ブエナビスタのお姉ちゃんのお兄さん   作:幼馴染にされたネクパイ

8 / 19


 新年、明けましておめでとう御座います。
 本年もどうぞ、よろしくお願い致します。

 ちなみに、作者の無料100連はエアグル一枚ファイン一枚で終了しました。
 追加で100連しても、出たのはタッカーさん一枚だけ。アニバに備えて撤退します……。
 う、うちには完凸パワダンとアルヴさんと新テイオーがいるから平気だし……っ。泣いてないし……!




閑話 じぇんちるさん家の新年会

 

 

 

「ううむ……うぅん……」

 

 

 

 “彼”は唸っていた。

 苦悶の表情……と表現すると重たいが、夕飯の献立に悩んでいる……といった軽さでもない。

 少なからず、ストレスを感じているのは間違いないであろうその声は、静か過ぎるリムジンの車内でよく聞こえた。

 そしてそれは、“彼”の隣に座るジェンティルドンナにも、もちろん届いていて。

 

 

 

「さっきから何を唸っていますの。少々聞き苦しくってよ」

「あ、すまない……、どうにも胃が重たくて……」

 

 

 

 苦言を呈すジェンティルに謝るも、やはり“彼”の顔色は優れない。

 元日の早朝。

 実家に帰省している“彼”が、わざわざリムジンに迎えに来てもらって向かう先は、ジェンティルの本宅。

 彼女の父から招待を受け、新年会に出席するのである。

 

 

 

「本当に、吊し上げ大会とかじゃないんだよな……?」

「はぁ……。お父様がそんな小さい事をする訳ないでしょう。そもそも、そういった不作法を許す方ではありません」

 

 

 

 招待を受けたのは、ホープフルを快勝し、二連勝を達成したその翌日のことだった。

 阪神JFの勝利後、ジェンティルと“彼”は3連戦という無謀なローテーションを発表したが、文字通り、会見会場は賛否両論で揺れた。

 賛が二割で否が八割……といった印象ではあったが、ホープフルの結果で多くの批判は黙らせた。もはやシンザン記念も勝ちは確定かと、年末年始のジュニア級の話題は二人で掻っ攫った形だ。

 

 そんな中、唐突に親から呼び出し。

 お小言を貰う心配をしてしまうのも、無理からぬ事であろう。

 ……と、緩やかにリムジンが停車し、動いていた風景も止まる。

 立ち塞がったのは、巨人専用かと思いたくなるほど大きな門であった。

 

 

 

(でけぇ……そして玄関まで遠い……)

 

 

 

 セキュリティ認証を済ませて、自動で開いていく門を通り過ぎるが、そこからが妙に長い。

 都心から離れた郊外の大邸宅と言っても、敷地内を車で移動しなければならないだなんて、凄まじい財力を思わせる。

 いずれはメジロ家やサトノ家にも匹敵する、偉大な名家として名を馳せるのだろうか。

 

 

 

「ほら。わたくしのトレーナーなら、その情けない顔を仕舞いなさいな。そんな調子では見くびられますわ」

「……分かった」

 

 

 

 玄関前でようやく停止した車を、後ろ髪を引かれる思いで降りる。ぶっちゃけ今すぐ帰りたい。

 けれども、軽くネクタイピンを撫でて、仕事モードに意識を切り替えながら、背筋を伸ばす。

 表情や目付きまで変わり、やっとジェンティルも満足したようだった。

 

 まずは控え室に迎えられ、少々の待ち時間が。

 立場の低い者から会場に入る必要がある……との事で、かなり厳格な集まりなのだと理解させられた。

 一連托生という扱いなのか、“彼”はジェンティルと一緒に入場を許された。

 既に多くの人々が待ち構えており、否応なく視線が集まる。

 

 

 

(ジェンティル。あの、こっちを睨みつけてる少年は……?)

(弟ですわ。ほほほ、今にも噛みついてきそう)

 

 

 

 中でも異彩を放つのは、明らかに年少と思われる男児の存在だ。

 小学生……いや、中学生くらいだろうか。整った顔立ちの美男子が、ジェンティル…………ではなく、“彼”を睨んでいる。

 間を空けずに入場したドナウブルーも含め、ジェンティルとは三人きょうだいだったはず。

 というか、何故に睨まれて喜んでいるのか。殺伐としているにも程がある。

 

 

 

「……! いらっしゃったわ」

 

 

 

 刹那の空白。

 ジェンティルが呟いた次の瞬間、場の全員に緊張が走る。

 立ち上がった皆の視線の先では、重厚なドアが開かれようとしていた。

 使用人達が迎え入れる人物はただ一人。

 この館の、主だ。

 

 

 

(あれが、ジェンティルの……)

 

 

 

 一見してオートクチュールと分かる服に身を包んだ、その男性から放たれる重圧。威厳。覇気。

 圧倒的なカリスマとは、時に人の心を凍らせるのだと、“彼”はこの時、初めて知った。

 前職の経験から、生命の危険を伴わないプレッシャーならば、簡単に受け流せる自信があった。

 だが、これは、桁が違う。

 何か尋常ならざる……“魂”そのものの、重さのような。

 

 

 

「皆、よく集まった。明けましておめでとう」

『明けましておめでとう御座います』

 

 

 

 上座に設けられた席へと着いた当主により、新年の挨拶が交わされる。

 慌てて“彼”も倣うが、その視線を受け止めるだけで、ただ見られているだけで、心臓が縮む。

 

 

 

「トレーナー君。御足労、感謝する。貴殿とは一度、話をしたかった。

 我が娘の選んだトレーナーであり……。“候補者”でもある、貴殿とな」

「……お招き頂き、光栄です」

 

 

 

 いっそ、拝謁を賜り……とでも返した方が、場に相応しい挨拶かとも思われた。

 しかし敬意を払うのと、無闇に謙るのとでは、全くの別物。ただ頭を下げるに留める。

 この場に呼ばれた、唯一の客人ならば。

 ジェンティルドンナのトレーナーならば。

 恐怖に腰を曲げたりしない。

 

 

 

「では、昨年の成果から報告を。──私を失望させるなよ」

 

 

 

 そんな思いを知ってか知らずか、当主は何事もなかったように話を進めた。

 ようやく席に着く事を許され、緊張感が和らぐ。

 

 ……かと思いきや、始まった報告会の内容のせいで、全く気は休まらなかった。

 世界レベルの会社経営、それによる成果、これからの展望までが、様々な人物によって語られる。

 その半分……三分の一も理解できているか怪しいけれど、この場に居る一人一人が、国境を超えて“力”を振るう人物なのは、間違いない。

 

 

 

「さて。次はわたくし“達”の番かしら」

 

 

 

 会社の重役のお歴々、ジェンティルの弟と順番が周り、いよいよその時がやって来た。

 実の弟から、傍若無人な振る舞い……と煽られての手番だが、しかしジェンティルは微笑みを絶やさない。

 

 

 

「既にトロフィーを2つほど飾らせて頂きましたが、それをもう一つ増やしてからが本番です。……トリプルティアラを、お持ち致しますわ」

 

 

 

 大胆不敵な宣言にも関わらず、会場がザワつく事はなかった。

 恐らく、この場に居る誰もが、ジェンティルの走りを見たからだ。

 レースの勝者には例外なくトロフィーが贈られ、G1ともなれば、それぞれが異なったデザインとなっている。

 今、この会場には阪神JFとホープフルの優勝トロフィーが飾られていて、近々、そこにシンザン記念の物が加わる。

 秋頃には更に3つが加わり、中でも、数少ない楯を模った秋華賞のトロフィーは、特に目を引く事だろう。

 

 

 

「ふんっ。何がトリプルティアラだ。個人の“力”だけを見せつけてどうする。それに、この前の会見では随分と叩かれていたじゃないか」

 

 

 

 そこに、ジェンティルの弟が水を差す。

 多くの“力”を纏め上げ、より大きな成果を出す……という信条を持つ弟が睨むのは、物理的に強大すぎる姉と、そのトレーナー。

 ジェンティルは言葉を止めて、視線だけを隣に。

 

 ……対応してみせろ、という事か。

 

 “彼”は今一度、ネクタイピンを撫でる。

 次いで、堪え切れず、といった風を装って笑った。

 

 

 

「……ふ。ははは」

「何がおかしい……!」

「いえ。先程の報告を鑑みるに、さぞお忙しかったでしょう。だというのに、わざわざ会見を御覧頂けるなんて、有り難いなと思いまして」

「っ、たまたま、ニュースが目に入っただけだ」

「……それに。流石の弟君(おとうとぎみ)も、レースに関しては門外漢と見えて、安心しました。その歳で文武両道を極められては、老骨の立つ瀬がありませんから」

「なんだと……!?」

 

 

 

 今度こそ、会場がザワついた。

 明確に才を軽んじられ、さしもの弟も血色ばむ。

 けれど“彼”は笑顔を崩さず、更に言葉を重ねる。

 

 

 

「難しいとは思いますが、自分としては是非、レース場に足を運んで頂きたい。

 “今のジェンティルドンナ”がどういう存在かを、肌で感じられるはずです。

 ……画面越しでは、面白味も半減ですから」

 

 

 

 額面通りに受け取れば、単なるレースへの招待。

 だがその実態は、挑発だ。

 

 素人は黙って見てろ。楽しませてやる。

 

 胡乱なやり取りに慣れた歴々は、少なくともそう受け取った。

 弟の顔が真っ赤に染まり、我慢の限界とばかりに声を荒らげようとした、その時。言葉を継ぐように、当主が止めに入る。

 

 

 

「よせ。……トレーナー君。その言葉、覚えておく。貴殿がどのように娘を導くのか、期待しよう」

「恐縮です」

 

 

 

 シン──と静まり返る会場は、しかし同時に、水面下で動揺に揺れている。

 “あの”当主に期待を掛けられる。

 その重要性を。その重圧を。皆が知っているから。

 しかも、それを初対面の若造が、飄々とした態度で受け止めているのだから、目を疑ってしまう。

 例え表面上だけだとしても、この一族と渡り合っている時点で、肝の太さなら一級品。

 向けられる視線に、“彼”を軽んじる色合いは無かった。

 

 

 

「それでは皆様。良き一年となりますよう。トレーナー、行きましょうか」

「ああ」

 

 

 

 まだドナウの報告が残っているのに、ジェンティルはトレーナーと共に会を中座した。話は済んだ、という意思表示だろう。

 堂々と去っていく背中を見送って、程なく。

 やはり我慢できなかった弟が、憮然と悪態をついた。

 

 

 

「なんなんだ、あの無礼な男は……っ!」

「やめないか。あれでも、ジェンティルが選んだトレーナー。新人の身でG1を2連勝させた手腕は、確かなものだ」

「しかし姉上っ、それはジェンティルの“力”だけでも!」

「よく考えろ。トレーナーの指示だからと言って、“あの”ジェンティルが易々諾々と従うはずもあるまい。“彼”がジェンティルを御せているという事実を、まずは受け入れるべきだな」

「く……っ」

 

 

 

 あくまで冷静に、純然たる事実で諌められ、弟は口をつぐむ。

 どんなに才覚に溢れていようとも、まだまだ少年。

 実のところ、大好きなお姉ちゃんを取られてしまったようで、悔しくて堪らないのである。

 この少年もまた、確かにシスコンなのであった。

 

 一方で、彼等の父親でもある当主は、別の視点からこのやり取りを見ている。

 

 

 

(既にドナウも取り込んでいたか。抜け目のない。……はてさて)

 

 

 

 一見、姉として弟を宥めただけに見えるが、ドナウがこの場でそれを行うという事は、身内よりも“彼”の肩を持つ……という姿勢を示した事にもなるのだ。

 もちろん、彼女がそれを分からないはずがなく、そうしても問題ないと判断した故の発言。

 すなわち、ドナウはこの会よりも前から、“彼”の味方となっている。

 

 単に有能なトレーナー、という認識を改め、やおら当主は目を細めた。

 その瞳に何が映っているのか。何を見定めようとしているのか。

 心中を察せられる人間は、この場に存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 

 

 数時間後。

 リムジンで自宅に送ってもらい、ほうほうの体でドアを開けた“彼”を出迎えたのは、愛らしい新妻であった。

 

 

 

「お帰りなさい、お兄さん。元旦からお仕事、お疲れ様でした。ちょうど、お雑煮が出来た所ですよ」

 

 

 

 いや、間違えた。黄色いエプロンをつける、ブエナビスタだった。

 時計を見るに、ちょうど昼過ぎ。空きっ腹に、出汁の良い香りが響く。

 帰る前に連絡を入れていたので、完成を合わせてくれたのだろう。

 が、それよりも。

 

 

 

「エナちゃん」

「なんですか?」

「頭、撫でていいかな」

「……へぅ!? い、いいです、けど……」

 

 

 

 驚いたのだろう、奇妙な鳴き声を上げるブエナの頭を、許可を得たのを良い事に、遠慮なく撫で回す。

 ジェンティルの家の新年会で疲弊した心を、早急に癒したかったからだ。

 

 ちなみに、何故ブエナが“彼”の家に居るかと言うと、純粋に英気を養うためである。

 次走である天皇賞・春は、かつてスペシャルウィークも走ったG1。

 距離適性を考えると、勝利は難しいかも知れないが、ジャパンカップから心機一転、どうしても挑戦したいと語っていた。

 ……ブエナの実家は隣? 誤差だよ誤差。

 

 

 

「何か、あったんですか?」

「ジェンティルの家族、揃いも揃って威圧感が凄くて……もうクタクタで……癒されたくて……」

「……私の頭なんて、撫でても癒されないんじゃ」

「そんな事ないよ。エナちゃんが出迎えてくれて、本当にホッとしたんだから」

「そ、そう、ですか……」

 

 

 

 そんなブエナの、ぴょこん、と跳ねるウマ耳を弾くようにして、指に髪を通し、滑らかな触り心地を堪能する。

 ウマ娘特有の高い体温が、手を通じて心を温めてくれた。

 その表情は実に楽しそうで、ブエナもされるがまま、遠慮のない“彼”の手を受け入れている。

 ……が、幸せそうな時間は、長くは続かず。

 

 

 

「ねー二人とも? いつまでもイチャイチャしてないで、早くお雑煮食べようよー。おーぞーうーにー!」

「きゃっ!? み、見てたの……っ!?」

「おう、悪い悪い。やっぱり一年の始まりは、エナちゃん家のお雑煮じゃないとな。楽しみだ」

「今年のは絶品だよー? 何せ、ほとんどブエナが作ってくれたしね!」

「そりゃあ凄い。なおさら楽しみになってきた、早く食べよう!」

「う……。そ、そんなに期待されちゃうと、緊張しちゃうかも……」

 

 

 

 食欲に負けた“彼女”に催促され、二人はリビングへと向かう。

 正月と言えば、ブエナの家の具沢山お雑煮、というのが昔からの定番。

 待ち切れない様子の“彼”を、ブエナは苦笑いを浮かべつつも、嬉しく思うのだった。

 

 

 

(ふむふむ。イチャイチャ、にツッコミがない。意識改革が進んでいるようで、良きかな良きかな)

 

 

 

 そして。

 実は何もかも計算ずくな“彼女”は、着実に進展する二人の仲に、隠れてほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 “彼”を送った帰り道の車内で、ジェンティルは考え込んでいた。

 何、と問われれば、それは新年会での発言内容だ。

 

 

 

(“彼”、気付いているのかしら)

 

 

 

 弟に向けて“彼”が放った、今のジェンティル、というくだり。

 あの場に置いては、弟への挑発として発せられたものと受け取られたが、更に深掘りする事ができる。

 この表現は、かつてのジェンティルがもう存在しないという示唆。

 つまり……今のジェンティルは、“彼”が育て上げ、自分の色に染めたジェンティルだ、とも取れるのである。

 

 恐らく、“彼”にそんなつもりは無かっただろう。

 が、そう受け取れる言葉を使った、という事実が重要であり、社交界においては、こういった裏読みこそが本心とされる場合も多い。

 要するに、ジェンティルは自分のものだと、宣言したに等しいのだ。

 

 それ自体は幾らでも誤魔化しが効くし、大した問題ではない。

 問題なのは……そういう意味が含まれる言葉を、ジェンティル自身が、受け入れてしまったこと。

 ……そんな風に思われる事に、不快感を覚えていない、ということ。

 

 

 

「……困った人」

 

 

 

 知らず、溢れ出た溜め息が、車窓を曇らせる。

 白く煙った自身の顔を、ジェンティルは確かめようとはしなかった。

 その間もリムジンは、何事もなく学園への道のりを進む。

 シンザン記念開催まで、残された時間は、少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オマケ 背徳のかほり』(ウマ娘はきっと全員が匂いフェチだと思う。異論は認める)

 

 

 

 その日の夜。

 実家へと戻ったブエナは、ゆっくり風呂に入り、上機嫌で自室へ向かっていた。

 

 

 

「ふふんふーん、ふふふん♪」

 

 

 

 階段を登るその腕には、小さな紙袋が抱えられている。

 “彼女”の家を出る際、「寝る前に開けてね?」と渡された物だ。

 

 

 

「さて、と。トレーナーさん、何くれたんだろ?」

 

 

 

 ベッドに腰掛け、早速、貰った紙袋を開けるブエナ。

 妙に軽いし、硬くもない。服か何かだろうか? 新しいパジャマ?

 ……という予想は、ある意味で当たっていた。

 

 

 

「えっ!? こ、これって……お兄さんのワイシャツ……っ!?」

 

 

 

 当たってはいたが、しかし予想外でもあった。

 入っていたのは、使い古された男性用の白いワイシャツだったのだ。

 まさか、こんな物が入っているなんて……。

 

 

 

「も、もぉお……なに考えてるの……? こんなの貰っても……困るよ……」

 

 

 

 ジャパンカップの後、確かにそんな話をした記憶はあるけれど、本気だったとは。

 念のため、匂いを確認してみるけれど、嗅ぎ慣れた匂いがする。間違いなく“彼”のシャツだ。

 にしても、一体これをどうするべきか。

 見なかった事にして仕舞いこむ……というのも気が引けるし、かと言って捨てるのも……。

 …………。

 ………………。

 

 

 

「……と、とりあえず、一回。一回、着るだけ、着てみよう、かな……?」

 

 

 

 誰が聞いている訳でもないのに、言い訳のような独り言を呟く。

 言うが早いか、ブエナはベッドから腰を上げ、スウェットの上着に指をかけた。

 そして視点は、机に飾られたスペシャルウィークのぱかプチの怒アップに。「見せません!」という幻聴が聞こえてきそうである。

 

 

 

「やっぱりブカブカ……。下、履かなくても隠せちゃえそう」

 

 

 

 そうこうしている内に、ブエナは“彼”のワイシャツを身に纏っていた。文字通りの“彼”シャツ状態である。

 やはりサイズは大きく、袖も裾も余り気味で、仮にスウェットのズボンを脱いだとしても、上手く隠せてしまえるだろう。

 

 

 

「……ううう、寒いっ。明日はお兄さんも一緒に初詣なんだから、とにかく寝ようっと」

 

 

 

 いくら暖房を入れていても、今は真冬。上がワイシャツだけというのは流石に寒く、逃げるようにベッドへと駆け込む。

 普段より薄着になってしまったけれど、羽毛布団をしっかり被れば、風邪をひく事もないだろう。

 暖房のリモコンタイマーのチェック良し。携帯のアラームも確認。電気を消して、眠る準備は完了。

 まぶたの裏に、明日の初詣を思い浮かべながら、呼吸を深く、長く……。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ところがどっこい。

 30分経っても……。

 

 

 

(……あれ……?)

 

 

 

 一時間が経っても……。

 

 

 

(ね、眠れない……!? なんだか妙にドキドキして、全然眠れないよぉ!!)

 

 

 

 深夜2時なっても、全く眠気はやって来なかった。

 呼吸をするたびに“彼”の存在を近くに感じ、素肌を通じて、匂いが全身に染み込んでいくようで、変に目が冴えてしまうのだ。

 だったらシャツを脱げばいいのだろうが、もう部屋は冷え切ってしまい、着替えようにも、ベッドから抜け出すのには鋼の意思が必要だった。

 残念ながら、今のブエナは持ち合わせていないスキルである。

 

 結局、眠れたのは朝方近くとなり、初詣には大遅刻してしまった。

 その際、慌てたブエナは“彼”シャツ姿を両親に披露し、「あ、ふーん……」という顔をされたそうな。

 ブエナの新年の運勢は、果たして……?

 

 

 

(神様お願いします、今年はこれ以上の恥をかきませんよう、見守ってください……! 後は自分で頑張りますから、ホントに、ほんっとうに、お願いします……っ!!)

「な、なんか凄く真剣に祈ってるね、ブエナ……」

「お前も同じくらい真剣に祈った方が良いぞ。主に腹囲関連を」

 

 

 






 当主は 凍てつく波動 を放った!
 全ての効果が消え去った! テンションが元に戻った!

 という訳で、育成シナリオとはちょっと違う、じぇんちるさん家の新年会でした。
 同じところを省きつつ、違う部分を重点的に描きましたが……。色々と前提条件が変わってますから、結果も少し変わっています。
 後を追わせなかったじぇんちるパパの思惑も、もしかしたら……。

 オマケに関しては……はい、完全に趣味に走りました。ジャケットじゃ物足りなくて。
 可愛い女の子の彼シャツ姿が見たい。見たくない?
 ブエナちゃんもじぇんちるさんもシーナ姉さんもシュヴァルもヴィブロスも、ついでにドナウさんも彼シャツ姿になれば良いんだよ。そしたら世界は平和になるよ。
 いっそ裸エプロ(コンプライアンス違反を検知しました)

 こんな感じで、本年も煩悩の赴くまま、はばかる事なくtntnをirirさせていきます。
 お付き合いのほど、よろしくお願いします。

 次回、春目前。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。