む。

 

「壊滅した原因? 教えてやろうか。

 お前らが来たからだよ、お前らが、この街に来たからだ」

『……どういう、ことだ?』

 

気迫に押されまいとして、ヴィニシスだけが言葉を返す。

 

「お前らがこの街にやってきて、

 俺の幼馴染を連れていこうとしたんだ。

 そのとき、この街にアレが現れた」

 

ゴーグルの下、少年の眼は獲物を見るように細まる。

 

「巨大ワームが」

 

その眼は決して目の前の三体を逃さないと物語っていた。

 

「俺の幼馴染を、目の前で飲み込んだ。

 そうだ、お前らが来たから巨大ワームが現れた。

 お前らさえ来なかったらあいつは、夕華(セツカ)は飲み込まれなかった。

 街だって友達だってぐちゃぐちゃにならなかった」

 

冷たく淡々と紡がれる言葉とともに、

グレネードランチャーの銃口が向けられる。

震えはなく、確かな構えとともに。

 

「お前らがお前らがお前らがやってきたから!!!

 夕華(セツカ)も何かもが無くなっちまったんだ!!!」

 

一転して、咆哮のごとく叫ばれる言葉。

 

「俺に撃たれたくないならとっとと消えろ!

 二度とここへ来るな!」

 

痛ましい少年の叫びだけが、

廃墟となった建物のフロアに虚しく響いていた。

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