有翼の抑止力   作:雪山崇一

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【第一章】『蘇りし新星種』
第一章(1)ゴスロリ服のショタを抱いての逃走劇!


 ――ゴスロリショタって反則を越えた属性(はんそく)じゃない?

 

「逃がすなぁぁぁぁー!!」

 

「せめて写真だけでもぉぉぉぉ!!」

 

「どこに住んでるかだけでも教えてぇぇぇぇ!!」

 

 背後から放たれる性癖を壊された者たちの狂喜(きょうき)

 見る者を(とりこ)にする中性的な顔立ちのショタを抱きながら、緋月(あかつき)燁斗(ゆうと)は感覚が麻痺しかけている足で全力疾走を炸裂させていた。

 

「くそっ、どこいってもお前のファンしかいねぇ! いや、走る先で変態が量産されてってるぞ!?」

 

「ユ、ユウト……僕の見間違いでなければビルの三階から飛び下りて追って来てる人もいるよ……?」

 

「はあぁぁぁーッ!?」

 

 燁斗にお姫様抱っこされながら、その後ろを見て驚愕している空色の髪を持つ少年の名は、ティア。

 街の人たちに新たなトビラを開かせている張本人。

 その理由は、ティアの容姿にある。

 

 ティアは小柄な体に、ただでさえ中性的な可愛い顔立ちと声をしているのに――それに加えて今の服装は、黒を基調としたゴシック・アンド・ロリータ。

 しかも眼帯付きで黒タイツを履いている。――わおっ。

 加えて恥ずかしさに耐えきれないとばかりに頬を染めている――こんなの一目見ただけで性癖壊れるって。

 

「――――」

 

 だって、こうやって抱っこしてる燁斗でさえ、気を抜けば……

 

(っ……か、可愛い~……)

 

 こんな風に腕の中の少年に撃沈してしまうのだから。

 

「!? ユウト、見て……!」

 

「――――」

 

 言われた通りティアをガン見し――

 

「ぼーくーじゃーなーくーてー! 後ろを見てって言ってるのー!」

 

 ぽかぽかぽかっ! と燁斗の胸を叩いてくるティア。

 ……だがティアの言う通りだった。メロメロになりかけている燁斗の目を覚ますように、

 

 ――『火球(かきゅう)』やら『稲妻(いなずま)』やら『水の弾丸(だんがん)』やらが燁斗の行方を遮るように迫り来る。

 

「――って、零術(れいじゅつ)まで使うか普通ーッ!?」

 

 全ての生命体に宿る“零気(れいき)”という名のエネルギーを消費し行使(こうし)された、零術(れいじゅつ)という超常現象。

 零術の才能がない燁斗は、零気そのものを体に流し身体能力を強化する。

 

「ぬぅ――ッ!!」

 

 強化された身体能力が燁斗を路地裏へと飛び込ませる。

 ――ガガドガァンッ!! と。

 燁斗の行方を阻もうとしていた多種多様な零術が壁に激突し瓦礫を撒き散らす。

 

「やっぱ危ねぇわこの街ー!!」

 

 全くもってその通りだ。

 東京都の北部と、埼玉県の間に位置する巨大な都市――鈴杷市(すずはし)

 

 ここは零気や零術を行使する者たち――“零士(れいし)”が、日本でもっとも多い街だ。

 

          ◆

 

「こ、ここまでくれば……」

 

「~~~っっっ! は、早く脱ぎたいよぅ……!」

 

 壁に背を預け、ティアの羞恥心から出た声を聞く。

 あれから一〇分。……もうどこをどう走ったかなんて覚えてないし知らん。

 今日は四月二九日……そう、ゴールデンウィーク初日。

 休みにダイブできるみんな大好きゴールデンウィーク初っ端に自分は何をやってんだが。

 

 そもそもティアに女装の趣味はない……一刻も早く脱ぎたいであろうこのゴスロリは、罰ゲームで着せられたものだ。

 その罰ゲームを行った張本人は――

 

「やっと見つけた……!

 お兄ちゃん、ティア――うっひゃ、やっぱ可愛い~!」

 

 ――心の声を漏らしながら現れた。

 それも上から。燁斗やティアとは大きな段差を一つ隔てて。

 

「心の声聞こえてんぞ元凶シスター!」

 

「性癖には素直に生きようぜお兄ちゃん――!」

 

 ノリのいいコントを噛ます兄妹コンビ。

 この純白のショートヘアーが特徴的な少女の名は、緋月優花(ゆうか)

 燁斗の義妹であり、ティアに趣味全開のゴスロリを着せた張本人である。

 

「ユ、ユウカ! 僕の服はある!?」

 

「あるよー、ほら」

 

 バサッ、とティアがゴスロリを着せられる前に着ていた服を片手に風に(なび)かせる。

 

「よかった……! 投げて!」

 

 ティアが嬉しそうに両手を広げて服を受け入れようとする。

 ……が、対照的に優花は腕を組みながら唸り始めた。

 

「う~ん……」

 

「……ユウカ?」

 

 しばらく唸っていた優花だったがやがて目を開き、

 

「……………………もう着替えちゃうの?」

 

「――着替えるよそりゃあ!!」

 

 寂しそうに問いかけてきた。

 問いをバッサリと切り捨てたティアだったが、優花は次に燁斗に目を向け、

 

「お兄ちゃんも同じ意見?

 ほら、ティアのゴスロリ、似合いすぎると思わない? 可愛すぎると思わない? もっと堪能したいと思わない?」

 

「ユ、ユウカなに言ってるの!? ほら、ユウトからも言って、や――」

 

 助けを求めて振り向くと……、

 

「――――――――」

 

「ユ、ユウトー? おーい……?」

 

 真剣な顔で腕を組んでいる燁斗の姿がそこにあった。

 ティアが燁斗の顔の前で手を振っても反応せず……やがて数瞬の思考から顔を出した燁斗は、ティアの目を真っ直ぐに見据えて、

 

「……………………ティア、もう少しそのままでいてみないか?」

 

「――こぉんのバカ兄妹がぁぁぁぁーッ!!」

 

 ティアの可愛い怒りの声が路地裏に(とどろ)く。

 しかしその声に反応するように、

 

「おい、今の声――!?」

 

「あぁ、間違いねえ――」

 

 表側に通じる路地裏の隙間から、獲物の眼光がキラリ☆と光り――

 

『――みぃぃぃつけたよぉぉぉゴスロリくんちゃゃゃんー!!』

 

「ひゃあああああああああああああーーッ!?」

 

 ビクンッ! と飛び跳ねあたふたし始めるティア。

 よく見ると目が潤んでおり本格的に泣きそうになっていた。

 

「二人とも、こっち!」

 

 段差の上から優花が身を乗り出し手を伸ばしてくる。

 

「ティア、先に行け!」

 

「う、うん……!」

 

 ティアを両手で持ち上げながら優花のもとまで手を伸ばす。

 プルプルプル! と必死に伸ばすティアの手を優花が掴み引き上げる。

 

「よし、次は俺――」

 

『待ってぇぇぇぇぇ!!』

 

 燁斗の声を掻き消すショタコン集団の声。

 ……優花は迫り来る集団と燁斗を交互に見て、あー……と頬を掻く。

 

「どうした優花、早く――」

 

「……ごめん、お兄ちゃん」

 

「へ?」

 

 一言、謝罪しながら……ガシッ、とティアの手を掴んだ優花は、ばびゅーん! とまさかの燁斗を置いて逃げ出すという裏切りに出た。

 

「このままだとわたしまで巻き込まれそうだから行くね!」

 

「え? ちょ、ユウカ! ユウトが――!」

 

「……は? お、おい! 優花! 優花ーッ!」

 

 ティアの抗議の声も道の先へと消えていき、残ったのは置いてきぼりを食らった燁斗がぽつんと一人……。

 

「お兄ちゃんはこの場を切り抜けられるって信じてるからー!」

 

「状況を見て言えぇぇぇーッ!! 優花! 優花ー!

 ――戻ってこいバカヤロウーッ!!」

 

 ……今度は燁斗が涙目になる番であった。

 そうこうしているうちに背後から嵐が一直線に進んできた。

 

「――ぬんッ!!」

 

 受け身をとるのを忘れるほど全力で真横に跳び、足跡だらけのギャグマンガ並みの描写になることを回避する。

 

「な……ッ!? あ、あの子は? 俺に新たな可能性を見せたキャンワイイ子は!?」

 

「上だ! 上にいったぞ……!」

 

「どうやって登る?」

 

「肩車です! 今こそ出会って数分ちょいの私たちの固い絆を見せる時……!」

 

「いや、肩車はめんどくさい……それよりもいい手があるぞ……」

 

 ギョロ! と。

 全員が一斉に燁斗を見た。

 

「――ひっ!?」

 

 ……ここまで情けない声は一六年間生きてきて初めてだったと後の緋月燁斗は語る。

 

「あの少年、先ほどキャンワイイ子を連れていた……つまりはキャンワイイ子と交流が深いということ……ならば――」

 

 怖い。なんか全員が駆け出しのポーズをとってる……まさか――――

 

「あの少年を人質に、キャンワイイ子を誘き寄せるぞぉぉぉぉ!!」

 

「何でだよぉぉぉぉーッ!?」

 

          ◆

 

「ぜぇ……! はぁ……はぁ……! ――うっ、ぷっ……」

 

 走り過ぎて吐きそうになった。

 曲がり角を利用し上手く奴らを撒いたものの体力が限界だ。次に見つかったら絶対に逃げ切れないという自信がある……。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ここで一言。

 当たり前と言えば当たり前の一言が燁斗の口より漏れた。

 

「何やってんだ俺……」

 

 今日は優花と途中で会ったティアを連れて休日を満喫していたハズだった。

 なのにゲームセンターでスコアで負けた罰ゲームをティアが受け、そのままゴスロリに着せ変えられ、そして体力が枯渇するほどの逃走劇が始まった。

 

「優花め……無事なことを確認したらほっぺちみぎってやる!」

 

 やけに可愛いお仕置きを心に決め、息を整えようとする。

 

「あのかわゆい少年ともう一度合うために! 皆の者、奥を探せぇ!!」

 

「!?」

 

 気合いの入りまくったヤロウどもの声が聞こえる。

 もう少しでここに来てしまう……ならばもっと奥に、

 

「――て、行き止まり……!?」

 

 逃げようとした奥は行き止まり。知らぬうちに袋小路に飛び込んでしまっていたらしい。

 コツコツ、と足音が確実に迫って来ている……ギリッ、と歯を鳴らしながらこの場を打開するために思考を回転させ、

 

 

 

「――先輩(・・)こっち(・・・)

 

 

 

「え――?」

 

 突如として現れた馴染みのある声に手を引かれ、燁斗の体が――

 

          ◆

 

「どうだ?」

 

「この奥には……いねぇか(・・・・)

 

 あてが外れたヤロウどもは不機嫌そうに来た道を戻っていく。

 ……そして路地裏に静寂が訪れて、

 

「――もう大丈夫そう」

 

 暗闇から抜け出るように(・・・・・・・・・・・)、燁斗と手を繋いだ青みがかった黒髪の少女の姿が現れた。

 

「助かった~……ありがとう、美亜(みあ)

 

 優花と同じくらいの髪と身長の少女が『どういたしまして』とウインクしてくる。

 少女の名は、霧雪(きりゆき)美亜(みあ)

 優花の親友であり、燁斗の後輩でもある少女だ。

 

「先輩が追われてたから何事だと思って来てみたけど……あの……ところどころバカみたいな発言してる連中に追われてるなんて……本当に何があったの?」

 

「そ、それが……」

 

 事情を説明すると、美亜はなるほど、と腕を組み、

 

「じゃあ先輩を“境界(きょうかい)”に避難させたのは間違いじゃなかったってことか」

 

 境界――それは先ほど二人が現実から身を隠した異空間のこと。

 

 零術には、追っかけどもが放ってきた炎や水といった『既存(きそん)』の零術とは別に、

 ――零士が自身で生み出した、既存のモノには当てはまらない『オリジナル』の零術、固有(こゆう)零術(れいじゅつ)が存在する。

 

 その一つが美亜の生み出した『境界』。

 異空間へと入り込む美亜の固有零術。

 異空間内にいる間、『外』からは認識されないという最強の隠れ蓑。

 そこに連れ込んでくれたお陰で、燁斗は追っ手から逃げることができた。

 

「あぁ、それで二人と合流したいんだけど……美亜、二人の場所わかるか?」

 

「任せて。二人の零気を辿れば、すぐに合流できるよ」

 

「そうか……そういえばお前、他者の零気を感じ取れるレベルの零士だったな」

 

「いっひっひ~。もっと褒めてもっと褒めて~!」

 

          ◆

 

 ……そして、

 

「よ~く~も~逃げてくれたなー!」

 

「いひゃい、いひゃい! ほめんておにいひゃん!」

 

 合流して直後、頬を引っ張られる刑に処された優花を横に、美亜は着替え終わっていたティアに後ろから抱きつき、

 

「ねぇねぇ、先輩から聞いたよ~? ティア、ゴスロリ着たんだって? 見てみたいからまた着てよー!」

 

「……キミもか」

 

 柔らかほっぺをツンツンと押されながら、疲弊(ひへい)に染まった顔で遠くを見るティア。

 

「ティアきゅ~~~ん!」

 

「…………もう、勘弁して……」

 

 どこまでも明るく、どこまでもバカらしく、どこまでも面白い……そんな幸福な日常――

 

 

 

 その(・・)

 上空で(・・・)――――

 

          ◆

 

 ――――それは、一瞬のことだった。

 

 

 ……“奴”の目覚めを感知した。

 宛もなく彷徨(ほうこう)していた彼女は導かれるように奴の元へと向かった。

 

 とりあえずやることが見つかったのだ。動くにはそれで十分な理由だった。

 

 国を越え、海を越え、山を越え、――街についた。

 

“――――――――っ”

 

 思わず圧倒される。

 何度か来たことはあったが、それは興味本意で来ただけ……言語は覚えたし、都道府県だって一通り回った。

 だが……『上空』から見下ろしたのは初めてだった。

 

 ――鈴杷市。

 東京都と埼玉県の間に位置する、日本で最も零士がいる街。

 

 そういう都市だからこそ……奴も引かれたのだろう。

 目的の獲物はすぐに見つかった。

 まだバレてはいない。

 ケルヴァルトに連絡しようかとも思ったが、自分でもどうにかできる……そう思い連絡はしなかった。

 

 勝負は一瞬。

 決着は一瞬。

 

 背後から近づき、地上の者も気づくことはない上空にて――大気が暴れ狂った。

 

 逃げ場はなく、反応もできず、何もかもを消滅させる一条(いちげき)は奴を飲み込み、

 

 そして、

 ……決着は、

 ――――ついた。




 気づいた方もいるかもしれませんが、この作品は私が以前投稿していた『有翼の抑止力』、そのリメイク版です!
 読みやすく、新しい展開を引っ提げて戻ってきた新しい有翼の抑止力をご堪能ください!
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