有翼の抑止力   作:雪山崇一

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第一章(11)侵蝕(しんしょく)された世界

 純白の稲妻は零気の柱を軽々と相殺し、まるで大きく口を開けた獣のようにレイシを飲み込もうとする。

 

「ギ、ウ!」

 

 動揺こそしたがソレを回避し、

 ――すでに目の前にまで接近してきていた優花の、稲妻を纏った一閃(・・・・・・・・)を受ける。

 

「ズイッ!?」

 

 目の前で弾ける稲妻。

 続けてくるのは二閃目――ではなく、稲妻の蹴り。

 

「ルゥウウウウ、ガッッッ!」

 

 咄嗟(とっさ)にあいていた左腕を盾にし、雷撃(らいげき)を腕一本に受ける。

 ジュッ――と焦げた匂いが鼻腔(びこう)に粘りつき、何度も体を地面に叩きつけられ、ようやく勢いは止まる。

 そして顔を上げた時、そこには――ビルをも両断しかねない巨大な稲妻の斬撃が(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)――

 

「リ、グラ……!!」

 

 飛び跳ねて回避すると、高層ビルに匹敵する大きさの稲妻(斬撃)は後方の廃ビルへと到達し――ビルそのものを両断/黒焦げにし、倒壊させた。

 

 ……前を向けば、剣を上から下へと振り下ろした優花の姿があった。

 

 片手で振り下ろした白銀の剣。

 純白の稲妻は彼女の“本来の力”……その断片(・・)に過ぎない。

 だというのにこの威力……その事実にレイシは、

 

 

 

 

 

“  ()  ()  ()  ()  ()  ()  ()  ”

 

 

 

 

 

 ――――狂気の顔に、笑みを浮かべた。

 

 追撃はすぐだった。

 開いた距離を一瞬で埋めてくる優花は迫りくるレイシの攻撃(ぼうがい)に当たらないよう――駆け、跳ね、躱し――(ふところ)へ。

 

 放つは掴むように五指(ごし)を曲げた左手。

 揺らめくように現出した稲妻は増大し、左手に纏わりつき形を変えた。

 

 ――――それは、幻獣(げんじゅう)しか持ち得ないような巨大な口。

 

 外郭(がいかく)から(きば)にいたるまで稲妻によって構成された純白の(あご)

 咆哮(ほうこう)幻聴(げんちょう)さえ聞こえてくる幻獣の(かじ)り付きを紙一重で飛び跳ね(かわ)す。

 

 ……噛み殺せなかったなら次の手段だ。

 顎を振り払うように左腕を振るえば、外郭は飛び散り数多の破片となってレイシを貫こうと射出される。

 

「ガアアアアアアアアアアア!」

 

 叫びと共に零気がレイシを包み込むように展開され、破片の(ことごと)くを弾いていく。

 

「――――」

 

 加速し続ける戦いに優花のボルテージが上がる。

 次はどう殺しにかかるべきかをレイシ(到達)までの僅かな時間で考える。

 奔流(ほんりゅう)(あご)も躱された。

 なら――かつての自分のように(・・・・・・・・・・)――

 

「ア゛ァ゛――ッ!!」

 

 獣のような気迫と共にソレ(・・)を一閃する。

 腕を振るったが、命を刈り取るのは“剣”ではない。

 ソレは――“(かま)”だった。

 

 左腕の側面より生えた稲妻の鎌。

 突如として生え出た鎌への反応は一瞬遅れ、避けようとしてもなおレイシの右腕が切り飛ばされた。

 

「チィ……ッ!」

 

 追撃の一閃が来る。

 片腕を失い重心が不安定になった体に鞭打ち飛び上がる。

 白銀の一閃は先ほどまでレイシがいた空間を両断する。

 

 ……攻撃は回避されてしまった。

 だが――その零装の持ち主の(・・・・・・・・・)()()レイシを睨み付けている(・・・・・・・・・・・)

 

「!?」

 

 気づいた時には手遅れだった。

 

 ――斬ッッッ(・・・・)!! と。

 

 優花の間合い(視界)に映っていたレイシの腹部に横一直線の斬撃が(はし)った。

 昼間の時とは違う――零気を極限まで圧縮し、剣に纏わせた上での視界(間合い)への一閃。

 ソレはレイシの『防具の零装』を()ち、腹部を切り裂くほどの威力を誇る。

 

 ――――今の(・・)自分には零気の細かなコントロールが容易い。

 目の前の“コイツ”が放つプレッシャーがもたらした、胸に(くさび)でも打ち込まれたかのようなあの激痛は、

 彼女の奥底に眠る、かつて(・・・)の力を呼び戻そうとする叫びそのものだったのだ。

 

「ジ、グ……!」

 

「――――」

 

 一閃の次はくるり、と逆手持ちへと変え大地を割る『一撃』を地へと突き刺した。

 間合い(視界)にはいまだレイシが映っている。

 ――なら、

 

「ゴ、ゲ!?」

 

 レイシの体がくの字に曲がる。

 上から突き刺す一撃は背中から腹部へと貫通し、体はそのまま地面へと逆戻り。

 

「カッ――、……ァ、アァ――ッ!!」

 

 頭を潰そうとする雷撃(蹴り)を避ける。

 大地に激突し、四方八方に弾け飛ぶ稲妻を足元に、優花は回避したレイシを見る。

 

(これだけ()ってもまだそんなに動けるのか)

 

 ゆらり、と動く左手には再び稲妻が弾ける。

 その輝きは左手がレイシへと向けられるほどに光を増していき、放とうとする意志に呼応するように光の強さは極限にまで達していく。

 ……その中で、

 

「フゥゥゥゥゥ――――」

 

 長く、深く……レイシが息を吐いた。

 それは意識を集中させる行為……その意図には気づけずとも、周囲の空気が変わるのを優花は感じ取った。

 ……ドロリ、と。

 レイシの内側より並々ならぬ零気が外側へと漏れ出ていく。

 無尽蔵なのではと勘違いするほどの零気が――地を這い、宙を汚染し、空を覆う。

 

「――っ!」

 

 何か……、

 ――何か不味い事が起きると直感した優花は手のひらの稲妻を解き放とうと頭から信号を飛ばす。

 だが、

 

「イィィィィ、ァア……♪」

 

 ――ニタリ、と。

 何度目かわからない狂人の笑いと共に……前髪の隙間から優花の瞳を見据えてくる赤き眼光。

 

「――っ、……ぁ――」

 

 初めて/真っ正面から見据えた狂人の眼光。

 まるで血液のようなアカグロい瞳で見据えられ……初めて、レイシに対して『恐怖』を抱いてしまう。

 蛇に睨まれた(ねずみ)のように……体が意志に反して動かなくなり、その場で静止する。

 (つか)の間の束縛。戦闘において致命的すぎる一瞬。

 この瞬間――優花の敗北は決定してしまった。

 

 

 

 

「――ルゥラアァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 天を裂き、零気(あらし)を振り撒き、世界を塗り替える絶望の雄叫び。

 裂帛の気合いは放たれようとしていた優花の稲妻を霧散させるほど。

 束縛から開放された体は雄叫びに気圧され倒れないように堪えることしかできず、

 

「これ、は――っ!?」

 

 (とどろ)きと共に行使された固有零術(・・・・)は――文字通り世界を塗り替えていく(・・・・・・・・・・)

 

 レイシの内側より発生し、瞬く間にレイシを呑み込んだ『半透明の球体』が地を削りながら迫り、優花をも呑み込まんとし、

 

「――――あ」

 

 束縛(きょうふ)から解放されたばかりの体は思うように動いてはくれず、

 

 ――ズブンッ、と。

 小さな体は誰の目に止まることもなく取り込まれた。

 

          ◆

 

 ――取り込まれた先は(すみ)のような世界。

 

 世界の大きさは半径一〇〇メートルはある。

 足場も、丸みを帯びた天井(ふた)も、後ろにある自分を取り込んだ柔らかな壁も、全てが墨一色だった。

 

 いや、墨一色というのは語弊(ごへい)があろうか。

 正確には、墨のように塗り潰されほとんどが黒くなっている。

 ……元々は白かったのか、塗り残しのように残っている白の部分が墨のような世界に光を与えていた。

 ――だが、

 

「うっ! ……ぐ……、」

 

 ――バチンッ! と。

 

 急ぎ取り込まれた壁から外に出ようと思っても、強力な静電気が発生したような感覚と共に弾かれる。

 

「出れない……ッ――」

 

 壁は断じて優花を逃がそうとはしなかった。

 お前はここで死ぬと告げるように、取り込まれた時点で終わりだと嘲笑うように。

 何度壁に挑もうと体は感電したかのような痺れを味わう。

 

「……っ、え――?」

 

 それだけではない。

 感電とは別に……体から、力が抜けていく――?

 遂には立っていられなくなり、墨色の床に膝をついてしまう。

 

「どう、して……力が……」

 

 厳密に言えば力ではなく、何かを()そうとする『気力』を奪われている。

 ……ここはそういう世界(くうかん)だ。

 本来の形ではないが、この世界の効果が発揮されている。

 

 内側(なか)に取り込んだ者の『気力を奪う』……妨害されてもなお効果は形を変えて発動している。

 

 ここにいる以上、優花は何かを成し遂げる事はできない。

 戦うことも、抗うことも、離れることも……。

 それは即ち、

 

「――――グ、エェアッッッ!?」

 

「ギヒ、ヒハハハハ――!」

 

 これから始まる虐殺。

 その無抵抗(人形)にされたということだ……。

 

 一撃で内臓を損傷する。

 まるでサッカーボールのように蹴り飛ばされた体は斜め上へと……向かう先は黒い壁。

 当然――、

 

「ガ――ア、エッ!?」

 

 触れようとする者を感電させる壁に背骨を殴られる。

 逃げ場のない蹂躙(じゅうりん)。レイシからも世界からも遊ばれる体。

 

「……ぇ……ぅ――」

 

 それでも、……まだ、剣を握ろうとして……、

 ――するり、と。

 ……気力を奪われた体は、意志を汲み取ってくれなかった。

 

「――ゴエ、ア……ッ!?」

 

 髪を鷲掴みにされ顔面に膝蹴り(……死……、ぬ……)が突き刺さる。

 

「――ア゛! ゴ、ォ――ッ」

 

 首を掴まれ拳が腹を貫く、折れた骨(…………し、ヌ…………)が内臓へ突き刺さる。

 

「ォ、エ――ァ、――ア、――アァ■aA■■aぁ■ァaアAa■■AあA■aaアぁA■Aアァaa■■Aァア■Aa■aアッッッ!?」

 

 首を締め上げられ、(かざ)された掌から体を覆う零気が放たれ(……し…… 、 ぬ、……)魔女のように焼かれていく。

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