黒磁のマエストロ~ガッシュ・アナザーワールド~   作:クォーターシェル

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ガッシュ熱が再燃したので書きました。


第1話 引き合う魔物と人間

三月の終わり、校庭の桜はつぼみをふくらませていた。

中学三年の相川蓮(あいかわ れん)は、昇降口のガラスに映った自分の顔を見つめて、小さくため息をつく。

 

「……高校デビュー、かぁ」

 

もともと目立つタイプではない。

成績は中の上、運動神経は悪くはないが特別良いわけでもなく、どこにでもいる“普通の男子”。

だが、蓮には密かな理想があった。

 

――高校に入ったら、少しだけ変わりたい。

 

髪型を整えて、もうちょっと話し方もキリッとして、

今まで教室の片隅にいた自分を、少しだけ前に出してみたい。

 

そんな願望を胸にしまいながら、蓮は下校する友達の背中を黙って見送った。

彼らは受験が終わってからも、部活で忙しいらしく、最近は一緒に帰ることが少ない。

 

校舎を出ると、夕方の風が制服の裾を揺らした。

家までの帰り道の商店街は、すでに春休みの気配が色濃い。

部活帰りの高校生が笑いながら駆け抜けていき、その姿に蓮の胸は少しだけざわついた。

 

「いいなぁ。なんか、青春って感じで」

 

口に出してみて、苦笑する。

 

今日も髪型を軽くセットしてみたが、鏡とにらめっこしているうちに諦めて、いつも通りに戻してしまった。

別にモテたいわけじゃない。

ただ、“普通”の自分を少し変えたいだけなのに、最初の一歩がどうしても踏み出せない。

 

蓮はコンビニでホットココアを買うと、いつもの帰り道から少し外れた、古い公園に足を向けた。

ベンチに座り、温かい紙コップを両手で包む。

 

ふと、気づく。

 

――最近、この公園、なんだか静かすぎる。

 

ブランコはきしむことなく、風が抜ける音だけが耳に残る。

遠くの車の音すら薄れていき、妙に世界が遠ざかっていくような感覚。

 

蓮は首をかしげて、カップを口元に運んだ。

 

「……よし。高校入る前に、ちょっとは変わらないとな。明日は美容院でも行ってみるか」

 

自分に言い聞かせるように呟いた、その瞬間だった。

 

――カラン。

 

金属が触れ合うような小さな音が、公園の奥から響いた。

風の音でも、鳥の声でもない。

人の気配を感じない空間で、その“異質さ”がやけに際立つ。

 

蓮はゆっくりと顔を上げた。

 

夕暮れの公園の奥、暗がりの向こうに――

“何か”がいる。

 

だがその正体を確認する前に、蓮の胸の奥にざわりとした予感だけが走った。

 

これから先の日常は、もう元には戻らないかもしれない。

 

そんな直感とも予兆とも言えない気配を感じながら、蓮は静かに立ち上がった。

 

そして、非日常は、すぐそこまで近づいていた。

 

「見つけたぞ。お前が私のパートナーか……!?」

 

そんな言葉と共に暗がりから勾玉のような模様が入った浴衣風の衣装、みずらに結わえた髪型といったまるで弥生時代の住人の様な服装の男が出てきた。蓮はそんな服装の男の登場に面食らったがなにより、

 

(で、でっけぇ~……!どう見ても身長3メートル近くはあるぞ!)

 

「驚いているようだな、人間」

 

その巨漢は堂々とした声で言った。彫りの深い顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「え? あの……誰?」

 

蓮は後ずさりしながら問うた。心臓が早鐘のように鳴っている。

 

「我が名はマエストロ。魔界より来た者なり」

 

彼は大げさに両腕を広げた。身長三メートル級の巨躯が夕陽に照らされ、まるで影が建物のように伸びる。

 

「ま、魔界……?」

 

蓮は聞き慣れない単語に戸惑った。

 

「そうだ」

 

マエストロは一歩踏み出し、地面が微かに震動した。

 

「我ら魔物の子たちは千年に一度の大戦のために召喚された。勝利すれば魔界の王の地位を得られよう」

 

「待って待って」

 

蓮は両手を上げて制止した。

 

「オレ、全然理解できないんだけど……ていうか、そもそもその『大戦』って何なの?」

 

「ふむ」

 

マエストロは眉間に指を当てた。

 

「簡単に言えば――強さを競う闘争だ。しかし貴様ら人間にも関わるのだ。念のため確認するが、この本の文字は読めるな?」

 

そう言ってマエストロは懐から菫色の本を取り出し、その最初のページを見せる。

 

「え、何この文字?見たことも無いはずなのに“読める”!何々……」

 

「おっと、今はまだ唱えるな。それは私達魔物が術を行使する為の呪文だ」

 

「術!?魔法って事!?」

 

蓮は思わず身を乗り出した。

 

「魔法などと陳腐な呼び名は好きではないが、概ね合っている。しかし」

 

マエストロは真剣な眼差しで続けた。

 

「その本に書かれている術を使うには、お前の力が必要なのだ」

 

「オレの?」

 

「左様。私は肉体的な攻撃や防御しか出来ぬ。故に、この戦いの先陣を切るのはお主だ。お主が私の魔本で呪文を唱え、私はそれに応じて戦う。それが我らの戦い方である」

 

蓮はしばらく考え込んだ。

 

(つまり、オレがゲームで言うところの“詠唱役”で、コイツが“戦士”みたいな存在……ってコトか?)

 

「マジで言ってんの?危険なんじゃ……」

 

「確かに危険かもしれぬ」

 

マエストロはゆっくりと頷いた。

 

「だが、その程度のリスクは承知の上であろう?この大戦では、参加しない選択肢は無いのだ」

 

「どういう意味?」

 

「魔界の扉を開いた以上、この人間界には既に多くの魔物たちが降り立っている。そして、いずれは互いにぶつかり合う。お主が逃げ隠れれば、他の魔物が我が魔本を狙うだろう」

 

「じゃあ、逃げたらダメなのかよ……」

 

「否。逃げるという発想自体が甘いのだ」

 

マエストロは鋭い目つきで蓮を睨んだ。

 

「私の王への野望に1つ付き合ってもらうぞ人間よ。……そう言えばお主の名前は何というのだったか?」

 

「俺は……、相川蓮。蓮だよ」

 

「そうか。蓮、お主にも悪い話では無いのだぞ?風の噂で聞いたが、王を決める戦いの勝利者のパートナーには巨万の富が与えられるという……。お主は今、この大戦に参加する事で成功の階段を確実に上がる事が出来るのだ」

 

蓮の頭の中で様々な思いが交錯した。危険な賭けだが、成功すれば……

 

「分かったよ」

 

蓮は意を決して頷いた。

 

「この戦い、やってやろうじゃないか」

 

「おお!よくぞ言った!」

マエストロは満面の笑みで蓮の肩を叩いた。あまりの力強さに蓮はよろめいた。

 

「ならば、王を決める戦いのルールを教えよう。戦いに参加している魔物は100名、術を行使する魔本が燃えればその魔物は脱落となり、魔界へ送還される。つまり魔本が燃やされることは何が何でも避けなければならん」

 

「そうか。だからさっき『今呪文を唱えるな』って言ったのか」

 

「その通りだ。仮にお主が試しに呪文を唱えてみるとしよう。すると他の魔物達に私たちの居場所がバレる危険性がある。だがお主がこの戦いに乗った以上、他者に対する牽制を行わねばなるまい。そこで蓮よ、我らの魔本に書かれている一番目の呪文を唱えるのだ」

 

「何だよそれ、一番簡単な呪文ってことで良いのか?」

 

「その通り。恐らくどの魔物にとっても一番目の呪文というのは比較的扱いやすい術のはずだ。さて、これが我々の魔本だ」

 

「……どれどれ、一番目の呪文は……」

 

蓮はマエストロから渡された本の一番初めのページを開き、そこに書かれてある文字列を見る。

 

「よし、試しに唱えてみるか。……マグネルド!!」

 

すると、マエストロの片手に磁力の塊が発生して、マエストロはそのまま公園に生えた木に向かって撃ちだした。マグネルドが命中した木は細めだったこともありへし折れてしまった。

 

「おぉ!やるじゃねぇかマエストロ!」

 

「お主こそ、初めてにしては良い腕ではないか!」

 

2人は意気投合してハイタッチをかました。

 

「けど、こんな攻撃じゃあ弱いやつにしか効かないだろうな」

 

「いや、これでお主の心の力と技量次第で効果も変化するのだぞ?……お、そうだ」

 

「何か思いついたか?」

 

「実はな、お主に話しておく事がまだあったのだ。それが、この魔界の王になる戦いにおいて最も肝要となる話なのだが……」

 

「うん」

 

マエストロは真剣な表情に戻り、声を低く落とした。

 

「この戦いの勝敗は、力の強さだけで決まるわけではない」

 

「どういうこと?」

 

「術を操る者の精神力、絆の強さ――それらが勝敗を大きく左右するのだ」

 

マエストロは蓮の目をじっと見つめた。

 

「特に『パートナーとの信頼関係』が重要だ。二人がお互いを信じ合い、力を合わせれば、どんな強敵にも立ち向かえる」

 

蓮は拳を握りしめた。危険だが、興奮もしていた。

 

「それってつまり……オレとお前が、強く結びつく必要があるってことか?」

 

「その通りだ」

 

マエストロは力強く頷いた。

 

「そして、蓮。お前はすでに一つの資質を持っている」

 

「資質?」

 

「心の力――感情の豊かさだ。喜び、怒り、悲しみ、情熱――そういった感情が強いほど、術の威力も増す」

 

蓮は自分の胸に手を当てた。確かに、今の自分には複雑な感情が渦巻いている。

不安もある。恐怖もある。けれど同時に、新しい冒険への期待も――。

 

「分かったよ」

 

蓮は決意を固めて言った。

 

「オレはお前と一緒に戦う。そして、この戦いを通して……自分を変えたい」

 

「よし!」

 

マエストロは大きな笑みを浮かべた。

 

「ならば、共に行こう!まずは情報収集だ。他の魔物の動向について何か知っていることはないか?」

 

「いや、全然知らないけど……」

 

「では、行動開始だ!」

 

マエストロは威勢よく立ち上がり、蓮に向かって手を差し伸べた。

 

「この戦いを生き抜き、未来を掴むぞ!」

 

蓮は一瞬ためらったが、すぐにマエストロの大きな手をしっかりと握ったのだった。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

~二週間後~

 

「《ガルシェルルク》!」

 

「《マグネルド》!」

 

蓮とマエストロは、ゴーラと名乗った陸ガメの様な姿の魔物と交戦していた。ゴーラはその甲羅を強化する術を使って突っ込んでくる。

 

「ここは第2の術だ!《マグネシルド》!」

 

マエストロの右肩付近に青い勾玉、左肩付近に赤い勾玉のようなエネルギー体が出現し、左右から合わさるようにして磁力のバリアを形成され、ゴーラの突進を防ぐ。だが、マエストロは反撃を行わない。

 

「ゴーラとか言ったな。私達はまだこの戦いに参戦して日が浅い。無用な消耗は避けたいしここは退いてくれないか?」

 

「フン!ワタシを舐めるな!」

 

「なら仕方ない。一気に決めるぞマエストロ!《マグネルガ》!」

 

マエストロの手のひらに砂鉄を思わせるような黒いエネルギーが収束し、水色の電撃となって放たれた。

 

「ふっ、その程度の術でワタシの甲羅を破壊できるとでも……!?明次っ!」

 

マエストロが狙ったのはゴーラではなくその後方に居たゴーラの魔本を持つパートナーだった。

 

「しまっ……」

 

ゴーラはパートナーの明次を庇おうとしたが間に合わず、マグネルガが明次の持っていた魔本に命中した。すると、魔本が燃え尽きてしまい、ゴーラの身体は薄れて消えてしまった。

 

「くっ、ゴーラ……!」

 

明次は悔しそうに地団駄を踏んでその場から去る。後に残されたのはマエストロと蓮だった。

 

「……これで、初勝利ってことになるのか?」

 

「ああ、初めての戦いにしては上出来だ。だが、油断は禁物だぞ、蓮」

 

マエストロは静かに頷き、周囲を警戒するように見回した。

 

「他の魔物どもが、いつどこから現れるか分からない。今日は引き上げるぞ」

 

蓮は深呼吸をして、高揚する気持ちを落ち着かせた。

 

「やっぱり、これが……本物の戦いなんだな」

 

自分の声が少し震えていることに気づいたが、怖じ気づくことはなかった。

 

「本物であり、始まりでもある」

 

マエストロは穏やかな口調で言った。

 

「我々の戦いはまだ序章に過ぎない。お前自身も、これからもっと成長しなければならない」

 

「分かってる」

 

蓮は拳を握りしめた。

 

「だけど、今日はちゃんと勝てた。お前のおかげだな、マエストロ」

 

マエストロは鼻を鳴らした。

 

「フン、まだまだ未熟だがな。だが……いい目をしている。それがお前の武器だ」

 

二人は公園を後にし、沈みかけた夕陽の中を歩いていった。その背中には、わずかながらも自信と決意が宿っていた。

 




駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。

あらすじに書いた通り、魔界の王を決める戦いはありますが、ガッシュ達はいないほぼオリジナルの世界です。
マエストロはアニメガッシュに出たのと並行同位体な感じです。オリジナル術も出ます。
マエストロ、オリジナル術
『マグネルド』
第1の術。手のひらから磁力の塊を発射する初級呪文。
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