遊戯王 ARC-Ⅴ 揺れる運命 重なる手札 作:月光舞詐称者姫
シンクロ次元 part1 奪うもの/駆け抜けるもの/踊るもの
「リン!リーン!クソッ、一体どこ行っちまったんだよ!?」
富の99%を独占する富裕層、トップスと、力を持たない者達、コモンズの間に分かたれた格差社会の街、シティ。
孤児という、育ててくれる後ろ盾もなく生まれながらにして
ライディングデュエルという、バイクに乗り風を感じるスピードで駆け抜けながら行うデュエルの為に作られたマシーン、Dホイールに乗り、コモンズのスラム街を駆け抜けていた。
その理由は一つ、彼の幼馴染、リンが攫われたのだ。リアルソリッドビジョンを用いた目眩しで相手を見失ったユーゴは、愛する少女を探して声を上げながらスラムを駆け抜けていった。
「クソッ、随分遠くまで来ちまったな。この辺り随分冷え込んでやがる。」
叫び疲れて、一旦Dホイールを止めいつのまにか白くなっていた吐く息に体を震わせるユーゴ。
「待て、寒くなる?今は夏だぞ?」
いくらシティが広いとはいえ、一つの街。多少遠くへ出たところでこんなに冷え込むほど気候が変わるはずがない。
「一体何が……」
起きてるんだ、と言おうとした矢先、上から爆音が響き渡る
「なっ!?」
見上げれば、自分たちのスラムがある場所のはるか上、トップス達の煌びやかなビルの一角が、ユーゴ達の真上に座す炎をあげて吹き飛んでいた。
ここからでも炎と煙、降り注ぐ瓦礫がよく見える。近くだ、近くのトップスの住宅地で、爆炎が上がっていた。
「ッ!?クリアウィング!?」
そして、呼応するようにユーゴのデッキが光輝く。自分の存在を強く示すように輝くそれは、彼のデッキのエースモンスター、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン
「なんだ!?なにを伝えたいんだ!?」
「アレは……!」
瓦礫と一緒に何かが落ちていく。カラフルな何か、水色の髪、ピンクとベージュの、コモンズにはなかなか見られないオシャレな服装だと気づくのに時間がかかった.アレは、人だ.人が、落ちていく。
「まずい!」
そう思った時にはDホイールを走らせていた。落ちていく人影の方向へと。距離はそれなりにあるが、落ちてくる姿を見て人だと判断できるほどには近い。
「まだだ……」
爆発の位置からして、落ちていく人影はおそらくトップス。事故か事件かはわからないが、コモンズのトップスに対する恨みは深い。基本的にコモンズを見下しているトップスは、人助けに近づいてきたコモンズを不審者と見做し、この街の警察組織、治安維持局に引き渡したこともある。
「もっと……もっと速く!」
ユーゴも、普段はトップスの奴らと毛嫌いしている。だがそれが、目の前で死にそうになってる少女一人を助けない理由にはならない.
「もっともっと……力を貸してくれ、クリアウィング!」
車体をウィリーさせ、道端に置かれた廃材を車輪で踏み、飛び上がる。そして、召喚したクリアウィングの背に飛び乗った。
「うおぉぉぉ!」
そして、Dホイールを一気に加速させ、少女の元まで飛翔する。まだ届かない。仕方なく、ユーゴは高所にも関わらず、助けるために人影に向けて飛び出した。
そうして人影……ここまでくれば詳細がわかる。傷ついた少女に手が触れた瞬間、クリアウィング・シンクロ・ドラゴンの、その名の通り水晶のような透き通った翼が輝き、ユーゴと少女、そして、
「ねぇ、どうしたの?」
一方、爆発が起きた現場。無惨にも一角が吹き飛んだビルで、爆炎の方を向く三つ首のドラゴンに、それを従える少女が声をかける。
フード付きのローブと仮面で顔を隠した少女は、その手のデュエルディスクを起動したまま、周囲に向き直る.
そこには、両手両足を氷漬けにされ、動きを封じられた人々がいた。
「に、逃してくれ……」
そのうちの一人、給仕の服を着た男が、震える声で命乞いをする。
「俺はここで働いていただけだ……この会社に恨みがあるなら、辞める!今すぐ辞める!ここで起きたことを誰にも言わない!大人しくスラムに帰る!だから……」
「へぇ、じゃあやっぱりあなたコモンズなんだ。」
その言葉を遮るようにして、言う。
「コモンズがぁ、トップスの下で、給仕係やって働いてるの?」
「あ、あぁ、悪いか?俺も上に上がりたい、金を稼ぎたいんだ!だから必死でトップスの人たちに頭下げて働き口を」
「出来るわけないじゃん。」
その言葉を遮るように、仮面を男の目の前まで近づけて言う。
「コモンズがぁ、どれだけ汗水垂らしてぇ、お金を稼いでもぉ、どうせ最後にはどっかーん!」
ボンッと、爆発させるように手を動かして言う
「デュエルで負けてぇ、お金も仕事もカードも何かもぉ?ぜぇんぶ奪われちゃいまぁす。出る杭は打たれるって知らないのぉ?」
「そ、そんな、頑張って努力すれば」
「努力しても、お金の力で集めたレアカード軍団のデッキパワーに勝てませーん!
そう言いながら、男の氷を僅かに解き、デュエルディスクを渡す。
「デュエルで勝つだけ。あなたが勝ったら、見逃してあげるよ?」
「う……あぁ……」
できない、無理だ。男はそう嘆いてしまった.今目の前で、トップスの少女が展開したモンスターを、返しの1ターンで粉砕してしまった目の前の少女の形をした怪物に、勝てるはずがない。
「ああぁぁぁぁぁ!?助けてくれえええぇぇぇぇ!?」
腕が自由になった男は、しきりに体を動かし暴れ、なんとか逃げようとする。
「アハっ」
だが、それを少女は許さない。背後の龍の眼光が輝き、一度溶けた男の氷が再構築されていく。見れば、彼女の背後に佇む龍が、動いていた.
「やっちゃって?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだ!誰かぁ!?誰か助けてくれぇ!!頼む、誰……か……」
次第に氷は腰に、胸に、腕へと到達し自由を奪っていき、最終的には氷漬けになった。
「トップスに飼って貰えば、少しはマシな生活が手に入ると思った?でも残念。」
そう言って振り向いた彼女は、最後に一瞥するかのような動きを見せた.
「アンタだけ楽になるなんて許さないんだぁ。私はもっと苦しんでたのにさぁ。」
「なんで酷い……」
それに、苦言を呈したものがいた.
「よくも娘を……ロジェの差金だな!?奴に力は貸さんぞ!我が社の商品を、貴様の薄汚い支配欲に使わせてたまるか!」
正確には、者達、と言うべきか。恰幅のいい男性と、その隣の女性。他のもの達よりも洒落た服に身を包んだ姿は、間違いなくトップス。
この会社の経営者であり、治安維持局の長官に、その会社の持つ技術を己のために使うよう迫られていた男は、最愛の娘を奪われ、自分の築いた会社をめちゃくちゃにされた怒りから、圧倒的に不利な状況にも関わらず食ってかかった。
「書類にサインはせんぞ!私は」
「そこまで言うならデュエルしようよ。」
「なに……?」
「だからさぁ、デュエルだよ、デュエル。デュエルで負けたら、私を好きにしていいよ?」
「……いいだろう、受けて立つ!」
「アハっ。」
その言葉に、彼女は笑みを浮かべた。
「いいよ、やろうよ、デュエルを!」
男の氷が溶け、その右手にデュエルディスクを装着し、構える。
「貴方、気をつけて……」
「心配するな。私も数多のマネーゲームを制してきた。デュエルもまた同じ!たとえ
「そうだよぉ、頑張ってねぇ。」
「言われずとも速攻で終わらせてくれる!」
「「決闘!」」
一方、どこかの路地裏。
「おわあぁぁぁ!?」
一瞬光に包まれたと思えば、ユーゴが少女を抱き抱えた状態でそこへとワープしていた。
咄嗟に彼女を庇うため、空中で体を捻り地面に背を向ける。
ズザザッ!ドンガラガッシャーン!と背中で地面を滑り、盛大な音を立てて止まるユーゴ。
「痛てて……ってここは……」
辺りを見回せば薄暗い路地。幸いにも緊急時の安全性確保のため頑丈に作られているライディングスーツと、ゴミ捨て場がクッションになったお陰で、背中こそ痛むが、大怪我は負っていない。が、深刻なのは少女の方だった。
「酷ぇ……」
ユーゴが一目でわかるほどだった。コモンズの少女達とは違う、オシャレで新しい衣服はボロボロ。水色の髪の少女は、額から血を流して気を失っていた。
見れば手足も傷ついている。あの奇妙な寒さを考えるとこれは……
「凍傷?急がねぇと……俺のDホイールは……」
路地裏には見当たらない.仕方ないと少女を抱えて路地裏を飛び出せば、周囲には、異様な光景が広がっていた.
「な……なんだこりゃ……」
近未来的で煌びやかなビルが並び立つトップス居住地というにはかけ離れており、この明るさと賑わいのある平和な景観はコモンズ居住地というには煌びやかすぎる。
が、自分の手の中にある少女の事態は深刻。戸惑いを頭の隅に追いやり、声を張る。
「誰か!すいません、誰か!この子が怪我をしてて……手を貸してくれねぇか!?」
幸運にも周りには何人かの人がおり、何かを察した人が、電話をかけて少しすれば、すぐさま救急車が到着した。
「この子ですね!?」
「え?あっ、はい!」
やってきた見覚えのない制服を着たものたちに問いかけられ、ユーゴが頷く。
すぐさま少女は担架に乗せられ、救急車に運び込まれた。
「付き添いをお願いします!誰か、この子の知り合いなどは……」
「俺がいく!」
この子の知り合いを探してる時間はない。なにより自分の知らない場所だ、少女も知らないかもしれない。とにかく早くと思ったのか、ユーゴは救急車に飛び乗った。
「わかりました、では発進します。」
こうしてサイレンを鳴らしながら、救急車は病院へと向けて走って行った。
乗り手がいないまま盛大に脇道に突っ込んだことで煙を上げるDホイールと、何がかと出てきていた、見物人達を残して。
「はぁっ……はぁっ……」
「あ、貴方……」
「馬鹿な……」
「もう、終わりかなぁ?」
男は追い詰められていた。目の前の少女の強さに。その強力なロックコンボに。
「ぐっ、PSYフレームロード・Ω……」
の効果を使いたいけど使えなァい。氷結界の虎将ライホウの効果でねぇ。貴方は手札0だもんねぇ。」
氷結界の虎将ライホウ「…………」
剣を構えた勇者が巻き起こす吹雪の結界が、自信を除外するとともに相手の手札を除外する強力なカードであるはずのPSYフレームデッキのエースモンスターを封じ込めていた。
「だがその効果もここまでだ、バトル!PSYフレームロード・Ωでライホウを攻撃……」
「リバースカードオープン、氷結界!PSYフレームロード・Ωの攻撃力はゼロになる!」
「なっ……!?」
追い詰められた男の、最後の足掻き、しかし、ライホウの一閃がPSYフレームロード・Ωを氷漬けにし、砕いて見せた。
「お、Ω……」
LP3000→700
それは最初のターンに伏せられていた罠カード。ロック戦術を得意とするはずの男の妨害をすり抜け、逆に氷結界のロックを決めてきた相手は、基本的に自分から攻撃することはなかった。自分の娘を、このビルから突き落としたデュエルでも。
砕け散った余波が、男のLPを削る。だがそれよりも気になることの方が優った。
「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに墓地の氷結界を除外することで、レベル5以上の水属性モンスターを墓地に送り、その後墓地から水属性モンスターを手札に加えるわ。
私が墓地に送ったのは氷結界の剣士ゲオルギアス。それをそのまま手札に加えるの。この効果の後私は水属性モンスターしか召喚できないけど……私のデッキのモンスターは大体水属性だもん、問題はないわ。」
男の宣言を聞いて引いたカードを確認した彼女は、アハっと、どこか壊れたような笑い声を上げる
「私は手札から、チューナーモンスター、氷結界の剣士ゲオルギアスを、特殊召喚!」
氷結界の剣士ゲオルギアス「フンっ……ハアッ!」
現れたのは、レベル6のチューナーモンスター。場に氷結界モンスターがいる時、自身を守備表示で特殊召喚する力を持つ。
「そして、特殊召喚されたゲオルギアスは、手札か墓地からレベル5以下の氷結界モンスターを呼び出せるの。私が特殊召喚するのは手札の氷結界の鏡魔師。」
氷結界の鏡魔師「はぁっ!」
現れるのは氷の力を身に纏う女の術師。その術師が組んだ陣の中に、ライホウが入っていく。
「そして特殊召喚した氷結界の鏡魔師は、フィールドの効果モンスターをリリースすることで、氷結界トークンを3体まで特殊召喚できるの。」
ライホウが香りに包まれて消えた後に、3つのトークンが出現する。いずれもレベル1
「氷結界の鏡魔師は召喚したトークンの数だけレベルを上げるけど、あなたは私の狙いが分かってくれるかしら?」
「これを……これを待っていたのか?私が……自分の手で追い詰められるのを……」
ロックを捨て、一転の攻勢。こちらが動かなくなってからなぶるつもりだったのかという男に、また狂ったような笑い声を上げた。
「ピンポンピンポーン!大正解。ずっと待ってたんだよぉ。
「満足……だと?」
「そう、満足。
「この……化け物め!」
そう言って体を悶えさせる姿が、男の言葉でピタリと止まった。
「……酷いなァ。」
そう言って、彼女は仮面に手をかける。
「実の娘に向かってさァ!」
「なっ!?」
「馬鹿な!?」
そうして取り払ったところに出た顔は、今先ほど、この少女とデュエルをして、敗北しビルの外へと投げ出された少女の顔に瓜二つだった。
「エミィ?」
「アハっ、そうだよぅママァ。貴方の娘の
「ふざけるな!私の娘は……今さっきまでここにいた!奪ったのは貴様だろう!」
自分の娘と瓜二つ、違うのは、その右頬に刻まれた犯罪者の証、マーカーと、狂気に歪んだ顔くらいだろう。
それ故に激昂した男の言葉に、彼女の表情はスンと沈む。
「ぶーぶー。酷いなぁ、私は正真正銘パパとママから生まれたんだよォ。」
「そんな……そんなわけがあるかぁ!」
「……そうだよねぇ。」
否定し続ける男に、そう言って息を吐く、直後。
「お前みたいな奴が,私のパパなわけないよねぇ!?」
「ッ!?(急に雰囲気が……)」
「助けてくれなかったくせに、見つけてくれなかったくせに、パパだなんて笑っちゃうよねぇ!?レベル1の結界トークン3体に、レベル6、氷結界の剣士ゲオルギアスをチューニング!」
突如怒気を滲ませ叫ぶ彼女に気押される男。それに対して、少女はデュエルを終わらせにかかった。自分のエースモンスターを呼び寄せることで。
「破壊神より放たれる聖なる槍よ!私の怒りを糧に今こそ目覚め、目の前の敵を貫くがいい!シンクロ召喚!」
彼女の背後から光に包まれ,その奥から龍が顕現する。
「レベル9 氷結界の龍、トリシューラァ!」
トリシューラ「オオオォォォォォォ!」
現れた三つ首の龍が吹雪を巻き起こす。
「トリシューラの効果、貴方のフィールド、墓地、そして手札からそれぞれ1枚ずつまで除外できる。まぁ貴方の手札にカードはないしぃ?墓地にも効果を発動できるものはもう無さそうだしねぇ。
今回はPSYフレームロードΩだけにしてあげる。」
「ぐっ……」
「じゃあトドメに行こうかパパァ!トリシューラでダイレクトアタックゥ!」
「ぐああぁぁぁ!?」
トリシューラの瞳が輝きを放ち、猛吹雪を生み出す。それは実際のダメージとなって男を、そして
「嘘……冷たい……!?」
「い、嫌だ……なんで俺たちまで!?」
「頼む、やめ、やめえぇぇぇ!?」
氷で拘束されていた、他のもの達までそうして氷に包まれていく。
「ぐ……エリィ……」
「じゃあね?パ〜パ♡」
最後に氷漬けにされていく男が思ったのは、ビルから落ちていった自分の娘の安否だった。
気づけば、部屋は氷漬けにされ、哀れな犠牲者達は全員、物言わぬ氷像となっていた.そこで彼女は自身のデュエルディスクに装備されたある効果を起動する。
紫色の光線は、氷の中の人々だけを消し、彼女の手元には、その顔が映ったカードだけが残された.それを確認した少女は、通信を入れる。
「終わったよぉ。私の恩人さん。」
そこに映ったのは、長鼻の男。このシティの治安局長官、ジャン・ミシェル・ロジェ。
『ご苦労様です。書類にサインは頂けましたか?』
「ううん。でもいいよね?コレから私が社長になるから。」
『勝手なことを……まぁいいでしょう。好きになさってください。
私の命令に従って貰えば、それで構いません。』
「アハっ、ありがと、恩人さん。」
笑みを浮かべた少女は、通信を切る。
「楽しみだねぇ、トリシューラァ。」
作り上げられた氷の椅子に腰掛け、少女は歪んだ笑みを浮かべる。
「キングも、評議会も、シティの上層部を全部下して、手に入れる。そうして天辺まで行けば、全部を奪えば、」
私も満足できるよね?そんな歪んだ笑みを浮かべて
一方その頃、全く知らないこの街、舞網市と呼ばれるらしい場所にたどり着いたユーゴは、
「これは君のものかい?」
「お、俺のDホイール!?なんでこんなことに!?」
警察らしき服装の人たちに牽引されてきたDホイール、ーーーそれも、前面の車体が甚大なダメージを受けた姿ーーーに悲鳴をあげた。
「いきなり現れたこのマシンが、店を破壊したと通報があってね。過失運転傷害の疑いで、署までご同行願えるかな?
というか君結構若いね?免許とか持ってる?」
「免許?」
「未成年者が無免許で危険運転……ちょっと署まで来てもらえるかな?」
「え?え?」
シティとは全く違うルールに困惑しながら、シティのセキュリティとはこれまた違う警官たちに確保されてしまっていた。
「う、噓だろぉ!?」
彼の恋人を探す道のりは、かなり遠いところまで、寄り道をすることになってしまったようだ。
今回デュエル描写が省略で申し訳ありません。次からちゃんとした描写を書きたいと考えております。
リンク召喚はあったほうがいい?
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あり。汎用召喚法ってことで。
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なし。ペンデュラムも昔のルールで