ブエナビスタのお姉ちゃんのお兄さん   作:幼馴染にされたネクパイ

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オマケ アドマイヤグルーヴと親愛度カンスト済みのトレーナー

 

 

 ドゥラメンテは、ソワソワしていた。

 夏合宿が終わりを迎える頃。

 最後のトレーニング全休日に、宿舎の入り口で仁王立ちしつつ、キョロキョロと周囲を見回している。

 まるで人探しでもしているような姿に、通りすがりのキタサンブラックが釣られる。

 

 

 

「あれ? ドゥラメンテさん、どうしたの? 今日はトレーニング、お休みだって言ってなかったっけ」

「キタサンか。ああ、休みだ。休みなんだが……人と、会う予定があってな」

「へぇ、そうだったんだ。なんだか、嬉しそう?」

「…………」

 

 

 

 どちらかと言えば、他人から無表情で無感動と思われがちなドゥラメンテだが、キタサンはその表情を細かく読み取っていた。

 今も、仏頂面で地面を睨みつけている彼女だが、図星を突かれ、照れ臭くて目を逸らしているだけだったりする。

 そんな時、ドゥラメンテの耳がピンと立つ。

 聞き覚えのある足音……。待ち望んでいた人物の来訪を察知したからだ。

 

 

 

「ドゥラメンテさん」

「……っ! アルヴ先輩、お久しぶりです」

「ええ。久しぶり。元気そうで何よりだわ」

 

 

 

 その人物とは、アルヴ──アドマイヤグルーヴ。かつてエリザベス女王杯を連覇したウマ娘だ。

 ゆったりとしたスラックスとサマーセーターを合わせる彼女は、腕の中に小さな子供を抱き、柔らかく微笑んでいる。

 隣を歩く夫……。自らの元トレーナーであり、現在はドゥラメンテのトレーナーでもある男性に、日傘を差してもらっていた。

 

 

 

「アルヴ先輩……という事は、元トレセン学園生の方なんですね。あ、あたしはキタサンブラックって言います! 初めまして!」

「初めまして。アドマイヤグルーヴよ。ドゥラメンテさんから、話は聞いているわ」

「そうなんですか? えっへへ、なんか照れちゃうなぁ」

 

 

 

 偶然に居合わせただけなんだけど、とりあえず……と挨拶をするキタサンだったが、口数の少ないドゥラメンテが自分を話題に挙げていると知り、喜色満面である。

 しかし、ドゥラメンテの方はというと、あっけらかんとしたキタサンの様子に、少しムッとしていた。

 

 

 

「キタサン。その口ぶり、まさかアルヴ先輩を知らないのか?」

「えっ。ご、ごめんなさい、あたし、ちょっと前までテイオーさんにだけ夢中だったから、まだ色々と勉強中で……」

「アルヴ先輩は、あのエリザベス女王杯を連覇した、素晴らしい走者だ。トゥインクルシリーズを走るつもりなら、覚えておいた方がいい」

「はい、精進します……」

 

 

 

 わりかし真面目に叱られ、素直に頭を下げるキタサン。

 実際、今は素質だけで走っているような状態で、レースの基礎を学んでいる真っ最中。

 知識も、トレーニング量でも、現状負けているドゥラメンテに対して、ちょっとした引け目すらあった。

 が、自分を引き合いに出されたら、アルヴとしても口を挟むしかなく。

 

 

 

「ドゥラメンテさん。そんな言い方はよして。私はもう引退した身で、今も素晴らしい走者は生まれ続けている。時代に埋もれてしまっても、仕方ないわ」

「しかし……! いえ、すみません……っ」

「……でも、覚えていてくれて、嬉しい。ありがとう」

 

 

 

 尊敬する人が。その栄光が、無いものと扱われる。

 慕う者には受け入れ難く、それ故のドゥラメンテの発言だったが、自分を原因に友人と喧嘩してほしくはない。

 あくまでも引退した身という立場から、アルヴは教え子を窘めつつ、しっかりフォローも入れるのだった。

 なお、当のキタサン本人は全く気にしておらず、別の気掛かりに触れる。

 

 

 

「あのぉ……。ところで、アルヴさんが抱いてる子は、もしかして……?」

「娘よ。アドマイヤテンバというの。テンバちゃん、ご挨拶できる? ほら、お姉さんにこんにちは、って」

「……こん、に、ちぃわ?」

「うわぁああ……! か、可愛いぃぃいいい……っ!!」

 

 

 

 女性の本能、とでも言えば良いのか。

 玉のように愛らしい、まだ一歳を過ぎたばかりのウマ娘に、キタサンは一瞬でメロメロだ。

 ブンブンと尻尾を振り回すその姿に、トレーナーもアルヴも、ドゥラメンテまでもが笑顔を浮かべる。

 

 

 

「それじゃあ、アルヴ。テンバは任せて、ドゥラメンテとゆっくり話すといいよ。せっかく会いに来たんだから」

「そうさせて貰うわ。お願いね、“貴方”」

(……あれ。ね、ねぇドゥラメンテさん。もしかしなくても、アルヴさんの旦那さんって……?)

(うん……? 私のトレーナーだが。元は、アルヴ先輩のトレーナーだった)

(だよね!? へ、へぇ……本当に居るんだ……)

 

 

 

 言動や距離感から如実に語られる、近しい男女の空気感。

 予想通りの答えを聞き、今度は驚愕するキタサンである。

 自身の担当ウマ娘と結婚したトレーナー。

 人間以上の能力を持つが、女性しか存在せず、絶対数も少ないウマ娘という種族が相手だからこそ、許される関係性。

 噂には聞いていたけれど、この目で見るとやっぱり驚いてしまう。

 

 なお、許されているとは言っても、若干白い目で見られるのは避けられないらしい。

 “彼”の場合、妙な事を言って来たりする相手に対しては、アルヴや娘の写真を見せつけ、無理矢理に惚気話を(軽く三時間ほど)聞かせる事で、理解を得て(げきたいして)いた。

 

 

 

「何か、聞きたい事でもあるのかしら、キタサンブラックさん」

「あ、長いのでキタサンで大丈夫です! ……聞きたいっていうか、その、気になっちゃうと言いますか……」

「ドゥラメンテさんの友達なんだから、遠慮しないで。答えられる事なら答えるわ」

「……いいんですか? でも……」

「私の事は気にしなくていい。その気になればいつでも会える。この機会を逃すと、アルヴ先輩の教えは乞えなくなるかも知れないぞ」

「じゃ、じゃあ……」

 

 

 

 閑話休題。

 チラチラと、忙しなく視線を動かすキタサンに、娘を夫へと預けたアルヴが話しかける。

 何かしら興味を抱いているのは間違いないだろう。

 自分も通った学園で育つ後輩なのだ。可能な限り、助けになりたかった。

 ……現役時代なら、完全に無視を決め込んでいただろうに、変われば変わるものだ。自分自身の事なのにおかしくて、小さく笑ってしまう。

 

 

 

「……ど、どっちから告白したんですかっ!?」

「っぐ!? ゴホッ、ゴホッ……! え、ええと、それは……」

 

 

 

 ……が、そっち方面の質問とは思っておらず、すぐに咽せ返った。

 付き合いの長いドゥラメンテがとにかく真面目で、そういった話をほぼしなかったため、油断していた。

 耳年増な子ね……。

 

 

 

「そのお話、気になります!」

「ぜひ聞かせて欲しいわ!」

「うわぁ!? ダ、ダイヤちゃんっ? なんで薮から!?」

「クラウンまで……何をしているんだ……?」

 

 

 

 更に更に、近くの薮から葉っぱまみれで登場したクラスメイト達が、完全に空気を持って行った。

 これはもう、そういう話しか出来なさそうな流れだ。

 アルヴはさっさと諦め、せめて落ち着いた場所で、と少女達を促すのだった。

 

 

 

「場所を、変えましょうか」

 

 

 

 数分後。

 合宿所にほど近い海の家へと移動したアルヴ達は、キンキンに冷えたラムネ片手に、卓を囲んでいた。

 

 

 

「先程は失礼いたしました。改めまして、サトノダイヤモンドと申します」

「同じく、サトノクラウンです。どうぞ宜しく。それで、プロポーズはどちらから?」

 

 

 

 礼儀正しい挨拶から、グイグイと迫ってくるサトノ組。

 まあ、そういう年頃なのだろう。

 気恥ずかしさはあったが、キラキラした期待の眼差しを裏切れないアルヴは、恋愛遍歴(経験人数オンリーワン)を語る。

 

 

 

「……よろしくお願いするわ。プロポーズは……“彼”からよ」

「わぁ、そうなんですね。凄いです……!」

「参考までに聞きたいんですが、在学中にですか? それとも卒業後に?」

「おい、クラウン。流石にそれは」

「だって気になるじゃない。偉大な先輩の歩んだ足跡を、直に聞けるんだもの。もちろん口外はしませんから」

「ならせめてレースに関した話を……はぁぁ……」

 

 

 

 担当トレーナーと結婚したウマ娘の話はよく聞くが、直接、話を聞ける機会なんて数えるほどしかないだろう。

 レースへの気持ちは確かに胸にあるが、それはそれ、これはこれ。

 思春期の乙女には恋バナも重要事項なのである。

 

 

 

「在学中、よ。二度目のエリザベス女王杯の後、夜のハロンタワーの展望フロアを貸し切ってくれて……。懐かしいわ……」

「展望フロア貸し切り!? わぁぁ、ロマンチックだぁ……! 憧れるなぁ……!」

「迷いは無かったのでしょうか? 前例があるとは言え、その……」

「無かったと言えば嘘になるけれど、それ以上に嬉しくて、断るなんて考えられなかった。

 ……ようやく掴んだ、温もりだったから。

 ちょうど、その頃ね。ドゥラメンテさんのトレーニングを見るようになったのも」

「はい。あのエリザベス女王杯は、今でも……いいえ、いつまでも忘れられないと思います。そのくらい、強くて、綺麗な走りでした」

「貴方にそう言ってもらえるだけで、十分よ」

 

 

 

 アルヴがドゥラメンテとトレーニングできた期間は、実は長くない。

 エリ女連覇の翌年には卒業が控えていたし、“彼”と同棲を始めて、わずか数ヶ月で懐妊。激しい運動は避けなければならなくなった。おおよそ七ヶ月ほどか。

 その短い時間の間にも、ドゥラメンテは貪欲にアルヴの技術と想いを飲み込み、“力”とした。

 育んだ絆は強く結ばれ、今もこうして繋がっている。

 

 

 

「貴方たちは、今年デビューを?」

「はい! ここには居ませんけど、多分あと友達がもう一人……。シュヴァルちゃんもデビューするかも知れません」

「私とクラウンさんは、サトノ家の悲願であるG1勝利の栄光を得るため、粉骨砕身の覚悟で挑むつもりです」

「そう……。ライバルが多いわね、ドゥラメンテさんには」

 

 

 

 ライバル。

 ふと脳裏に、赤い勝負服と長い栗毛が思い浮かぶ。

 彼女は今、どうしているのか。アルヴに知る由はない。

 だが、共に過ごした時間は、深く胸に刻まれている。

 

 ドゥラメンテは、どんなレース人生を送るのだろう。

 たった一人と鎬を削ったアルヴとは、きっと違う。

 未来のことなんて、誰にも分かりはしない。

 

 でも。

 それでも。

 

 

 

「ライバルが幾人いようと、私のすることは変わりません。この血に宿る“最強”と、アルヴ先輩から受け継いだ技術……“想い”を、証明するだけです」

 

 

 

 ドゥラメンテは真っ直ぐにアルヴを見つめ、宣言……否、宣誓する。

 父と母が。偉大なる先祖が。そして、敬愛する先輩が、注ぎ込んでくれた、全てを。

 己の走りで証明するのだと。

 

 心が震える。

 昔は、大きな風穴が空いているようにも思えた、アルヴの胸の内に。

 今はもう、温かさが溢れかえって、こぼれそうだった。

 

 

 

「メイクデビュー、見に行くわ。這ってでも、必ず」

「え? お、お気持ちは嬉しい、ですが……。どうか、お身体の方を優先して下さい。這うほど体調が悪いのに来て頂いては、その……心配に、なります」

「ふふふ。ただの例えよ。それに、きっと大丈夫。もう以前のようには走れないけれど、お母さんになった私は、強いのだから」

 

 

 

 額面通りに言葉を受け取る、生真面目な愛弟子に、アルヴは笑いかける。

 誰も触れられない強さを求めていたウマ娘は、時を経て、思い描いていたものとは全く違うけれど、より大きく、誰かを包み込むことのできる、優しい強さを得た。

 その場に居た皆が、そんなアルヴに見惚れていた。

 

 と、思いきや。

 今を生きる恋する(?)ウマ娘には、少々毒でもあったようで……。

 

 

 

「そ、それで、話を戻すようで、アレなのですけど……。在学中に、どこまで進みましたか……!」

「……クラウン」

「うっ。ごめんなさい、調子に乗ったわ……」

 

 

 

 お前そろそろ大概にせえよ、的に睨まれ、クラウンは縮こまる。

 せっかくいい話にシフトしていたのが台無しだ、怒られるのも仕方ない。

 しかし、アルヴの前では大人しくて優等生な子が、友人にはこんな顔をするなんて、意外だった。

 ドゥラメンテの新しい一面を知り、上機嫌なアルヴは鷹揚に首を振った。

 

 

 

「そういう時期だもの、仕方ないわ。ただ、あまり参考にならないと思う。私たちはそれぞれ、走り方も、進む速度も違う。貴方たち一人一人に合ったペースでないと、きっと上手く行かないはずよ」

「……確かに。凄い説得力です」

「流石は、ドゥラメンテさんのお師匠様ですね。言葉一つ取っても含蓄があります」

「あまり、おだてないで。……それと、プロポーズの時に、初めて……キス、したわ。婚約指輪を嵌めてもらった流れで、そのまま……」

「ええぇ!? それって……うわぁ、想像しただけでもう……! そんなのドラマのワンシーンだよー! うわぁぁぁ……!」

「そ、そうだったん、ですね。……アルヴ先輩が、プロポーズで、ファ、ファースト……っ」

 

 

 

 再び恋バナへと戻り、披露されるエピソードに歓声を上げる少女達。

 実に楽しげで、かしましい光景だったが、そこへ申し訳なさそうな男性の声が挟まれる。

 ドゥラメンテのトレーナーだ。

 

 

 

「あ、あのぉ……。盛り上がってる所、申し訳ないんだけど……」

「ま゛ぁま゛ぁ〜!」

「あら、大変。少し失礼するわ」

 

 

 

 “彼”の腕の中で泣きじゃくる我が子を見るや、アルヴはすっくと立ち上がった。

 困り果てた夫からテンバを抱き渡されると、慣れた手つきであやし始める。

 

 

 

「“貴方”、また髭を剃り残してる状態で頬擦りしたでしょう? それで何度も泣かれているのに」

「ごめん……。可愛くてつい、我慢できなくて……」

「ゔゔ〜。ちっく、やぁ〜」

「もう、仕方のない人……。そうよね。パパのお髭はチクチクして痛いものね。大丈夫、大丈夫よ」

「ん゛〜……」

「……やっぱり、君には敵わないな」

 

 

 

 愛しい娘を間に、微笑み合う夫婦。

 見ているだけで、溢れんばかりの慈愛が伝わってきて、少女達はそれぞれに感じ入る。

 

 

 

(ああいうの、いいなぁ……。あたしもいつか、トレーナーさんと……)

(羨ましくなっちゃうね。私のトレーナーさんも、早くサトノにしなきゃ!)

(サトノにするって動詞として変じゃない? まぁ、同意見ですけど)

(……私もいつかは、家庭を持つ日が来るのだろうか……?)

 

 

 

 思うところも、想像する未来も少しずつ違っているが、共通するのは、誰もが希望に満ちた、明るい未来を見据えていること。

 変わり続ける世界の中。

 少女達は、それぞれの歩幅で、未来へと駆けて行く。

 

 

 

 一方その頃。

 アルヴと非常に縁深いライバルの、トリプルティアラを戴くウマ娘、スティルインラブは……。

 

 

 

「ジュ、ジューダちゃん、待って、そっちを走ったらダメよっ」

「きゃははははっ! やだーはしるー!」

「えっ、速……っ!? ま、待って、ダメ……待ちなさぁいっ!!」

 

 

 

 公園へのお散歩中、ウマ娘用レーンの外を爆走する娘に、めっちゃ苦労していた。

 まだ三歳にもならないのに凄まじい速度で逃げ回る娘を、どうにかこうにか抱き上げる彼女は、額に汗しながらも、笑っている。

 

 

 

「や、やっと捕まえた……!」

「つかまったー。ねー、ママ?」

「なぁに? ジューダちゃん」

「えへへぇ、だいすきー」

「……ええ。ママも、あなたが大好きよ」

 

 

 

 街路沿いに植えられた向日葵にも負けないほど、大きく、明るく。

 親子は、眩しい太陽の下で、笑っていた。

 

 






 へいっ、別作品のっぽいオマケ一丁っ! 細けぇ事は気にしねぇでおあがりよ!

 ……いやですね? 唐突に公式からアルヴさん成分が供給されたらね? 描くしかないじゃないっすか。こんな事してっから遅くなんのにさぁ……。
 なんでスティルさんがこうなってるのか分からない人は前作を読んでください! 今なら改訂版もありまっせ!(ダイレクトマーケティング)


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