ブエナビスタのお姉ちゃんのお兄さん 作:幼馴染にされたネクパイ
やめなされ。やめなされ。惨いペースで石を搾るのはやめなされ。
いやマジで加減しろ! 嫁ドンナとかもう引くしかないじゃない……っ。
レディちゃんも初日に引いちゃったし、今からハフバと夏イベが怖い。石枯渇マジであり得るでこれは……。
あ、水着シーナちゃんとか水着ブエナちゃんなら喜んで吐き出しますぜグヘヘ。
「えっ? 出走しないのか、ジャパンカップ……」
妹の放った言葉に、“彼”はあんぐりと大口を開けてしまう。
エリザベス女王杯を目前に控えた、ある日の出来事である。
チームアップをして久しいけれど、ブエナがジャパンカップに出走するならば、流石に共同でトレーニングを続けるのも……と確かめたところ、返ってきたのが、「出走はしないよ」という静かな声だった。
「うん。ブエナと相談して決めたんだ」
「そう、か……。あ〜……」
「ふふふ。兄さんは喜ぶべきなんじゃない? 強力なライバルが減るんだから」
「……そうだ。強力なライバルだ。第一線から離れても、ずっとトレーニングを続けて、だから、てっきり……」
当然のように出走すると思い込んでいたため、言葉が続かない。
ごく身近にジェンティルとヴィルシーナという、超・負けず嫌いが居るから霞みがちだが、ブエナにだってそういう気持ちはあるはず。
ましてや、二度も勝利を逃したレース。雪辱を果たすために、影ながらトレーニングを重ね……というのは、勘違い、だったのだろうか。
ブエナの目には、まだ諦めなんて見えていないと、信じていたのだが……。
「ほらほら、暗い顔しない。今は自分と、ジェンティルドンナの事を考えなきゃ」
「……そう、だよな」
「それに、ブエナは出なくても、あの子は絶対に出てくるでしょ。油断は禁物」
朗らかに笑う“彼女”は、まるで話を逸らすように、ジャパンカップの出走者達を示す。
今回、選出された16名の中には、覚えのある名前が幾つもあった。
天皇賞での激走が記憶に新しい、エイシンフラッシュとトーセンジョーダン。
宝塚記念を快勝したゴールドシップ。
そして、近く開催されるエリザベス女王杯にも出走する、ヴィルシーナ。
あの子と明示されたのは、きっと、絶対にヴィルシーナに違いない。
「……ああ。ヴィルシーナは、ただジェンティルに“勝ちたい”から走るんだろう。油断なんて出来るはずがない」
いかに同志であろうと、色んな意味で気の置けない少女であろうと、勝負においては油断ならない相手。
また逃げ・先行策を打つだろうヴィルシーナは、最終直線でジェンティルと並んだ途端、負けじと再加速をするのだろう。
その光景が目に浮かぶようで、“彼”は改めて気を引き締める。
新たなる未到の境地。
ブエナに見せると約束した絶景。
史上初のジャパンカップ連覇と、国内GⅠ、通算二桁勝利へ、王手を掛けるために。
そして、ちょうど同じ頃。
二人が話題に上げていた少女達もまた、相対していた。
「……ご機嫌よう、ヴィルシーナさん」
「ジェンティルさん……。ご機嫌よう」
午後の授業を終え、トレーニングに向かう道中の廊下で。
偶然に出会したジェンティルとヴィルシーナは、龍虎相討つ──といった気配で周囲を威圧している。
思わず皆が後退りし、「ど、どうしよう」「怖くて通れないよぉ」「バチバチ過ぎる……」と零す。
レースを目前にして、闘争心を剥き出しにしているのだと思われた。
が、しかし……。
「先日は、“わたくしの”トレーナーが、お世話になったようですわね。なんでも自宅に招いたとか」
その会話の内容は、闘争は闘争でも、女の争いであった。
わざわざ、“わたくしの”と強調するジェンティルは……笑っている。
まるで、夫の浮気相手に対して「よくもあん人に手ぇ出してくれましたなぁ?」と威圧しているかのように。(極道の女フィルターを通した結果です。現実とは異なりますのでご注意ください)
「ええ。急なお誘いにも関わらず、快く受けてくださいました。母とも気が合ったのか、とても楽しい時間でしたわ」
一方でヴィルシーナも負けておらず、たおやかな所作で微笑みつつ、「もう親公認です。あの人は私のものですわオーッホッホッホ!」とでも言うように胸を張る。(悪役令嬢フィルターを通した結果です。現実とは以下略)
それがジェンティルには挑発に見え、ますます笑顔は凄絶に彩られた。
まさしく一触即発。キャットならぬウマ娘ファイト勃発か? と思われた瞬間。
二人の間にタコ焼きが現れた。
「えっ」
「……ゴルシさん?」
「食いな。出来立てだぞ」
違った。タコ焼きを持ったゴールドシップ……ゴルシが現れた。
立ち上がる湯気と踊る鰹節を見るに、確かに出来立てなのだろうが、何故にタコ焼き。
二人の脳裏に疑問符が浮かぶ。
「結構ですわ。昼食はもう摂りましたので」
「今朝獲れたばっかの新鮮なタコを使った一品だぞー? 遠慮すんなってドンちゃん。ほいっと」
「むぐっ!? あっふ──!? 〜っ! 〜〜〜っ!」
「ジェンティルさん!? た、大変、すぐに水を……」
一瞬の隙をつき、放り込まれるアッツアツのタコ焼き。
ジェンティルと言えど、口内までは鍛えられるはずもなく、悶絶している。
ギリギリ火傷はしなさそうだがそれでも熱い、という絶妙な加減が腹立たしい。
かと言って吐き出すなんて無作法は論外。ヴィルシーナが急いで水を持って来てくれなければ、どうなっていたやら。
「どうよ。めちゃウマだろ?」
「…………ええ、確かに味は良かったですわ。是非、 お 礼 を 、させて下さいませ」
「いやいやいや気にすんなって。んじゃノルマ達成したしもう行くわ、東京レース場で待ってるZE! あ、残りはヴィルシーナにやるよ」
「え。ど、どうも……?」
「 逃 し ま せ ん わ ! 」
逃げるゴルシを追いかけ、ジェンティルも走り出す。
取り残されてしまったヴィルシーナは、とりあえず、もったいないのでタコ焼きを頬張る。
外はカリッと、中はふわトロ。大ぶりのタコの食感が嬉しい、絶品であった。
レース前とは思えない、慌ただしくも楽しげな一幕。
そんな光景を、遠くから見つめる影が、もう一つ。
「全く、楽しそうな事で」
中等部の一年……いや、ひょっとしたらそれよりも小さい体躯とは真逆の、とても落ち着いた女性の声。
使い古されたコートを着る、枝分かれした稲妻にも見える流星が特徴のウマ娘は、名をステイゴールドという。
「何もかもが違ってるせいか、まるで結果の予想がつかない。……私にも、こんな可能性があった、のかもなぁ」
廊下の窓に寄りかかり、外を眺める。
もう中庭まで行っているようで、爆走するゴルシを追うジェンティルと、それを更に追いかける風紀委員の姿もある。実に騒がしい。
加えて、偶然にも中庭で寛いでいた“同族”……オルフェーヴルも、ジェンティル達を見ていた。
「なぁ。私はもう終えてしまった。お前はどうだ。何もかもが、お前の預かり知らぬ“過去”と、同じになって。このまま終えるのか」
ステイゴールド……ステゴのトゥインクルシリーズは、すでに終わっていた。
その道程は“過去”をなぞるものであり、最後の最後に、ようやく黄金を見出す旅路だった。
悔いはなかった。
例えそれが、踏み出す勇気を持てず、諦めた結果だとしても。良い終わり方が出来ると、“分かっていた”から。
しかし、オルフェはどうだ?
二度目の挑戦となった凱旋門賞、結果は二位だった。名前こそ違ったが、“過去”と同じ相手に、同じように負けた。
さぞ悔しいだろう。さぞ不可解だろう。まるで、負ける事を強制されたような、奇妙な展開だったのだから。
オルフェは帰国以来、沈黙を貫いている。
ドリームジャーニーと一緒にステゴが労っても、「うむ」だの「ああ」だの返すだけ。心ここに在らず、といった様子だ。
「勝手だよなぁ、本当に。私って奴は」
ジェンティルのそれのように、変わって欲しいと、思っていた。
少なくとも、納得のいく結果で終わって欲しかった。
もし、この先も“過去”と同じならば、あと一戦でオルフェは引退する……けれども、この分だと走るかどうか。走るのなら、一応は有終の美を飾るはず。
だが、それで良いのか。
それは本当に、“オルフェーヴル”の望む終わりなのか?
……などと、身勝手な事を、思ってしまう。
「……行くか」
窓辺を離れ、ステゴは歩き出す。
今しばらく、国内に留まる予定だ。見届ける時間はある。
何もかもが同じで、何もかもが違う。この世界の結末を、見届けるだけの時間は。
「あ、見つけたぞ!」
「おおっと、見つかった! ジャーニー、助けてくれー!」
余談だが、ステゴはとっくにトレセン学園を卒業しており、しかも許可を得る前にフラッと学園内に入ったため、警備員が追っていたのだ。
事態を収集するのに頭を下げまくる事となったジャーニーは、それでも、楽しげに笑っていたとか。
喧騒。
多くの人々が行き交う街頭に、一人のウマ娘が立ち尽くしている。
まだ片手で数えられるほどの年齢だろう、宝石のように美しい、特別な瞳を持つその少女は、ビルの壁面を飾るパブリックビューイングを見つめていた。
「あーっ! 居たぁーっ!!」
と、その時、少女に向けて女性が駆け寄って来る。
メッシュの入った輝く金髪をポニーテールに結び、両手にはちみーを持つその人は、世が世ならギャルママ(死語)やヤンママ(死語)などと呼ばれるくらいに、若々しい母親だ。
一緒に並んでいたのに、代金を支払っている隙に姿が消えていて、もう気が気ではなかった。
全く、まだちっちゃいのに足速すぎとか、将来有望かー?
「んもぉー、急に居なくなるから心配したじゃん! ……ん? どったの?」
「あれ」
「あれ? ……おおぉ、ジャパンカップ」
娘の指差す先では、東京レース場の様子が中継されている。
足を止め、娘と同じように大画面を眺める人も多く、注目の的だ。
それもそのはず。
もうすぐ始まるジャパンカップは、大記録の達成が二つも掛かっているのだから。
「やー。アタシはさっさか引退しちゃったけど、凄い子はホント凄いねー」
少女の母もまた、過去にトゥインクルシリーズを走っていた。
大敗した桜花賞や、斜行による繰り上げで勝った秋華賞など、波乱に満ちた選手人生だった。
昔から天才肌だったが、同時に飽き性なのが玉に瑕で、望む形でティアラ路線を終えられなかった事で気持ちが途切れ、早々に引退を決意。
以降は学生生活を謳歌して、大学で夫となる青年と熱烈な恋をし、生き急ぐように子を産む。
この人生が間違いだったとは、思わない。
おねだりされたはちみーを差し出しても受け取らず、夢中で大画面を眺める愛娘の、なんて可愛らしい事か。
自分はこの子を腕に抱くために生まれて来たのだと、そんな恥ずかしい事を、胸を張って言えるくらい愛している。
……けど。
けれども。
(もうちょい頑張ってたら、アタシも)
不意に、存在しない記憶が頭をよぎる。
秋華賞を実力で勝って、その後も走り続ける自分。
シニアでも様々な挑戦をし、浮き沈みはあっても結果を残して、後輩の指導なんかも始めて……。
そんな人生が、あったかも知れない。
最後まで身を案じてくれたトレーナーの女性に、もっと違う形で恩返しができた……かも知れない。
たらればを考えても仕方ないけれど、どうしても夢想してしまう。
『おおおっ!!』
『わああっ!!』
鼓膜を揺らす歓声。
現実に引き戻された母が見たのは、ジャパンカップを勝利し、史上初の連覇と、史上初の九冠を達成したウマ娘の姿だった。
自らのトレーナーと共に、喝采と賞賛を一身に浴びる彼女は、自信に満ち溢れ、輝かんばかりに美しかった。
「……わ。マジかぁ。やっちゃったよ、マジで」
誰も彼もが足を止め、前人未到の偉業に沸いている。
もはやレースには関わるまいと、そう思っていた母ですら、胸が熱くなって。
……くいくい。
服の裾を引っ張られる感覚。
見れば、娘が眼を輝かせながら呼びかけていた。
「ねえ、ママ。……ママ!」
「え……。あ、ハイハイ、なになに? やっとはちみー欲しくなった?」
「うん、のむ! ありがと……じゃなくって!」
やっとはちみーを受け取り、その甘さに頬を緩ませたのも束の間。
大画面をまた指差し、宣言する。
「わたし、おおきくなったら“れーす”にでる!」
「お? そっかそっかー。あのお姉さんに影響されちゃったかなー?」
「ううん、ちがうの」
あれだけ心を震わせる光景を見れば、身を投じたくなるのも当然……かと思いきや、どうやら娘の思惑は違うらしく。
「あのひとに“かちたい”! あのひとより、もっとたくさんかって、わたしが“いちばん”になるわ!」
「お、おおぅ……。アタシの娘なのに、向上心が凄過ぎて偉さ有頂天だわ……」
いきなり、とんでもない目標を掲げる娘に、母親ながらドン引きもとい面食らう。
何をどうしたら勝ちたいという考えに至るのか、全くもって理解はできないが、小さな子供が無理無茶無謀な挑戦をしたがるのは世の常。そんな姿も超可愛い。
昔はアタシも変なこと言って、パパとママを困らせたっけかー。
なんなら現役時代にトレーナーも困らせてた気がするけど、いやはや懐かし──
「それに、わたしが“いちばん”になれば、とおくでみまもってくれてるパパも、わたしとママをみつけやすいでしょ?」
「あ……」
不意打ちだった。
子供特有の、突発的な欲求の発露ではなく、彼女なりに考えて言っているのだ。
夫は……少女の父親は早逝している。
心臓に持病を抱えており、だからこそ生きる事に一生懸命で、そんな人柄に惹かれた。
早くに子供を産んだのは、“彼”の生きた証を残したかったからという想いもあった。
そして、父の顔もろくに覚えていない娘には、「パパは遠くから見守ってくれている」と、定番とも言える嘘をつき……。
一瞬、涙が零れそうになる。
ずっと我慢し続けて来た寂しさが、溢れそうになる。
しかし、母は無理矢理にでも笑う。
大きく歯を見せ、娘に無用な心配をさせないよう、ただ明るい未来を見つめて、悲しみを笑い飛ばす。
「……うん、そうだねっ。やっちゃえやっちゃえ! ぜーんぶ記録塗り替えて、世界一になったれ! んで、パパのところに届くくらい大きな夢、叶えちゃえー!」
「うん! がんばる!」
抱き上げられ、娘も笑顔を浮かべる。
二人はまだ知らない。
この時の約束が守られ、世界の常識を塗り替えるような、とんでもない偉業が達成される事を。
今はまだ、知らないのだった。
「今、なんと……?」
その声は、動揺に震え、掠れている。
以前にも招いた邸宅の広間にて、娘の……ジェンティルドンナのトレーナーである“彼”に、当主である父は今一度、告げた。
「トレーナー君。貴殿には、ジェンティルのトレーナーを辞めてもらいたい」
顔面蒼白。
視線は定まらず、こちらの言葉が届いているかも怪しい。
どうにか、絞り出すように「考えさせてください」と言い残し、“彼”は去って行った。
「随分と、堪えたように見える」
「……当たり前ですわ。寝耳に水、ですもの」
同席していたジェンティルが、刺々しい物言いで父を見る。
国内無敗で、九冠達成。これほどの才を持つウマ娘が、世界を見ないなどあり得ない。
だから海外遠征を提案した。同行するトレーナーは、“彼”ではない理由も含めて。
それが、“妥当な判断”だ。
「それはお前にとっても、か? ジェンティル」
「…………」
己の責務、理解しているはずだろう。
父は言外にそう言うが、返事はない。
ジェンティルが“彼”に入れ込んでいるのは分かっていた。
なればこそ、これは必要な処置。
月に叢雲、花に風。好事魔多し。寸善尺魔。
順風満帆な二人へと、避けられない災いが降りかかる前に。
「お話が以上であれば、失礼します」
退室する娘の背中を眺め、しかし父も無言を貫く。
普通の親子らしい情など、自分たちには似合わないのだから。
(折れるか、歯向かうか。どちらにせよ、選ばねばならない。……見届けさせて貰おうか、貴殿の選択を)
自分以外に誰も居ない、寒々しい広間の中。
ジェンティルの父は、刃のように鋭い眼を細め、確かに“何か”を見つめていた。
そして、同時刻。
“彼”と近しい人物がもう一人、決意表明をするため、会見を開いており……。
『私、ブエナビスタは、今年の有馬記念に出走し、それを……ラストランにします』
時は無常に流れ、足音が聞こえ始めていた。
生きとし生けるもの、全てに等しく試練を与えようと歩み寄る、冬という季節の、足音が。
ピエロちゃんはきっと次のタクトちゃん枠。俺は詳しいんだ間違いない(素振り)。
Q なんか登場キャラの時代とか滅茶苦茶じゃない?
A メイン所だけ揃えて、後はわざと入れ替えたりしてます。全部時系列順とか無理無理無理。あと、ギャルママ(死語)してるパンドラさんも出したかったんですわ。
ところで、作者の好きな食べ物は親子丼です。美味しいですよね、ぷりっぷりの鶏もも肉とか。え? センシティブ? 何を仰るYouTube君でもあるまいにhahaha!
Q ???「ララちゃんシナリオで匂わせがあったのに死んでる事にされた件」
A もし実装されたらtntnもがれてお前もママになるんだよ覚悟しとけやオラァン?
次回、最終話。ターニングポイント・後編。