黒磁のマエストロ~ガッシュ・アナザーワールド~ 作:クォーターシェル
「君達が相川蓮、そしてマエストロか……」
「そうだ。お前達はどう見ても魔物とその本の持ち主だな」
エヴェルトの質問にマエストロが答える。
「その通りだぜ。俺はジェードでこっちがエヴェルトだ!」
ジェード(成体)も割り込んできた。
「ジェードだと?」
「おう。と言っても今のこの姿じゃピンと来ないか?俺は今術の効果で赤ん坊から大人の姿になってるからな」
ジェードはポージングする。
「焦夜さん、彼らと何があったんですか?」
「この山でのトレーニングの途中で彼らと出くわしてな。成り行きで戦うことになった。……それにしても蓮、どうして俺達を助けたんだ?俺達は魔界の王を決める戦いにおいてライバル同士なんだぞ」
訝しげな表情を見せる焦夜。それに対し、
「それなんですがね……、こっちも咄嗟に行動したんで自分でもよく分からないんですよ」
蓮はそう告げる。焦夜は呆れ半分感謝半分といった表情をして、
「そうか……。言っておくが蓮、彼らは強いぞ。こちらも最大呪文を使ったが押し負けてしまった……」
視線をエヴェルトとジェードに移す。蓮とマエストロは2人に向かって構える。しかし、
「まあ、待て2人共。僕達は君達と戦いにやって来たわけじゃないんだ」
「「はあ?」」
エヴェルトのその言葉に蓮とマエストロはそう反応してしまうのだった……。
「仮に今僕達が君達と戦ったとしても、負けるのは僕達だろう。良くても相打ちかな。何せ今僕達は消耗しているからね」
「まあな……、バブー」
エヴェルトは手を上げる。ジェードもガデュルクの効果が切れ、元の赤ん坊の姿に戻る。
「では、私達と戦ったのはどういうことでしょうか」
「それはさっきも言ったようにケルトと焦夜と出会ったのは予定外の出来事だったんだ。もしコイントスで裏が出たら日を改める気だったしね」
ケルトの質問にエヴェルトは飄々とそう答える。その様子は逆に拍子抜けしてしまうくらいだった。
「まあ良いでしょう。しかし一体何の目的でマエストロ達を探していたのですか?」
「ああ、それについては今から話そう。単刀直入に言うがマエストロ、蓮。君達僕達と組まないか?」
「えっ?」
「……どういうことだ?」
エヴェルトのその提案に蓮とマエストロは困惑する。組むとは一体どういう意味なのだろうか。そんな疑問が彼らの中に浮かぶ。
「端的に言えば同盟を結ぼうということだ」
「同盟か」
マエストロはそう呟く。
「そうだ。君達がもし良ければだけどね」
「お前達は何で私たちと組みたいんだ?我々はさっき出会ったばっかりだぞ?信用が足りないと思うが……」
「そうだな。マエストロの言う通りだよ」
蓮とマエストロは渋る。しかしエヴェルトはそうくるのは想定済みだったようで、
「まあ待て。この王を決める戦い、単純なバトルロイヤルだと思ったら痛い目を見るぞ」
「つまり……?」
「この魔界の王を決める戦いは徒党を組んだ方が有利に働くのさ。考えてみなよ、王になる人物が協調性が無かったら務まると思うかい?まあ、パートナーと協調できて最低限だろうけど。それに、この戦いのルールに参加者同士で協力するのは禁止なんて聞いてないぜ」
「バブー!」
ジェードもエヴェルトの言葉に同意する。更にエヴェルトはたたみかける。
「それにだ。僕は既にある魔物達がグループを組んでいる情報を掴んでいるんだ。こちらも同盟を組まなきゃ絶対に不利だ」
「確かに一理ありますね」
蓮がそう呟くとエヴェルトは口角を上げる。
「どうだい?考えてくれたかな」
「同盟か……。確かに王を決める戦いと聞くとシンプルに強い奴が王になるんだと思っていたが……違うのか?」
焦夜は考え込む。それは他の者達も同じ気持ちだった。
「その質問の答えだが……僕個人としてはYESだね。しかしさっきも言ったけど王になる資格がある人物が荒くれ者だったりしたら最悪だと思うしね」
「バブ!」
「そう言われると……」
焦夜は悩む。ケルトも焦夜の答えを待っていた。
「焦夜さんどうします?」
「まあ俺はまだ即答できないな。今すぐ答えが出る問題でもないだろう?」
「まあ……そうですね」
蓮も焦夜の意見に賛同する。その答えを聞きエヴェルトはニヤリと笑う。
「それじゃあどうだい?今日の所は解散してまた後日話し合いの場を設けるというのは」
エヴェルトが提案する。彼としては時間が解決してくれると思っており、一度その場を離れることを望んでいた。
「それも良いと思います」
蓮がそう言うと全員が同意するのだった……。
◇ ◇ ◇
そして、翌日。蓮とマエストロ、焦夜とケルトはエヴェルトが席を設けたレストランの一室で話の続きをすることになった。
「ちなみに料金は気にしなくていいよ。僕は金持ちだからね、1回奢るくらい全然だよ」
「(なんか入った事無いけどすごい高級そうなレストランだな……)はあ、ありがとうございます」
「それでは昨日の話の続きをするぞ。エヴェルトと言ったな、その既にグループを組んでいる魔物達とは何者なのだ?」
マエストロの質問に、
「ああ、実を言うと僕も内部の詳細な情報までは知らないんだけどね、彼らは鉄血兵廠と名乗っている」
「鉄血兵廠……」
「なんでも4~5組程はそのグループにいるらしいが、どうもこの人間界の戦地で魔物の力を利用しているらしいんだ」
「戦地……」
「僕が知ってる情報はこんな所だ。まあ同盟を組むかどうかの参考にしてもらえるといいよ」
そうエヴェルトは言う。それを聞いた焦夜は少し考える。そしてしばらくしてから口を開く。
「……分かった。じゃあこうしよう。まず俺とケルトはエヴェルトとジェードに一旦同盟を持ち掛ける。それで蓮とマエストロも同盟を組んでもいいと思ったらその時に一緒に同盟を組む。それでいいか?」
「ああ。私としてもそちらの方が安心出来る」
マエストロは焦夜の提案に乗る。その後具体的な細かい条件などを決めたあとで解散した。
解散する際、マエストロはエヴェルトとジェードに、
「実は、私に協力してくれそうな魔物を知っているのだが……。もし同盟を組む際は彼らも入れるか?」
まだ不信感を持っている表情もありながらも尋ねる。
「ああ。もしその協力者がそれまでにこの戦いに生き残れたら歓迎するよ。因みに名前は?」
「それはまだ教えることは出来ないな。もし私がやられたらこちらの情報が筒抜けになってしまう」
「まあそれもそうだね。だがもし会ったら伝えてくれるかい?いつでもこちらに来ていいとね」
「ああ……」
そうして解散するのだった……。
◇ ◇ ◇
「……結局あっさり帰っちゃったな」
繁華街を抜ける路地裏で、蓮がため息混じりに言った。夕暮れ時のネオンが二人の横顔を橙色に染めている。
「ふん。エヴェルトとかいう男、計算高く見えただろう」
マエストロは石畳を硬く踏みしめながら歩く。
「ああいう手合いは腹の底に何か企んでるものだ」
「でも鉄血兵廠のことやグループ戦略の話は……ちょっと興味深いよね」
蓮はスマホを取り出し、先ほど調べたニュース記事を開く。
「戦地で魔物を利用するっていうのが本当なら、かなり危険な連中かも」
マエストロは足を止めて振り返った。
「ポピーと花蜜のことも心配だ。あの二人はまだ本格的な戦いには慣れていない」
「確かに。でも前に助けた恩義で協力してくれそうだよな」
「あの時は偶然だ」
マエストロの口元がわずかに緩む。
帰宅後。薄暗い部屋のカーテンを閉め切り、二人はTVの電源を入れた。
「とりあえず今日はあれだな」
蓮がリモコンを操作しながら呟く。
「時代劇で頭を休めよう」
画面いっぱいに武士姿の大根役者が映し出される。派手な殺陣が始まった途端、マエストロが真剣な表情で膝を正した。
「ふむ……現代の舞台演出は迫力があるな」
「だろ?特にこのチャンバラシーンはCG使いすぎずに昔ながらの振り付けが生きてるんだよ」
画面の中では侍が次々と斬りかかるが、主人公は涼しい顔で刃を弾き返している。
「霧切侍も良かったが……、他の時代劇も観てみると良いものだ」
マエストロが意外なコメントを漏らす。
「まさかの肯定的!?」
蓮が目を丸くする。
CMに入ったところでマエストロが茶をすすりながら言った。
「同盟のことだが……焦夜の判断は早計かもしれん」
「うん?」
「エヴェルトは『生き残ったら仲間に入れる』などと言っていたが……」
彼は茶碗を置き、鋭い視線を蓮に向ける。
「つまり我々以外が敗北すれば都合が良い。そういう魂胆だと私は読む」
蓮は思わず背筋を伸ばした。
「じゃあやっぱりポピー達にも警戒するよう伝えたほうが……」
「いや」
マエストロが手を振る。
「今はまだ早い。何よりも彼女達が安全に暮らせるよう導くのが先決だ」
「さすが先生」
「誰が先生だ」
マエストロの耳がピクリと動く。ちょうど画面では主人公が必殺技を放ったところだった。
「……ところでこの役者だが」
マエストロが急に声を低める。
「演技の粗は多いが雰囲気は嫌いではない。第二話の切り返しの仕方は巧みだった」
「えっ?そこまで見てたの?」
「当然だ。私は日本の文化に敬意を払っている」
胸を張るマエストロに蓮は思わず吹き出した。
◇ ◇ ◇
時計の針が九時を回る頃。蓮は寝床に横になりながら天井を見つめた。
「……鉄血兵廠か」
「気になっているのか」
マエストロの問いかけに蓮は頷く。
「魔物を利用してるって……多分戦争に関わってるんだよな」
薄暗い照明の中でマエストロの目が光る。
「魔界の王を決める戦いでは、人間界の問題に干渉するなとは言われていないからな。なんにせよエヴェルトの奴も危惧しているように一筋縄ではいかぬ連中の可能性が高い」
「俺達ももっと強くならないと……」
蓮の決意に満ちた声に、マエストロは少しだけ目を細めた。
「明日から特訓を増やすか」
「お願いします」
窓の外では遠雷が鳴り響いている。新たな嵐の到来を告げるかのように……
◇ ◇ ◇
――南米の某国の何処か――
「《ライセン》」
「《アロル》」
その国の反政府勢力のベースキャンプが弾丸や矢で狙撃してくる何者かに襲われていた。ゲリラ達は狙撃してくる者の正体がまるで分らず、あっさりと壊滅した。その状況を軍隊とその兵士達が見守っていた。
「任務完了致しました」
「よくやった。流石は新進気鋭のPMCだな」
「報酬は例の口座に振り込んでおいてください」
「分かった」
軍の指揮官はPMCの一員にそう告げて気分良さそうに去っていく。残されたPMCの一員は。
「魔物の力様様だな……」
と呟いた。
「よーし、仕事完了っと」
夕陽が赤錆びた廃墟を照らす中、ボールドが弓を仕舞いながら伸びをした。その傍らでゴルドーは双眼鏡を丹念に拭いている。
「油断するな。まだ周囲は危険地帯だ」
ゴルドーの低く抑えられた声が乾いた風に乗る。
「へいへい」ボールドが軽く肩をすくめる。「けど完璧だったろ?反政府側の通信装置まで特定できたなんてさ」
双眼鏡をバックパックに納めながらゴルドーは答えた。
「当然だ。俺たち“鉄血兵廠”の兵器体系では情報解析が最優先だからな」
廃工場跡地の陰で、二人の魔物は素早く撤収の準備を整える。通常の人間の兵士とは明らかに異なる俊敏さで荷物をまとめながら会話が続く。
「しっかしあの司令官、相変わらず顔色ひとつ変えなかったなぁ」ボールドがつぶやく。「自分の国の住民が魔物にやられてんのに」
ゴルドーは無造作に額の汗を拭った。右腕の皮膚に埋め込まれた金属製の感覚器官が微弱に脈打っている。
「それが政権側というものさ。金さえ払えば罪悪感など感じまい」
「商売道具に情けをかける奴は居ねぇか……」
ボールドは苦笑いして背中の弓を調整する。弦の震える音が不気味に響いた。
ゴルドーは突然立ち止まり、遠くを見つめた。
「ハキュリス様が近くに来ているな……。何の用事だ?」
「旦那の気まぐれじゃねえの?ハキュリスの旦那偶にそうするからな」
「そうか。では俺達もパートナーの所に戻るか」
「だな」
2人はそれぞれ走り去った。
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