ブエナビスタのお姉ちゃんのお兄さん 作:幼馴染にされたネクパイ
「ここかぁ……」
とある日の午後。
片手でキャリーバッグを引く髪の長い女性が、目的地の一軒家を見上げていた。
期待にウマ耳を騒がせるその人は、もう片方の腕の中に居る娘へと呼びかける。
「準備はいい? シーちゃん」
「……んっ」
どこか緊張した面持ちの、ほとんど同じ形の流星持つ娘。
自然と笑みを浮かべながら、女性はインターホンを押し……しばらくすると、待ちかねていたようにドアが開かれた。
現れたのは、随分と大人びた雰囲気を纏う、ブエナビスタであった。
「スペさん! お久しぶりです。わざわざ来てくださって、ありがとうございます!」
「ブエナさぁーん! 本当に久しぶり……! こちらこそ、いきなり押しかけてしまって……」
「いえいえそんな……」
懐かしい顔を見て、喜色満面に駆け寄る二人。
ペコペコと頭を下げ合う傍ら、スペ……スペシャルウィークの腕の中に居る、青い髪の幼子と目が合い、ブエナは微笑む。
髪の色以外は、本当に昔のスペとそっくりだ。
「この子が、お話していた……?」
「はい! さ、ご挨拶しよ、シーちゃん」
母に促されて、スペの娘……シーザリオが、おずおずと口を開く。
「しーざりお、です。こんにちは」
「こんにちは、シーザリオちゃん。まだ二歳なのに、もうちゃんとご挨拶できるんだね、凄い!」
「えへへ」
子供の成長は個人差が非常に大きいが、シーザリオは言葉の覚えがかなり早いようだ。
意味まで理解しているかは分からないけれど、ブエナが微笑み掛けると、屈託ない笑顔を返してくれる。
これは、後で是非とも抱っこさせて貰わねば!
「さぁ、どうぞ中へ。お茶の準備をしていますから」
「ありがとうございます。じゃあ、お邪魔させてもらいますね」
挨拶もそこそこに、スペを伴って自宅に上がるブエナ。
生家の隣に立つ、馴染み深い幼馴染の住まいが、今のブエナの実家だ。
リビングへ入ると、準備をしてくれていたエプロン姿の夫……“彼”が、スペ達を出迎えた。
「いらっしゃい、スペシャルウィークさん。君がシーザリオちゃんだね? 初めまして」
「……んと、はじ、めまして」
「よろしくね。どうぞ、座ってください。お茶請けもたくさん用意してますよ」
「わぁ……! これ全部、お二人で?」
「はい! スペさんが来てくれるって決まってから、頑張って準備しておきました!」
テーブルに並ぶのは、様々な種類のお茶菓子。
クッキー、パウンドケーキ、ゼリーにプリン、チョコレート菓子……。
息子と娘につまみ食いされつつ、数日間かけて準備したお菓子の数々は、スペとシーザリオの目を輝かせるのに十分過ぎる豪華さだった。
が、しかし……。
「どうしよう……。お気持ちは嬉しいんだけど、実はちょっと問題が……」
「え? あ、もしかして食事制限とかが……?」
「いえ、そんな重大な事ではなくて、単に昔と比べると、食が細くなってしまったんです。どんなに頑張っても、今では三人前が限界で……」
「えええっ!? スペさんが、たったの三人前しか……!?」
(細くなっても三人前かよ……)
食が細くなったと項垂れるスペ。ブエナは驚くが、“彼”は笑顔の裏で引いている。
細くなって三人前とか、現役時代はどれだけ燃費悪かったのだろうか。旦那さんの苦労が偲ばれた。
ちなみに、食事量を減らすに至ったのは、「妊娠中にドカ食い気絶部みたいな真似すんなボケェ!」(意訳)という医者からの進言があったからである。
流石のスペも、我が子を思えば食事を我慢する事に慣れ、今では普通より少し多めに食べる程度に落ち着いたようだ。
「大丈夫ですよ。日持ちする物もありますから、よければ持って帰ってください。息子さんや旦那さんへのお土産に」
「良いんですか? 助かりますー、うちの子達、食いしん坊ばっかりで。さすがブエナさんの旦那様、気遣い上手ですね」
「ははは、どうも」
それはさておき。
こんな事もあろうかと用意しておいた、お持ち帰り用のお菓子類は、スペ達のお眼鏡に適ったようである。
となると、食べるのは持ち帰りに適さない生菓子となるが、これも好評のようで、シーザリオが拙い手付きながら、夢中になって食べていた。
「どう? 美味しいかな、シーザリオちゃん」
「ん! おいしぃ!」
「ふふっ、良かったぁ。むし歯になりにくいように作ってあるから、たくさん食べてね?」
「良かったね、シーちゃん。ぁむ……んんぅ〜、ホントに美味しい〜!」
昔から料理上手だったブエナだが、結婚してからはより腕に磨きが掛かり、そんじょそこらのレストランより美味しく、しかも身近な食材で再現可能な絶品レシピを開発しており、ご近所さんから教えを請われるほど。
タレントを引退と同時に結婚発表した際は、それはそれは凄まじい祝福の声と怨嗟の声が織り重なる事態となったけれど、今では料理系のインフルエンサーとして副収入を得ているので、レースでの戦績と同じく、たくましい人生を送っていた。
「いけない、忘れるところだった。……おほん。ブエナさん、旦那さん。錫婚式、おめでとうございます」
「ありがとうございます。もう十年かぁ……。時が過ぎるのって、早いですね」
「本当に。ブエナはずっと若いのに、自分だけ老けちゃって……」
「そんなことぉ。ブエナさんから聞いてますよ〜、まだまだ“お若い”って」
「……ブエナぁ?」
「あ、あはは……。その、えっと、へ、変な事は言ってないよ?」
「うふふ。まぁ、私のトレ……じゃなかった、夫も負けてませんけどね!」
(でしょうね……)
“彼”がブエナと結ばれてから、もう十年。
早々に二人の子宝(長男とウマ娘の次女)に恵まれ、以降も仲睦まじく夫婦生活を送っている。
二人とも今は学校に行っている時間だが、すぐに帰ってくるだろう。
ところで、ブエナ達にアルミ製の調理器具をプレゼントしているスペは、結婚二十年目。その子供の数、なんと……23人である!
途中で双子なども産まれたのでこの数なのだが、誰もが認めるビッグ・マザーとして、住まいのある北海道では、安産の女神として崇め奉られているらしい。もはや妊娠していない時期の方が短いのでは?
全員無事に産んでいるスペも凄いが、そんだけ的中させる元担当トレーナーのスペの夫も凄まじい。色んな意味であやかりたいものである。
余談だが、シーザリオ以外は全てが男児であり、待望の娘(妹)として産まれたシーザリオは、多くの兄達から溺愛されていたりする。
「そういえば、ブエナさんのお子さんは? って、まだ学校の時間かぁ。会ってみたいなぁ」
「もうそろそろ帰ってくる頃だと思いますよ。スペさんが来ることを話したら、上の子が会ってみたいと言ってましたから」
「ただいまー!」
「お、噂をすれば。ちょっと行ってくるよ、ブエナは座ってて」
「うん。ありがとう」
耳に届く、元気な男の子の声。
帰って来た子供達を出迎えるため、“彼”は足早に玄関へ。
すると、靴を脱いでいるのは息子一人。次女のブエナベントゥーラの姿はなかった。
「お帰り。あれ、トゥーラは?」
「コロナちゃん達と遊ぶって。もうお客さん来てるの?」
「ああ。おやつもあるから、手を洗っておいで」
「はーい」
どうやら、娘……トゥーラは、息子の幼馴染と遊んでから帰ってくるようだ。
ランドセルを下ろしながら洗面所に向かう小さな背中を見守りつつ、“彼”はその未来を思って腐心する。
何故ならば、ご近所さんに存在する息子の幼馴染のウマ娘は、全部で五人も居るからだ。
コロナシオン、ソシアルクラブ、タンタラス、オブラマエストラ、ピュティアス。以上の五人全員が、おそらく息子に対して好意を抱いている。
いずれ息子が直面するであろう修羅場は……想像したくない。というか昔を思い出すので考えたくない。
にしても、息子とその幼馴染達を見ている時に、脳裏を飛び交う「危険な配合」という単語はなんなのだろうか。
過去にどこかで聞いたような気もするけれど……?
いや、やめておこう。今は息子を紹介するのが先だ。
という訳で、早速スペと息子を対面させるのだが……。
「あ、来た来た。スペさん、紹介しますね。この子が長男の──」
「…………きれい」
「えっ?」
「へ?」
「あっ、ち、ちが……!」
「……おいおい」
会ってみたいと言っていたスペと顔を合わせた途端、真っ赤になって“彼”の背中に隠れてしまった。
ここで改めて、現在のスペシャルウィークを見てみよう。
現役時代に人気だった可愛らしい顔立ちはそのまま、髪を腰に届くほど長く伸ばしており、食が細くなった影響か、儚げな雰囲気まで漂わせている。
人懐っこい性格も相変わらずだが、年相応の落ち着きを得た今、正しい意味での「美女」と言える。息子が思わず照れてしまうのも、ある意味では仕方ないだろう。
ブエナと比べたらどっちが美人かって? ブエナに決まってるだろ仏血転がすぞ貴様。
「ふふふ。そんな風に言ってもらえるの、嬉しいな。うちの子達は絶対に言ってくれないから。ありがとう」
「あ、あの、あ、ううう……」
「珍しい……。この子がこんなに照れちゃうなんて、流石はスペさん!」
「もう、ブエナさんまで。おだてても何も出ませんよー?」
「……まぁま?」
「ああぁ、シーちゃんお口がべったり……。そうだ、シーちゃん。お兄ちゃんにご挨拶する?」
子供同士なら緊張も和らぐと考えたのか、スペは、おやつを堪能しきったらしいシーザリオを抱き、その口周りを拭ってから、二人の息子へ挨拶させる。
「え、えっと……」
「……しーざりお、です」
「シーザリオ……? うわぁ、すごくカッコいい名前だ! 羨ましいなぁ」
「んへへ……」
目論見通り、年は離れていても通じるものがあったようで、第一印象は上手く行った。
その後は、息子も交えて旧交を温める時間が続き、早くも帰らなければならない時間となる。
ところが……。
「や゛ぁぁぁだぁぁぁああああ! お゛に゛ーぢゃん゛どい゛っじょがい゛い゛ぃぃぃ!!」
シーザリオが、息子の首へとしがみついて、離れなくなってしまった。
甲高い泣き声は周辺一帯に轟き、何事かとご近所さんが様子を見に出てくる始末。流石のスペもこれには慌てふためく。
「んもぉ、シーちゃんってばダメよ……! ほ、本当にすみませんっ、いつもはこんなワガママ言う子じゃないんですけど……っ」
「く、首が、首がじまるゔぅ……っ」
「あ、あはは……。な、仲良くなり過ぎちゃいましたね……?」
(息子よ……。二歳児を堕とすのはちょっと業が深いぞ……)
幼なくともウマ娘はウマ娘。相当な力で抱きついているらしく、息子の顔色が段々とヤバくなっている。
そして“彼”の脳内に乱舞する「危険な配合」の文字。もう何が何やら。
とりあえず、息子の幼馴染の少女達。新しいライバルが加わったぞ気をつけたまえ。
「ほら、お兄ちゃん困ってるよ? ちゃんとバイバイしなきゃ。また会いに来られるから。ね?」
「すんっ、ゔゔぅ、ぐす……っ」
「じゃ、じゃあ、今度は僕が、会いに行くよ。シーちゃん」
「……ほんと?」
「うん、約束だ。指切りしようか」
「……ん」
夕暮れの中、再会を約束し、指切りを交わす幼い子供達。
どこか切なく、郷愁を誘う光景は、誰しもが胸に抱く思い出と、重なるからだろうか。
「おにーちゃん」
「なんだい」
「シーがおおきくなったら、およめさんにしてくれる?」
「へっ!? う、うん、いいよ」
(あ、バカお前……!)
「えへへ、やくそくっ」
(……あっちゃあ)
だがしかし、同時に危険過ぎるフラグが立ったのを確認した“彼”が、頭を抱える。
これはマズい。非常にマズい。
ポッと出の新キャラに婚約者ポジを奪われるとか、幼馴染達の阿鼻叫喚が見える見える。
……待てよ。よくよく考えれば、これから関係を密にすればシーザリオも幼馴染になるのだろうか。なんだか幼馴染が渋滞してきたぞ。
相手は二歳? そんなん恋する乙女には関係ないんですよ。
「うちの子が、シーザリオちゃんと……?」
「……もしそうなったら、ブエナさんとも家族になって……。素敵、かも?」
「はい! そうなったら素敵ですねっ!」
(息子よ……。強く生きろ……)
はっはっは。シーザリオちゃんは気が早いなぁ。……なんて口を挟もうか考えていたら、もう趨勢は決していた。
双方の母親同士が結託した時点で詰みである。
息子の幼馴染達よ。口を挟む勇気のない父を許してください。本当に、申し訳ない。
齢九歳にして、嫁取りもしくは婿入りが確定した息子の未来に、“彼”は涙を禁じ得ないのだった。
そんなこんながあった、騒がしい日の夜。
夫婦の寝室にて、“彼”はソワソワしつつ愛しい妻を待っていた。
「“貴方”。入っていい……?」
「あ、ああ。いいぞ」
なぜ、こんなにもソワソワしているのか。それはもちろん、“うまぴょい”のお誘いを受けたからである。
健全かつ良好な関係を維持している夫婦なら、ごく当たり前の話ではあるのだが、何年経ってもドギマギして。これはもう性分だろう。
くどいと思われるかも知れないが、あえて説明しよう。
ここで言う「うまぴょい」とは、ちょっと激しめにうまぴょい伝説を踊ってもらう事である。
現役時代の勝負服を始め、トレセン学園の制服、体操服(赤ブルマ)、センシティブではない水着(意味深)、全然センシティブじゃないレースクィーンコス(意味深)、センシティブとは掛け離れた改造バニーコス(意味深)などの衣装を着てもらい、夜のコール&レスポンスをするだけなのである。
コンプライアンス違反とは無縁の行いなので、どうかご安心頂きたい。
そしてそして、その日のブエナが選んだのは……。
「そ、その格好は……!!」
「……ぉ、お待たせしました。ご注文のブエナビスタですっ。……なんちゃって」
某ファミレスチェーン店との仕事で着た、可愛らしいデザインのウェイトレス衣装を身に纏っていた。茶色に縦縞模様が特徴のアレである。
真っ白なエプロンと、それに負けないくらいに白い太ももが眩しい。
「きゅ、急にどうしたんだ? というか、まだ持ってたのか、その衣装……」
「うん。思い出の衣装だし、捨てられなくって。胸まわりがちょっとキツいけど、まだ着られて良かった。似合う?」
「……もちろん。可愛いよ」
「うふふ、ありがと」
確か、仕事を終えた際に記念にと買い取った物で、過去に何回か使ってオッホン着てもらった事もあるが、ずいぶん久しぶりだ。
改めて見ても、ブエナは30過ぎとは思えないほど若々しい。
制服を着ていればまだ学生でも通じるくらいで、しかもそこに、女性として成熟した(自主規制)から放たれる(言論統制)が合わさってもう(世界の修正力)。
「その、ね。スペさんとシーザリオちゃんを見ていたら……羨ましく、なっちゃったの。あの子達も大きくなったし、だから……今日は、つけないで……どう……?」
「あ〜……そう、だな……悪くはない、と思うけど……」
うーん。もう一押し、かな。
ギラギラとしだした“彼”の目付きに、ブエナは確かな手応えを感じた。
あと少し……。直接的な戦法をとっても良いだろうが、ここはやはり、“彼”の方から求めてもらいたい。そんな気分だ。
という訳で。
「“貴方”。……ううん、お客様」
呼び方を他人行儀に変え、“彼”の隣へ腰掛けたブエナが、上目遣いに肩へと寄り掛かり……。
「早く召し上がらないと、冷めちゃいますよ……?」
耳元で、こう囁いた。
“彼”の脳内で、「ブチィッ」と何かが切れる音がした。
「ブエナぁ……っ」
(あ。スイッチ入った♪)
「そんな風に、客を誘惑するような悪いウェイトレスには……教育的指導だっ!!」
「きゃー!」
ゆらり。
ベッドから立ち上がった“彼”は、勢いよくブエナに襲い掛か──もとい、夜のコーレスを開始するのだった。
この数ヶ月後、ブエナは無事に懐妊するのだが、その赤ん坊はなんと三つ子であり、てんやわんやの育児に奮闘する事となる。
ご近所さんや両親、旧友などの助けを借りつつの日々は、実に大変ながらも、充実していたという。
加えて、そんな二人の息子もまた、遠い未来で父と同じ道を歩む事になるのだが……。それはまた、別のお話である。
「お兄ちゃーん、お父さんとお母さんが“また”うまぴょいしてるー」
「またかぁ……。仕方ない、今日は兄ちゃんの部屋で一緒に寝よう。たぶん明日は起きてこないだろうし、朝ごはんも兄ちゃんが作ってあげるから」
「ホント? やったー! じゃあ卵焼き食べたい、甘いやつ!」
「はいはい、甘い卵焼きね。りょーかい」
あーあー! 俺もブエナちゃんみたいな幼馴染が欲しいなー!(本音)
そんでもって色んなコスプレうまぴょいしてーなー!(本音の二度打ち)
はい。試合に勝って勝負に負けたけど、イチャイチャ具合いでは決して負けてないブエナちゃんEDでした。誰かあいつらを爆破しろ。
ちなみに、三つ子の名前はブエナエルドラード、アルタビスタ、グランビスタとなります。たぶんその後も何人か産まれるんじゃないっすかね知らんけど。
本編中にスペぺはちょろっと出てたのに、シーザリオちゃんが一切出てこないのを疑問に思った方も居たかも知れませんが、全てはこのEDのためです。
個人的な意見なんですが、あんだけ見た目が似てて赤の他人とか無理ない? と初見で思ってしまったので、拙作ではガチ親子になって貰いました。
きっとこれから先の未来で、シーザリオちゃんも幼馴染トレーナーをGETして初手婚姻届するんでしょう。やはり血筋か。
あと、スペぺの髪は長い方が絶対良い。いつだったか見かけたロングヘアのファンアートがとても好きです。
水着の尻肉も、まじまじ見ていると……ふふふ……tntnがぼ(ヤメナイカ! バシィ!
さてさてさて、次回はいよいよ本当の最終話。大トリのヴィルシーナお姉ちゃん+αでございます。ご期待ください。