ブエナビスタのお姉ちゃんのお兄さん 作:幼馴染にされたネクパイ
「本当に、気をつけてな? 重い物を持ったりとか、絶対に無理しないようにして、後は……」
朝。
ヴィルシーナは、夫を見送るために玄関へ向かう。
着慣れたスーツ姿の“彼”が、靴を履き終えて振り返り、心配そうに気遣ってくれて。
それが幸せで、自然と笑みが浮かぶ。
「ふふふ。もう、心配性なんだから。大丈夫よ、今日はパパだって居てくれるんだし。“貴方”はしっかり、シュヴァルを応援してあげて」
こうも心配する理由はただ一つ。ヴィルシーナが妊娠初期だからである。
結婚してまだ半年も経っておらず、もう少し二人の時間を楽しむ予定だったのだが、こればかりは授かりもの。家族総出でお祝いもした。
本来なら片時も離れたくはないはずの“彼”が、しかしそれでも二日間の外出をしなければならず、先のやり取りに繋がるのである。
その理由とは、義妹となった元担当ウマ娘、シュヴァルグランの選んだ、新たなる進路に関わっていた。
「ごめん、姉さん。こんな大事な時期に、義兄さんを借りちゃって……」
「こら。そんなに謝らないの。貴女だって大事なレースが控えているでしょう? 頑張って」
「……うん。頑張る。勝ってみせるよ」
「ヴィブロスも、気をつけて。私の分まで、応援お願いね」
「まっかせて! 会場の誰よりも大きな声で応援するから!」
「そ、そこまでしなくて良いから……」
トゥインクルシリーズを、ジャパンカップ勝利という有終の美で飾ったシュヴァルは、障害レースへと転向し、今も走り続けている。
誰よりも速く駆けるのが至上のトゥインクルシリーズに対して、障害レースでは如何に美しく走るかを競う。
求められる能力も技術も違うが、それでも努力を続け、やっと大きなレースに出走できるようになったシュヴァルを応援するため、“彼”とヴィブロスは現地に赴くのである。
「じゃあ、もう行くよ。明日の昼には帰ってくるから」
「あ……。少し、待ってもらえる?」
「ん? 二人とも、先に行っててくれるか」
「……分かった」
「先に車に行ってるねー」
出立しようとする“彼”を、ヴィルシーナが思わず引き止める。
先に妹達を送り出し、玄関には夫婦だけ。
この状況で、する事があるとしたら……。
「ヴィルシーナ」
「……“貴方”」
自然と二人の距離が近くなり、やがて、完全に重なった。
背中に回される“彼”の腕が、伝わる温もりが、たまらなく嬉しい。
吐息。
程なく、惜しむようにゆっくりと離れた夫婦は、やっと見送りの挨拶を交わす。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
玄関の向こうへ消えていく背中に手を振り、鍵の閉まる音を聞いて、しばらく。
途端に襲いかかってくる寂しさが、胸を締め付けた。
「はぁ……」
知らず知らずのうちに、温もりの残る唇をなぞる。
嘘をついてしまった。
本当は大丈夫じゃない。不安で仕方ない。ずっと側に居て欲しい。
けれど、シュヴァルのレースも大切で、その応援を任せられるのも、“彼”とヴィブロスしか。
“彼”が婿養子となり、実家で両親と同居するようになって、ヴィルシーナは自分が寂しがり屋である事を自覚した。
同居と言っても、父も母もそれぞれに仕事があるので、二人きりになる時間は多く、だからこそ孤独を強く意識してしまう。
あと半年もすれば母親になるというのに、自分が情けない……。
「しっかりしなさい、ヴィルシーナ。早く準備をしなくちゃ」
気を取り直し、ヴィルシーナは家の中へと舞い戻る。
今日は午前中に定期検診があるのだ。
仕事が休みだった父に送ってもらい、医師からは体調も安定していると太鼓判を頂いて、午前中の予定は終了。
午後は、産院で知り合った友人との待ち合わせに、レースカフェへ。
タクシーで向かうそのカフェは、店内に据えられた大画面で、各地の開催レースを観戦できるのが売りだ。
残念ながら、シュヴァルの障害レースは取り扱われないらしいが、ある意味、それもちょうど良かった。
「ご機嫌よう、ディザイアさん」
「あら、ヴィルシーナさん。ご機嫌よう」
赤がメインの、ゆったりしたマタニティドレスを着たウマ娘……。レッドディザイアに、ヴィルシーナは笑いかける。
彼女と出会ったのは偶然だが、いざ知り合ってみると、この出会いは運命だったのではと、そんな風にも思う。
何せ、ヴィルシーナもディザイアも、同じトリプルティアラ路線を走ったのだから。
「お互い、順調なようで何よりです」
「本当に。こうしてディザイアさんとお話できるのも、とても助かっています。一人だと、どうしても気が滅入る時もありますから」
「そう言って頂けると、聖女として冥利に尽きますわ。現役を引退したとしても、聖女である事からは引退しませんので!」
やたら聖女という単語をアピールする、大人になっても転生物小説愛好家のディザイアは、“あの”ブエナビスタとトリプルティアラを競った。
その結果は、ヴィルシーナと同じく悔恨に満ちたもの……というのが一般的な見解だけれど、当の本人はそれをバネとし、海外レースにも挑戦。大きな結果を残した。
現役引退後、担当トレーナーと結婚したディザイアは、なかなか子宝に恵まれなかったものの、つい数ヶ月前に念願の懐妊を果たし、幸せ一杯である。
ディザイア風に言うなら、新たなパーティーメンバーが加わった、といった所か。
「実は……。そんな聖女たるディザイアさんに、折り入って相談が……」
「まぁ。何か、お悩みで? こうして知り合ったのも縁。ぜひとも、お力添えさせてください」
「ありがとうございます」
お茶で一息を入れ、しばらく。
神妙な面持ちで、ヴィルシーナは本題を切り出す。
現役時代から、聖女の試練と称して人助けに奔走していたディザイアなら、この悩みを受け止めてくれるのでは? と、すがる様な思いだった。
「こんな事を相談するのは、正直に言うと恥ずかしいのですけれど……。どうしても不安が消えなくて……」
(……ヴィルシーナさんがここまで仰るだなんて、相当な悩みなのだわ)
一方のディザイアも、深刻さを窺わせる友人の様子を見て、内心で気を引き締める。
まだ知り合って間もないけれど、ヴィルシーナの振る舞いの気高さには目を見張るものがあり、その言動と相まって、まるで転生乙女ゲーのヒロインのライバルキャラ(後で仲間入り確定)の様だと思っていた。
時に、ヒロインを食うほどの人気を得る立ち位置の存在を、この手で助ける事ができたなら。産まれてくる子に、大きな徳を積めるやも……。
情けは人の為ならず。
我が子の輝かしい未来のためにも、必ずや、この試練を突破しなければ……!
と、意気込んだは良かったが。
「妹が……シュヴァルが、夫を……誘惑しているかも知れないんです……!」
「…………今なんと?」
「妹が、私よりも若干瑞々しい肉体と豊かな大胸筋を使って、夫に対してNTRモーションを仕掛けているかも知れないんです……!」
「描写を生々しくして欲しいとは言っていませんよ!?」
あまりにもあんまりな相談内容に、思わずツッコミを入れてしまった。
じ、実の妹が夫にナリタトップロードさん?
いやいやまさか。
個人的な付き合いはないけれども、シュヴァルグランは引っ込み思案なウマ娘だという評判くらいは知っている。それがナリタトップロード行為だなんて……。
「あの、ヴィルシーナさん。流石に気のせいなのでは? 担当契約を結んでいたとはいえ、今は義理の兄妹である訳ですし」(……でも、ちょっとえっちな転生物ではよくあるかしら?)
「だからこそなんです! 私が夫と結婚してから、妙に距離感が近くなったと言うか、ボディタッチが多くなったんです! これを見てください!」
愛する夫との研鑽により、今となっては児戯としか思えない、R18スレスレの挿絵入りラノベでなら、Let‘sナリタトップロードもよくある事だろう。
しかしここは現実世界。本当にやってしまえば、不貞行為で裁判からの慰謝料ゲットだぜ! コースまっしぐらである。
ヴィルシーナを射止めたほどの男性が、そんなことをするだろうか?
そもそも、月すら霞む美しい妻が居て、浮気しようと思うだろうか?
そんな、ごく当たり前の疑問を差しはさむディザイアに対し、ヴィルシーナが見せたのは携帯で隠し撮りしたらしい写真。
その中には、ソファでくつろぎながらレース雑誌を読む“彼”と、同じソファの背もたれに後ろから肘をつき、“彼”の肩越しに覗き込むシュヴァルの姿だった。
近い。あとほんの数センチで「ちゅっ」となりそうな距離感だ。もし自分の夫が他の女とこんな距離感だったら、気が遠くなるレベルである。
「こ、これは……確かに近過ぎる、ような……?」
「ですよね!? あああ、どうしましょう……! この体ですから、最近は夫にも我慢させてしまっていますし、そんな時にシュヴァルの魅惑のボディとうっかりラッキーSKBが発生したりしたら……!」
(意外と俗っぽいですわねこの人)
きっと真剣に悩んでいるのだろうが、ワードチョイスが地味に庶民的というか、なんというか。
その後も、ちょっと暴走気味なヴィルシーナを宥めることに時間を費やし、ディザイアの優雅な午後は終わった。
とりあえず当たり障りのない助言を言う事しかできなかったが、なんだかこれからも相談と称しては騒動に巻き込まれそうな、そんな予感をヒシヒシと感じるのだった。
にしても、ラッキー(S)サ(K)クラ(B)バクシンオーとはなんだろう。後でググってみなければ。
「ゔぅーん……。シュヴァル……優勝、おめでとう……よかったな……」
「……もう10回は聞いたよ、義兄さん」
ヴィルシーナとディザイアが、ナリタトップロードへの風評被害を撒き散らしたのと同日。夜。
酔い潰れた“彼”を背負い、シュヴァルはホテルの廊下を歩いていた。
「すっごい喜んでたもんねー。ホントに格好良かったよ、シュヴァち」
「だから、もう十分だってば……。ほら、部屋のドア開けてくれる?」
「はーい」
照れ臭さを隠したいのだろう。ぶっきらぼうな物言いをするシュヴァルに、それでも笑顔を崩さないヴィブロス。
大人になっても、その姉妹関係は非常に良好である。
本日行われた障害レースにおいて、シュヴァルは見事に優勝した。
トゥインクルシリーズと比べると規模は小さめだが、華やかさでは障害レースも負けてはいない。
速さよりも、動きの正確さ・美しさを追求するこのレーススタイルは、それ故に“見栄え”を極める必要がある。
それは衣装に始まり、走行中のアクロバットや、既定タイム内に全ての障害をクリアする技術、果ては障害をクリアした際に挟む決めポーズなどなど……。
様々な要素が絡み合う中、評価を競う姿は、人間のフィギュアスケートにも通じる部分があった。
シュヴァルの場合、トレードマークでもある帽子を取り入れ、バーを飛び越える前に放り投げ、華麗に着地しながら被り直す……といったアクションで、観客から黄色い歓声を浴びた。
そして、全体的に格好良い系でまとめているのに、本人が照れてしまって生来の可愛らしさが漏れ出す瞬間もあり、「そのギャップがたまらないんですよ! シュヴァくぅーん! 永遠に愛してるー!」と、トゥインクルシリーズから追いかけているというファンの女性は語る。
単純なファンの数なら、今の方が多いかも知れない。
という訳で、優勝を記念してホテルのレストランで祝杯をあげ、調子に乗って飲み過ぎてしまった“彼”を、部屋まで送り届ける事になったのだ。
予約してあったシングルの部屋に着き、ベッドに“彼”を寝かせると、シュヴァルはその肩を優しく揺らす。
「よいしょ……。義兄さん、大丈夫? 聞こえてる?」
「ん……? うん……」
「完全に酔ってるね……。お義兄さんってお酒弱かったっけ?」
「さぁ……」
シュヴァル達が二十歳になってから、幾度か共に酒精を楽しむ機会があったけれど、酔い潰れる姿を見るのは初めてだった。
それだけ喜んでいた……。思わずハメを外してしまったとも考えられるだろうか。
事実、ヴィブロスも少し肌が汗ばんでいるし、“彼”のシャツのボタンを外すシュヴァルも頬が上気している。酔っているのは間違いない。
……ん?
シャツのボタンを外して?
「ちょちょちょちょい待ったぁああっ!! 何してんのシュヴァちぃ!?」
「何って、寝苦しそうだから服を緩めてるだけじゃないか。はぁ……はぁ……!」
「そんな鼻息荒く言っても信じられないってばぁ!」
慌てて止めに入るヴィブロスだが、シュヴァルはテコでも動きそうになかった。完全に肉食獣の顔だ。なんなら口から涎も垂れている。
ヤバい……。これヤバいかも……? シュヴァち、完全にヤる気だ……!
「っていうか、やっぱりシュヴァち一服盛ったよね!? 気のせいだって思いたかったけど、お義兄さんのグラスになんか白い粉入れてたよね、サァー、って!?」
「ちっ」
「あっ舌打ちした!」
「 ソンナコト シテナイヨ ヴィブロス ノ キノセイダヨ 」
すっとぼけるシュヴァルだったけれども、ヴィブロスの目は誤魔化せない。
ホテルのレストランで、ヴィブロスが化粧直しのために席を外し、お手洗いから戻ってきたその時、グラスから目を離した“彼”の隙を突き、粉状の何かを混入していた……様に見えた。
あの場では気のせいだと思って何も言わなかったが、ややあって“彼”が酔い潰れた上、このシュヴァルの行動を考えれば、弁解の余地は無いだろう。
「ねぇシュヴァち、やめようよ……。お義兄さんは、お姉ちゃんの旦那様なんだよ? お姉ちゃんが悲しむよ……」
ふざけた雰囲気もここまで。
シュヴァルを背中から抱きしめ、ヴィブロスは説得を試みる。
敬愛する姉──ヴィルシーナが、現役時代から想いを寄せていた“彼”。その結婚式での幸せぶりは、涙が出るくらいに嬉しかった。
子宝も授かり、幸せの絶頂期にあるというのに、妹が夫を逆ぴょいしたなんて知ったら……。最悪の事態にもなりかねない。
「そんなの、分かってる……。でも、だったら僕の気持ちはどうなるのさ? 出会う順番が違っただけで、全部、諦めなきゃいけないなんて、そんなの……酷いじゃないか……」
シュヴァルは……泣いていた。
恐らく彼女も、秘めていた想いがあったのだろう。
ずっとずっと、胸の中にそれを溜め込んで。表面張力でギリギリを保っていた気持ちが、何かの拍子に溢れてしまった。
出会う順番が違えば、シュヴァルと“彼”が結ばれる未来も、あったのだろうか。
加えて、焦らせる要因は他にもあり……。
「キタさん、三人目を妊娠したんだって」
「えっ、そ、そうなの?」
「ダイヤさんも二人目を妊娠中だし、クラウンさんも……。僕だけ、また置いてけぼりだ」
「シュヴァち……」
かつて学友だったウマ娘達の、幸せの報告。
喜ばしい事なのに、それを聞くたびに胸が締め付けられ、苦しくなった。
どうして僕は、見ているだけなんだろう。
好きな人が、僕じゃないヒトと幸せそうに笑っているのを、見せられているんだろう。
なんでそのヒトが、よりにもよって、姉さんなんだろう。
せめて赤の他人なら、嫌う事も、憎む事も、できたのに。
「姉さんを裏切るつもりなんて無い。……せめて、初めてくらいは、見逃してよ。そうしたら、諦めるから……っ」
「で、でもぉ……やっぱり良くないよぅ……」
シュヴァルも分かっている。横恋慕した所で、もう手遅れだと。
ならば、一度だけ。たった一度だけでも、想いを遂げたい。
そうしたらきっと、気持ちの整理もつけられると思うから。
一方で、ヴィブロスはその言葉を信じる事が出来なかった。
シュヴァルは一途なウマ娘だ。たったの一度でも……そういう関係になったなら。
より想いを強くして、抜け出せなくなってしまうのでは?
「……そういうヴィブロスだって、本当は興味あるんじゃないの? いつも言ってるじゃないか、危険な恋に憧れるって」
「それは、確かに言ってるけど……。こういうのは危険じゃなくって不道徳っていうか……。べ、別にお義兄さんが嫌な訳じゃない、けどぉ……っ」
ぴく。シュヴァルのウマ耳が跳ねる。
なんとなく水を向けたヴィブロスの反応に、脈を感じたのだ。
もしかしたら……。
シュヴァルは意を決し、抱擁から抜け出す。
そして、ヴィブロスを“彼”に向けて押し出した。
「えいっ」
「うわぁ!?」
突如として突き飛ばされ、否応無く倒れ込むヴィブロス。
自然、“彼”の体の上に収まったのだが、その衝撃でわずかに意識が覚醒したらしく、視線が重なる。
「ん゛……。ヴィ……?」
「あ」
どくん。
心臓が大きく脈打った。
きっと“彼”は今、ヴィブロスをヴィルシーナと勘違いしている。でなければ、腰に腕を回したりなどしないはず。
だめ。だめ。だめ。
これは、だめ。早く逃げないと。
そう思っているのに、体が動かない。
“彼”の腕には全く力が込められていないのだから、ただ身じろぎするだけで逃げ出せる。
だと言うのに、逃げられない。密着した体が離れたがらない。
まるで、“本能”がそうする事を望んでいるかの様に。
「ねぇ、ヴィブロス。共犯者になろう? 一緒に、悪いこと、しようよ」
初めての情動に戸惑うヴィブロスを、背徳へと唆すシュヴァル。
それは、甘い誘惑。
純真無垢なイヴに、知恵のリンゴの味を説く、失楽園への誘い。
狡猾なる蛇の囁きを聞き、ヴィブロスの選んだ道は……。
「わ、私……。私、は……」
「ゔゔぅ……飲み過ぎた……あだまがいだいぃ……」
ソファに寝そべり、“彼”は顔を歪める。
断続的に襲いくる頭痛は、明らかに前日の飲酒が原因だった。
だらしない夫の姿に、しかしヴィルシーナは幻滅するどころか、楽しげに笑っている。
仕事では隙を見せない“彼”が、弱みを見せてくれるのが嬉しいからだ。
「もう、いくらシュヴァルの祝勝会だったからって、ハメを外し過ぎよ? 過度な飲酒はいけません」
「うん……。反省してます……。全然覚えてないけど、なんか、二人共よそよそしいし、本当に酷い酔い方だったんだな……。後で、謝らないと……ゔぅ……」
「……そうね。その方が、いいかも知れないわね」
呻き声に返事をしつつ、“彼”が帰ってきた時のことを思い返す。
玄関を開けて、“彼”が二日酔いで青い顔をしていたのには、少し驚いた。
が、もっと気になったのは、妹達のこと。
二人で両脇から“彼”を支えていたのだが、その時の雰囲気が……“彼”を見る目が、今までと違っていたような、気がする。それに、歩き方にも微妙な違和感が……。
気のせい、だろうか? 気のせいであって欲しい。
ああ、だけど……。
「なぁ、ヴィルシーナ……」
「……! どうしたの、“貴方”。お水欲しい?」
「そうじゃなくて……。あ、アレ、してほしい、んだけど……」
考え込んでいたヴィルシーナに、起き上がった“彼”がアレをねだる。
途端、妙な考えは頭から抜け落ち、笑みが浮かんでしまう。
いつだって、愛しい人から求められるのは、嬉しい事なのである。
「うふふ。甘えん坊なんだから。ほら、いらっしゃい」
ソファの空いたスペースへと腰を下ろし、腕を広げて“彼”を待つ。
すると、ヴィルシーナに抱きつくようにして、胸に顔を埋めた。
ヴィルシーナの前で、“彼”が初めて弱みを見せた時と同じ……。かつては理性の十割を削れた、頭を抱え込む抱擁である。
「どう? 頭痛は治った?」
「少し、楽になった……。温かくて、落ち着く……」
あの時は卒倒した“彼”も、今では耐性がついてしまって、しっかりとヴィルシーナの体温を楽しむ余裕を見せるが、それはそれで嬉しいから問題ない。
自分の前でだけは甘えん坊な、愛しい愛しい夫の頭を撫でながら、改めて思う。
この人を選んで。選んでもらえて幸せだ、と。
この温もりを、絶対に手放したくないと。
「ねぇ、“貴方”。今夜は、一緒にシャワーを浴びない……?」
「えっ。いや、でも……そんな事したら、我慢が……」
「いいの。大事にしてくれているのは分かるけれど、私だって……“貴方”に触れてもらえないのは、寂しいもの」
一緒にシャワーを……というのは、二人の間で通じる、夫婦の営みのお誘いだ。
妊娠初期という不安定な時期ではあるが、夫への不安を相談した時に、ディザイアも言っていた。
『夫婦生活とは、お互いが努力をして維持するものです。
どちらかが相手の想いにあぐらをかいた瞬間、その重みで崩れてしまう……かも知れません。
愛しているから大丈夫。愛されているから大丈夫。
そんな風に思い込まず、愛し続ける努力、愛され続ける努力をしていきたいと、私はそう考えています』
……と。
ヴィルシーナは深く感銘を受け、自分もそうありたいと思ったのだ。
だからこれは、愛され続けるための、努力。ちょっとした実益を兼ねた、努力なのである。
別に、濃さをチェックしようなんて思ってません。ええ違いますとも。
「そ、それじゃあ、その、お言葉に甘えて……。き、気をつけるから、負担かけないように」
「……ありがとう。私も、ちゃんと満足してもらえるように、頑張るわ」
純粋に体を気遣ってくれる夫に、ほんのり罪悪感を覚えつつも、“彼”へと微笑む。
どんな理由があろうとも、久方ぶりに過ごす夫婦の時間。
その甘さを思い、密かに胸を高鳴らせるヴィルシーナであった。
だがしかし。
この数ヶ月後、誰もが羨むおしどり夫婦に、未曾有の大ピンチが訪れる事を、彼女はまだ知らない。
プルルルル……。ガチャリ。
はい、どちら様かな。
おや。かの高名な“貴婦人”から連絡とは。何か御用で?
……白い粉状の精力剤? 確かにそんな物も作った記憶が……。
ああ、なるほど。君の後輩から聞いたのか。確か同じトレーナーに師事していたねぇ。
君ほどの人物なら、心身の疲労も相当だろう。分かった、使用データを提供してくれるなら融通しようじゃないか。
ただし、他人に譲ったりはしないでおくれよ? ウマ娘なら無効化できるが、人間、特に男性相手だと、アルコールと反応して強烈な睡眠導入効果が……。
うむ、分かっているなら問題ない。すぐに送るよ。では。
ガチャリ。
……プルルルル。プルルルル。ガチャリ。
はいはい、どちら様かな。
……ほう、これは珍しい。君がラストランで見せたあの“絶景”。私の記憶にも強く焼き付いているよ。とても興味深かった。
ん? 白い粉状の精力剤? 誰から聞いて…………ふむ…………確かに、君の料理は美味しいと評判だねぇ。たまにはきちんと食べておかないと、カフェも怒るし……。
良いだろう、用意するよ。では失礼。
ガチャリ。
……プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。ガチャリ。
……はい。どちら様……?
はぁ……。融資の申し出ねぇ。それは有り難いが、見返りを求めてのことなのだろう。何が欲しいんだい。内容次第では……。
へっ。白い粉状の精力剤? またぁ?
い、いやいや、「とりあえず1kgくらいよろー」ってそんな軽いノリで言われてもだね(プツッ。ツー、ツー、ツー)
…………。
ガチャリ。
……プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。
プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。
プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。
……………………。
よし。この施設は放棄しよう!
おかしい。最近、やたら飲みに誘われる上、なぜか絶対に酔い潰れてしまう。
体重もずっと減り続けてるし、けど妙に活力は漲ってる。まさか、彼女達が何か……。
いやいや、考え過ぎか。そんな事をするような人達じゃない。
とりあえず病院に行って、検査だけしておこう。何もなければ、それに越したことはないんだから。
ヴィルシーナから平手打ちをもらう前日の、“彼”の日記より抜粋。
という訳で……。
みんなー! 滅煮修鬼羅っ修っ修な修羅場パート2、はっじまっるよー!!(作者はこの一文を気に入っています)
いやー酷い酷い。誰だこのEDを描いたのは!? 女将を呼べぃ!
前二つのEDでも子沢山なお兄さんでしたが、このEDが一番多くの子宝に恵まれます。
そして一番早く死にます。そりゃあ寄ってたかってヤバいの盛られて逆ぴょいされりゃあねぇ……。
摩訶不思議な偶然ですが、このEDの数ヶ月後、シュヴァルも、ヴィブロスも、じぇんちるさんも、ブエナちゃんも、ついでにドナウさんもディーナちゃんと仲良し三人組もパンドラさんも身籠ったそうです。誰が父親かは絶対に口を割らなかったそうです。不思議だなぁー。
あ、アイちゃんは流石に現役なので無事です。でも数年後は分かりません。
濃さで即バレしなかったのかって? だってタキオン印の精力剤だよ? むしろ普段よりgngnのbnbnで、安心してたらKONOZAMAだよ! シーナちゃんらしいね!
ちなみに、各々のスタンスは以下の通り。
正妻ちゃん 負けない……っ。正妻の座だけは、絶対に譲らないわ!
ゴリラさん わたくしは選ばれなかった……。では奪うのみ!
絶景ちゃん 大丈夫っ。私、一人でも育てられるよ。
僕っ子 ごめん姉さん……。体だけ、体だけの関係だからぁ……。
末っ子 ……し、シンママっていうのも、立派な選択肢の一つだよねっ。
国際河川さん これも、我が家に強き血を取り込むため。どうか許して欲しい。……ついでにもう一人くらい欲しいな?
危険な配合ちゃん この子が居れば十分です。立派に育ててみせますわ、ダーリン♪
希望が残された箱さん 逆ぴょいは前の旦那で慣れてるから、問題なしなし! 養育費とかも必要ないから安心して?
怒りの大魔神さん とりあえず、一万本ノックから始めようか。
……いやー、実に大変そうだなぁー。羨まし…………くはねぇなこれ。tntnもげちゃう(白目)。
何はともあれ、これにて本当の本当に完結! いくつか残してるネタはありますけど、積みゲーを崩したいのでマジでしばらく休むよ!
つーか新シナリオ、育成に時間かかるんじゃい! シナリオ進化に距離制限あるのもなぁ……。でも自主練育成だけは神。忙しい時とかホント助かる。
ではでは、最後の最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
次回作を描くとしたら……以前にも言った通り、ブーケちゃんと(超重力場の中で)イチャイチャするだけの話、かも知れません。あんまり期待せずにお待ちください。
え、お前の顔なんかもう見たくない? 大丈夫、また微妙に名前変えるから(そういう問題じゃねぇ)。
しからば御免! アディオス・アミーゴス!