――――獣のような雄叫びが空を裂いた――。
『!?』
ビリビリッ!! と、体が震え上がるプレッシャー。
偶然にもその真下にいた四人は本能的な恐怖に一瞬息が止まり……そして空を見上げた。
「な……んだ……この、感覚……」
呆然と口から声が漏れでる。
だが燁斗にできたのはそこまでだ……四人の中で、零士の実力として考えたならば燁斗は下から数えた方が早いほどの存在だ。
だから――
「ッ!?」
「お兄ちゃん!!」
真っ先に気づいたのは美亜。
次いで気づいたのは優花。
美亜はティアを抱き、優花は燁斗を抱いて、両者共にその場から飛び退く。
瞬間――――空より絶望が舞い降りた。
◆
助けてくれた優花と共に強風……否、暴風に体を撃たれ、一気に数十メートルの距離を吹き飛ばされる。
抱きしめられたまま地面に何度も打ち付けられ、二人の体は漸く止まる。
「……お兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、あぁ……ありが、と……う――?」
不意に燁斗の言葉が溶け消えていく。
だがそれも当然だ……何故なら――
「な……、ん――」
……何の冗談でも、
……何の比喩でもなく、
「これ……は……?」
そこには、
先ほどまで四人がいた位置に大きく出来たクレーター。
そこを起点として放たれた衝撃波は周囲を問答無用に消し飛ばし――
道路は
看板や信号は彼方へと姿を消し、辺りには悲鳴や絶叫が鳴り響いている。
そんな状況でも四人が無事なのは、美亜と優花がそれぞれ零気を自分や燁斗たちの体に纏わせたからだ……その零気さえも跡形もなく消え去っており、今の爆発がどれほどの威力だったのかを物語っている。
――そして……、
「…………
爆心地の中心には、その
気味の悪い笑い声。口が裂けるのではないかと思うほどの歪んだ笑み。
魔女を思わせるローブを身に纏い、長い灰色の長髪の前髪で隠れた瞳は見えないが、恐らくは狂人の目をしていることだろう……。
――――と、
「――――ッ!!」
――ズン……ッ!! と。
燁斗――ではなく、
苦しい……何かが――何かが、
「っ――、ぁ――!?」
胸を抑える。握り潰すように掴む。
苦しい感覚は何かが詰まっているような感覚――否、
目の前のコイツ
「エハ♪ ヘヘ、アハハハハハハハハハハハ!!」
まごうことなき狂人である女性は――
「やめ――っ!」
咄嗟に止めようとした美亜だが、レイシは不意にそちらへと手を
すると、落ちるハズだった流星はその形を『布』へと変え、美亜を絡めとった。
「な……、くっ!」
振りほどこうとするも、それよりも早くレイシは上空へと美亜を連れながら飛び上がり、
「ヌウゥゥゥゥラァッ!!」
グオンッ!! と、美亜を力の限りぶん投げた。
燁斗たちにはわからなかったが……投げ飛ばされた美亜は鈴杷市に留まらず、東京都を越え、神奈川県にまでその身を投げられていた。
それは、レイシが彼女を警戒した証拠だった。
実際、この四人の中では
「美亜ッ!!」
叫びをあげるが彼女には届かず、それどころかレイシは叫びを上げた優花へと攻撃を仕掛ける。
「ぐっ!?」
いつの間にか握っていた『紫の剣』が振り下ろされ、それを咄嗟に
「なん、だ……。――お前は何なんだ!!」
「ヒヒッ……ケハ♪」
優花の叫びに返さず、相変わらず気味の悪い笑みを浮かべるレイシ。
それで対話は不可能だと判断し、倒すための思考へと切り替える。
◆
レイシの『紫の剣』や、優花の『白銀の剣』。
どちらも一瞬で生み出した武器――これらは
零士たちの中には生まれ持った素質によって、
零装は大きく分けて“三種類”存在し、
『剣』や『刀』、『銃』といった『武器の零装』。
『鎧』や『外套』、『盾』といった『防具の零装』。
『乗り物』や『水晶』、『布』といった『道具の零装』。
そしてレイシや優花は見ての通り『剣』であるため、『武器の零装』を生み出す素質を有している。
――しかし、
「ドウィ、ヒッヒッヒー!」
注目するべきはレイシの纏っている
零士であるならば一目でわかる……アレは『防具の零装』――目の前のコイツは『武器』のみならず、『防具』の零装も生み出す素質を持っている。
「――!」
後方へ跳んだ優花は躊躇わずに白銀の剣――『セルウェン』を振るう。
零装は特殊な武器と言ったが、このセルウェンも例に漏れず『特殊な力』を保有している……それは――、
「グ、ゲ――ッ!?」
優花が虚空に剣を振るった瞬間、
……腹部を、とまではいかないが、纏っているローブの零装を僅かに切り裂くことはできている。
――これがセルウェンの力。
距離が離れていたとしても、優花の『視界』に写っていたレイシのローブに斬撃が奔ったのは、この効力のおかげだ。
(流石に一撃じゃ無理か……!)
「キヒッ!」
切られた部位を撫でたレイシは面白そうに口角を上げ、その場からバネのように飛び跳ね優花に喰らいつこうとする。
「っ……はぁ――」
対処しようとするが、胸が
……この痛みは今はじめて襲ってきたものではない。
――燁斗と同じく、目の前のコイツを見た時から、胸は痛みを塗っていた。
コイツをなんとかしなければ……そう思うからこそ気持ちで痛みは
……少しでも気を抜けば、このように胸を抑えてしまうような痛みであったと思い出してしまう。
(何なの、この痛み――ッ……!)
その隙を見逃すレイシではない。
喰らいつくように剣を優花の顔に突き立てようとし、
「――ッ!?」
「――っ」
一閃を振り抜いたのは燁斗。
優花たちのように零術や零装を生み出す才能に恵まれなかった彼は、
燁斗の手には零気で形作られた『零気の剣』が握られている。
「ッ! ふっ――!」
脇腹に放った一閃は寸前で防がれた。
状況を見るためにレイシは一〇メートルほど後方へと跳ぶ――その体に向かって持っていた
体勢を戻していたレイシは振り払おうと迎撃を選び――
「ゴ、エッ!?」
――弾くよりも先に、燁斗の意志によって
「お兄ちゃん!」
「俺はこのまま行く。お前は別のルートから行け!」
指示を送り、廃ビルへと突入する。
右の手のひらが零気の煌めきを放ったかと思うと、その手には先ほどと同じ、零気で編まれた剣が出現した。
廃ビルといっても先ほどまでは廃墟ではなかったビルだ。
まだ中は綺麗――しかしそれだけに身を隠せる物も多い。
(何処だ――)
電気系統の息の根が止まったビル内は静かだ……静か過ぎるほど。
神経を集中させて、レイシの居場所を探ろうとする……その時、ドサッ、と何かが倒れる音がした。
振り向けばそこには、頭のみならず体からも血を流しているこのビルの社員だったであろう大人が倒れていた。
「っ、大丈夫ですか……!?」
ビル内で働いていたところをレイシの襲来に巻き込まれてしまったのだろう。
下手すれば崩れてしまいかねない建物に注意しながら駆け寄り、
…………