クソの役にも立たない転生特典なんかより筋肉だろ   作:糖分至上主義

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オカピ ヤツは三大珍獣の中でも最弱。

どうも動物園満喫中の俺です。

 

「いいか梓。ここにいる人たちと一緒にいろ。母さんは少し、ほんの少しだけ様子を見てくるから。もし大人たちがどこかに行きだしたならそれについて行きなさい。わかったね?」

 

母さんが真面目な顔で此方を見つめてくるから頷いておく。

酷く心配そうな顔をしながらも「いい子だ」と俺の頭をひと撫でしてから、急いで何処かへといってしまった。

 

行ってしまった...。

 

「よし、俺も現場に行くか!」

 

母さんはああいってたが、ぶっちゃけどっか行っても大丈夫だろ。万一いないことがバレても「トイレ...」で乗り切ろう。

なんてったって俺は5歳児なのだから。

 

とは言え、母さんの行った方向にただ行くだけじゃあ、引き返してくる母さんと鉢合わせする可能性がある。

 

(反対方向は...何があるんだ?)

 

案内板を見る。フードコートなんだしあるだろうと思ったら、案の定巨大な電子モニターみたいなやつに施設案内図が浮かんでいた。

 

「母さんが言ったのは?管理室の方ね。

反対側は...っと。お、偶蹄目エリアだって。なんて読むんだこれ」

 

とりあえず通路から真っ直ぐ突き辺りまで進んでいけばたどり着くらしい。

 

「お、おい君。こっちに来なさい」

 

んぉ?話しかけられた。

緑のポロシャツにジーンズ、やさしそうな顔したおっちゃんだな。

いやでもなんかやけに汗かいてるな。

 

「な、なんですか?」

「君一人なんだろ?おじさんとあっちの方へ行こうか。皆も向こうに移動してるから。ね?」

 

ふ、不審者だー!

こんないかにもな台詞言うやつが本当に存在するとは!!

ちょっぴりの感動と大きな不快感から顔が引き攣る。

 

「おおお母さん待ってるので、あの、行きません」

「ああ、おじさん怖い人じゃないから大丈夫だよ!それに君のお母さんだってあっちに避難してるさ!ほら、だからね」

「行きません!」

 

っべー。まじっべーよあのおっさん。

真性のヤツだろあれ。

 

「ま、待ちなさい!!」

 

うお、追いかけてきやがった。まじかまじかマジか!一発ぶん殴るか⁉…あいやそれだと他の人に助けを求める方が、って。アレ?誰もいなくね。まじでみんなどっか避難してんの??

 

周囲を見渡しても誰もいない。

どころかあのおっさんもすっごい後ろでこっち眺めてるけど、すっげー渋い顔しながら踵を返し出したな。

あれ?まじでいい人だったんか??禿だぞ。顔真っ赤だったんだぞ!

 

あ。

・・・よし!当初の目的通り偶蹄目エリアの方に来れたな。さくせんどおり!

俺は何とかエリアに向けて走ることにした。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

唐木真澄は非常に苛立っていた。

警備員室は愚か、近場の放送室、その横の管理室まで覗いても職員が1人も見当たらなかったのである。

 

(クソ、どうなってるんだ。室内には中で争った形跡はなく、食べかけの軽食まで残っていたんだぞ!

それに座席も空調も暖かい..。まるで人が掻き消えたみたいじゃないか。

1度梓の元に...いや、私だけじゃ対応しきれない。本部に取次だけでもしておくか。チエリだけでも来てくれると嬉しいのだが)

 

管理室にある全ての設備の状態を監視できるパネルには非常事態をしめす真っ赤な画面が映っている。

それを真澄は慣れた手つきで操作し、緊急カードを取り出して読み込ませる。

 

(ああ、早く読み込んでくれ。梓...頼むから無事でいてくれ。もうすぐにでもそばに行くから............)

 

〈コチラ 楽園機構相談窓口で ございます。緊急の回線での 取次ですね。お名前と ご要件を お話ください》

 

聞きなれた機械の合成音声を聞き、真澄の神経は研ぎ澄まされる。皮肉なことに常日頃から彼女の神経を疲弊させるこの一連の動作が、彼女を逆に冷静にさせているのだ。

 

「こちら楽園機構第八支部支部長 唐木真澄だ。

E-09区画にて何者かの襲撃を確認。

敵影目視できず。規模未知数。

第五支部支部長 知恵里《ちえり》重《かさね》防衛官及び幾人かの防衛官の派遣を要求する。」

 

〈知恵里 防衛官は 現在 有給休暇を取得され て 総本部にはおられません。最も近場におられるのは 導《どう》黒檀《こくたん》防衛官になります。そちらに 取次いたしましょうか〉

「いや、チエリで頼む。おそらく端末は持ち歩いているはずだ。それから私は今から施設内の避難所で防衛態勢に移行する。対応できない可能性が高い」

 

一度通信を切り管理パネルを操作する。

(一旦はこれで言い。異常が検出されているのは...管理室のみだと!?そんな馬鹿な!!)

 

真澄はまたぶり返してきた焦燥を抑えながら再度パネルを操作するも、出てくるのは同じ画面ばかり。

これではまるで透明人間がこの場に急に表れ、そしてかき消えたようではないか。

過去のログを見あさるように、監視カメラの映像を巻き戻しだす。

鍵を開け職員が入室してくる映像が流れだす。ここまでは異常なし。

映像を早送りしながら三画面で複数同時に確認をする。こういうとき、自身の「祝福」は非常に便利で助かる。

 

(あった。食事を食べている映像、今から30分ほど前か...)

 

そこに映っていたのは...

 

『おいおい、まーた熱源感知機器がイカレてるぞ。いい加減新品の機材のはっちゅをせにゃならん。』

『別にええやないですか原さん。どーせショチョーも取り合ってくんないっスよ。こんな一般保護施設』

 

二人の職員が少々不真面目な態度で監視の仕事を行っている。もう一人後ろのほうで食事をしている職員もいる。

再生を押す。停止させる。再生。停止。再生。停止。

繰り返すこと何度か。再生。話している二人組と一人食事をとっているもの。

停止。話している二人組と、後ろの机の上に置かれているサラダの残ったプレート。

 

(ッッッ消えた!?・・・落ち着け、、焦るな、、)

 

再度消える前の会話からスロー再生で映像を見る。

胸の前に抱えて食べていたプレートを机の上に置く。トマトをフォークでつつきサラダを残す。そして、消える。

トマトをつつく。フォークを置く。膝より上が消える。すべて消える。

フォークを置こうと机に手を近づける。肩より上が消える。すべて消える。

フォークを、今!

 

(見えた!大きなナニカが職員を覆い隠している!!!これが今回の犯人か!?だが、だとしたら、これは明らかにナニカからの侵略を受けているッッ!)

 

そこからは一瞬の出来事であった。一人、原と呼ばれていた中年の職員が消え、それを目の当たりにした若い職員が目を見開く。

しかし、『は』と一言困惑の声を発する間もなくその若い職員も間もなく消えた。

以降真澄が入るまで何の操作も行われず、モニターに搭載された人工知能が自動的に警報を鳴らしていた。

 

気が付けば真澄は踵を返していた。目指すはフードコート。梓のもとへと一刻も早く駆けつけんと走り出した。

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

だめだ。おっさんと一緒に行動しとけばよかったか?

あれから誰とも出会わないまま、施設を寄り道して突き当たりまでやってきた。

というかあれだけいた人達は逆にどこに行ったんだ?

ま、マズイ。。。さすがにこんなんで一人食堂にいたら間違いなく母さんに泣きつかれる。

お、おおお落ち着け俺!こういう時はいったん俺のすばらしい勘に従うのがいい。大丈夫。今まで最悪の事態はそうやって避けてきたんだ。へ、へへ。今回も何とかなるさ。なるんだ。なる、よね?

 

 

無菌室のような白一色の、一周まわって考えたやつ馬鹿だろと思うような廊下の突き当たり。そこには左の方の壁に「何とか目」と書かれたプレートが引っ付いているだけだ。

一面が大きく分厚いガラスになっている空間内に、自然風景を再現したようなホログラムが投影されている。真っ白な廊下から覗いているからか、随分と不格好だ。

手前の方には川の流れる山麓みたいな風景と川に頭を突っ込んだに鹿がいる。こいつらも可愛んだよな。それでもあの風を受けて髪をなびかせるお馬さんにはかなうまいが。

てか「何とか目」ってそういう動物のエリアなのか。牧草地のような風景の場所には牛も羊もいる。

おいおいおい、やっぱり俺の勘って強化されてるんじゃん。最近モンスター娘に反応しなかったからって疑ってごめんな。帰ったらプリンあげるね。

 

そう俺が浮かれていると。

 

「ぱあぱ?」

 

ぎ..ぎ.....ぎ

 

聞こえるはずのない声が聞こえ、錆びたブリキのおもちゃのようにゆっくりと横を見る。

やっぱ俺の勘どっか壊れたか?

 

「まじか」

 

明らかに俺より小さな女の子が一人で座ってやがる。「なんでこんなとこにいるんだい?」とか「お名前は?」とかの質問の前に俺はその子から目を離せなかった。

 

『びっぐいんぱくと』とでかでかとプリントされたぶかぶかのシャツを着た彼女は、真っ赤なほっぺを膨らませてこちらをにらんでいる。

オカピの上に乗って。

 

 

オカピ:体系や体毛の色からシマウマの仲間だと思われがちだが、実はキリンの仲間。熱帯雨林気候に生息し、オスには角がある。世界三大珍獣の一種ともいわれ深い森とそこから降り注ぐ日光に紛れ、実際に見つけるのが難しいとされている。

オカピの生息数は減少傾向にあり、自然遺産指定された自然保護区が存在している。

 

 

「ぱあぱっ」

 

っは。あ、危ない。謎の電波を受信した。

いったい誰なんだこの子。無防備に俺の方に近づいて来たぞ。

ムニムニのほっぺしやがって。子供特有の高い体温と合わさってめちゃくちゃ楽しいぞコレ。うりうりうりうり。絶妙に父性くすぐるやつだな。いっちょ前にお姫様カットしやがって。

俺は気づいたらほっぺたを引っ張っていた。

 

「ぱあぱ。むこういく」

「向こうになにかあるの?」

 

向こうったっておそらくこの先は出口にたどり着くはずだ。外にある別の建物(爬虫類エリアとか)に行きたいとか?

 

「てか俺もそろそろ」

「ぱあぱ。あっち!」

 

俺の声にかぶせるように女の子が話しかけてくる。そんなに焦って何かあるのか?

あ、ついにオカピまで俺の服を噛みだしやがった。

おいおいそんなに引っ張るんじゃない服が伸びるだろ。

オカピをなだめるように鼻筋に手をかざしてやる。

 

バクン

 

急に目の前が真っ暗闇に包まれる。

急に停電したのかと思ったらなんだか異臭も漂ってきやがった。

うん?でもなんか足元を引っ張られてる感じがする...というかあの子の声も聞こえない...

あれぇ......?

 

あ、なんか壁が迫ってきた。

うっわグニグニしてて気持ち悪!?生暖かいのが最悪だわ。壁から触手みたいなのものびてきたし、これもしかしてR-18展開だったりする?

 

・・・おら、明らかに弱点みてーな突起ぶら下げやがって!

 

思いっきり天井からぶら下がっている突起物をぶん殴ると、視界が明るく開けてくる。

 

「ぱあぱ!あっちいこ!ぴーちゃん引っ張って!!」

 

おおおぉお!?痛い痛い痛い。

オカピが俺のズボン咥えて廊下を引きずりやがる。

今更ながらに停電になったわけではなく、視界を覆われただけな事に気がついた。

なぜなら天井を見上げるようにひっくり返っている俺の目には、ダチョウのような足を持つ、巨大なカメレオンが口を大きく開いて、俺を飲み込もうと舌を伸ばしている姿が見えているからだ。

 

「ううぉおおお!」

 

あと数センチもすれば俺の額を舐りそうになっている舌の鋒を掴む。その下は異様に蕾が多くあまり長い時間触っていたくはない。

同時にズボンにかかっていた力がなくなり、女の子の叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「ピーちゃん、ダメ!止まって、とまって!」

 

足の先ではオカピが女の子を背中に乗せながら全力で逃げ出していた。

いいぞ、そのまま安全な所まで逃げろ。でも出来れば俺のことは誰にも伝えないでね。

 

「お前、この前近くの公園にいやがったカメレオンと同じ種類だろ。女の子泣かせるやつは許さねえぞ俺ァ」

 

舌を握りしめたまま体制を整えなおす。

カメレオンの皮膚はてらてらと光っているが、ゆっくりと周囲の景色と同化しだす。

腕の中に握りしめているピンク色の舌を思いっきり握って逃がさないようにするが、それも一瞬で溶けるようにして空気だけになってしまった。

 

「お前らの対処法は知ってるぜ。偉大な魔法使い様に感謝だな」

 

以前公園で戦った時も今みたいに透けて攻撃が当たらなくて困った。

このカメレオン、空気みたいに体を透過させられるみたいで姿かたちから匂いまで全てを隠せる能力を持っていたからだ。

しかし俺は知っている。絵本に出てきた偉大な魔法使い様はコイツみたいな敵を「ものすごく深い穴を開けてそこに落とす」ことで倒していたんだ。

 

「お前らって足元は透過じゃなくて空気と同じように()()させてるだけだよなあ!!!」

 

悪いが透過していようと俺の目からは若干の違和感として残ってるんだわ。

だから手を床に突っ込んで、

 

「俺式【天地崩壊】」

 

思いっきり天井に放り投げた。

 

地面は勢いそのままに天井を貫通してまっすぐ上に飛んでいき、次第に塵となり飛散していってる。

物語ならあのまま超高空から落ちてきて潰れるはずなんだけど、一応念の為に拳を構える。

 

ゆっくりと、しかしだんだん速度をあげて落ちてくるカメレオン目掛けてタイミングよく拳を振り抜く。

 

 

・・・今度こそ、完全に上空に吹き飛ばされたよな。あれだとこの国をおおってる防壁とかいうやつに激突して死んでそうだ。

以前公園にいたやつもこうしときゃ良かったな。あの時は同化の対処法が分からないまま殴り続けて気づいたら足だけ潰してたんだよな。

めちゃくちゃ深く穴掘って埋めたけどあれって結局死んだのかな?一応今度確認しに行くか。

 

「あ、帰ってきた」

 

カメレオンじゃなく、女の子が今度はワニに乗って帰ってきた。

 

「ぱあぱぁぁぁ」

 

めちゃくちゃ泣きながらこっちに突進してきた。うわあ...めっちゃくっちゃな既視感。

ワニも俺の靴の上に前足をテシッと置いて固まってしまった。

おお、おお、よう泣くなぁ。こんくらいの子供ってのは。

とりあえず抱きしめてなだめておく。秘技かおる落とし。これには母さんもイチコロの超奥義だ。

 

「......」

 

これは...どっちだぁ??

うんともすんとも言わず、女の子が無言で胸に顔を埋めたまま静かに泣いている。

な、名前とかぁ.........無理そうですねハイ。

仕方ない。一旦あのおっさんの言った避難所とやらまで引き返すとしよう。

そんでそのまま何食わぬ顔で合流したら母さんもそのうち来るだろ。なんか仕事もああいう化け物を相手にする感じのやつだし。なんならバリバリ前線で戦ってるみたいだし。

俺は知ってるんだ。母さんが部下っぽい人に電話で連絡してるのを。大抵家にいないのは休みがない訳じゃなく、休みでも駆り出されていることを。

 

そうして俺は胸の前に女の子を、背中にワニを装備して元きた道を歩くのだった。

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