灰色の空に中指をおっ立てて生きる   作:四葉マーク

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005 冷静になんて生きられやしない

普段の静かな物言いと態度からは想像もできないほどの声。

彼が普段どれだけの感情を押し殺していたのかを、

エレクトラは今になって痛いほど感じとっていた。

 

この空気を、この状況を変えねばならない、

だからここは身を張らねばと思考して動けば、

彼女の動きは奇しくも一人の男と重なる。

 

ドクだ。

 

エレクトラは奏の前へとゆったりと歩き出せば、

通路から遅れて登場したドクが彼女の背に立つように、

三体の前へと立ち塞がる。

 

奏と三体の間に、一人と一体が割り込んだ形となった。

わずかな沈黙がお互いを包んだあと、

ドクはゴーグルとマスクを外して顔を露にする。

 

「初めまして、機生体の皆さん。

 ……突然のことで驚かして申し訳ない。

 だが、こちらの話も聞いてほしいんだ」

 

あちらはドクトルに任せれば大丈夫だろうと思考し、

エレクトラは銃口をいまだ下げようとしない奏と向き合う。

 

『ソー……言葉を掛けても、良いかしら』

「…………」

 

少年の視線は強く、非難めいた色をもっていた。

そいつらをかばうのかと問うように。

その眼に憤怒の炎を燃やして。

 

当然の反応だと思考する。

彼は住んでいた街を、友を、最愛の相手を失ったのだ。

どれだけ口では抑えると言っても、抑えられるわけがないと。

そしてあのエンブレムを、殊更に憎んでもいる。

 

この状況を打開すべく、エレクトラは思考する。

彼ら三体は、おそらく導師長に付き従っているだけで、

自らの意思で敵対派にいるわけでもないのだろう。

 

だがしかし、先ほどまでの会話で問題があったとすれば、

彼らにはここの人類がどうなったかまでの気配りがなかった。

あくまでも偵察部隊、同胞への心配だけであった。

 

ここへ訪れた目的を探ろうとするあまりに、

会話の誘導を失敗したかもしれないと今になってエレクトラは悟る。

人類を気に掛ける様子もなかったことが、

奏にとって踏まれたくない尻尾を踏ませたのかもしれないと。

 

『……ごめんなさいね、奏』

「…………どうして、エレクトラさんが謝るんだよ」

『それは……きっと私も同罪だから』

 

しばし考えた末に出てきた言葉は、自らの罪。

 

『私も、貴方が言う彼らと同郷であり同胞。

 そしてこの街が巨大ワームに襲われたとき、

 ドクと一緒にこの街にいたのも確か』

 

もしかすると偵察部隊がこの街へと来たのは、

自分を探しに来たからではないかとエレクトラはずっと考えていた。

でなければ大都市から離れたこんな街に、偵察部隊が来るわけがない。

 

『二人にはずっと黙っていたけれども、

 私は導師長と呼ばれる人物たちと意見が合わなかったため、

 この地へとひとり降り立った』

 

ドクは三体へと説明を続けながら、後ろ耳で聞いている。

 

『今思えば、私を探そうとしていてもおかしくはなかった。

 意見が合わなかったとはいえ、私を慕うものたちは多く、

 彼らにとっても無視できない存在だったから』

 

今更になって軽率だったと反省する。

 

『だから、この街が、いいえソーが悲しみを背負うことになった原因に、

 私もまた関係がある。ゆえに』

 

エレクトラは居住いを正して、奏の顔を、眼を見る。

 

『撃つというのであれば、まず私を撃ちなさい。

 そして、戦士であるというのであれば、躊躇うことは許さないわ』

 

エレクトラのカメラアイが、

銀のスパークを弾けさせながら見つめる。

やがて、いくばくかの時間が過ぎたころ、銃口が、ゆっくりと下げられる。

 

「……エレクトラさんを、撃ったら、ドクが泣いちゃうよ」

『……ありがとう、ソー』

 

  ●  ●  ●

 

背後でのやりとりに冷や汗をかきながらドクと呼ばれる男、

言語道断(てくらだ)は違う意味で冷や汗をさらに追加でかいていた。

そう、対面にいる三体の機生体だ。

 

思わずエレクトラの後ろに立ってしまったが、

特に考えもなくノープランのまま話し始めてしまった。

とはいえ、医者として患者と会話を長年してきたこともあり、

機生体相手であっても臆することなく言葉は澱みなく出てきた。

 

「……と、いうわけでぼくたちはこの廃墟となった街を監視してるんだ。

 人類からの任務を受けてね、それで来訪した君たちと接触した」

 

しかし、先ほどからこの三体はずっと後ろの少年を凝視している。

自分の話が聞こえているだろうかと不安に思うほどに。

こちらの言葉もエレクトラを介して翻訳されているはずだから、

理解はできてるはずだけどとドクは胃が痛くなる思いだった。

 

「ええと、理解できたなら何か言ってほしいのだけども」

 

相変わらず視線は奏へと向かっている。

なんでだろう、そんなに彼が気になるのかと思い、

思わず問いかけてしまう。

 

「……後ろの彼が、なにか?」

『え?あ、ああ……その、なんだ。

 この地にも戦士がいるのだなと、思わされた』

 

キートゥリノがようやく気づいたといわんばかりに言葉を返す。

表情はわからないが興奮でもしているのか、

ボディを走る黄色のラインが激しく明滅している。

 

あのラインの明滅は彼らの感情表現でもあるのだろうか、

今は抑えている知的好奇心を刺激されながらもドクは言う。

 

「君たちが言う戦士というのがどういうものかは、わからない。

 けれども彼は……少なくとも相手を殺すことに躊躇いはないよ」

 

ちらりと後ろをもう一度見れば、

銃口を下げた少年の姿が見えて安堵する。

そして、キートゥリノの後ろにいたヴィニシスが、

全身に紅いラインを漲らせて声を響かせる。

 

『おい!そこのお前、偵察部隊を見たのか!?』

 

詰めるような口調には怒りが込められていた。

果たして何に対しての怒りだろうかとドクは思いつつ、

彼の言葉を遮るように口を開く。

 

「待った、いまはあちらに話しかけるのはやめてほしい。

 先ほども説明したけれども、ここは人類が住んでいた土地なんだ。

 そこを何の配慮も気遣いもなく、動かれるのは困るんだ」

『ぐっ、な、ならあんたに聞きたい。

 オレたちが探している偵察部隊を見てはいないのか?

 オレたちと同じ黒い二足歩行ボディに、飛行ユニットを装備していたはずだ』

「ふむ」

 

そう問いかけられてドクはあの日のことを思い出そうとする。

10ヶ月前のあの日、自分は彼ら機生体を見かけただろうかと。

 

自室に匿っていたエレクトラのことを気にかけつつ、

いつもどおり病院で勤務していた。

その行き来で不審なものを見た記憶もなかったし、

エレクトラから同胞がそばにいるなんて言葉もなかった。

 

だから巨大ワームが現れる前に彼らを見てはいない。

それが答えだった。

 

「いや、ぼくは少なくとも見てはいない。

 あの日は仕事もしていたから」

『そう、か……いや偵察部隊だから見られてるわけがないか。

 何を聞いてるんだオレは……』

『おいバカ、聞く前に気づけよそういうのは』

『バカと呼ぶなと言っただろうが!

 オレはどうしてもあいつの手掛かりが欲しいんだよ!』

 

キートゥリノの呆れた声に、ムキになるヴィニシスだったが、

そこへ答える声があった。

 

「……俺は見たよ」

 

奏だ。

 

  ●  ●  ●

 

銃口を下ろしたとはいえ、機生体への怒りが鎮火したわけではなかった。

むしろ、ひとつ仕返しをしてやろうと思って奏は口を開いていた。

 

「そいつは、ピンク色のラインを発するそいつは、

 俺の幼馴染を連れて行こうとした。

 そして──」

 

思い出したくもない記憶を掘り起こす。

だが言わねばならない、

こいつを、そうこいつを言葉で殴りつけるために。

 

「俺の目の前で、二人一緒に、ワームに、くわ、れた」

 

唇を震わしながら、言葉をなんとか言い終えた。

だめだ、抑えようとしても抑えられない、

それほどまでに感情が暴れる。

 

言い終えた瞬間、全身から紅いラインを発していたヴィニシスが、

膝から崩れ落ちたのが見えた。

 

『ケ、ケラセーニオス……そんな、そんなばかな……』

 

紅いラインが生まれては静かに消えていくのを繰り返す。

まるで悲しみを表現しているかのように。

 

悲痛にくれる機生体を見て、奏はざまあみろと思いながら、

同時に強く胸を締め付けられる思いだった。

 

嫌がらせをしてやったというのに、嬉しくない。

むしろ思い出してしまった分、こっちのほうがしんどくもある。

最悪な気分だ、こいつらに関わるとろくなことがないと思いながら。

 

「よかったな、お前の探し物が見つかって。

 あの巨大ワームの腹のなかってわけだ。

 ……お前も食われたら、妹に会えるんじゃないか」

 

我ながらとんでもなく酷いことを言ってる自覚がある。

エレクトラから非難めいた視線が飛んできたものの、

奏は目を逸らして誤魔化す。

 

ただ、そこで違う人物が納得したような声を出す。

 

『そう……だからだったのね。

 部隊が壊滅したという報告があったのに、

 あの子のマーカーが時々移動していたのは』

 

緑色のラインを思案するように細く光らせていたカラプラーシノスだ。

その言葉にドクが反応する。

 

「マーカー?それを追って君たちはここへ来たのかい」

『ええ、そういうことよ。ええっとドクトルTだっけ』

「合ってる合ってる、ちなみに彼は矢車奏って言うんだ」

「ドク、勝手に教えないでよ。プライバシーの侵害」

「最近の子はほんと厳しいね、そういうの!?」

 

ドクからの糾弾はスルーした。

 

「俺は教える気かなかったから。

 それで、どうするの?お前らが探してるそいつの妹は、

 巨大ワームの腹の中ってわかったんだし、どうするの」

 

言外にさっさと帰れと込めて、奏は言う。

だがしかし、カラプラーシノスは首を振ってみせた。

 

『どうするもこうするも、このバカが納得するまではここにいるわ。

 あたしたちは……こいつとケラセーニオス、妹の名前ね。

 ずっと同じ族のなかで育ってきたから』

 

思わず「族ってなに」の視線をエレクトラに向けると、

彼女は『あなたたちで言う、村みたいなものよ』と返した。

 

「ふーん。付き合わされてるあんたたちも、大変だな」

『言わないで、考えないようにしてるんだから』

 

思わずマスクの下で苦笑してしまった。

そこでふと、なにか考えてる様子のドクが視界に入る。

 

「ドク、どうしたの。そんな顔して」

「えっ……いや、なんていうか聞いてて不思議に思ったんだ。

 10ヶ月もマーカーが消えないんだなって」

「それは、どうなんだろう。巨大ワームってどんな体してるかわかんないし」

 

巨大ワームについては未知なことが多く、

その生態すらどうなっているかは人類も機生体もわかってはいない。

だがしかし、だ。

 

「人間の医者として考えると、生物が……巨大ワームを生物として考えるなら、

 一度食べたものを10ヶ月も消化しないでいるのだろうかって」

「ごめん、俺あんまりそのへんわかんない」

「ああ、うん。生物ってのは体に見合った量を食べないとダメなんだ。

 だから巨大ワームは……あの体を保つなら多く食べないと、

 生きてはいられないはずなんだ」

 

ゾウならば1日に100kg以上は食べてないと、

その巨体を保つことはできないと言われている。

けれど、とドクは続けて言う。

 

「先ほどの彼女、カラプラーシノスさんかな、

 彼女が言ってたことを思い出してほしい」

「えーと、どのあたり……?」

「いや、言ってたじゃないか”あの子のマーカーが時々動いてた”って。

 つまり219番地区に鎮座している巨大ワームは、

 時々しか動いていないってことになる、食事もしないで」

 

エレクトラが疑問の色を混ぜた言葉で、会話に入る。

 

『不可解ね、それは。

 それではまるで、巨大ワームは生きようとしていないように聞こえるわ。

 自ら食事を絶って、自殺しようとしてるようにも思える』

 

その言葉に三体の機生体たちも困惑した様子で互いを見合った。

どういうことなのかと。

 

「そう、そうなんだエレクトラ。

 だからぼくたちには情報が必要だ、

 ここ219番地区にいる巨大ワームに今なにが起きているかという情報が」

「ドク、もしかして、まさか……?」

「矢車くん、事前に言っておいたよね、

 彼らの目的を聞いて協力が可能であれば協力しようって」

「それは、そう、だけどさ」

 

歯切れ悪く答えるしかなかった。

本音を言えば協力などしたくないし、一緒にいたくもない。

けれども、けれどもだ。

 

奏からしてみれば、ドクやエレクトラは自分のわがままに付き合わされてる。

不思議なことに彼らと、目の前にいる三体の機生体と状況が、

どうしてか似ていると思ってしまった。

 

怒りも、わだかまりもある。

ただ、同情もしている部分も、あった。

大事な人を失う痛みは、わかるから。

 

「……一回だけだから、付き合うのは」

 

その言葉にドクとエレクトラはほっとした様子になり、

奏に頷いてみせたあとは三体の機生体へと話しかける。

 

「そういうわけで、ぼくらと一緒に共同ミッションはどうだろう。

 機生体チームくん」

『目標は219番地区のA地点に鎮座する巨大ワーム、

 ミッション内容は目標の生態調査、赤ん坊でも簡単な内容ね』

 

ドクの言葉を引き継ぎながら述べたエレクトラの言葉に、

三体の機生体は若干引いた様子を見せていた。

 

「さすがに赤ん坊には無理でしょそれ」

 

ゆえに思わず突っ込んでしまった奏であった。

 

  ●  ●  ●

 

簡単な打ち合わせをしたのち、

廃墟のなかを低く飛んでいく姿が三つあった。

 

紅いラインの機生体は、四つ足ボディのエレクトラを。

黄色いラインの機生体はドクを抱えており、

緑ラインの機生体は奏を抱えて飛んでいた。

 

飛んでいくルートはエレクトラによるドローンで、

事前にゲイターたちがいない場所が選ばれており、

先ほどのような襲撃はいまのところなかった。

 

とはいえ、廃墟のなかを漂う霧によって見通しは悪く、

自分ではコントロールできない速度と風圧を受けながら、

奏は不安を隠しつつもアサルトライフルを握っている。

 

幸いゴーグルとマスクのおかげで息苦しさはなく、

慣れない速度のなか目を開いていられるものの、

よりにもよって機生体に協力しているのが心苦しくもあった。

 

とはいえ、あの紅いやつよりかはマシかなどと、

エレクトラを丁寧に抱えて飛んでいるヴィニシスに視線が向いた。

それに気づいたのか、奏を抱えているカラプラーシノスが音声を飛ばしてくる。

 

『ソー君、あのバカが気になる?』

「君づけされるほど親しくした覚えないけど」

『エレクトラ様が気に掛けられてるのならば、

 あたしたちにとっても気にかけるべき存在、そういうことよ』

「わっかんないな……そっちの文化ってやつが」

 

導師だとか族とか、学校の教科書でもあまり見ない言葉。

戦士なんて単語はそれこそゲームでしか見ないものだ。

なんだろう、彼らの文化って古いのかなって思うけど、

さっき見た戦闘からして技術は間違いなく上だ。

 

『実を言うと、あたしも君たち人類はわからない。

 けれどね、知りたいとは思ってるんだ』

 

そこでカラプラーシノスは、紅いラインの機生体を見る。

 

『特に、なかでもあのバカの妹は知りたがりでさ。

 自分がどこの派閥にいるのかも考えずに、

 人類のことを調べたり理解しようとしてたのよ』

「それ、遠回しにバカって言ってない?」

『そういうのは思ってても言わないで。

 ……だからさ、なんだろうな』

 

なにかを言い淀むように、彼女は口ごもる。

 

『君が……その、攫われたって言ったとき、

 なんだか変だなって思ったのよ。

 あの子、なんでそんなことしたんだろうって』

 

その言葉を聞かされて、奏は何も言わない。

いや、何も答えを返せなかった。

 

「…………そんなの俺が知りたいよ」

『そうだよね、うん、ごめんね。

 変なこと言っちゃって』

「別に、それより前見たほうがいい。

 そろそろだから」

『あっ、ほんとだ。君って結構しっかりしてるんだね』

「余計な一言多いって言われない?」

 

呆れた声で返しつつ、奏もまた視界を前へと戻せば、

霧に隠されている巨大ワームの姿がうっすらと見えてきた。

同時に、先頭を飛んでいた紅いラインの機生体は、

自身の体を明滅させながら降下していく。

 

行き先は半ばから折れたビルの物陰だ。

 

空中から飛び降りたエレクトラが周囲を警戒して索敵し、

安全であることを確認したのち、黄色と緑の機生体も降りていき、

抱えていたドクと奏を解放した。

 

「じ、地面が、あ、あるぅ、地面があるよぉ!」

「ドク、そんな声と顔で、うずくまらないでよ。恥ずかしい」

「冷たいッ!矢車くんだって飛ぶの初めてなのに、

 なにこの態度の違いは!?ぼくすっごい怖かったんだけど!?」

「俺は、親父のバイクによく乗せてもらってたし、

 飛行機にだって乗ったことあるから平気」

「ちくしょう、最近の若者は恵まれてるなあ!」

「それ最近の若者は関係ないんじゃない???」

 

いつもの調子でやりとりしている奏とドクの横、

黄色と緑の機生体は、紅いラインの機生体、

ヴィニシスへと近づく。

 

『ヴィニシス、もう一度確認しておくが、

 これは自分たちの判断での行動、それでいいな?』

『何度も言わせるな、キート。

 ……エレクトラ様はもはや導師ではない、

 ゆえにこれは付き従ったわけではなくオレたちの判断だ』

『あの頑固祖父どもがそれで納得してくれるなら、

 あたしはこれ以上文句は言わないわ。けど帰ったらお説教はされるわね』

『おいぃ、それ考えないようにしてたんだから、言うなよカラー』

『何があったかは聞かれるだろうが、エレクトラ様のことは伏せとけ二人とも』

 

わかったと言わんばかりに頷く、黄色と緑の機生体。

そこへ近づいていく、エレクトラ。

 

『伝えても構わないわ。

 むしろ、私の立場を彼らへ明確にしたほうが、

 余計な混乱も誤解も生まないでしょうから』

『ですがエレクトラ様、俺としては、その……

 いまの氏族の動きには、あまり賛同できません』

『バカ、滅多なことを口にするな!』

『そうよ、この星まで来られたのは導師長たちのおかげでしょうが!』

『わかっている!わかっているが……納得できるかは、別なんだ!』

 

聞こえてしまった言葉に、

奏はドクとともに視線をそちらへ向けた。

 

「……彼らも一枚岩ってわけじゃない、か」

「ドク、俺はあいつら嫌いだから」

「ははは、矢車くんは頑固すぎるよ」

「ドクはむしろ何でもかんでも受け入れすぎだと思う」

「そうかなあ……いや、そうかもしれないな……

 医者として生きてきたせいなのかな、それともぼくの性格かな」

「……俺にはわからない。ドクは、先生は誰かを憎んだりしないの」

「憎む、かあ……そういうのは、もう疲れたからいいかなって」

 

そこに浮かんだ表情を、奏は知らなかった。

ひどく、ひどく疲れきった大人がいた。

虚ろな眼とともに。

 

一瞬、誰なのかわからなかった。

 

「ドク……?」

「ああ、いや、うん、やめようかこの話は!」

 

不安になって名前を呼べば、

すぐさまいつも通りの表情となってドクは苦笑した。

それ以上は、今は触らないでくれと言わんばかりに。

 

「わかった、今は目の前のことに集中するよ」

「うん、そうしよう。なにしろ僕らは、

 これから人類史上初めて……あのデカブツを調査するんだからね」

 

その言葉が聞こえていたのだろう。

二人と四体は、揃って霧のなかに佇む、

巨大なワームを見上げたのだった。

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