黒磁のマエストロ~ガッシュ・アナザーワールド~   作:クォーターシェル

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第6話 スウェーデンからの来訪者

スウェーデンから日本に向かうジェット機があった。その中のファーストクラスの座席には銀髪の美青年、さらにその隣に赤子が座っていた。しかし、赤子の方は人間ではない。その赤い髪の頭からは角が生えていた。

 

「バブー……」

 

「ジャード、心配しなくともそろそろ日本に着く頃合いだよ」

 

「バブ!」

 

「『退屈』だって?映画はもう観てしまったのか?まあ、本当に後30分もしないうちに空港に着陸するからさ」

 

「バブー」

 

ジャードという赤子の魔物と会話するジャードの本の持ち主であるエヴェルトは飛行機の窓の外を見る。飛行機が雲の下に降りて地上に日本の国土が見え始めた所だった。

 

ジェット機が高度を下げていくにつれ、窓の外の景色は次第に鮮明になっていった。千葉湾沿いに広がる都市の夜景が星のように瞬いている。エヴェルトは隣で退屈そうに足をパタパタさせるジャードの頭を撫でながら小さく微笑んだ。

 

「見えてきたぞ。これが日本の空港だ」

 

ジャードは興味津々といった様子で窓に顔を押し付ける。月明かりに照らされた滑走路が徐々に大きくなっていく。エヴェルトは手持ちのノートパソコンを開き、最後の旅程確認を行った。

 

「到着後は関西国際空港から特急を使う。明日の午前中には目的に到着する筈だ」

 

そう呟いた瞬間、機内のアナウンスが流れ始める。

 

『当機はまもなく関西国際空港に着陸いたします。お客様におかれましてはシートベルトをしっかりとお締めください』

 

エヴェルトは丁寧にジャードのシートベルトを締め直しながら、心の中で思う。今回の旅はただの休暇ではない。今、日本にいるであろうある魔物とそのパートナーのペアに接触するのだ。

 

下手をうてばジャードの本は燃やされ、その時点でジャードが魔界の王を決める戦いから脱落する事になるかもしれない。緊張はするが、ワクワクもある。何しろ魔物という異世界の住人との接触は興味深いと思うのだ。

 

「情報収集が正しければ、マエストロとそのパートナー、相川蓮か……」

 

「バブー」

 

「ああ、心配ない。お前のために全力を尽くす」

 

エヴェルトは柔らかく微笑む。

 

夜空を背景に、ジェット機の翼が月光を反射する。この先の運命がどう転ぶのか—エヴェルトの鋭い緑の瞳には未知への期待が宿っていた。

 

関西国際空港のターミナルに降り立ったエヴェルトはジャードを抱きながら入国審査を終えた。時刻は午後11時を回っている。深夜の空港は閑散としていたが、それでも十分に賑わいがあった。スーツケースを引くビジネスマン、グループ旅行の若者たち。異国の地での様々な出会いが交錯する空間だ。

 

「さて……」

 

エヴェルトはスマートフォンを取り出し、地図アプリを開いた。

 

「まずは新大阪駅に向かうか。乗り換えはスムーズに行くだろう」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

マエストロと蓮が戦闘訓練に使う山、そこでケルトと焦夜が戦闘訓練を行おうとしていた。メイド服を着た猫の獣人の魔物ケルトはパートナーの焦夜と話す。

 

「ご主人様、先ずは何からされますか?」

 

「そうだな。この間発現した新呪文をもっと試したい……」

 

2人が訓練の段取りについて話していると、

 

「やあ、初めまして。そこのレディがマエストロかな?」

 

「バブー」

 

エヴェルトと、念動力の様なもので宙に浮いているジャードがその場に現れた。

 

エヴェルトは焦夜達と自己紹介をする。

 

「僕はエヴェルト・グリーン。スウェーデン出身で年齢は25歳。自慢じゃあ無いが金持ちで旅行が趣味だ」

 

「俺は鹿立焦夜だ。歳は19で大学生だ」

 

「私はケルト。ご主人様のパートナーです」

 

「よろしく」

 

「バブー」

 

「宜しく」

 

2人と魔物の簡単な挨拶を終えるとエヴェルトは本題に入ろうとする。

 

「先に言っておくが、君達と出会ったのは本当に予想外だ。予定ではマエストロとそのパートナーに会う予定だったんだがね」

 

「マエストロを……、知っているのか?」

 

「ああ、君も知り合いかい?しかし、君達も魔物とそのパートナーである事は確か。どうするべきか……」

 

そう言いながらエヴェルトは懐からコインを取り出す。

 

「コイン?」

 

「ああ。僕の家では予想外の事が起こった時にどうするかコイントスで決める伝統があってね。この場で君達と戦うべきか、戦わないべきかこれで決めるとしよう」

 

「運任せですか。その様な半端な覚悟で私とご主人様に勝てるとでも?」

 

「バブ!」

 

「落ち着けジャード。まあそれくらいいいだろう?表が出れば僕たちは君達と戦うし、裏が出ればこの場は大人しく引き上げるとしよう」

 

そしてエヴェルトはコインを投げて、落ちてきたコインを手の甲で受け止めてもう片方の手で押さえた。

 

「表だ」

 

エヴェルトが静かに告げると、コインが陽光に照らされながら手の甲に佇んでいた。焦夜の眉が微かに上がる。

 

「了解した。予想外の遭遇だが……戦うことになったか」

 

ケルトは焦夜の前に一歩踏み出し、スカートの裾を優雅に払った。

 

「ご主人様の意志のままに。我が力をお見せしましょう」

 

山中の空気が張り詰める。光が四人の影を大地に長く伸ばした。

 

「バブー!バブバブ!」

 

ジャードが赤い髪を揺らしながら興奮気味に両手を振り回す。エヴェルトは苦笑しつつも腰を落とした。

 

「相変わらず熱血漢だな。だが油断は禁物だぞジャード」

 

彼の右手がゆっくりと本へと伸びる。

 

焦夜は両者の動きを冷静に分析していた。赤ん坊の姿とはいえ角のあるジャードは明らかに魔物。メイド服のケルトも同じく。敵の実力は未知数、どちらから対処すべきか——。

 

「ケルト」焦夜が小声で呼びかける。「先にあの男から狙う」

 

「承知しました」

 

メイド服がふわりと揺れ、ケルトの全身から淡い紫の光が滲み出る。その動きは優雅でありながら一切の隙がない。

 

エヴェルトの表情が初めて険しくなる。

 

「なるほど……君達も相当の経験者か」

 

「バブー!」

 

ジャードは空中で器用にバランスを取りながら小さな手を構えた。

 

瞬間——

 

「《ニャルセン》!」

 

焦夜の詠唱と共に、ケルトの掌から肉球型の衝撃波が発射された。

 

「《ガデュウガ》!」

 

エヴェルトの呪文が響くと同時にジャードは収束した炎を放つ。二つの術が空中で激突し、轟音と共に爆風が辺りを包んだ。

 

煙の向こうから焦夜の声が冷徹に響く。

「思ったより速いな」

 

エヴェルトは帽子の位置を直しながら微笑んだ。

 

「お互い様だ。さて……本気を出させてもらうとしよう」

 

煙が晴れる。双方の戦闘態勢は完了していた。エヴェルトは手袋越しに拳を鳴らし、ジャードは油断なく相手を見据える。対するケルトは爪を鋭く伸ばし、焦夜は魔本を広げていた。

 

「バブ!バブゥ!」

 

「落ち着けジャード。相手は冷静だぞ」

 

エヴェルトが宥める一方で、焦夜はじっくりと両者を観察する。

 

「ケルト、先制は任せる」

 

「畏まりました」

 

「《ガデュウセン》!」

 

エヴェルトのその詠唱と共にジャードが複数の火球を発射する。

 

「《ウルニャルク》!」

 

対する焦夜の詠唱によってケルトのスピードはアップし、先ず焦夜をガデュウセンの射程外に運ぶと、そのままガデュウセンを躱しながらジャードに接近する。そしてジャードの胴に強烈な蹴りを叩き込む。

 

「バブー!」

 

ジャードは蹴りを受け吹き飛ぶも空中で体勢を立て直す。そこを狙ってエヴェルトが次の行動に出る。

 

「《ガルガデュン》!」

 

エヴェルトのその詠唱が響いた瞬間、ジャードは空中で回転しながら炎を纏ってケルトに突っ込む。先の攻撃で接近したのが仇となったのかケルトはガルガデュンを喰らい吹き飛ばされる。

 

ケルトは身を捻って木に叩きつけられるのを回避する。しかし体勢を崩したまま再び蹴りをジャードに浴びせる。

 

「フッ!」

 

「バブゥー!」

 

ジャードは再度吹き飛ばされるがそれも予測済みなのか地面に落下する前に体勢を立て直す。

 

「《ゴウ・ニャルド》!」

 

「《カービング・ガデュウ》!」

 

そこにケルトの猫パンチを避けつつエヴェルトが叫ぶとジャードの口から炎のビームが発射された。

 

「《ニャシルド》!」

 

その攻撃に対して焦夜が叫ぶ。それによってケルトは肉球のバリアでカービング・ガデュウを弾く。更に焦夜は攻勢に出るべく呪文を唱える。

 

「《ガンズ・ニャルド》!」

 

それによってケルトは連続猫パンチを放つが、

 

「《ウォル・ガデュン》!」

 

エヴェルトの唱えた呪文でジャードは炎の壁を作り出しガンズ・ニャルドをガードする。

 

(なるほど、強い……)

 

焦夜は心の中でそう呟く。現時点では決定打に欠けているものの、間違いなく実力者である。とエヴェルトを評価する。

 

(ケルト、最大呪文を使うぞ)

 

(かしこまりました。ご主人様)

 

ケルトと焦夜は目くばせする。それと共にケルトは大きく跳躍する。

 

「《ニャルド・レオウ》!!」

 

焦夜のその呪文によってケルトは銀色に光る猫又の形をしたエネルギーを放つ。

 

「バブッ!?」

 

ケルトペアが最大術を使用したことに焦るジャード。だがエヴェルトの方は余裕だった。

 

「ジャード、こちらも奥の手を使うぞ。《ガデュルク》!」

 

すると、その呪文と共にジャードは目を見開き、鼓動が強くなる。そして、

 

「!?」

 

「ふう……」

 

ジャードは赤子の姿からみるみるうちに大人の姿へと成長した。その変貌にケルトと焦夜は驚く。

 

「《ディオ・ガデュウガ》!!」

 

更にエヴェルトが呪文を唱えると、ジャードはニャルド・レオウに向かって巨大な炎の弾を放つのだった。

 

空気を引き裂く轟音が森を揺るがした。ニャルド・レオウが放つ銀色の光芒とディオ・ガデュウガの灼熱の塊が激突する。二つの超常の力がぶつかり合い、まるで宇宙そのものが凝縮されたかのような圧倒的なエネルギーの奔流が生まれた。

 

「いけぇぇぇぇっ!!」

 

ジャードの成体の咆哮が響き渡る。赤毛の巨体から迸る炎は増幅し続け、ニャルド・レオウを徐々に押し返していく。

 

「うわっ!?」

 

焦夜の叫びと共に銀色の猫又のエネルギー体が歪み始める。ケルトは咄嗟に主人の前に飛び出したが、もはや防ぎようがなかった。

 

「よし!!」

 

勝利の雄叫びを上げるジャード。しかし次の瞬間——

 

ズドォオオン!!

 

閃光とともに起きたのは驚愕の光景だった。ディオ・ガデュウガは確かにニャルド・レオウを飲み込み爆発した。だがその爆心地には何も残っていない。

 

「……おかしいぞ」

 

エヴェルトが眉を寄せる。本来であれば魔本の燃え残りが見えるはずだ。しかも焦夜とケルトの姿もない。

 

「奴らはどこへ?」

 

ジャードが不思議そうに辺りを見回す。

 

次の瞬間——

 

「そこだ!」

 

背後からの声と同時に冷たい風が吹き抜けた。振り向くと、数十メートル離れた位置に焦夜とケルトが無傷で立っている。そして彼らの前方には——

 

「マエストロ!?」

 

焦夜の驚きの声に応えるように、磁力の障壁〈マグネシルド〉がゆっくりと消え去っていく。その向こう側で佇む蓮の姿。

 

「ギリギリ間に合ったようだな。……で、咄嗟に助けちゃったけどどういう状況なんだ?」

 

蓮はこの戦いの事の経緯を分かっておらず、そう呟いた。

 




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