そうして渋谷さんが指示を出すと、部屋の中央にかけられたいた巨大なカーテンが開かれた。
そこには、2本の巨大なガラスの筒(メスシリンダーのような形)があり、その中央部にはプレイヤーが立つであろう台座が用意されている。
そして2本のガラス筒の間には、その両方のガラス筒と繋がっている、不気味な鍋のようなものがあった。
「シヴァ神とサムドラマンタンの神話はご存じですか?かつて、神々と悪魔は協力して不老不死の霊薬を作りました。しかし、この霊薬作成の過程で、世界を滅ぼしかけない毒薬も一緒に生じてしまいました。」
「そこで、シヴァ神がこの毒を飲み込み、世界を救ったと言われているんですね。いやー、これはめでたい。」
「ただしかし、このゲームでは、そのシヴァ神が不在でしてね、おふたりに代わりに毒を飲んでいただかなければならないわけです。じゃあそんな設定をお話したところで、正確なゲームのルールに移りましょうか。」
「このゲームは3ポイント先取。選択型カードゲームです。」
「プレイヤーの目的は、毒を分け合い消費しながら、相手よりも多くの霊薬を手に入れることです。」
「プレイヤーは1ターン毎に交代で、攻守を行ってもらいます。」
「攻撃側のプレイヤーは、タブレットから相手に【毒】か【霊薬】を送るかを選びます。そして、防御側のプレイヤーは、同じくタブレットから【受容】か【拒絶】を選びます。それぞれの選択の結果は以下のとおりです。」
〈パターン1〉攻:【毒】 守:【受容】
→防御側のガラス筒に、鍋から【毒】が1L注がれる。
〈パターン2〉攻:【毒】 守:【拒絶】
→攻撃側のガラス筒に、鍋から【毒】が1L注がれる。
〈パターン3〉攻:【霊薬】 守:【受容】
→防御側のガラス筒に、鍋から【霊薬】が5L注がれる。
〈パターン4〉攻:【霊薬】 守:【拒絶】
→攻撃側のガラス筒に、鍋から【霊薬】が5L注がれる。
「こちらを、両者のガラス筒で合計5Lの毒が注がれた時点でラウンドが終了し、その時点で"より多くの霊薬を自分のガラス筒に注いだプレイヤー"に1ポイントが入ります。」
「しかし、ここで非常に重要なルール。もし霊薬を独り占め。つまり、そのラウンド中、片方のプレイヤーしか【霊薬】を得ておらず、もう一方の【霊薬】獲得数がゼロだった場合、そのラウンドではポイントは与えられず、そのまま"流れ"となり次のラウンドに移ります。」
「そうして毒と霊薬を送り合いながらポイントを相手より先に3ポイント稼いだら勝利。ということですねー。」
「そして皆さんお楽しみ。このゲームのペナルティーについてです。」
「敗者には敗北が決定したタイミングで、足場が崩れ、自らが溜めた液体へと落下してもらいます。」
「このゲームで扱う【毒】ですが非常に強い酸でしてね。まあ、実際に実演してもらったほうが早いでしょう。」
渋谷さんが合図すると、ガラス筒の中に小汚い男が入ってきた。男は足場の上に立つ。あまり足場自体は安定していなさそうだ。やや震えているように見える。
鍋から筒の中に、恐らく40㎝ほどの【毒】が注がれた。
「では落下!」
渋谷さんの合図で、男が乗っているガラス筒内の足場が、木っ端みじんに崩れた。男は情けない悲鳴をあげながら、数メートルを落下。毒液に水しぶきを上げて落下した。
直後、悲鳴にならない悲鳴が聞こえた。男の肌はただれ、服を溶かし、苦悶に満ちた表情は、すぐにどんな表情だかわからないほど、ひどい惨状だった。
1分経過後、ガラス筒の下部の栓が開けられ、毒液が流される。かろうじて人の形をしている男は、完全防具を付けた行員らに運ばれていった。
「ご覧のように、【毒】は非常に危険なわけです。そして、その毒性を消してくれるのが【霊薬】なわけですね。まあ、【毒】1回分は、【霊薬】2回分で相殺できるようになっていますよ。」
トントントントン……。いつものように、真経津さんが頭を叩く。天城は、その様子とガラス筒を見ながら、不敵な笑みを浮かべている。
「禁止行為については暴力行為。ガラス筒やタブレット、足場などの機材の故意での破壊。そして3分以上に選択を実行できないことです。」
「質問は大丈夫ですかね?それでは手間取って残業になっても嫌なので、始めてしまいましょうか。」
「『シヴァ・イズ。アブセンス』開幕です!」