命を狩りにくる紫の剣。
一瞬の遅れでもあれば体を裂く一閃を、
「リヒ……ッ♪」
「ったく……何なのその鳴き声は――!」
ため息まじりに苦情を漏らしながらも一撃もこの身には到達させない。
昼間の時のような獣のような動きではなく、明らかに知性を得た人間のような動きに自然と身が引き締まる。
しばらくの
だが隙は与えない。
僅かに屈み――
「ウ――!?」
境界に入ったわけでもない。転移の零術を使ったわけでもない。
――これこそが美亜の真骨頂。
燁斗の身体能力強化など比にならない、美亜の身体能力強化。
極限まで強化された身体能力は、単純な速さで美亜の姿を掻き消した。
――そして、
「ヌ、ウ――ッ!?」
――
背後からの一閃。咄嗟に首を捻るも紺色の刀身はレイシの耳を切断した。
「ギウッ!」
「――――」
間髪入れずに刻まれる三撃。
不安定な体勢では回避はできない。零気で体をコーティングするも、相手は燁斗でも優花でもない、霧雪美亜だ。
そのような防御手段は紙くず同然。
零気ごと零装を切り裂かれ、肌も骨も内臓も
「グ、エア――!」
遥か後方に飛び退くも――、
まるでくっついているかのように――美亜はゼロ秒で
ゼロ距離からの薙ぎ払い。
腕を盾にするも、結果としてレイシは左腕が飛び、今度はレイシが廃墟の建物に背中から激突した。
それも一つではない……二つ、三つ……四つの建物を貫き、レイシの体は地面に落ちる――筈だった。
「――ッ、ア……」
四つの建物を貫いた先に、
ギュルルルルッ!! と唸りを上げる右足に凝縮された零気。
その威力は地面を割るほどで――
「っ、――ぁああ゛ッ!!」
グチャッ!! そんな音をレイシは背中から聞いた。
次いで意識を失いかける鋭い
破裂した背中を確認する間もなく斜め上に蹴り飛ばされたレイシはビルの最上階をその身で蹴散らしながら上空へと上がり、
――レイシの目の前に
◆
すたっ、と地面に降り立つ。
眼前には完全に倒壊し、レイシを押し潰した廃ビルの成れの果て。
「レグ……イ、ガ……!」
ガラガラと瓦礫が崩れていく。
次第に胸を切り刻まれ、背中が破裂したレイシが姿を現した。
……驚いた。あの状態でも立ち上がれるのか。
しかしやることは変わらない。
――アレで駄目なら、立ち上がるのが嫌になるほど切り刻んでやる。
だが、
「フゥ……ハァ……、――――ヒッ♪」
相変わらず気味の悪いやつ。この状況で何を笑っている――?
「リィ……フイ……」
ホゥ――と。
左腕の切断面に、胸に、背中に……傷を負った全ての部分に淡い温もりを感じさせる光が灯った。
光を塗られた部位は……次第に治っていく。腕も背中も、元に戻っていく。
それは美亜も知る治癒零術だった。
――けれど、その『質』があまりにも違いすぎる。
(昼間の腕も、ああやって治したんだ……)
レイシの次元の違う零士としての質に目を細めていると、
「ヒヒ――」
ゆらりと、片手がこちらへと向けられる。
瞬間――
「――ッ!」
ゾクリ、と。
あれはただの動きじゃない……恐らく、
そう直感した瞬間、自らの
――美亜の『固有零術』“境界”には二つの使い方がある。
一つは前のように『境界に身を隠し、外から身を隠す』こと。
もう一つは――『
境界の中は灰色一色の世界――しかし『異能の類い』だけは『光を放って』存在している。
「――ッ、」
結果は正しかった。
境界の世界を目で見れば……レイシより、現実世界では『不可視』となる攻撃が幾つも放たれていた
攻撃の正体は『不可視の斬撃』。レイシが持つ固有零術の一つ。
翳した手より繰り出された斬撃の数は
それら全てが、美亜を切り刻もうと迫りくる。
血を払うような動きは何かを振り払うどころか、その刀身に
これが美亜の零装、ルステナの持つ力。
――青の斬撃を纏う、放つ。
しかし美亜の神速とも呼べる速さを以てすれば、これは彼女にとっての何よりの
「ふぅ――――」
呼吸を止め、命を狩りにくる斬撃を迎え撃つ。
――
躊躇なくルステナを叩き付け霧散させる。
――
霧散させつつ回転し得物を振るう。右腕に走る衝撃さえも原動力に変え、次の死に備える。
――
衝撃など何の障害にもならない。呼吸を止めるというある種の集中状態の美亜は、容易く斬撃を絶つ。
――
これを凌いだ後はどうするか……。そんな雑念を考える余裕さえあった。
全ての斬撃は美亜を仕留めることは叶わず、がら空きとなったレイシへとかっ飛ぶ。
「ドゥ――リャッ!」
零気の
土埃が大きな目眩ましとなるが、即座に一閃する。
「フ、ヒ……」
レイシの零装がそれを受け止めるが、すぐに次の一手、を――
「!?」
――直感。
ヤバい、という気がして追撃をやめてバックジャンプをした途端……先ほどまで自分の首があった場所に剣が振り下ろされた。
だが美亜が驚愕したのは、自分の首が落とされかけたことではなく、
(紫の剣が、
振り下ろされた剣は、レイシの礼装と同じ『紫の剣』だった。
アレはレイシの零装。
……だがどうして二本ある?
零装なのだから、
複製する以外で零装が増える理由……それは、
「――――は?」
呆けた声が漏れでた。
戦場であるというのに、何を情けない事をしているのかと自分でも思うが、こればっかりは仕方がない事だ。
その理由は目の前にある――
「ケヒ……ヒヒヒ」
――レイシにある。
『
そこに……
「そんなの、ありぃ……?」
レイシが、
『分身』――
思わず苦笑してしまう。
一人だったから何とかできたものの、二人となると厳しい。
美亜のそんな考えを読み取ったかのように、ねっとりとした笑みを作ったレイシは二人同時に斬りかかり――
「――――え?」
『分身』ではない“本物”のレイシを、彼方より飛び込んで来た彼女のよく知る
純白の髪を持つその少女は――、
「優花ッ!?」
傷を負い、自分の家にいる筈の優花だった。
その優花がこの場に……あまつさえレイシへと戦いを挑み始めた。
「ばっ――!? な、何してんの! すぐに――」
離れろ、と言おうとして……優花の眼光に射貫かれる。
“――こっちはわたしが
言葉ではなく……いつもの
(……傷が……)
包帯を巻かざる負えない有り様だった顔の裂け目。
振り返った優花には包帯どころか
……それに、あの瞳。
どういう仕組みかはわからないが……色が変わっていた、だけではない……。
瞳だけではあったが、見据える眼光から放たれていたプレッシャーは、
……いま相手にしているレイシのモノと同等かそれ以上の重圧を持つ、
◆
体が軽い。先ほどまで眠っていた筈なのに、これまでにないほどの活力に満ちている。
振るう
「グウ……!?」
斬撃を受け止める度にレイシの体は後方へと飛ばされていく。
その体に喰らいつくように……
「ふぅ――」
いや――これは零装が軽いのではなく
零気による身体能力の強化を行っていないのに、剣に絶大な威力をもたらす
どれだけ退避しようと追いつく
「ギ、ィア――ッ!?」
――そら、今だって反撃に放たれた一閃を
レイシはすぐさま体勢を直し、右手より溢れんばかりの
ソレは触れるモノを消失させ、止まることなく優花を飲み込もうとしてくる。
(――――なら)
ならば迎え撃とう、この――――
「――
優花の声に答えるように、先ほど自身の周囲より放たれた
それは『純白の突風』――
先ほど吹き荒れた時、コレに触れたモノに
「お前が何かはわからないけど……力を貸せ――」
――この『力』は優花本人にもわからない。
だが
――ならば存分に使おうか。使い潰してやる。
渦を巻き、
いま一度宣言する。
ならば迎え撃とう、この――――
「おおおおお――らッ!!」
生物、無生物の
あらゆる『モノ』を