イナズマイレブン 闘将と呼ばれた男のヴィクトリーロード 作:ネオニューンゴ
二戸川中学との練習試合翌日、晴れて南雲原中学サッカー部の一員となった俺は練習に参加するため学校へと足を運んでいた。いつも多くの生徒の姿が見られる校舎は日曜日のこの時間となるとほぼ居らず不思議な感覚に陥る。学校の校舎に備え付けられた時計の針は7時を示しており集合時間は8時、まだ1時間程時間はあるが早く来たのには理由がある。
まず第一に1年生であり新参者である自分が練習がスムーズに始められるためある程度準備をしておこうと思ったからである。昨日の内に笹波と百地先輩には伝えてあり部室の鍵は預かっている。部室である旧倉庫を開けると年季を感じさせるカビ臭さが鼻を突き抜け思わず顔をしかめる。
「ゲホゲホッ!ったく健全なスポーツする中学生が過ごす環境じゃねぇなこりゃ、まぁいいやとりあえずボールとコーンを出しちまおう」
練習で使うであろう道具をグラウンドへと運ぶため部室と往復する。当然であるがある程度重量のある道具を持って部室とグラウンドを往復するのは体力を消耗する。いや、言ってしまえばこの程度で体力を消耗していると感じる程俺のスタミナは落ちている。全く嘆かわしい事だ、つい1年前までバリバリのサッカー少年だったというのにこのザマだ。昨日の試合終わりにもそれは痛感していて何故か軽い筋肉痛になるし体が重くてしょうがなかった。まぁそういう時に入る風呂は格別なものがあるのでそれはそれと良いのだが。時の流れと言うのは残酷だ、まぁ1年ではあるのだが。30分程掛けてある程度の準備を終えるとチラホラと真面目なチームメイトが顔を出し始める。
というか意外にも俺を除いて1番初めに顔を出したのは桜咲先輩だった。人は見かけによらないってのはマジらしい⋯⋯いや流石に失礼か?
「おはようございます!桜咲先輩!」
「おお風凪か、おはよう、お前早いな⋯⋯いやまぁイメージ通りではあるのか?」
「失礼承知で言わして貰うと俺からすると意外でした、てっきり四川堂先輩か笹波あたりが最初に来るかなと思っていたので」
俺がそう言うと桜咲先輩は苦笑しつつ「アイツ等変なとこでマイペースだからな」と答えながらベンチに腰を下ろすとスパイクに履き替える。軽く体を解し終えるとこちらに向かってボールを蹴って来た。
「折角だしアップ付き合えよ」
「あぁそれなら喜んで」
そのまま俺達はある程度距離を取って軽いパス練習を始める。しばらく無言でパスを続けるが何となく沈黙の時間に耐えられ無かった俺は軽い雑談を桜咲先輩に振ってみる。
「ちなみに先輩の予想だと次来るのは誰なんですか?」
「ん、あぁ⋯⋯まぁ忍原か古手打辺りだろうな、古手打は剣道やってたからか生来の気質なのかしらんがかなり真面目だし忍原もあぁ見えてかなり真面目だ」
「成る程先輩が言うと説得力ありますね」
俺がそう答えると桜咲先輩はかなり強めのパスを蹴り放ってくる。そのパスを胸でトラップすると先輩は軽く舌打ちをしたため俺は軽く「スンマセン」と謝り話を続ける。
「そういや来週のフットボールフロンティア予選1回戦の相手ってどこ中なんですか?まさかいきなり九州きっての強豪北陽とかないですよね?」
「流石にそりゃねぇよ、てかもし北陽相手だったら雲明の奴朝5時集合とかにしてるんじゃねぇか?」
そう言われて思い浮かべるのは無表情な笹波が勝つためにはこれしかないといって練習時間を告げる姿、成る程確かにありそうで俺は思わず吹き出してしまう。
「ブッ!いくら何でも中学の部活でそりゃないでしょ?って言いたい所ですけどアイツなら言いそうなのが笑えますね」
「だろ?それで話を戻すと西ノ宮中っていうかつてウチとライバル関係にあった学校なんだと、まぁそれ程強い学校って訳でもないみたいだが、それで生徒会長様はそこに勝たないとサッカー部の活動を正式に認めないとか言ってたな」
サラッと今とんでもない事言わなかったかこの人?何だその条件は?ていうかウチってまだ正式にサッカー部として認められてた訳じゃないのかよ。
「まぁ勝てば問題ねぇんだ、丁度強力な後輩様も入って来てくれた訳だしな」
今の桜咲先輩の言葉で何か絶妙な負けフラグが立った気がするが⋯⋯それは一先ず置いておくとしよう。そうやってパス練習をしていると続々とチームの皆が顔を出し始める。ちなみに俺達の次に顔を出したのは桜咲先輩の予想に反さず古手打、僅差で忍原先輩だった。
何はともあれようやく南雲原の一員として臨む初の練習だ、嫌でも気合が入る。俺は内心ワクワクしながら笹波に練習メニューを聞くとなんと特別メニューとの事で校門の方まで案内される。その際桜崎先輩と木曽路が何故か察したような生温かい視線を送ってきたが一体何故なのだろうか?
「という事で風凪君、君はこの百目階段をダッシュで登り降りして貰います」
「は?」
「今の君に必要なのは技術的な練習じゃなくて試合についていけるスタミナです」
「は?」
「なのでこの特訓が最適という訳です、それじゃあ、手は抜かないように」
いや、なんかこうホラ!なんか無いのかよサッカー部っぽい練習、これじゃあウキウキで練習早めに来て特別メニューという響きに胸を躍らせた俺がアホみたいじゃねぇか!まぁ感情抜きにすれば笹波のいう事は分かる、分かるんだけどよぉ俺一人悲しく階段ダッシュってそりゃねぇだろ!
「お前マジで言ってる訳?」
「⋯⋯?僕はこんなつまらない冗談言いませんよ?」
首をこてんと傾げる笹波からはこの後「っていうのは冗談で⋯⋯」という言葉は出てこなさそうだ。俺は心の中で泣きながら「やりゃあいいんだろ!」と怒鳴り階段ダッシュを始める。
「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯ハァー!しんどっ!」
心臓がバクバクとうるさいし肺は痛いし足の筋肉は悲鳴を上げてるしで泣きそうだわ!てかこの学校こんな無駄な階段作りやがって!進学校を謳ってるくせにこんな無駄なもん作って生徒の体力向上とか図ろうとしなくていいんだよ!
一体どれくらいの時間、この階段を登り降りしただろうか?太陽の位置的に考えてもうすぐ昼になるんじゃねぇのか?思わず膝に手をつき下を向くと大量の汗が髪を伝い流れ落ちる。これ死ぬんじゃねぇか俺?とにかく呼吸を整えねぇと⋯⋯。
「ハァハァ⋯⋯おいマジでいつまでやんだよこれ?まさか今日1日中これとか言わねぇだろうな⋯⋯ハァ、ゼッ、昭和のスポ根漫画じゃねぇんだぞオイ」
桜崎先輩と木曽路の視線の意味はそういう事だったのかよ⋯⋯、てか桜咲先輩もこんな地獄の練習メニューあるなら先に教えてくれてもいいじゃねぇか、いや知っててもどうにもなんねぇけどよ。たまに部活なのか分かんねぇけど他の生徒と階段ですれ違うともれなくドン引きしたようにこっち見てくるぞ⋯⋯。
「悪態ついてても状況は変わんねぇか⋯⋯クソッ午後はボール触れると信じて今はこれをやるっきゃねぇ!」
一方その頃南雲原中学グラウンド
「よし、午前の練習はこれまで!お昼休憩にしよう」
体力づくりを中心とした基礎的なメニューを終えた面々を見て雲明は満足そうに頷く。昨日の試合の勝利がモチベーションのアップに繋がったのかイレブンの動きも良く気持ちが入っいる様子が見て取れる。そんな様子の雲明の元へ木曽路と桜咲がやって来る。
「なぁ雲明、結局風凪の奴午前中一杯百目階段ダッシュさせてたけどいいのか?」
「俺も気になってたんすよ〜、アイツ死んでないかな〜?」
「⋯⋯あ」
すっかり風凪の事が頭から抜け落ちていたと言わんばかりに素っ頓狂な声を上げる雲明を見て木曽路と桜咲は顔を見合わせると青くし一目散へ校門の方へ走っていく。
2人がそこで目にしたのは大量の汗を流し尽くしミイラのように干からびた雨竜がうわ言のように「サッカー⋯やらせろ」と呟く姿だった。この日以降南雲原中学七不思議に百目階段に現れるサッカーミイラという雨竜にとって不名誉な物が追加されるのだがこの時の雨竜にとっては知る由もないのだった。
今さらながらではありますが雨竜が使う必殺技についてです。
『ストームカット』
風凪雨竜の使用する必殺技、幼い頃『サイクロン』を習得していたのだがボールを奪うだけでなくシュートブロックも出来るようになりたいと思い『スピニングカット』から着想を得て生み出した技、見た目はまんま『サイクロン』+『スピニングカット』を想像して頂ければと思います。