「ホームセンターのバイトに求める事多すぎ問題…」
遅めの昼休憩が被ったレジバイトの中嶋さんはロン毛の茶髪の毛先をくるくると指で弄りながら溜息を吐いた。
「どしたんすか?また何かクレームとか言われました?」
「いやクレームとはちと違うんやけどなぁ、DIYコーナーのレジとかにおるとめっちゃ工具とか部品の事とか色々聞かれるやん?アレがなぁウチあんまり好きじゃないんよなぁ」
あちち、と休憩室の自販機のホットコーヒーを飲みながら溜息をもう一つ吐いた。
「中嶋さんは真面目っすから気にしちゃうんすかねぇ…」
「真面目って言うか何なんやろね?『え?ホームセンターで働いてるのにそんな事も知らないんですか?』みたいな感じに見られるが個人的にすっごく不愉快なだけって感じよ」
「あー、スッゴイ分かります。アレ直で言ってくる汚客もいるけど、そういう感じで見てくるヤツも相当鬱陶しいですからね。こちとらレジバイトだってのに知るわけねーだろって」
例えばの話、そこで働いてる人なら全部知っていてしかるべきと考える人もいるかもしれないが、ホームセンターでオールマイティなバイトは基本いないのである。
社員であればある程度の知識がいるので新入社員でなければ対応可能ではあるが、バイトは別である。
そういう教育は一切受けていないのだ。
だからそういったコーナーレジにいる人は担当者やら社員をスポット放送で呼んだりインカムで呼んだりしてお客さんの対応してもらうのである。
そもそも、バイトとして受けた教育といえば、品出しのやり方、商品の補充、レジの開け方、閉め方、クレジットカードの支払いの受け方やスマホ決済のやり方、お金の補充の仕方や使える金券の種類の説明、2千円札はレジ中に閉まって千円札2枚を取り出して対応、高額商品についてるロックの外し方、よく聞かれる商品の売り場の場所の説明、エトセトラ、エトセトラである。
工具や電化製品や水道パーツが好きで元々知っていたり、DIY担当のパートの人とかと仲良くなってその手の知識が増えたり、バイト歴が長くなると似た事を尋ねられたりする事が多くなりちょっとした知識として簡単な説明は出来るようになる。
出来るようにはなるがちょっとした変化球な質問はチンプンカンプンなのだ。
「そうなんよねー、こっちとしては応募にレジって書いてあった仕事してるだけなんよ。だからDIYコーナーとか資材館のレジ苦手なんよなぁ」
「ホントにそうっすよねぇ。ましてや偉そうに聞いてくるジジィにババアなんざさっさと社員に接客代わって欲しいのなんのって」
「めっちゃ分かるわー、あれなんなんやろね?偉そうに聞いて良い接客して貰えると思ってんのかね?マジでアホとしか言い様ないよねぇ」
「『この前あった商品ないんですけど?』とか本当に聞き飽きましたよ…まだ説明聞いてくれるお客さんだったら全然良いんですけど頭ごなしに文句言ってくる汚客だけは本当に無理です」
そもそもの話、その場になけりゃ基本はない物と考えてほしい。
普通に考えて売れ筋の商品だったりすればバックヤードにまだ在庫はあるかもしれないが、ピンポイントで欲しいサイズの電材やら工具なんて置き場になければないのだ。
木材にしても売り場になければそのサイズはない。
但しそれは今はないだけであって店で売られてる物なら新たに発注をかけたりしたら早くて1〜2週間で来るらしい。
え?もっと早く来ないのかって?
ここは密林や楽しい天国の様な通販サイトではないのである。
外国とかに直で本社が発注してるのを支社に配分して、大型トラックとかで運んで来るんだよ?
普通に考えたらそういった大きな資材は一ヶ月以上はかかるが他の近場の支社から分けて貰ったり、グループの在庫置き場的なとこにあればスムーズには来るだろう。
そう言った意味もあって早くて1〜2週間と余裕を持たせて言うのである。
そもそもそんなにすぐ欲しいのならあるとこで買えよって言いたくなるのはもうしかたない。
入荷時期なんてそんなの担当の社員に聞かなくちゃ分からない。
どっかの別のお店には社用携帯端末とかでいつ入荷予定とか分かるらしいが、残念ながら我が職場にそんな近未来の道具が普及するなんてドラえもんが実在すると言った方がまだありえそうな位なのである。
「そもそも結束バンド一つとってもタイラップとかインシュロックとかケーブルタイとか他の呼び方あったりしてややこしいのなんのって…」
「あぁそれも鬱陶しいですけど今川焼とかベイクドモチョチョとか人工衛星饅頭とかと同じもんだと思ったら仕方ないって諦めがつきましたよ」
結束バンドかぁインシュロックって聞くとあのギターの人とか思い出すなぁ。
2期決定したは良いけど原作読んでるから分かるけど2期綺麗に終わるところなくね?大丈夫そ?
「エチっち…人工衛星饅頭は地方ですらないよ、あのお店で買ったの丸わかりだよ?」
「そのエチって渾名なんとかならないんか?」
越中(えっちゅう)という苗字でエチっちは何かエッチィ感じするから嫌いなんで勘弁して下さい。
『係員は4番レジまでお願いします。係員は4番レジまでお願いします』
「うわぁ多分雪降ってきたっぽいよ!?もう休憩終わりだし、資材コーナーの応援エチっちも行こ」
「せめてエチュっちにしてくれません?」
今日も今日とて店内放送がなり響く、あぁ早く蛍の光が流れてくれと願いながらカッパを被って資材コーナーの商品をブルーシートで覆う支援に向かう自分に乾杯。