灰色の空に中指をおっ立てて生きる   作:四葉マーク

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006 悔しさを噛み締めて生きる

不気味な霧のなか、佇むワームの巨体。

動画や画像などで見たことはあれど、

自らここまでの距離に近づいて眺めることは、

奏にとっては初めてのことだった。

 

予期しない事態に備えて、それぞれ二つの班に分かれ、

動く様子を見せようとしないワームの周囲を、

別方向から調査を進めていく。

 

奏はドクとエレクトラとともに、

ワームの口と思わしき場所へと近づいていくが、

口らしい部分は歯のようなものでしっかり閉じていた。

 

(あの時はゆっくり見てる暇なかったけど、

 でかい……いやまじででっかいなこれ……)

 

アサルトライフルを用心深く構えながら、

見上げるワームの巨体には硬質さがあった。

それどころか見える面すべてに棘のようなものがあり、

迂闊に触ろうとすれば怪我してしまいそうであった。

 

「ドク、触るのはやめといたほうがいいかも」

「そのようだね……そうでなくても迂闊に触れて、

 寝た子を起こすことになっても困るから撮影だけに留めよう」

「あっちも、そうしてくれるといいんだけど」

 

別方向、ワームの中心部らしきあたりを調査している三体を見て、

ぼそりと奏は言う。

 

あちらは自分より血気盛んなのがいる、

余計なことしなきゃいいけど。

なんてさっきまでの自分を棚にあげて思うのだった。

 

「エレクトラ、そっちのスキャンはどうだい?」

『わかったことは、体表を構成する物質は鉱物が入り混じったもの。

 構成は独特なもののようで、少なくとも私が知っている既存の生物、

 どれにも当てはまらないことがわかったわ』

「君たちからしても未知の生物というわけか……

 ほんとこいつはどこから来たんだろうか。

 いや地球産なのは確かだろうけど」

『同胞たちは、このワームが人類の兵器だと騒いでいたわね』

「自分たちの街を破壊する兵器なんて、あるわけないじゃん」

 

エレクトラの言葉に悪意はないとわかっていても、

奏は思わず不機嫌に言い返してしまう。

苦笑を思わず浮かべたドクは、手元のタブレットを操作しつつ言う。

 

「これが映画なら、どこかの国が秘密裏に研究していた兵器、

 なんてことにもなるんだろうけど……

 こんなデカブツ、秘密にするなんて無理な話だよなあ」

 

ドクとともに見上げる巨体の高さは、少なく見積もっても5m前後はあった。

そして、その全身は艶のない焦茶色をしており、

まだら模様に黒ずんでいたりもする。

 

周囲をゆっくりと歩いているとふと足裏に違和感。

嫌に硬いものを踏んだ気がして足をどけると、

そこにあったのは焦茶色の破片だった。

 

「ドク、ここにワームの破片落ちてるよ……って重!?

 え、指ぐらいしかないのに、なにこの重さ!?」

「どこどこどこどこ、これこれこれこれ????

 うわ、ほんとだ重い、重いねこれ!?」

「ドク、その笑顔気持ち悪いから」

「最近の若者は言葉がストレートぉ!」

 

小声で叫んでいるドクを横目に、

ほかにも落ちている破片を拾ってみれば、

数cm程度しかないのにずっしりとした重さが感じ取れる。

 

奏が手のひらにのせた破片を、近づいてきたエレクトラが、

背部に積んだユニットから一本のアームを伸ばして掴み上げる。

 

『これは……密度が異常に高いわ。

 ここまでの密度になるには、よっぽどの圧力がなければ無理よ」

「……となると、彼らは地下深くに住んでいた、のかな。

 人類が探査したこともない深さに。

 そうだとすればこの密度にも納得はできる」

『その可能性はあるわね。

 人類の歴史においてこんな巨大生物が目撃されたことは、

 一度たりともなかったのが確かであれば』

「もしかして、エレクトラさんがUMAとかの記事漁ってたのって、

 それが目的だったの?」

『興味と実益を兼ねた趣味とも言うわ』

「否定はしないんだ……」

 

奏が呆れた声を出してるなか、

ドクはガレキをよけながら他にも落ちてる破片はないかと、

視線をあちこち向けつつ探しながら言う。

 

「UMAにはモンゴリアン・デス・ワームってのがあるけど、

 大きさはせいぜいが1〜2m程度だって言うし、

 こんな大きくなるなんて話も見つけられなかった」

「となるとやっぱりこいつは、新種の生物ってわけ?」

「生物、だとは思うけど……

 これまで人類が発見したどの生物にも属してはなさそうだ」

 

いくつか色の異なる破片を拾い上げ、

サイドポートから取り出したケースに入れてしまうドク。

あいかわらず巨大ワームは動く気配がない。

 

まさか本当に死んでるのか?とは思うものの、

奏には確かめる術がなかった。

 

「1発撃てれば簡単なんだけどな」

「はい減点1、軽率なことはしないでって言ったよね。

 いやもう今日これ何度目かな!」

「はいはいはい、わかってますわかってますってドク。

 エレクトラさんもサブアーム伸ばさないで、撃たない、撃たないから」

 

やらかしたのは事実であり後悔もしてないが、

まだ撃ってないからセーフ、セーフだと思うんだ。

などと心のなかで思いつつ、エレクトラが伸ばすアームから逃げる奏。

 

逃げつつ、あっちはどうなってんだろと、

空に浮いたままなにやら羽交い締めされてる紅い機生体を見上げた。

 

  ●  ●  ●

 

『は、はなせ!マーカーの反応、は!

 この真下から、出ている!つまり、ワームのなかに、

 妹は、ケラセーニオスは、いる、いるんだ!』

『あのな?それは自分らもわかってる。

 だからどうしようかって話し合いをしようとしてるのに、

 何を勝手にひとりでどうにかしようとしてるわけ???』

 

ヴィニシスがキートゥリノに羽交い締めされてるのを横目に、

共に浮いているカラプラーシノスは顎に手を当てて考えこんでいる。

そのボディには緑のラインが静かに明滅。

 

『エレクトラ様、こちらでマーカーの位置を確認いたしました。

 ええ、センサーの通りが悪かったので内部状況はわかりませんでしたが、

 確かにワームの胴体、中央近くにて信号が発せられてます』

 

ちらりと横たわるワームの胴体へと視線を飛ばせば、

いまもそこから信号が発せられてることがカラプラーシノスの視界に映る。

この信号が出ているということは、

まだ生存している可能性があるのだと。

 

『こちらから呼びかけを試みてはおりますが、

 一切の反応はありませんでした、はい、全員試しております』

『ケラセーニオス!セニア!お兄ちゃんだよ!

 お前のお兄ちゃんがここにいるんだ!答えておくれ!!!!』

『だ・か・ら大声出すなって言われてただろ!シスコンバカがぁ!』

『エレクトラ様と通信してるんだから、静かにしなさいよあんたたちは』

 

頭部が痛くなる思いとともに、

二体へと呆れた声が出たが通信を続ける。

 

『仮に生存しているならば自己閉鎖機能によって、

 仮死状態となっているかと思います。

 ただ、同時に飲み込まれたという人類については……』

 

生存は絶望的だと告げることに迷いを得た。

さきほどの少年の怒り、それを考えると迂闊には言えないし、

言いたくはなかった。

 

人類のことを詳しく知っているわけではなかった、

だが機生体とは異なり常に栄養や水分摂取が必要と聞く。

そんな生態をしている人類が10ヶ月もの間、生きていられるだろうか。

カラプラーシノスは、自らの問いかけに首を振る。

 

『はい、わかりました……いえ、あたしも同じ気持ちです。

 ソー君の前では言わないよう気をつけます。

 二体にも言い聞かせておきます、ではのちほど』

 

通信を終えて、思わずため息が出てしまいそうになるのをこらえる。

わかっていたことだ、今回の調査任務で望んだ結果が得られないことぐらい。

むしろどう考えても悪い結果しか得られないと、散々言い合ったはずだ。

 

それでも、それでも実際に目にしてしまうと、

覚悟はしていても気持ちは大きく暗鬱となる思いでもあった。

 

(あの子も無事ではない、いやもうスパークは失われてるかも。

 そう覚悟していたけれど……やっぱり悲しい)

 

いまだその存在を主張してくるマーカーの信号、

その事実に虚しさを覚えながら、

いまだに騒いでる二体のもとへと戻ろうとすれば──

 

『!!!

 二体とも、ワームの尾の方向からゲイターよ!』

 

またも霧のせいで感知が遅れてしまったと思いつつ、

巨大ワームから離れて飛ぼうとすれば、

視界に映ったのは巨大ワームへと近づいていく様子だった。

 

  ●  ●  ●

 

聞こえた声とセンサー感知にゲイターどもを見るヴィニシス。

彼を羽交い締めにしていたキートゥリノも、

ゲイターを見ればすぐに締めるのをやめて互いに武器を構える。

 

『ヴィス、エレクトラ様たちがいる場所には近づけないよう、

 自分たちで誘導するぞ』

『いや、まてキート……やつらの様子がおかしい、

 こっちには気づいてないぞ?

 オレたちに向かってきたわけじゃないみたいだ』

 

二体の視線が向かう先、

三匹のゲイターが地面に倒れ伏しているワームの尾らしきものへと、

殴り掛かろうとしていた。

 

一匹は全身をドリルのような三角錐となって回転しながら。

もう二匹は、片方がハンマーのような形状となり、

もう片方が肥大化した三本の腕をもってハンマーを持ち、

それぞれがワームの尾らしき部分を攻撃していたのだった。

 

『やつらにとっては、この巨大ワームも破壊したいってのか。

 くっそ、さっきやられた痛みでスパークが疼く!』

『うめくなバカ。ただ、これでわかるのは奴らは共生関係ではない。

 もっとも、自分たちからすれば両方敵ではあるが……』

 

いまだに自分たちの船がなぜ、巨大ワームに襲われたかはわかっていない。

同胞たちはしきりに人類による攻撃だと言っているが、

219番地区の惨状を見てそれはないだろうと判断していた。

 

自分たちの住処をむざむざ破壊するような真似をするだろうかと。

その結果、ヤグルマ・ソーという被害者を生み出すことを。

 

だがその思考も、響き渡る破壊音に中断される。

ハンマーゲイターがワームの尾らしき部分を破壊したのだ。

そして散らばった尾の破片を、ゲイターたちは笑いながら拾い、

自らの口へと放り込んでいく。

 

『奴ら……巨大ワームを、食っているのか……?』

 

ワームの胴体の後ろへと隠れながら、ヴィニシスは怪訝そうに呟く。

いったいなんのために、という疑念とともに。

 

『わからん、わからんがそういう生態、なんだろう。

 ……ん、なんだ地響き? はっ!まずい離れるぞヴィス!』

『おい、いきなり引っ張るなキート、腕が外れるっ』

『いいから急げ!おそらくさっきので、目覚めた!』

 

言葉とともに二体の機生体が飛行ユニットからバーニアを噴かして、

巨大ワームから離れると同時にその巨体が暴れるかのように振動しだす。

その様子を見て、キートゥリノは咄嗟にエレクトラへ通信を飛ばす。

 

『エレクトラ様!ゲイターどもの攻撃で、ワームが目覚めたもようです!

 急ぎ彼らとともに離脱を!』

 

  ●  ●  ●

 

ワームの口と思わしき部分を、

もう一度見に行こうとしたところで、

奏は地震のような揺れをその身に感じる。

 

「……なんだ?」

 

足を止めて、周りを見渡そうとしているうちに、

ドクとエレクトラが慌てた様子で駆けてくるのが見えた。

 

「逃げる、逃げるよ矢車くん!ハリーハリー!」

『ワームが目覚めたわ!ゲイターの攻撃で!』

「げっ」

 

二人からの言葉に思わず表情を歪めて言ってしまう。

そして駆けてきた二人とともに奏も走り出す。

 

「まだ大した調査もできていないのに、ここで?」

「口惜しいのはわかるとも、けれど巨大ワーム相手が暴れたら、

 ぼくらでは成すすべがない!」

「動いただけで地震が起きてるからなあ」

『呑気なこと言ってないで急ぐ!ただ、死んでいたわけじゃない。

 それがわかっただけでも収穫よ』

「……でも、さ。ほら」

 

50mほど離れたところでちらりと振り返ると、

巨大ワームはその場でみじろぎしているだけであり、

暴れ回るような様子は見えなかった。

 

「あれ、やっぱりなんかおかしくない?

 俺が見たときと違って、まるで動こうとしてない」

『奏、いいからこっちに隠れなさい。

 ゲイターもまだいるのだから』

 

エレクトラに引っ張られて砕けたビルの影にかくれれば、

懐から双眼鏡を取り出したドクがワームを観察しだす。

 

「……尾らしき部分を動かして、ゲイターを叩こうとしているのかな。

 けれど、動きが遅いものだからまるで当たってないね」

 

ドクから双眼鏡を借りて奏が覗いてみれば、

ゆっくりとした尾の動きを嗤いながら避けるゲイターたち。

 

「口のあるほうに頭があるんだろうけど、

 ゲイターたちを視認してる様子もない。

 音波かなにかで位置を把握してるのかな」

『ドクトル、考察は後回し。まずはここからの離脱が優先よ』

「ごめんごめん、それじゃ矢車くん、離脱するよ。

 ……矢車くん?」

「聞こえた」

「えっ?」

 

双眼鏡をドクへと返しながら、奏は立ち上がる。

 

「聞こえたんだ、歌声が」

『……私のセンサーは何も感知していない』

 

その言葉に奏は首を振る。

 

「確かに聞こえた、あれはセツカの声だ」

「馬鹿言うんじゃない矢車くん、それは幻聴だ。

 ぼくにもそんなものは聞こえなかった」

「今も聞こえている」

 

奏の言葉を聞いて、ドクは顔を引き攣らせる。

 

「ワームのなかでセツカが歌ってるんだ。

 だったらゲイターどもを狩らないとセツカが危ない」

「いや待って、待ってくれ矢車くん!

 ワームに今近づくのは危険なんだって!」

『ソー!事前の打ち合わせを忘れたとは言わせないわ!

 巨大ワームが動くようであれば安全優先すると決めたはず』

 

はあ、と奏は息を吐き出す。

 

「でも、あっちにもいるよ。

 俺みたいに考えてるのが」

 

えっと声を出したドクとエレクトラに、

奏が指差した先に見えたのは空を横切る紅いラインだった。

 

  ●  ●  ●

 

『貴様らぁーーーーー!!!!!!!

 オレの妹(を飲み込んだワーム)に手を出すなぁー!!!』

 

高周波ブレードを構えて、空からゲイターへと突っ込む紅い機生体。

仲間が止めるのも聞かず、単身突っ込んでいったのだ。

 

突然の乱入者に対してゲイターたちの注意は引きつけられ、

ハンマーをもっていたゲイターはワームの尾に叩き飛ばされる。

 

ゆえに紅いラインを空に描くヴィニシスは、

三角錐の形状をしているゲイターへと高周波ブレードを構えて斬りかかった。

 

だが、ゲイターも簡単に斬られるつもりはないようで、

体から伸ばしたギザギザの触腕でブレードを受け止めたため、

互いが火花を散らしながら拮抗する形となる。

 

『ぐぅ……!くそ、力が入らない!』

 

動かすには問題なかったが、

ヴィニシスのボディには駆動系に異常が起こっていた。

そのためゲイターを押し切るための出力が足りない。

 

『き、貴様らなんぞに……!』

 

火花を散らすブレードが徐々に押し返されていく、

ヴィニシスを嘲笑うかのような声とともにだ。

 

その笑い声を断ち切るかのごとく、響く銃声。

 

ヴィニシスの眼前、ニタニタと笑っていた顔のひとつ、

その眉間と思わしきところに弾丸が突き刺さる。

続け様に連続する銃声とともに、いくつもの弾丸が叩き込まれ、

やがてゲイターの顔が砕かれて別の顔から痛みを伴う叫びがあがる。

 

そこへ声を掛けるのは、

 

「囮役、どうも」

 

アサルトライフルのマガジンを交換する奏だった。

 

  ●  ●  ●

 

『貴様の手助けなど求めてはいないッ』

「別にこっちも頼んでないよ。ちょうどよかっただけ」

 

淡々と答えながら奏は、ヴィニシスと斬り合うゲイターの横へと駆けていき、

無事なままの顔目掛けて銃撃を繰り返していく。

 

近くをのたうち回るかのように尾を振り回すワームがいるにも関わらず、

一人と一体はゲイターへとそれぞれ攻撃を仕掛けていく。

 

ヴィニシスがゲイターの振り回す触腕を受け止め、

時に切り掛かってはその注意を引きつけ、

その間に顔を特定した奏の銃撃が的確に叩き込まれていく。

互いに意識していないにも関わらず、その動きは連携が取れていた。

 

「いい仕事するじゃん」

『舐めたような言い方するな!』

 

必死にブレードを振るヴィニシスとは違い、

奏は冷静に動き回っては銃撃を重ねていく。

このままなら倒せるとお互いが思ったところで、

ワームの尾から逃れてきたもう一体のゲイターが乱入しようとする。

 

しかし、その動きを阻むように空から銃弾が降り注ぎ、

奏たちへと襲い掛かろうとした別のゲイターを足止めする。

 

『こぉんのシスコンバカがよぉ!!!!!

 一人で突っ込むなって散々散々、それはもう散々言ったはずだよな!?!?』

『もう二度とあんたに付き合わない、泣いて土下座しても付き合わない本気で』

 

叫ぶキートゥリノの横で、感情のない声で言うカラプラーシノス。

二体は銃器を構えて滞空しつつ、ワームの様子にも注意を払っている。

 

『ドクトルとエレクトラ様はすでにセーフティラインまで下がった!

 バカと君も早く退避してくれ!!』

「悪いんだけど」

『ゲイターどもを駆除するまで!』

「帰る気はないんだよね」

『なんでそこは息ぴったりなのよぉ』

 

嘆く緑の機生体に苦笑しながら、奏は二つ目の顔を銃撃で砕く。

おそらく残りは1か2だと思考しつつ、

球体をしているゲイターの全身をつぶさに観察する。

 

先ほど見た限りでは目や口が集合している部分は二箇所あった。

ゆえにそこを顔と見定めて銃撃をしたことで、

触腕の勢いは明らかににぶっていた。

 

だが見当たらない。

ほとんどの口は動きを止めており、目も白目を向いている。

それなのに触腕の動きだけは止まらないのだ。

 

『おい……!まだか、まだ倒せないのか!?

 こっちは、もう力が入らなくなるッ』

「さっきの威勢はどこにいったの。もっと粘って」

『簡単に言ってくれるな!?』

「それが仕事でしょ」

『くそったれ!』

 

ヴィニシスを軽快に煽りながらも視線はゲイターへ。

(嗤い声はどこから聞こえている?音が反響している?どこから?)

聞こえてくる笑い声はどこかくぐもったような音だ。

 

「まさか、ね」

 

アサルトライフルを背負い、

折りたたんでいたグレネードランチャーを触腕を避けつつ広げる。

硫酸弾はヴィニシスにも当たってしまうため使えない。

 

となれば使えるのは炸裂弾。

一発だけ持ってきたが一発しかない。

そのことに神経を尖らせつつ、グレランへと装填をして口を開く。

 

「合図したら爆破するから」

『いきなり爆破しようとするな!?』

「伝えたからね」

 

そう言って視線を再び球体のゲイターへ。

聞こえる嗤い声は球体の後方、

ついでに身体の震えは下部のほうから確認できる。

となれば、顔が”隠れている”場所はそこ。

 

「今!」

『それが合図か!?』

 

紅い機生体が触腕を受け止めるとともに、バーニアで下がったのを確認後、

奏は躊躇うことなく5m離れた位置にいるゲイターへと、

炸裂弾を叩き込んだ。

 

着弾と同時に周囲を爆風が駆け抜けていき、

奏は爆風の衝撃を逃すためにあえて後ろに跳んで転がる。

 

平らではないひび割れたアスファルトの上を転がったため、

体の各所に痛みが走るものの構わずに立ち上がり、

結果を確認しようとすれば煙の晴れたあとには笑い声の消えたゲイターの姿。

 

どろりと溶けた球体の奥に、半壊した顔が現れていた。

 

「やっぱり隠してたか、いやらしい」

『このやろう!もう少しで巻き込まれるところだったろうが!』

「当たらなかったからいいじゃん、それより早くトドメさして」

 

役目でしょと言わんばかりに指を向ければ、

紅いラインが加速してブレードをゲイターへと突き立てたのだった。

死んだことを示すようにゲイターの体色が変わり、重い音を立てて地面に転がる。

 

まず一匹、と息を吐こうとして──

 

『逃げろ!!!!』

 

の叫びとともに眼前が、ワームの尾でぬりつぶされた。

 

  ●  ●  ●

 

全身に強い衝撃を受けた、と思った瞬間には意識が飛んでいた。

気づいたらひび割れたアスファルトの上に寝転がっており、

グレネードランチャーは半ばから砕けていた。

 

「いっづづ……なにが、どうなった?」

 

ワームの尾に吹っ飛ばされたのはわかるが、

ほかの状況がどうなったのかわからない。

骨は折れていないようだが、それでも節々がひどく痛む。

 

こんな身体でもう一体のゲイターを相手にできるかと考えたところで、

視界に入ったものに視線を奪われ思わず駆け寄る。

 

「おい、おい、生きてるのか?おい」

『……生きて、いる。人類と、一緒にするな』

 

そこに転がっていたのは下半身を失ったヴィニシス。

腹あたりは引きちぎれたような跡があり、奏はまさかと気づく。

 

「俺をかばったのか。馬鹿だな」

『うる、さい……助ける気など、なかった。

 勝手に、動いたんだ』

「そう……じゃあ俺も勝手にするよ」

『なに?おい、何する気だ。おい!』

 

そう言って、ヴィニシスの上半身を担ぐように持ち上げる。

身体が痛むもののここは痩せ我慢だと堪えて、

腕に力を込めて支え持つ。

 

『くっそ……人類に助けられるなど、戦士の恥だ、恥でしかない』

「耳元でわめくのはやめてくれない?うるさいから」

 

そういえばあっちはどうなったと思い出して、

もう一体のゲイターを見れば、いまだ足止めされているようだった。

となれば襲われる可能性は低いだろう。

 

ワームの尾もいまだ動いてはいたが、

急いで離れれば先ほどのようなことは起きない、

とまで考えて足が止まる。

 

『おい……戻れ、あそこには、妹が、いるんだ』

「…………」

 

聞こえる言葉に、一瞬同意しかけてしまった。

あそこにはセツカがいる、歌声が聞こえる。

だが、と冷静に己を見つめる。

 

グレランは砕けてしまった。

アサルトライフルの弾もかなり使ったあと。

手榴弾などもさきほどワームの尾を喰らったさいに、

あちこちへと散らばってしまった。

 

肉体も全身に痛みがある。

幸い骨折こそしてないものの、時折鋭く痛むことがる。

思考のなかでもう一人の自分が言う、すぐに手当が必要だと。

 

加えて担いでいる機生体は下半身を失い、

まともに動けないでさえいる。

どう見ても足手纏いにしかならない。

 

奏は歯を強く食いしばる、今ここで意地を張って戻っても、

何もできることがないのだと。

 

「ダメだ、戻らない。

 俺もお前も、戻っても何もできない」

『それでも、それ、でもオレは……』

 

抗おうとするように震える腕を、

いまだに尾を振って地響きをたてるワームに伸ばすヴィニシス。

彼の未練を断ち切るかのように、奏は歩き出す。

 

「だから」

 

自らに言い聞かせるように、口を動かして。

 

「次だ。次は、取り返す」

 

両目にいまだ消えぬ火を灯したまま、

ドクたちが退避した方角へと目指して強く歩き出した。

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