灰色の空に中指をおっ立てて生きる   作:四葉マーク

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008 疲れた時は美味い飯と甘いものに限る

車に乗って拠点へと戻ってから、数時間後。

全員が集まったガレージでは──

 

「はい、ではお疲れ様でしたー」

「お疲れでしたー」

『お疲れ様』

 

音頭をとって労いの言葉を一番に出すドク。

続いて奏とエレクトラも声を出す。

残りの三体は状況に戸惑っている。

 

その三体を無視するかのように、

ドクがエレクトラに協力してもらって焼いたピザを、

奏はナイフで切り分けたあと遠慮なく一切れをいただく。

 

「なに、食べないのピザ?

 ああピザ知らないんだ、焼いた生地に色々のせたやつ」

『そもそもオレたちは食事はせん!

 というか雑すぎんか今の説明!?』

「えっ……? エレクトラさん、そうだったの?」

『ヴィニシスの言うとおりね。

 私たち機生体は人類のような手段で通常、栄養摂取はしないわ』

 

と言いつつもサブアームを伸ばして、

ピザの一切れを掴み、顎を開いて咀嚼しだすエレクトラ。

 

『もっとも食べれない、というわけではないし、

 太陽光を受けれない状況では経口摂取することもあるわ。

 彼らぐらい若い世代だと……経験がないのも珍しくはない』

「彼らの肌はある種、ソーラーパネルみたいなものらしくてね。

 太陽光を受けていれば普段は問題なく活動できるようだ」

 

紅茶を淹れたカップを二つもってきたドクが説明をつなぐ。

片方をエレクトラの前に置いて、紅茶を飲む。

 

「ああ……今日は久しぶりの贅沢デーだ……

 仕事を終えたあとの一杯は最高だね……」

「ドク、ドク。目が遠くを見て虚ろってるから」

「砂糖を普段の三倍は入れてるからさ……」

 

それはキマるなと思いつつ、

奏はペットボトルのサイダーを飲みながら、

さらに遠慮することなくピザをつまんでいく。

 

『エレクトラ様、そのう……自分たち、

 今のボディにはその機能がついてなくて』

『あら、それは残念だったわね。

 若い世代は効率重視だと聞いていたけれども、

 戦場というものを知らないからかしら』

『いえ、あたしたちはこのバカに付き合うため、

 飛行運用しやすい軽量型のボディを選んだからです』

 

キートゥリノの言葉を補足するように、

カラプラーシノスが言葉を足した。

 

『なのでエレクトラ様みたいに食事ができないんですけど、

 うぅ……なんていうか見てるだけなのは、あたし辛いなこれ』

『私も最初は食事なんてものは不要だと考えていたわ。

 でもこの星に来てから、その考え方も変わった。

 機会があれば食事してみることをお勧めしておくわよ』

『そんな見せつけるように食べないでくださいよぉ〜〜

 エレクトラ様ぁ〜〜〜〜』

『ふふふ、ごめんなさいね。少し楽しくなっちゃった』

 

普段は見ない言動をするエレクトラに、

奏はドクとともに注視しつつ、ドクの肩をつつく。

話を進めなくていいのかと。

 

わかってるよと言わんばかりに苦笑を浮かべて、

座っていたキャンプ用のパイプ椅子から立ち上がり、

皆を見回しながらドクは口を開く。

 

「さて、今回の調査任務のお疲れ様会を兼ねて、

 そのままデブリーフィングもやろうと思う、いいかな」

 

その言葉に口を挟むものは誰もいなかった。

 

「よし、それじゃあ始めていこう。

 ああ、ピザは食べてていいからね、

 そっちの三体も肩に力入れないでいいから、ね、ね」

 

ヴィニシスが上半身だけの姿でやたら気合いを入れ始めたから、

余計な言葉がドクの口から出ていた。バカは二体に罵倒された。

それからガレージ内にあったホワイトボードを引っ張ってくると。

 

「さて……ではまず初めに被害および消耗の共有だ。

 僕とエレクトラは怪我なし、消耗なし。

 次にカラプラーシノスくんとキートゥリノさん、

 こちらの二体はゲイターとの交戦により軽傷、

 銃弾のほうは弾薬の消耗が激しく、補充も難しい」

 

ドクは黒いペンを取り出してボードに状況を書き出していく。

被害と消耗部分については赤いペンで書き分けてもいる。

 

「そして矢車くんとヴィニシスくん。

 矢車くんは全身打撲で骨折とはいかないまでも、

 あちこちの骨にヒビが入ってる可能性がある。

 携行していたグレネードランチャーは粉砕された」

「身代わりになったとも言う」

「笑えないからやめて」

 

医師として真顔になるドク。

 

「続けてヴィニシスくんの方は、

 下半身を失っているが、幸いにも高周波ブレードは失っていない」

「こいつずっと離さないで持ってたからね」

『これ以外の武器がないのだから当然だろう』

『このバカ、銃器使うのど下手くそなんだ』

『余計なことを言うなキートォ!!!!』

 

賑やかな言い合いに、苦笑を浮かべつつ続けるドク。

 

「カラプラーシノスくんとキートゥリノさんの傷は、

 自動修復で完治するため問題はない。

 矢車くんについては経過観察する必要があるから、

 三日は安静にしていること、トレーニングもだめ」

「はーい」

「そしてヴィニシスくんの下半身については、

 エレクトラのほうで用意するという予定だ」

『ええ、私のもっている予備のボディなら、

 失った下半身の代わりにはできそうよ。

 ただ、調整が必要だから一週間は必要ね』

 

エレクトラからの言葉に頷いて返すドク。

同じくその言葉を聞いて奏は口を開く。

 

「となると、もっかい行くのは一週間後?」

「そういうことになるね、不満かい?」

「まあ……でも怪我してるししょうがないね」

 

俺もこいつもと視線だけ、ヴィニシスに向けて言う奏。

 

『ふん……だれのせいでこうなったと思ってる』

「頼んでないんだけど?勝手にやったんでしょ」

『それは、そうだが……!』

「はいはい、話を進めるよ」

 

すーぐ口喧嘩するだからこの二人はと思いつつ、

ドクはボードに文字を記していく。

 

「さっきの消耗状況のなかでひとつだけ問題があった。

 二体の弾薬についてだ。ぼくらのとは規格が違うから、

 流用はもちろんできないし彼らは手持ち分しか持ってきてない」

『船から持ち出せたのはこれだけなので……』

『あたしたち急いでたからね。あのバカを独房から連れ出して、

 そのままボディ換装してから飛び立ったわけだし』

『事前に準備してたわけじゃないからな。

 たまたま警備が手薄になったのがあの瞬間だった』

 

キートとカーラは遠い目をして言うのだった。

ふむ、とつぶやいてドクは奏を見る。

 

「となると二体には、僕らの銃器を使ってもらったほうが、

 弾切れの心配もなくなるのだけどいいかな、矢車くん」

「問題ないよ、弾薬の余裕はあるし明後日は軍から支援が届く」

「うん、では僕らからバックアップするので、

 弾薬問題も解決だね。ただ人類の銃器に慣れてもらう必要はある。

 なのでこちらも同じく一週間としよう」

『了解した、ドクトル』

『代わりがあるのはありがたいわね』

 

キュッキュと音をたててボードに文字が足される。

書いてる横からエレクトラのサブアームで、

ドクにピザがお届けされた。

 

『ドクトルも食べておいたほうがいいわ。

 でないとソーが食べ切ってしまうわ』

「そこまで食い意地はってないから。

 でも二枚目は焼いてほしい」

「あははは、二枚目ね。わかったわかった」

 

切り分けた12ピースの半分がすでに無くなっていた。

若いなあと思いつつドクがピザを噛めば、

口のなかには濃厚なチーズとサラミなどの味が広がる。

 

この歳だと何枚も食べるのはきついなと思いつつ、

「次の議題に移ろうか」とドクは言う。

 

「さて……巨大ワーム、およびゲイターたちと接敵したわけだけども、

 うんまずは君たちのほうから意見を聞こうか。

 何を感じて、何を思ったのかを素直に言ってほしい」

 

言葉とともにドクは三体の機生体へと視線を向けた。

おそらく彼らは今回が初めての遭遇だったはず、

となると違った意見が得られるかもしれないと考えて、

ドクは彼らに水を向けた。

 

しばし沈黙して思考する時間が、ガレージ内部に流れる。

彼らが話し始めるのを待つように、

ゆっくりとカップを傾けて紅茶を口にドクは含む。

 

甘い、ひたすらに甘い紅茶であったが、

疲れた体にはとてもとてもよく効く。

あと二杯は砂糖を入れてもよかったかなと考えてると、

悩んだ様子で紅い機生体が腕を伸ばす。

 

『ドクトルT、オレからでいいだろうか』

「もちろん、何から話してくれるかな」

『……そもそも、ゲイターと呼ばれるあいつらは何だ?

 なぜああも襲いかかってくるのかわからん』

「そこについては”そういう生態だから”としか説明ができないね。

 なにせ人類側でもゲイターについてわかってることは少ない」

「見た目が気持ち悪い。常に嗤ってる。廃墟に住み着く。

 空間を割って現れるSF生物、内部にコアがある、見た目が変幻自在以上」

「情報の補足をありがと矢車くん。でも端的に羅列しすぎかなあ」

 

いくつか解らない単語があったらしく、

ヴィニシスは首を傾けている。

 

『なんだその特徴は……そもそも生物、なのか?』

「そこについても何とも言えない、なにせ情報が少ないからね。

 それで、今回の接敵で君はどう思った」

『奴らは……巨大ワームを標的としていた、

 そして巨大ワームから剥離した破片を食べていたのを見た』

「へえ、ゲイターがワームを攻撃していたのは見たけど、

 まさか破片を食べていたとは……食べたあとに変化はあったかい」

 

ドクがジャケットの懐を探れば、

その手に巨大ワームの破片があった。

あの場に落ちていたものを回収したものだ。

 

『いや、食べたあとでも変化はなかったはず。

 お前も見ていたはずだ、他に気づくことはあったか?』

「ないね、いつも通り嗤ってたし、すぐ襲いかかってきた」

『となると単なる食事であったぐらいか。

 ドクトルその破片は何でできてるんだ』

 

ヴィニシスが頭部を動かして奏を見れば、

応じるように答えが返る。

そして続け様の質問には。

 

「簡単な調査でわかったのは非常に密度の高い鉱石かな。

 地上ではまず生成されない密度なのは確かだよ」

 

破片に含まれる鉱石の種類がボードに記されていく。

かんらん石や輝石、ざくろ石などの名前があった。

 

「どれもマントル付近にあるとされる鉱物。

 となるとあの巨大ワームはおそらくマントル付近に生息している、

 あの巨体と密度の高い破片は、その環境に適応するためだろう」

「あそこまででかくなる必要あるのかな。

 どう考えても邪魔だと思うけど」

「大きくなる理由はわからないけど、大きくなる必要はあったのかもね。

 マントル付近の環境がどうなってるかは、実際よくわかっていない。

 なにせ人類はそこまで潜れていないから」

 

ただ、とつなぐ。

 

「これまで微生物をのぞいて生物はいないとされていたけれども、

 巨大ワームの出現によってそれが覆ったのは確かだね。

 おかげで生物学会はてんやわんやだそうだ」

「学校でも生物の先生がすごい早口になってた覚えがある。

 教科書が変わるぞって嬉しそうに」

「ははは。それはまだ先の話だと思うけど……」

 

ドクが苦笑する傍ら、

エレクトラが地球の環境などを三体に教えていた。

その様子を横目にしながら奏は手を挙げる。

 

「ごめんドク、ちょっと話それちゃうんだけど。

 エレクトラさんたちがいた星ってどんなんだったか聞いていい?」

「あー……それならエレクトラ、代わりに説明してもらっていいかい」

『もちろんよ、ドクトル。

 この場においてもっとも適任なのは私だろうから』

 

指名された機生体ことエレクトラは、

三体にしていた説明を終えたあと軽やかな声で応え、

四足できびきびと歩いて立っているドクの隣に座る。

 

『さて、私たちの星は……様々な呼び方をされていた。

 そのなかで代表的なものを挙げると”ハハナルギョクガン”ね』

「ハハナルギョクガン、ニュースで聞いたことある」

『導師たちの間ではそう言い習わすようにしていて、

 若い世代は”ハガン”と略すものも多かったわ』

「へーそうなんだ、日本人みたいだね」

「そこは僕も同じ感想だったよ」

 

一言述べて、パイプ椅子へと座ってドクは紅茶を飲みだす。

 

『実際にどんな星であったかと言うと、

 砂の海と岩場、そしてマグマの河が流れ、

 鉱物生命が生息する環境だった』

 

そう告げたあと、エレクトラは頭部ユニットからモニターアイを露出させ、

風景映像を皆に見えるよう投影する。

 

『ああ、オレたちの故郷だ……懐かしき”ハガン”……』

 

ヴィニシスの言葉に、残り二体も頷いて映像を見ていた。

 

「鉱物生命ってピンとこないけど、どうやって産まれたの?」

『その辺は諸説あるのだけれども、もっとも有力な説を出すと、

 私たち鉱物生命は原初のマグマに、

 雷かなにかよる強い刺激が落ちたことによって、

 誕生したと言われているわ』

 

ドクから黒いペンを借りて、

エレクトラはサブアームで図を描いていく。

 

『鉱物生命はそのときマグマのなかで産まれ、

 マグマのなかで育ち、やがてマグマから地上に上がった』

「マグマって冷えて固まらないっけ」

『地球のマグマと違って、”ハガン”のマグマはそうではなかった。

 そもそも惑星の温度が高く、マグマが冷えにくかったのも理由ね』

「え、じゃあ人類が”ハガン”に行ったら、焼けちゃうのかな?

 そこらへんにマグマが流れてるんだから」

『そうね、”ハガン”では100度を超えた地域も珍しくなかった。

 だから地球は……私たちにとっては寒すぎる星と言える』

 

へーとなっている奏の横、ドクはうんうんと頷いている。

以前、エレクトラから星の話を聞いていたからだ。

 

『そして先ほどもヴィニシスが言っていたように、

 私たちは基本的に食事が不要な生命だった。

 その代わり、熱を食べていたと言えばいいかしら』

 

ボードに絵が足される、日向ぼっこをしている犬だ。

 

『日光、あるいはマグマの湯などに浸かって熱を摂り、

 自らの活動力としていた。これは”ハガン”で生きる、

 ほとんどの生命に共通していたこと』

『あたしたちは砂風呂に入ることが多かったね。

 マグマの湯は導師様とかお偉いさんに限られてたから』

『……その点については、何度も解放すべきと唱えたけど、

 頑なに聞きいられなかったわ。スパークの硬い導師ばかりで困ったものよ』

 

話がそれたと気づいて、わざとらしく咳払いをするエレクトラ。

 

『ついでに説明しておくと、スパークというのは私たちに宿る”光”』

「ヒカリ……って照明とかの光で合ってる?」

『ええ、ソーが言うもので合ってるわ。

 ただ、”ハガン”で産まれた鉱物生命は例外なくスパークを宿し、

 スパークの輝きが失せたとき死が訪れる』

 

投影されていた風景映像が切り替わり、

そこには倒れ伏した機生体が映っている。

仲間たちの手によってボディが解体されていき、

やがて頭部のなかより六角柱をした水晶岩が現れた。

 

「あれにスパークが……」

『人類にとっては脳に当たるものかしら。

 人類と異なるのは、スパークを宿す”心岩”を取り出されただけでは、

 私たちは死んだりはしない』

 

映像が切り替わる。

そこには拡大されて映る”心岩”であり、

全体へとヒビが入ってしまい今にも砕けそうだった。

 

『スパークの輝きが失われ、あのように”心岩”が崩壊したとき、

 私たちは終わりを迎えるの』

「……機生体ってさ、どれぐらい生きてるものなの?

 なんとなく長生きしそうな気がするけど」

『個体差はあるけれども、おおよそ2〜300年ほどかしら。

 ただし私たちの星での環境あってのものだから、

 地球ではまた変わってくる恐れはあるわ』

「そう、地球は寒いから、

 活動に必要な熱が足りないかもしれないんだ」

『ドクトル、適切なフォローに感謝するわ。

 ひとまず、簡単なところだけ説明するならばここまでね』

「うん、ありがとう。エレクトラさん。

 ドクもありがと、そんじゃ続きどうぞ」

 

そう言って、奏はヴィニシスに振る。

 

『そうか、通りであまり調子が出ないとは思っていたが、

 この星はそんな寒かったのか……このボディだと気づきにくかったな』

『飛行用のボディは耐寒仕様になっていたからな、

 地球はそれ以上に寒かったから影響がでかかったんだろ』

 

キートに頷いてみせたあと、ヴィニシスは再びドクを見る。

 

『話を戻すと、ゲイターどもは巨大ワームの破片を食っていた。

 そういう生態だと考えると、あいつらは同じところから来たとオレは思う』

「ふむ……ゲイターってのは軍が付けた呼び方だけども、

 マントル付近にはあんなのが跋扈してるということか……嫌だね!」

「ドク、突然の現実逃避はやめよう」

「まあ、冗談は置いといて。その説は当たってると思うよ。

 なにしろゲイターはこれまで人類と遭遇していないのだから」

 

あまりにも化け物めいた見た目と生態。

地上に存在したならば話題にならないのがおかしいからだ。

しかしゲイターについては情報が少ない。

 

「そういえばエレクトラ、コアの解析で何かわかった?」

『解らないことが増えた、とでも言いましょうか』

「その言い方だと、芳しくはないようだね……」

『そうね、ソーが持ち帰ったコアを機器に掛けて、

 色々と調べてはみたけれども”何かしらの信号を送受信してる”とわかったわ』

『エレクトラ様、その信号というのは……?』

 

キートが思わず質問してしまう。

 

『それが不明なの。光か音か電波か、

 いずれにも該当しない信号……らしきもの。

 私たちの技術でも解析できない未知の信号と呼ぶしかないわ』

『オレたちとは違う方法で、ゲイターどもは通信でもしてるんでしょうか』

『そうとも言えるし、そうではないかもしれない。

 いずれにせよコア一つだけではまだ手掛かりは少ないということ』

「ハントノルマが増えたなあ……」

『壊れていないゲイターのコア、たくさん期待してるわソー』

「はーい」

 

やる気のない声に、皆が小さく笑うなか、

キートは考え込むように顎へ手をあてている。

その様子をカーラが問う。

 

『どうしたのよ、そんな考え込んで』

『あーいや、そのな。ゲイターたちってずっと嗤ってるけど、

 あれはもしかしたら会話していたのかって』

『あの気持ち悪い嗤いが?それはそれで嫌な会話手段ね……』

 

可能性はありそうだなと、ドクたちも思わず渋い顔になる。

 

『あと自分が気になったのは、あの巨大ワーム。

 結局どうして動かなかったのかという点です、ドク』

「どちらかと言えば、動こうとしていなかったようにも見えるね。

 ゲイターたちが襲ってきたときは、尾らしきものを振っていたし」

『二度と喰らいたくない尾だった……』

『むしろよく生きていたなお前……自分は死んだと思ってた』

『……運が良かっただけだろうな。

 あの尾は狙いも荒く、ただ振っていただけに見えたし。

 たまたま下半身へと衝撃が集中した』

 

結果、こうなったわけだがと言いながら、

ヴィニシスは地面に頬杖をする。

視線は残り少なくなったピザに向いていた。

食べたいのかなと奏は思ったが、何も言わないでもう一枚食べた。

 

『あたしは、あの時言わなかったことがひとつある』

 

話題が巨大ワームへと移ったところで、

緑色のラインをボディに光らせるカーラが口を開く。

 

『あの子の、セニアのマーカーをずっとセンサーで追って、

 その在処が巨大ワームのなかだとわかって……』

「わかって?」

 

ドクが続きを促す。

 

『よりセンサーの感度を上げてみたんです。

 あたしは、氏族のなかでは感知術に長けていたので』

 

皆の視線が集まる。

 

『わかったことは……セニアのスパークは、まだ生きてる』

『…………どうして、あの場で言わなかった』

『あたしが信じられなかったからじゃダメ?

 正直、10ヶ月も前に巨大ワームに飲み込まれて、

 それで生きてるなんて信じられる?』

『言いたいことはわかる、わかるが大事なことだろ!』

『おいぃ、大声出すなバカ。それでカーラ、今言うってことは、

 確証がもててるんだよな?』

 

キートの言葉に、カーラは頷く。

 

『ここへ来てからエレクトラ様に相談して、

 あたしのなかにあるデータを診てもらったの。

 勘違いや誤動作じゃないかを』

『……にわかには信じ難いことではあるけれども、

 私も保証するわ、あの巨大ワームのなかで生きてる機生体がいる』

『おぉ……おおお、原初の岩よ……今、今あなたに感謝を!』

 

ヴィニシスが大仰に天井へと叫ぶのを、

奏は冷ややかな横目で見る。

 

「ドク、あれなに?」

「たぶん、彼らの信仰とかじゃないかな、たぶん」

「あー神様に祈ってる的な?」

「そうそう、彼らにも地球と違う文化があるわけだ」

「ふーん、まあ……良かったんじゃないの」

 

機生体にだけ言及するということは、

そういうことなんだろうなと奏は内心で落胆する。

わかっていたことだ、食事の不要な機生体と違って、

人間は食事をしていないと生きられない。

仮に巨大ワームのなかでセツカが無事であっても、生きてられない。

 

そのことを察したのか、

ドクの手が肩に添えられた。

平気だよ、とつぶやいて返す。

痛む胸を無視して。

 

「となると……どうしてセニアくんが生きているのかだ」

 

奏を心配に思いつつも、ドクは話を進める。

心当たりはあるのかと紅い機生体を見る。

大仰なポーズをやめて、ヴィニシスは握っていたブレードを見た。

 

『……偵察任務へと出ていく前に、

 オレはセニアへ渡したものがある』

『それって、あのお守りだっけ。あたしも持ってるけど』

「エレクトラ、彼の言うお守りって?」

『一族の繁栄と守護を願った、石造りのペンダントみたいなものね。

 私たちの種族ではよく身に付けられているもの』

 

エレクトラの言葉に頷くヴィニシス。

 

『オレの家には、一族に代々受け継がれてるお守りがあって、

 それをセニアへと渡していたんです』

『え、もしかしてお前、そのお守りがあの子を守ってるとか、

 本気で思って言ってるのか?』

『思うしかないだろうがキート!こんな状況では!

 ほかに思い当たるようなものはないし、セニアが、

 あんな優しい子が巨大ワームのなかで生きられるはずがない!』

「えーその辺は置いといて、だ。

 そのお守りには、なにか特別な効果とかあったのかな」

 

そうドクから問いかけられると、

ヴィニシスはうなだれるように首を横に振る。

 

『いや……そんな話は聞いたことがないし、

 オレも気休めのつもりで渡しただけで……』

「ということは君でもわからない何かが起きてるわけだ」

『そういうことに、なる』

「今の会話、意味あった?」

「矢車くぅん!わかってても言わないで!」

 

思わず上半身だけで暴れようとするヴィニシスを、

キートたちが押さえつけながら話は進む。

 

「なぜか巨大ワームのなかで生きてる機生体がいて、

 どうしてか動かない巨大ワームがいる。ドク、これってどういうこと?」

「うーん……僕は人間の医者だから、

 あくまでも人間をもとにして言えないのだけれども」

 

パイプ椅子から立ち上がってホワイトボードに近づき、

ボードを裏返してまっさらな板にドクは書き出す。

それは長い巨大ワームの途中で、丸く描かれた機生体の位置。

 

「こうやって図にするとなんとなくわかると思うけど、

 おそらく巨大ワームは……理由不明で生きてる機生体が、

 お腹に詰まっているのだと考えられる」

『消化不良でも起こしているのかしら』

「もしくは消化できないのかもしれないね」

 

エレクトラの言葉に頷いて続ける。

 

「そのせいで栄養、ないし活動エネルギーが摂取できず、

 巨大ワームが動けなくなった。

 あるいは動かないでいると、予想はできる」

「巨大ワームも生き物なんだなって今実感したよ」

 

そうかぁ、消化不良なんだと奏は思わず小さく笑った。

 

「すごいな、お前の妹。

 巨大ワームに食あたり起こさせてる」

『それは褒めてるのか貶しているのかどっちだ!?

 喧嘩なら買うぞ!?上半身だけでもオレはやれるぞ!』

「売らないよ、あと褒めてるつもり、一応は」

『一応とはなんだ一応とは!』

『いいからじっとしてろバカ!』

 

再び押さえ込まれるバカを見つつ、

奏はボードの前にたつドクを見た。

 

「じゃあ、次の作戦は巨大ワームの治療?」

「治療というか、消化不良を治すには、

 古来からわかりやすいやりかたがあるよ」

 

それは。

 

「思いっきり強くどついて、

 吐き出してもらうのさ」

 

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