車に乗って拠点へと戻ってから、数時間後。
全員が集まったガレージでは──
「はい、ではお疲れ様でしたー」
「お疲れでしたー」
『お疲れ様』
音頭をとって労いの言葉を一番に出すドク。
続いて奏とエレクトラも声を出す。
残りの三体は状況に戸惑っている。
その三体を無視するかのように、
ドクがエレクトラに協力してもらって焼いたピザを、
奏はナイフで切り分けたあと遠慮なく一切れをいただく。
「なに、食べないのピザ?
ああピザ知らないんだ、焼いた生地に色々のせたやつ」
『そもそもオレたちは食事はせん!
というか雑すぎんか今の説明!?』
「えっ……? エレクトラさん、そうだったの?」
『ヴィニシスの言うとおりね。
私たち機生体は人類のような手段で通常、栄養摂取はしないわ』
と言いつつもサブアームを伸ばして、
ピザの一切れを掴み、顎を開いて咀嚼しだすエレクトラ。
『もっとも食べれない、というわけではないし、
太陽光を受けれない状況では経口摂取することもあるわ。
彼らぐらい若い世代だと……経験がないのも珍しくはない』
「彼らの肌はある種、ソーラーパネルみたいなものらしくてね。
太陽光を受けていれば普段は問題なく活動できるようだ」
紅茶を淹れたカップを二つもってきたドクが説明をつなぐ。
片方をエレクトラの前に置いて、紅茶を飲む。
「ああ……今日は久しぶりの贅沢デーだ……
仕事を終えたあとの一杯は最高だね……」
「ドク、ドク。目が遠くを見て虚ろってるから」
「砂糖を普段の三倍は入れてるからさ……」
それはキマるなと思いつつ、
奏はペットボトルのサイダーを飲みながら、
さらに遠慮することなくピザをつまんでいく。
『エレクトラ様、そのう……自分たち、
今のボディにはその機能がついてなくて』
『あら、それは残念だったわね。
若い世代は効率重視だと聞いていたけれども、
戦場というものを知らないからかしら』
『いえ、あたしたちはこのバカに付き合うため、
飛行運用しやすい軽量型のボディを選んだからです』
キートゥリノの言葉を補足するように、
カラプラーシノスが言葉を足した。
『なのでエレクトラ様みたいに食事ができないんですけど、
うぅ……なんていうか見てるだけなのは、あたし辛いなこれ』
『私も最初は食事なんてものは不要だと考えていたわ。
でもこの星に来てから、その考え方も変わった。
機会があれば食事してみることをお勧めしておくわよ』
『そんな見せつけるように食べないでくださいよぉ〜〜
エレクトラ様ぁ〜〜〜〜』
『ふふふ、ごめんなさいね。少し楽しくなっちゃった』
普段は見ない言動をするエレクトラに、
奏はドクとともに注視しつつ、ドクの肩をつつく。
話を進めなくていいのかと。
わかってるよと言わんばかりに苦笑を浮かべて、
座っていたキャンプ用のパイプ椅子から立ち上がり、
皆を見回しながらドクは口を開く。
「さて、今回の調査任務のお疲れ様会を兼ねて、
そのままデブリーフィングもやろうと思う、いいかな」
その言葉に口を挟むものは誰もいなかった。
「よし、それじゃあ始めていこう。
ああ、ピザは食べてていいからね、
そっちの三体も肩に力入れないでいいから、ね、ね」
ヴィニシスが上半身だけの姿でやたら気合いを入れ始めたから、
余計な言葉がドクの口から出ていた。バカは二体に罵倒された。
それからガレージ内にあったホワイトボードを引っ張ってくると。
「さて……ではまず初めに被害および消耗の共有だ。
僕とエレクトラは怪我なし、消耗なし。
次にカラプラーシノスくんとキートゥリノさん、
こちらの二体はゲイターとの交戦により軽傷、
銃弾のほうは弾薬の消耗が激しく、補充も難しい」
ドクは黒いペンを取り出してボードに状況を書き出していく。
被害と消耗部分については赤いペンで書き分けてもいる。
「そして矢車くんとヴィニシスくん。
矢車くんは全身打撲で骨折とはいかないまでも、
あちこちの骨にヒビが入ってる可能性がある。
携行していたグレネードランチャーは粉砕された」
「身代わりになったとも言う」
「笑えないからやめて」
医師として真顔になるドク。
「続けてヴィニシスくんの方は、
下半身を失っているが、幸いにも高周波ブレードは失っていない」
「こいつずっと離さないで持ってたからね」
『これ以外の武器がないのだから当然だろう』
『このバカ、銃器使うのど下手くそなんだ』
『余計なことを言うなキートォ!!!!』
賑やかな言い合いに、苦笑を浮かべつつ続けるドク。
「カラプラーシノスくんとキートゥリノさんの傷は、
自動修復で完治するため問題はない。
矢車くんについては経過観察する必要があるから、
三日は安静にしていること、トレーニングもだめ」
「はーい」
「そしてヴィニシスくんの下半身については、
エレクトラのほうで用意するという予定だ」
『ええ、私のもっている予備のボディなら、
失った下半身の代わりにはできそうよ。
ただ、調整が必要だから一週間は必要ね』
エレクトラからの言葉に頷いて返すドク。
同じくその言葉を聞いて奏は口を開く。
「となると、もっかい行くのは一週間後?」
「そういうことになるね、不満かい?」
「まあ……でも怪我してるししょうがないね」
俺もこいつもと視線だけ、ヴィニシスに向けて言う奏。
『ふん……だれのせいでこうなったと思ってる』
「頼んでないんだけど?勝手にやったんでしょ」
『それは、そうだが……!』
「はいはい、話を進めるよ」
すーぐ口喧嘩するだからこの二人はと思いつつ、
ドクはボードに文字を記していく。
「さっきの消耗状況のなかでひとつだけ問題があった。
二体の弾薬についてだ。ぼくらのとは規格が違うから、
流用はもちろんできないし彼らは手持ち分しか持ってきてない」
『船から持ち出せたのはこれだけなので……』
『あたしたち急いでたからね。あのバカを独房から連れ出して、
そのままボディ換装してから飛び立ったわけだし』
『事前に準備してたわけじゃないからな。
たまたま警備が手薄になったのがあの瞬間だった』
キートとカーラは遠い目をして言うのだった。
ふむ、とつぶやいてドクは奏を見る。
「となると二体には、僕らの銃器を使ってもらったほうが、
弾切れの心配もなくなるのだけどいいかな、矢車くん」
「問題ないよ、弾薬の余裕はあるし明後日は軍から支援が届く」
「うん、では僕らからバックアップするので、
弾薬問題も解決だね。ただ人類の銃器に慣れてもらう必要はある。
なのでこちらも同じく一週間としよう」
『了解した、ドクトル』
『代わりがあるのはありがたいわね』
キュッキュと音をたててボードに文字が足される。
書いてる横からエレクトラのサブアームで、
ドクにピザがお届けされた。
『ドクトルも食べておいたほうがいいわ。
でないとソーが食べ切ってしまうわ』
「そこまで食い意地はってないから。
でも二枚目は焼いてほしい」
「あははは、二枚目ね。わかったわかった」
切り分けた12ピースの半分がすでに無くなっていた。
若いなあと思いつつドクがピザを噛めば、
口のなかには濃厚なチーズとサラミなどの味が広がる。
この歳だと何枚も食べるのはきついなと思いつつ、
「次の議題に移ろうか」とドクは言う。
「さて……巨大ワーム、およびゲイターたちと接敵したわけだけども、
うんまずは君たちのほうから意見を聞こうか。
何を感じて、何を思ったのかを素直に言ってほしい」
言葉とともにドクは三体の機生体へと視線を向けた。
おそらく彼らは今回が初めての遭遇だったはず、
となると違った意見が得られるかもしれないと考えて、
ドクは彼らに水を向けた。
しばし沈黙して思考する時間が、ガレージ内部に流れる。
彼らが話し始めるのを待つように、
ゆっくりとカップを傾けて紅茶を口にドクは含む。
甘い、ひたすらに甘い紅茶であったが、
疲れた体にはとてもとてもよく効く。
あと二杯は砂糖を入れてもよかったかなと考えてると、
悩んだ様子で紅い機生体が腕を伸ばす。
『ドクトルT、オレからでいいだろうか』
「もちろん、何から話してくれるかな」
『……そもそも、ゲイターと呼ばれるあいつらは何だ?
なぜああも襲いかかってくるのかわからん』
「そこについては”そういう生態だから”としか説明ができないね。
なにせ人類側でもゲイターについてわかってることは少ない」
「見た目が気持ち悪い。常に嗤ってる。廃墟に住み着く。
空間を割って現れるSF生物、内部にコアがある、見た目が変幻自在以上」
「情報の補足をありがと矢車くん。でも端的に羅列しすぎかなあ」
いくつか解らない単語があったらしく、
ヴィニシスは首を傾けている。
『なんだその特徴は……そもそも生物、なのか?』
「そこについても何とも言えない、なにせ情報が少ないからね。
それで、今回の接敵で君はどう思った」
『奴らは……巨大ワームを標的としていた、
そして巨大ワームから剥離した破片を食べていたのを見た』
「へえ、ゲイターがワームを攻撃していたのは見たけど、
まさか破片を食べていたとは……食べたあとに変化はあったかい」
ドクがジャケットの懐を探れば、
その手に巨大ワームの破片があった。
あの場に落ちていたものを回収したものだ。
『いや、食べたあとでも変化はなかったはず。
お前も見ていたはずだ、他に気づくことはあったか?』
「ないね、いつも通り嗤ってたし、すぐ襲いかかってきた」
『となると単なる食事であったぐらいか。
ドクトルその破片は何でできてるんだ』
ヴィニシスが頭部を動かして奏を見れば、
応じるように答えが返る。
そして続け様の質問には。
「簡単な調査でわかったのは非常に密度の高い鉱石かな。
地上ではまず生成されない密度なのは確かだよ」
破片に含まれる鉱石の種類がボードに記されていく。
かんらん石や輝石、ざくろ石などの名前があった。
「どれもマントル付近にあるとされる鉱物。
となるとあの巨大ワームはおそらくマントル付近に生息している、
あの巨体と密度の高い破片は、その環境に適応するためだろう」
「あそこまででかくなる必要あるのかな。
どう考えても邪魔だと思うけど」
「大きくなる理由はわからないけど、大きくなる必要はあったのかもね。
マントル付近の環境がどうなってるかは、実際よくわかっていない。
なにせ人類はそこまで潜れていないから」
ただ、とつなぐ。
「これまで微生物をのぞいて生物はいないとされていたけれども、
巨大ワームの出現によってそれが覆ったのは確かだね。
おかげで生物学会はてんやわんやだそうだ」
「学校でも生物の先生がすごい早口になってた覚えがある。
教科書が変わるぞって嬉しそうに」
「ははは。それはまだ先の話だと思うけど……」
ドクが苦笑する傍ら、
エレクトラが地球の環境などを三体に教えていた。
その様子を横目にしながら奏は手を挙げる。
「ごめんドク、ちょっと話それちゃうんだけど。
エレクトラさんたちがいた星ってどんなんだったか聞いていい?」
「あー……それならエレクトラ、代わりに説明してもらっていいかい」
『もちろんよ、ドクトル。
この場においてもっとも適任なのは私だろうから』
指名された機生体ことエレクトラは、
三体にしていた説明を終えたあと軽やかな声で応え、
四足できびきびと歩いて立っているドクの隣に座る。
『さて、私たちの星は……様々な呼び方をされていた。
そのなかで代表的なものを挙げると”ハハナルギョクガン”ね』
「ハハナルギョクガン、ニュースで聞いたことある」
『導師たちの間ではそう言い習わすようにしていて、
若い世代は”ハガン”と略すものも多かったわ』
「へーそうなんだ、日本人みたいだね」
「そこは僕も同じ感想だったよ」
一言述べて、パイプ椅子へと座ってドクは紅茶を飲みだす。
『実際にどんな星であったかと言うと、
砂の海と岩場、そしてマグマの河が流れ、
鉱物生命が生息する環境だった』
そう告げたあと、エレクトラは頭部ユニットからモニターアイを露出させ、
風景映像を皆に見えるよう投影する。
『ああ、オレたちの故郷だ……懐かしき”ハガン”……』
ヴィニシスの言葉に、残り二体も頷いて映像を見ていた。
「鉱物生命ってピンとこないけど、どうやって産まれたの?」
『その辺は諸説あるのだけれども、もっとも有力な説を出すと、
私たち鉱物生命は原初のマグマに、
雷かなにかよる強い刺激が落ちたことによって、
誕生したと言われているわ』
ドクから黒いペンを借りて、
エレクトラはサブアームで図を描いていく。
『鉱物生命はそのときマグマのなかで産まれ、
マグマのなかで育ち、やがてマグマから地上に上がった』
「マグマって冷えて固まらないっけ」
『地球のマグマと違って、”ハガン”のマグマはそうではなかった。
そもそも惑星の温度が高く、マグマが冷えにくかったのも理由ね』
「え、じゃあ人類が”ハガン”に行ったら、焼けちゃうのかな?
そこらへんにマグマが流れてるんだから」
『そうね、”ハガン”では100度を超えた地域も珍しくなかった。
だから地球は……私たちにとっては寒すぎる星と言える』
へーとなっている奏の横、ドクはうんうんと頷いている。
以前、エレクトラから星の話を聞いていたからだ。
『そして先ほどもヴィニシスが言っていたように、
私たちは基本的に食事が不要な生命だった。
その代わり、熱を食べていたと言えばいいかしら』
ボードに絵が足される、日向ぼっこをしている犬だ。
『日光、あるいはマグマの湯などに浸かって熱を摂り、
自らの活動力としていた。これは”ハガン”で生きる、
ほとんどの生命に共通していたこと』
『あたしたちは砂風呂に入ることが多かったね。
マグマの湯は導師様とかお偉いさんに限られてたから』
『……その点については、何度も解放すべきと唱えたけど、
頑なに聞きいられなかったわ。スパークの硬い導師ばかりで困ったものよ』
話がそれたと気づいて、わざとらしく咳払いをするエレクトラ。
『ついでに説明しておくと、スパークというのは私たちに宿る”光”』
「ヒカリ……って照明とかの光で合ってる?」
『ええ、ソーが言うもので合ってるわ。
ただ、”ハガン”で産まれた鉱物生命は例外なくスパークを宿し、
スパークの輝きが失せたとき死が訪れる』
投影されていた風景映像が切り替わり、
そこには倒れ伏した機生体が映っている。
仲間たちの手によってボディが解体されていき、
やがて頭部のなかより六角柱をした水晶岩が現れた。
「あれにスパークが……」
『人類にとっては脳に当たるものかしら。
人類と異なるのは、スパークを宿す”心岩”を取り出されただけでは、
私たちは死んだりはしない』
映像が切り替わる。
そこには拡大されて映る”心岩”であり、
全体へとヒビが入ってしまい今にも砕けそうだった。
『スパークの輝きが失われ、あのように”心岩”が崩壊したとき、
私たちは終わりを迎えるの』
「……機生体ってさ、どれぐらい生きてるものなの?
なんとなく長生きしそうな気がするけど」
『個体差はあるけれども、おおよそ2〜300年ほどかしら。
ただし私たちの星での環境あってのものだから、
地球ではまた変わってくる恐れはあるわ』
「そう、地球は寒いから、
活動に必要な熱が足りないかもしれないんだ」
『ドクトル、適切なフォローに感謝するわ。
ひとまず、簡単なところだけ説明するならばここまでね』
「うん、ありがとう。エレクトラさん。
ドクもありがと、そんじゃ続きどうぞ」
そう言って、奏はヴィニシスに振る。
『そうか、通りであまり調子が出ないとは思っていたが、
この星はそんな寒かったのか……このボディだと気づきにくかったな』
『飛行用のボディは耐寒仕様になっていたからな、
地球はそれ以上に寒かったから影響がでかかったんだろ』
キートに頷いてみせたあと、ヴィニシスは再びドクを見る。
『話を戻すと、ゲイターどもは巨大ワームの破片を食っていた。
そういう生態だと考えると、あいつらは同じところから来たとオレは思う』
「ふむ……ゲイターってのは軍が付けた呼び方だけども、
マントル付近にはあんなのが跋扈してるということか……嫌だね!」
「ドク、突然の現実逃避はやめよう」
「まあ、冗談は置いといて。その説は当たってると思うよ。
なにしろゲイターはこれまで人類と遭遇していないのだから」
あまりにも化け物めいた見た目と生態。
地上に存在したならば話題にならないのがおかしいからだ。
しかしゲイターについては情報が少ない。
「そういえばエレクトラ、コアの解析で何かわかった?」
『解らないことが増えた、とでも言いましょうか』
「その言い方だと、芳しくはないようだね……」
『そうね、ソーが持ち帰ったコアを機器に掛けて、
色々と調べてはみたけれども”何かしらの信号を送受信してる”とわかったわ』
『エレクトラ様、その信号というのは……?』
キートが思わず質問してしまう。
『それが不明なの。光か音か電波か、
いずれにも該当しない信号……らしきもの。
私たちの技術でも解析できない未知の信号と呼ぶしかないわ』
『オレたちとは違う方法で、ゲイターどもは通信でもしてるんでしょうか』
『そうとも言えるし、そうではないかもしれない。
いずれにせよコア一つだけではまだ手掛かりは少ないということ』
「ハントノルマが増えたなあ……」
『壊れていないゲイターのコア、たくさん期待してるわソー』
「はーい」
やる気のない声に、皆が小さく笑うなか、
キートは考え込むように顎へ手をあてている。
その様子をカーラが問う。
『どうしたのよ、そんな考え込んで』
『あーいや、そのな。ゲイターたちってずっと嗤ってるけど、
あれはもしかしたら会話していたのかって』
『あの気持ち悪い嗤いが?それはそれで嫌な会話手段ね……』
可能性はありそうだなと、ドクたちも思わず渋い顔になる。
『あと自分が気になったのは、あの巨大ワーム。
結局どうして動かなかったのかという点です、ドク』
「どちらかと言えば、動こうとしていなかったようにも見えるね。
ゲイターたちが襲ってきたときは、尾らしきものを振っていたし」
『二度と喰らいたくない尾だった……』
『むしろよく生きていたなお前……自分は死んだと思ってた』
『……運が良かっただけだろうな。
あの尾は狙いも荒く、ただ振っていただけに見えたし。
たまたま下半身へと衝撃が集中した』
結果、こうなったわけだがと言いながら、
ヴィニシスは地面に頬杖をする。
視線は残り少なくなったピザに向いていた。
食べたいのかなと奏は思ったが、何も言わないでもう一枚食べた。
『あたしは、あの時言わなかったことがひとつある』
話題が巨大ワームへと移ったところで、
緑色のラインをボディに光らせるカーラが口を開く。
『あの子の、セニアのマーカーをずっとセンサーで追って、
その在処が巨大ワームのなかだとわかって……』
「わかって?」
ドクが続きを促す。
『よりセンサーの感度を上げてみたんです。
あたしは、氏族のなかでは感知術に長けていたので』
皆の視線が集まる。
『わかったことは……セニアのスパークは、まだ生きてる』
『…………どうして、あの場で言わなかった』
『あたしが信じられなかったからじゃダメ?
正直、10ヶ月も前に巨大ワームに飲み込まれて、
それで生きてるなんて信じられる?』
『言いたいことはわかる、わかるが大事なことだろ!』
『おいぃ、大声出すなバカ。それでカーラ、今言うってことは、
確証がもててるんだよな?』
キートの言葉に、カーラは頷く。
『ここへ来てからエレクトラ様に相談して、
あたしのなかにあるデータを診てもらったの。
勘違いや誤動作じゃないかを』
『……にわかには信じ難いことではあるけれども、
私も保証するわ、あの巨大ワームのなかで生きてる機生体がいる』
『おぉ……おおお、原初の岩よ……今、今あなたに感謝を!』
ヴィニシスが大仰に天井へと叫ぶのを、
奏は冷ややかな横目で見る。
「ドク、あれなに?」
「たぶん、彼らの信仰とかじゃないかな、たぶん」
「あー神様に祈ってる的な?」
「そうそう、彼らにも地球と違う文化があるわけだ」
「ふーん、まあ……良かったんじゃないの」
機生体にだけ言及するということは、
そういうことなんだろうなと奏は内心で落胆する。
わかっていたことだ、食事の不要な機生体と違って、
人間は食事をしていないと生きられない。
仮に巨大ワームのなかでセツカが無事であっても、生きてられない。
そのことを察したのか、
ドクの手が肩に添えられた。
平気だよ、とつぶやいて返す。
痛む胸を無視して。
「となると……どうしてセニアくんが生きているのかだ」
奏を心配に思いつつも、ドクは話を進める。
心当たりはあるのかと紅い機生体を見る。
大仰なポーズをやめて、ヴィニシスは握っていたブレードを見た。
『……偵察任務へと出ていく前に、
オレはセニアへ渡したものがある』
『それって、あのお守りだっけ。あたしも持ってるけど』
「エレクトラ、彼の言うお守りって?」
『一族の繁栄と守護を願った、石造りのペンダントみたいなものね。
私たちの種族ではよく身に付けられているもの』
エレクトラの言葉に頷くヴィニシス。
『オレの家には、一族に代々受け継がれてるお守りがあって、
それをセニアへと渡していたんです』
『え、もしかしてお前、そのお守りがあの子を守ってるとか、
本気で思って言ってるのか?』
『思うしかないだろうがキート!こんな状況では!
ほかに思い当たるようなものはないし、セニアが、
あんな優しい子が巨大ワームのなかで生きられるはずがない!』
「えーその辺は置いといて、だ。
そのお守りには、なにか特別な効果とかあったのかな」
そうドクから問いかけられると、
ヴィニシスはうなだれるように首を横に振る。
『いや……そんな話は聞いたことがないし、
オレも気休めのつもりで渡しただけで……』
「ということは君でもわからない何かが起きてるわけだ」
『そういうことに、なる』
「今の会話、意味あった?」
「矢車くぅん!わかってても言わないで!」
思わず上半身だけで暴れようとするヴィニシスを、
キートたちが押さえつけながら話は進む。
「なぜか巨大ワームのなかで生きてる機生体がいて、
どうしてか動かない巨大ワームがいる。ドク、これってどういうこと?」
「うーん……僕は人間の医者だから、
あくまでも人間をもとにして言えないのだけれども」
パイプ椅子から立ち上がってホワイトボードに近づき、
ボードを裏返してまっさらな板にドクは書き出す。
それは長い巨大ワームの途中で、丸く描かれた機生体の位置。
「こうやって図にするとなんとなくわかると思うけど、
おそらく巨大ワームは……理由不明で生きてる機生体が、
お腹に詰まっているのだと考えられる」
『消化不良でも起こしているのかしら』
「もしくは消化できないのかもしれないね」
エレクトラの言葉に頷いて続ける。
「そのせいで栄養、ないし活動エネルギーが摂取できず、
巨大ワームが動けなくなった。
あるいは動かないでいると、予想はできる」
「巨大ワームも生き物なんだなって今実感したよ」
そうかぁ、消化不良なんだと奏は思わず小さく笑った。
「すごいな、お前の妹。
巨大ワームに食あたり起こさせてる」
『それは褒めてるのか貶しているのかどっちだ!?
喧嘩なら買うぞ!?上半身だけでもオレはやれるぞ!』
「売らないよ、あと褒めてるつもり、一応は」
『一応とはなんだ一応とは!』
『いいからじっとしてろバカ!』
再び押さえ込まれるバカを見つつ、
奏はボードの前にたつドクを見た。
「じゃあ、次の作戦は巨大ワームの治療?」
「治療というか、消化不良を治すには、
古来からわかりやすいやりかたがあるよ」
それは。
「思いっきり強くどついて、
吐き出してもらうのさ」