「海賊王、呪いの世へ」   作:ヨッシー DAYO

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第1話

――処刑台の上に立った瞬間、ロジャーは不思議なほど晴れやかな気持ちだった。

 

 海賊として自由の限りを生き、仲間と笑い、戦い、泣き、生き切った。

 その果てに訪れる死は、恐怖ではなく、ひとつの到達点だった。

 

 (俺の死が、次の時代の引き金になる……それで十分だ)

 

 処刑人たちの姿は、もはやぼやけて見えた。

 群衆の怒号よりも、海の轟音のような未来の鼓動が、ロジャーには鮮やかに聞こえていた。

 

 そして。

 

 刃が振り下ろされ――世界が、弾けた。

 

 

「……ん?」

 

 次に目を開けたとき、ロジャーは広い天井と柔らかな布に包まれていた。

 だが、その感触は妙に不快で落ち着かない。

 

 身体を起こそうとした瞬間、両腕が小さく短く動く。

 

 小さな手。ぷにっとした指。

 動いているのは、赤ん坊の四肢だった。

 

「……ガッ……ガハ……?」

 

 喉が震えるだけで、言葉にならない。

 ただの笑い声のような、呼吸の乱れのような音が漏れる。

 

 ロジャーは察した――

 自分は赤ん坊として転生したのだ。

 

 その混乱の最中、部屋の扉が開いた。

 

「硝子、また笑ってるよ。やっぱりこの子、おかしいって」

 

「おかしいじゃなくて“特異体質”。呪力の質も量も……赤ん坊の数十倍はあるよ」

 

 白衣の女性、落ち着いた瞳の家入硝子。

 そして、黒い制服の青年――五条悟。

 

 五条はロジャーの小さな身体を持ち上げ、覗きこむ。

 その六眼が、ロジャーの内に秘められた“異質な確信”を読み取るように光った。五条は赤ん坊のロジャーを覗き込むと、ニヤリと笑った。

 

(君、赤ん坊のくせに俺の“六眼”に引っかかるなんて大したもんだよ。

 呪力じゃ説明できない何かを感じる。……)

 

「赤ん坊なのに、呪力の流れが整ってる。

 しかも質が変だね。呪霊の気配じゃないし、負の感情にも由来してない……これは、何?」

 

 家入が肩をすくめる。

 

「分からないわ。でも、この子だけは確かに“何かを持ってる”。見ただけで背筋が寒くなる」

 

 ロジャーはただ笑い声をあげる。

 だがその声には、哀れみでも恐怖でもなく――揺るぎない“意志”が染み込んでいた。

 

 五条は興味深そうに微笑む。

 

「よし、新しい名前を考えよう。海みたいな呪力だから……“陸路(ろくろ)”。どう?」

 

 家入は「あんたが決めるのね」と苦笑したが、ロジャーの呪力の波は喜びのように揺れた。

 

 ――この世界は、呪いが渦巻く深海のような場所。

 だがロジャーにとって、未知の海ほど楽しいものはない。

 

 死を超えて、この世界に生まれ落ちた理由もきっとある。

 

(ガハハ……いいじゃねェか。呪いでもなんでも来い。俺はこの世界でも、好きに生きてやるよ)

 

 

 そして十余年が過ぎた。

 

 陸路 ――そう呼ばれる少年は、呪術高専の門前に立っていた。

 制服の袖は少し乱れ、髪は無造作。だがその瞳は、海賊王だった頃と同じ轟々とした光を宿している。

 

 門の横で待っていた五条が手を振る。

 

「おーい陸路。今日から正式に高専一年生だ。暴れすぎるのは禁止ね?」

 

「ガハハッ! そりゃあ、気をつけるさ。……退屈さえしなけりゃあな!」

 

「いや絶対暴れる気だろそれ」

 

 呪術師という道を歩む少年の身体の中に、

 海賊王の魂は確かに息づいていた。

 

 自由を求め、海を目指す心は変わらない。

 

 ただ――

 

 今度の海は、“呪い”という名の闇で満ちている。

 

 ならばこそロジャーは笑う。

 

「この世界の海も、俺が制してやる……!」

 

 高専の校舎へと歩き出すその背中は、

 弱々しい少年のものではなく、ひとつの時代を切り拓いた王の風格を漂わせていた。

 

 呪術界に、海賊王がやってくる。

 それはまだ誰も知らない、小さな嵐の胎動だった。

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