クソの役にも立たない転生特典なんかより筋肉だろ   作:糖分至上主義

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ちびっこモンスター 襲来しました

軟禁生活10日目。

今日は母さんが休みだということで一日一緒に過ごした。いつもは萎えた黒髪も、ものすごいことになっている目のクマも心なしか回復してた気がする。

 

 

軟禁生活13日目

そろそろ外に出たいなー、と言ったら泣かれてしまった。

一緒に買い物に行きたいと言ったら泣いて喜ばれた。

・・・なるほどね。

 

 

軟禁生活18日目

出かける提案は流されたのだと思いきや、週末に出かけることになった。出先は近所のショッピングモールだけど、これは大きな一歩に違いない!

 

 

軟禁生活22日目

チャイムがなった。

と同時に、ちびっこモンスター襲来警報が脳内でうるさいくらい鳴り出した。

 

 

■■■■■

 

 

「こんにちは!あっくん」

正午、一体に広がっているデザイナーハウスの住宅街で、正門に『唐木』と彫られた家のチャイムを一人の少女が押した。

 

「え、と。かおる、ちゃん?なんで僕の家知ってるの?」

「あーそーぼ!」

 

ニコニコと笑う少女と対照的にダラダラと汗を垂らす少年。

しばし気まずい空気が流れたあと、扉越しの攻防戦が始まった。

 

「なんで開けてくれないの?まだ私中に入ってないよ。玄関でもいいからちょっとお話、しよ?」

「ああ、そうだね!僕意外だったらみんな大喜びで遊んでくれると思うよ!

あああわかった!1回扉から手を離してみてよ!すぐに開けるから、ね?ね!お願い!!!」

(なんでこいつこんなに力強いんだよ!!それにこの前までもっと舌っ足らずな子供で、かろうじて可愛さが残ってただろうが!こ、こえー!!!!)

 

 

両者の瞳からだんだん光が消えていき、悲鳴が漏れだした梓と全くの沈黙を貫く薫。

薫の執着と梓の恐怖が釣り合い、扉越しにかろうじて保っていた均衡は、しかし梓の恐怖心ゆえに呆気なく崩れることとなる。

 

「あっくん。いい加減あけて」

 

「はい...」

 

1分30秒 唐木梓...あえなく敗北

決め手「あっくん。いい加減あけて」

 

 

 

 

■■■■■

 

 

「もう、全然出てきてくれないんだから!次からはすぐに開けてね!」

「ツギガアレバ、スグアケルネ」

 

玄関だけだとかのたまっていたのははるか昔。既に第一防御を破られ、第二防御(リビング)までの侵入を許してしまった。

 

「ね、あっくんのお部屋行こ」

 

訂正、心臓部までたどり着かれるかも。

 

「え、えっとそれでかおるちゃんは何しに来たの?」

「あ!そうだった。すっかり忘れてた。」

 

一旦話題を変え、気をそらす。

お願い助けてマイヒーロー...

 

「この前は助けてくれてありがと。あっくんが私のこと守ってくれたんでしょ!」

「え...(やっぱ覚えてんのかコレ?・・・ぶっちゃけあの時は初めての戦闘で興奮してたし、よくよく思い出して自分でもドン引きしたしなぁ)

ま、まあおんぶして逃げただけだよ」

 

口角が天井に突き刺さるんじゃないかと思うほどそれはもう満面の笑みになった薫は、急に立ち上がったかと思うと此方にロケット頭突きを突貫してきた。

 

「ウゲッ」

「やっぱりあっくんだーい好き!ね、ね。これからもずっと一緒だからね!」

 

コレだ。

コレめちゃくちゃ怖い。

ずっと一緒ってとこもだし、抱きつかれるのはなんだか匂いつけられてる気分になるし、

あの日も気絶から目覚めたら大好き攻撃をずっとしかけてきたし。

なんか重たいんだよな...精神攻撃かこれ?

俺はもっと落ち着いた雰囲気で「あ、あの...いや今はやっぱりいい」みたいな甘えたくても素直に甘えられずいじらしい感じの子が好きなんだッッッッ!!

正直薫も可愛いし人気者ではあるんだけど、俺こいつに何にもしてないしな...

それどころか避けるようにしてたはずなんだけど、気づいたら好感度バク高で全然怖いんだわ。

 

というか全然飽きないなこいつ。いい加減離れて欲しいんだけど。

 

「か、かおるちゃん。僕おてあらいにいきたいなー」

「うん。じゃあ一緒に行こ」

 

行 く か 馬 鹿 が

 

 

 

■■■■■

 

 

 

軟禁生活28日目

ちびっこモンスターとの激しい攻防の末、プライバシーを無事死守。

一応の良識はあるのか、暗くなる前には帰っていった。

結局うちに来た理由は分からずじまい。

ひっつき虫になって一生抱きつかれただけだった。次に襲来するまでに何とか対策を考えねば。

 

 

今日も母さんがヘロヘロでかえってきた。

仕事について聞いてもいつははぐらかされるが、今日は珍しく「外と中を監視する仕事だ。大変だからこんな仕事には着いちゃダメだぞ」と教えられた。

そりゃあ大変なんだろうなー、と思いかわりに頭を撫でておいた。

無事泣かれた。

 

 

■■■■■

 

 

「楽園機構」総本部

大きなパイプが天井や壁を這いずっている部屋、中心に置かれた大きなテーブルに身長性別年齢様々な者が一堂に会して座っていた。

 

青白い光が机の中心から立ち上ると、何も無い空間にモニターのようにしてホログラムが立ち上がり、周りにいるもの全てに1枚1枚大きなモグラの画像が展開された。

 

「さて、予め通知していたと思うが、こうして全員集まっていることだ。もう一度この特異種についての説明から始めさせてもらう。

 

土竜型特異種 仮称:イーリオス

体長:2m前後

覇者個体:未確認

既存種との一致:なし

完全新種

侵入経路:地下の壁を破壊したものと思われる。

死因:太陽光によるものと推測

 

唯一この部屋の中で座っていなかった山のような男が声をはりあげる。

 

「んで?なんだこりゃあ」

 

初めの声を上げたメガネをかけたスーツ姿の男がため息混じりに冷静に返答する。

 

「今回あの白亜の壁を貫いて侵入してきた新種の特異種だ。それよりテッシン、お前こそ何をしていた?あそこはお前の守護地域だろう」

「あ?オレァ元々自由にやるって言う約束だろうが。なんだ?言いたいことがあんなら聞いてやるぜ、シシガミさんよぉ」

 

シシガミと呼ばれたスーツ姿の男と、テッシンと呼ばれた大男の間に剣呑な空気が流れ出す。

 

「まぁ〜まぁ〜。そんなに喧嘩腰で離さないでくだ〜さいっ!他の方が萎縮しちゃいます〜」

 

胸元に「チエリ」と書かれた真白なエプロンを来た女性が両手を合わせて仲裁に入る。

周囲の人間はまたこの流れか、とため息をこぼしていた。

 

「そうだな。今はそれよりも、ここに侵入を許してしまったということについての議題が重要だ」

「むむぅ。とはいえなにぶん初めての事じゃて。これはひょっとして、この白亜の園もいよいよマズイかのぉ」

「他の国のように徴兵制度を取り入れるべきである。我はさんざ行ってきたであろう」

 

 

「えー、それもいいけどぉ。私としては、こいつらぶっ殺したやつに興味があるなぁ」

 

 

周囲で口々に話していたものたちがいっせいに口噤む。

 

「ん?どしたん。いいよもっと自由にしてこー」

 

ヘラヘラと笑うボーイッシュな彼女は、第八支部最強と名高いカムロ。

左半分の顔の皮が剥がれており、涙ボクロの下に至っては筋繊維すら見えている。

現代の技術をもってすれば人工皮膚で覆うことも、ナノ粒子による人工移植で皮膚の蘇生も可能なのだが、「闘争」を本質とする彼女からしたらそれは()()らしい。

 

「来年の祝福式、楽しみだなァ」

 

音符が着きそうなほど楽しそうに足をプラプラとふりながら中央区にある操作パネルの上に腰掛け、その様子を見たシシガミに青筋が走る。

 

「・・・っはぁぁぁぁぁぁぁ。

まあ...いい、だろう。

今回重要なのは第一次特異種侵攻より最も穢れのない聖地と言われてたこの国に、特異種どもの侵入を許してしまったことだ。

かの大戦より500年。いまだこのレベルの障壁を張れる祝福持ちは表れていない。

すなわち、我々は選択を迫られているのだ。このまま引きこもるのか、あるいは戦いに出るのか」

 

この国の平和とは仮初のものである。

それは第二次成長期前後に迎える『祝福式』ですべての国民に知らされる残酷な事実。

この白亜の壁より外は、『特異種』と呼ばれる化け物たちが我が物顔で歩いている人類の生存圏外となっている。『特異種』はあらゆる面で人間より優れている。

筋力、体力、適応力、果ては繁殖力までもが。

しかしそれでも人類はいまだ滅びてはいなかった。

『祝福式』で外の世界を知らされるのとともに、それぞれが『祝福』を授かるからだ。

原理はまったくもって不明。適性などなく、『祝福』を判別する『祝福』がないと本人にすらナニを手に入れたのかがわからない。

そしてその中でも選りすぐりの祝福を持つ者たちが「楽園機構」に配属される。

 

そんな「楽園機構」支部長の会議に参加する中、虚空を見つめる女性にカムロが話しかける。

 

「マスミン、また息子君のこと考えてるでしょ。

いけないんだぁ、第三支部長なのに会議さぼっちゃぁ」

 

くすくすとわらうカムロのことを忌々しそうに眺める真澄。カムロとしてはここで起こらせて闘争の一つでも起きればもっと満足できるのだが、「寝不足と過労の積み重なった彼女なんてつまらないか」と思い直す。

 

「ああカムロ。あずさはなぁ、とてもいいこなんだあ。このまえなんてこんな不出来な私ことをなぐさめてくれたんだぞ?きっとあのこはテンシのうまれかわりだ」

「あちゃー、こりゃ本格的にダメそうだ。頼むよ「広域」さん」

「まかせろー。・・・なに、子をもつ母はな、強いんだぞ」

 

二人の絶妙に緩いやり取りでまじめな会議だったはずが、日頃の激務への愚痴大会に傾きだす。もれなくシシガミの額に青筋が走る。

まじめな雰囲気で進行するものの半数以上の支部長が話を聞かない、なんとも危機感のないこの雰囲気こそがこの国の防衛を担う者たちの日常であった。

そして我慢の限界を迎えた「楽園機構」統括 獅子噛《シシガミ》 ハルマが爆発するのも、予定調和の一幕であった。

 

 

 

 

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