クソの役にも立たない転生特典なんかより筋肉だろ 作:糖分至上主義
無言の幼女と無言のワニをつれ、真っ白な廊下を歩く。我ながら最低だとは思うが、大きく泣き叫ぶような子じゃなくて非常に助かった。コアラのように腹から上を占領されるのもまだ我慢できる。なんなら首元にある頭がちょうど俺の顎置き場にいい。
道中誰とも出会うことなく、動物たちのいる部屋ではどこのエリアを見ても全員1箇所に固まっていた。
なんとも言えない気まずさを感じながら施設をウロウロと歩く。
1度フードコートまで戻ったのは良かったものの、結局避難所の方角(それもおっさんの逃げただけなので確証は無い)しか分かっていないので困りものだ。
俺の体躯がお世辞にも大きいとは言えないから思いっきり走りでもしたらどちらかを振り落としそうだし......
あれ?俺これ詰んでね?怒られるの確定演出じゃん。
強烈に気分が盛り下がるのを感じながらベンチに腰掛ける。
「
「梓!」
ところで俺の耳はめちゃくちゃいい。意図的に音を排除しない限りは一キロくらい先なら小声の会話も余裕で聞き分けられるくらいには。遠くから聞き覚えしかない声がずっときこえている。
だからだろうか。ずっと冷や汗が止まらないや。
「どこにいるんだ梓!頼む返事をしてくれ!!」
かあさんがこっちにやってきている。
どぉどどどうしよう。逃げるか...それをしたら本格的にどうしようもなくなりそうな気がする。
深く息を吸い込み、覚悟を決める。
南京生活、延長かなあ.........やっぱちょっと
「ねえ君、どうやら俺の母さんが迎えに来たみたいなんだ。これで安全なところに行けるね」
一応話しかけてみるけど反応がない。というか途中から泣き疲れて眠ってしまったみたいだ。
なんとなしに頭を撫で続けること5分。俺とは全く違う、柔らかくサラサラとした髪質に夢中になっていたから体感では1分くらいで、いつも以上に顔色を悪くさせた母さんがやってきた。
「あずさぁ、無事だったんだなああ」
既に泣きかけの表情が心に刺さる。
なんと声をかければいいか迷っていると、ワニヲ(命名:俺)が腰の当たりをペシペシとしっぽで叩いてくる。
励ましてくれてるんだなっっ!俺ちょっと頑張るよ!ありがとな。と声には出さないが感謝を伝え、コチラを抱きしめようと猛然と突き進んでくる母さんに大きく声をかける。
「ごめんなさい母さん!トイレ探してたら迷子になっちゃったーーーー!」
あれ?なんか間違えた。
「もう、もうもうもう!どれだけ私が心配したとおもっているんだ!この大馬鹿者が!」
グハッ
分かってはいたがいざ母さんに叱られるとものすごく心に負担を感じる。まるで足場が崩れてビルから真っ逆さまに落ちる悪夢のように。
負荷なんか感じたことのないの俺の身体が、しかしとても熱を持った母さんの手をものすごく重く感じる。
「お前を探して、避難所に行った時どれだけ心配を覚えたか!!!
食堂にもいない、山本という方がコチラに来たと教えていなかったらお前を見つけられなかったかもしれない」
う、息が上手く吸えない。心がシズム。苦しい。。鼻の奥が痛い。。。
母さんが涙を貯めた真剣な顔つきで、俺のことを真っ直ぐに見つめる。
「頼む。お前は私の子供なんだ。ずっと手の届く範囲で、把握出来る距離で、同じ時間を生きていてくれ」
ハラリ、と熱い何かが俺の頬を伝う。
俺が悪いはずなのに、わかってたはずなのに涙が全く留まる気配がない。
「ご、ごめ"ん、あ"ざい、、が、あざ、、、、ん"」
「いいんだ。いいんだよ。お前が生きてくれていたらそれで。それだけでいいんだ。だから危険なことはしないでくれ。
私も悪かった。今度は絶対に置いて言ったりなんてしないからな」
抱きすくめられ、肩を強く抱きしめられる。
どうしようもない俺を、それでも大切だと愛してくれる母さん。
俺は改めて考えなくちゃ行けないと思った。生まれ変わった意味を。新しい人生についてを。
■■■■■■
母と子(と幼女とワニヲ)が抱きしめ合う神聖な空間に不躾な輩が乱入する。
はるか遠い場所で最も繁殖していた彼らはアゲモと呼ばれる特異種で、高い知能と世界と同化することであらゆるものを貫通できるふたつの特性を持っていた。
モグラ型特異種の掘っていた穴を経由して、総勢100もの数が、その特性を持ってして誰にも気づかれずにこの国へと侵入した。
しかし侵入した矢先、同族が一瞬で狩られたことを見ていた個体が情報を伝達したため今まで息を潜めていたのだ。
しかしそれも終わり、この施設へと各所から国内のアゲモが集結しようとしていた。
最も自分たちにとって危険性の高い個体が弱っているのだから。
「ん?梓...この子はどうした?」
「グス...見つけた、から、、一緒にいた」
「背中のワニはどうした」
「一緒にいたから連れてきた...」
そしてその魔の手は既に届きうる距離までやってきていた。
「くるルルる。ルルル、る、ル」
周囲に聞こえる鳥のような声。
それと同時にものすごい速さでピンク色をしたやりがい全方向から飛んでくる。
それは空気のように真澄と梓に接近してくる。
視認できる梓は真澄に視界を隠されていてまだ見えていない。
しかし、同時に梓の危機感も全く反応していなかった。
「せっかくの親子の会話中だろうに無粋者どもめ。
梓、しっかりとその子を抱えていなさい。そして母さんから離れるんじゃないぞ」
一瞬にして全方向の槍のように鋭く伸ばされていた舌が貫かれる。
「かあ、さん?」
梓の目にはしっかりとソレが見えていた。
視界内に入る何十ものカメレオンが、しかし全て舌やどこかしらを光の針に縫い付けられている姿を。
「クルルウラ?ウクルラ、リラ」
【真澄鏡・有頂天】
「悪いがお前たち、既に私の射程圏内だぞ」
梓の瞳には映っていた。大きな蓮の葉を描いたような鏡が空中に浮かんでいるのを。
真澄が言葉を発する間にも次々と鏡から光の針が射出され、空気と同化しているはずのカメレオンを次々と撃ち抜いていく様を。
「ルル、グリラル!」
しかし1匹が抜け出して、仲間の亡骸をおおって突進してくる。
突進速度が多少落ちているとはいえ、それでもトラックが突っ込んでくるのと同じようなもの。
後ろに梓たちが居る中、真澄は避けることもままならないだろう。
「母さん!(迎撃...は無理だな。母さんを連れて回避!!)」
「梓、大丈夫だよ。心配するな」
【真澄鏡・光塵】
真澄が両腕を伸ばし、親指と人差し指で四角を作る。その中には今にも彼女ら親子を潰さんと突進してくる
「ファイア」
ギィイイイン
鏡の中心から1本の鋭い光がこぼれ落ちる。
そして真っ直ぐに降ってきた光の柱が激しく金属が擦れるような音をあげ、火花を散らせる。
「ふむ、尻尾を残してしまったか」
そこには先程までの怪物はいなく、ソレの尾と思わしき紫色の細長いものが落ちているだけだった。
「心配なかったろ?梓」
「は、ははは(俺ってもしかして調子に乗ってただけの雑魚なんじゃ...)」
■■■■■
「ほんっとうに、うちの娘を助けていただいてありがとうございました!!なんと言ったらいいか、ああ、もう..!」
「それなら私じゃなくこの子にいってあげてください。この子がそちらのお子さんを保護してなかったら間に合わなかったかもしれないんですから」
母さんの独壇場を見届けたあと。
俺たちは避難所まで母さんの案内で連れていかれた。道中ワニヲを爬虫類エリアに返しにもいったけど、今に至るまで幼女はすっかり眠ったままだ。そんなあの子も保護者に連れてかれたけど。
「娘を助けてくれてありがとう。僕は父親失格だね全く...」
俺の方には父親らしい若い人が来てる。
この人ここの施設の研究員らしくて休暇に来て巻き込まれたらしい。可哀想すぎる。
警報がなったからまっさきに避難所への案内を率先してやったらしいけど、その間にあの子が逃げ出したらしい。
「あの子めちゃくちゃ元気そうですもんね。頑張ってください」
「ははは...君は随分と賢い物言いをする子だね。ほら、好きなだけ持っていってくれ。君の好みに会うかは分からないけど今できるお礼だよ」
お、メープルバーあるじゃん。好きなんだよなこのナッツがゴロゴロしてる感じ。
そんなわけでめちゃくちゃ感謝されてお菓子までもらったから俺としては大満足だ。途中大泣きしたのは胸の奥にしまっておこう。
「ごめーーん澄ちゃん。遅れたわ〜」
うわでっっっっ。
・・・頭から白いフードケープみたいなのを被った女の人が母さんに突撃かましてる。
あの被り物に白い花柄のエプロン、ロングスカートというすごい保育園の保育士さんみたいだな。めちゃくちゃ若く見えるけど。
「いや、来てくれただけでありがたいよ。こちらこそ無理を言ってすまなかったなチエリ」
「いいのよも〜。澄ちゃんのお願いだったら私どこでも駆けつけるわよ、むん!」
母さんの知り合いらしい。
てかそうじゃなきゃ突撃なんてかまさないか。まあ母さん結構精巧な顔つきというか、体つきも『肉体美!』って感じの女性だから結構とっつきずらそうではあるもんな。
言葉遣いも割と粗雑ではあるし。
「梓、此方の人に挨拶しなさい」
「あらあ〜。あなたが澄ちゃんのお子さん?可愛いわねえ」
「唐木 梓です」
「コイツは智恵理 重。私の...同僚みたいなものだ」
「も〜同僚だなんて可愛くないじゃない!私と澄ちゃんはね、ベストフレンド、ってやつなのよお〜」
母さんとチエリさんは真逆の性格だけど、やり取りから仲の深さが垣間見える。
母さんの口元が体感2割増しくらいで緩んでるし。前髪をひと房くるくると指先で遊んでるのできっと嬉しいんだろう。
「それじゃあ早速ですまないが頼めるかチエリ」
「まっかせといてえ〜。遅れた分は取り返しちゃうんだからあ!」
【開幕・まどろみの前奏曲】
Laaa O'dasi Klaus humns lia temptis
なぜだか神聖と感じるような歌声が空間に響き渡る。
それと同時に避難所にあった不安とか苛立ちだとか、そういう感情が洗い流されていくのを感じる。俺自身も心の奥が暖かくなるのを感じる。
【無言歌・暗闇などなく】
Humm hum haaaalala haa^laaa lala
今度は鼻歌に変わり空間で音符が跳ねるのが目視できるくらいに楽しい雰囲気に満たされる。
それと同時に避難所の扉が開け放たれ、外部の空気が入り込んでくる。
「これでおしまい。短い演奏にお付き合い頂きありがとうございました」
【終幕・ヴィアタ・テンペスト】
チエリさんが一人で世界を支配している。
歌と動きだけで、俺たちは彼女に《『魅せられて》》いた。
それは旅人が、人と関わり、別れ、各地の灯火を見守る歌だった。
旅人は狩人でもあった。旅先の食料を求め獲物を探して探して、ついには見つけられず空腹のまま夜を明かすことになった。
しかし、彼は星空を見上げただただ幸せそうに微笑んでいた。
一瞬の、けれどたしかな人生の1ページを見せられた俺は生まれて初めて感動というものを味わっていた。
とりあえず今のこの気持ちを誰かに吐き出したくて、共感して欲しくて、周りを見渡しそして母さんの方を見上げる。
「どうだ梓。チエリはすごいやつだろう?」
「うん!すっごいんだ。急に世界が見えて、チエリさんが旅人みたいになって、それから、それから...」
「ふふ、ゆっくりと教えておくれ」
言葉が上手く出ずにまごついていると、少し額に前髪を貼り付けたチエリさんが帰ってきた。
「うーん、私の方じゃあ反応がなかったわあ〜。絶対とはいいきれないけど、ひとまず大丈夫じゃないかしらあ。大きな範囲は私じゃ無理だからあ。しばらくは詰め作業になるわねえ」
「ああそうか。いや、お前が言うんだから今日のところはいいじゃないか。あとはこの地区の担当に引き継ぐさ」
何やら難しい会話をしている。
会話についていけない俺はとりあえずさっきの演目?を思い出して脳内再生を繰り返している。
「見てみろチエリ。梓はすっかりお前の演奏に夢中になったようだぞ」
「あらあら。可愛らしいお客さんはいつでも大歓迎よ〜」
「ああ、言い忘れていた。梓の頭を気安く撫でるなよ智恵里重」
こうして慌ただしく、だけど何かを掴んだきのしたおれの誕生日は終わった。
サプライズで誕生日をチエリさんが祝って歌ってくれたのは誰にも言わずにそっと秘そうと思う。
母さんには特に。