有翼の抑止力   作:雪山崇一

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分身(レイシ)』と戦う、もう一人の零士。


第一章(13)神速の零士

 迫り来る数多の零術、

 

 ――炎の斬撃。

 ――氷の弾丸。

 ――雷の槍。

 

 逃げはせず、それらと真っ正面から対峙しながら、

 

「ふっ――!」

 

 ――紺色の剣(ルステナ)の一閃が(きら)めく。

 青の斬撃が纏わされた一刀は三種の零術を一撃で霧散させる。

 刀身にはまだ斬撃の青色(残滓)がある。

 次の一手を繰り出して来る前に美亜はその場からかっ飛ぶ。

 

『チィ……ッ!』

 

 美亜の強みはその『速さ』にある。

 今までの戦闘経験からそれを脅威だと認識している故に――自身を中心とし、全方位を包み込むように『雷』を無数に降らせる。

 まさに雷撃の雨だ。並みの零士ならば近づくこともできない。

 ――――だが、

 

境界(きょうかい)――)

 

 自身の瞳に『境界』を発動する。

 視界が灰色の世界に切り替わり……異能の類いは(・・・・・・)()となって見える(・・・・・・・)

 普通に視認するよりも鮮明に。

 それこそ――僅かな隙間さえも見えてくる。

 

「はっ――!」

 

 雷撃の雨へと飛び込む。

 雷は一定のパターンで降っているわけではない。ただレイシに近づかせないように降り注いでいるだけだ。

 

 だからこそ隙間(・・)がある。

 雷と雷の隙間へ滑り込み、降った後の一瞬の空白へと飛び込み、幾つもの雷撃を掻い潜り、

 ――(あめ)が落ちていない一瞬の『()』を使い、渾身の一閃を振り抜く。

 

『ゲバッ!!』

 

 切り飛ばされても体勢をすぐに直し、正面からの追撃に備えるが……どこにもいな(・・・・・・)

 

『――ガッッッ!?』

 

 背後より(・・・・)斜め上へと一閃され、自分を構成している魔力を漏らしながら上空へと舞い踊る。

 すぐさま治癒零術を行使しようとすると、美亜はその傍らに神速で出現した(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……やらせないけど?」

 

 袈裟懸けに刻まれる剣の跡。意味不明な絶叫が空を塗らしながらレイシの体はビル屋上の出入口の壁へと突き刺さり――

 

「ッ――!」

 

 ――斬ッッッ(・・・・)!! と。

 瞬間移動(しゅんかんいどう)を思わせる速度で迫った美亜はレイシごとボロボロとなったビルを両断した。

 繰り出された青い斬撃に慈悲などない。ビルを丸ごと両断する威力を紙一重で回避したレイシは逃げようとしたが、

 

『グエッ!?』

 

 美亜に首根っこを掴まれ屋上を打ち砕く威力で叩きつけられる。

 強制的にビル内部へと落とされたレイシは、崩壊していくビルの中で美亜との剣舞を繰り広げる。

 

 だが崩壊していく建物の中という状況も合わさり、軍配が上がったのは美亜の方だった。

 顔に、腕に、胸に、脇腹に――気づけば、レイシの攻撃の全ては弾かれ、その身は滅多切りにされていた。

 

「――――」

 

 ちら、と外を見た美亜は走りだし、崩壊するよりも先に窓を割って外に躍り出た。

 地上まで五〇メートル。

 このまま落ちればただでは済まない。

 それは美亜もわかっている。だからこそルステナに斬撃を纏わせ、

 

「せあ――ッ!!」

 

 斬ッッッ!! と、激震が走るほどの斬撃を地面に放ち(・・・・・)――それによって生じた衝撃波が、落下していた彼女の体をほんの僅かだけ押し戻し、

 

『ア――――』

 

 発生した衝撃波を使い押し戻された体は、美亜を追って降りてきていたレイシへと振り返り、

 今まさに振り抜かれるルステナには――パシュ! と、水のように刃区(はまち)より吹き出した斬撃が纏われていて――

 

「吹っ飛べ」

 

 逃げ場のない上空では迫り来る巨大な斬撃を回避することは不可能だ。

 防御こそしたものの、もろに受けてしまったレイシは斬撃の熱に焼かれながら、崩れ落ちていくビルに激突し消えていった。

 

          ◆

 

 すっ、と軽やかに着地する。

 両断されたビルは崩壊し、鼓膜を破りかねない爆音を(とどろ)かせている。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアーッ!!』

 

 零気が解き放たれ、押し潰していたビル(瓦礫)が弾き飛ばされる。

 ……体の所々に傷を負っているものの、零術でほとんどを治し終えているレイシはその姿をさらけ出し――幾つもの固有零術(・・・・・・・・)を行使する。

 

『リィ――ア゛ア゛ア゛ァッッッ!!』

 

 レイシの周囲より、

 

 一つ目の固有零術である『不可視の斬撃』が、数十を超える斬撃となって虚空から振り抜かれ、

 

 二つ目の固有零術である『不可視の刺突(・・・・・・)』が、斬撃と同じく数十を超える刺突となって美亜を貫こうと駆け巡り、

 

 三つ目は、空にある(・・・・)――――

 

(っ……)

 

 上空に展開された複数の『光の魔法陣』。

 その陣より――無数の『光の槍』が切っ先を露にし、美亜を獲物と捉え、一斉に射出されようとしている。

 

(なら――っ)

 

 焦りはない。

 いつものようにルステナに斬撃を纏わせ、その場から駆け出す。

 既に射出されている『不可視の斬撃/刺突』に自ら近づく行為だが、美亜にとってこの攻撃はあってないようなもの。

 

 ――切り裂く。弾く。叩き落とす。霧散させる。

 右手のルステナと、並外れた身体能力と反射神経で以て迫る攻撃の全てを斬り伏せ、助走をつける(・・・・・・)

 

 接近に気づいたレイシは防御の構えを取るが、美亜の目的はお前ではない。

 美亜はただ、この勢いが欲しかっただけ。

 

 今まさに光の魔法陣より光槍(こうそう)が放たれようとしていた、その瞬間――美亜は跳躍した。

 

『ナ、ア!?』

 

 追うように目を上げるが、その時には既に――斬ッ!! と。

 展開されていた全ての魔法陣は、美亜の一閃の元に両断されていた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「――――」

 

 ――“次はお前だ”、と。

 鋭く冷たい刃のような殺意が突き刺さった時には、魔法陣は霧散し、射出されようとしていた光槍は無に帰していた。

 

 ギュルンッ! と、空中で体の向きを変えた美亜は建物の側面に足をつけ、

 ――――美亜は掻き消えた。

 

『ギィア――!?』

 

 右腕が切り飛ばされた(・・・・・・・・・・)ことに気づいたのはその後の事だった。

 切断面を抑えながら美亜を見つけようとするが姿が見えず、それどころか――

 

『ギウ!? リビ! ガッ、ラア――!?』

 

 無数の斬撃がレイシの体を切り刻んでいく。

 目で駄目ならば感覚で零気を感じ取ろうとするが、

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ギ、リア! ア、ア゛ア゛ア゛――アアaaアアアAAaaaアアアAAaAアアaaア゛ア゛ア゛ーーー!?』

 

 主の危機に『不可視の斬撃/刺突』が姿が見えない美亜を迎撃しようとするが、近づけば近づくほど彼女の餌食(えじき)となり、

 ――数十を超えていた斬撃と刺突は瞬く間に切り殺されていく。

 

『ガウ! グ、ガ――!』

 

 左腕が回転しながら体から離れていき、両足も一閃で切り離され、ダルマとなったレイシは背中から地面に叩きつけられる。

 

『ル……ゥ――』

 

 初めて朧気(おぼろげ)になったレイシの瞳が最期に見たものは、

 

「――――死ね」

 

 凝縮された青き(斬撃)を振り下ろしてくる“神速の零士”だった。

 

          ◆

 

「――ふぅ……」

 

 息を吐いて剣を振るう。

 刀身には一滴の血液も付着していない。

 今のレイシは「本物」によって作られた『分身』。

 いわば零気の塊だ。……切り飛ばされた五体(ごたい)も、いま足元で縦に裂かれた頭と胸も、その傷口からは零気が溢れ出し、この場から消えようとしている。

 

 ……しかし『分身』と言っても固有零術によって作り出されたソレは、「本物」となんら変わらない実力を有していた。

 コイツを相手にするということは、もう一人のレイシと戦う事と同義だ。

 だというのに――彼女は一度も攻撃を受けず(・・・・・・・・・)単独で撃破(・・・・・)した。

 

 彼女は名のある血筋でもなく、生まれに特別な理由があるわけでもない。

 純粋な『剣技』と『速さ』のみで、零士における最強格の一人(・・・・・・・・・・・・)となった者。

 

 ――それが少女、霧雪(きりゆき)美亜(みあ)という人間だ。

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