「――――、は?」
紫の剣は背中から胸を貫通している。
先ほどまでの神経を集中させていた時には気づけたであろう襲撃。
倒れた会社員を助けようとして意識を割いてしまった結果がコレだった……。
「キ――エヒ♪ レハッ、ヘヒ――!」
背後からはヤツの声がする。
「ぐっ……! か――!?」
剣を引き抜かれても倒れるまでには至らず、振り返り様に背後のレイシを一太刀浴びせようとし、
「――ヌヒ♪」
――読んでいたかのように一太刀を
「ご、が――、」
胸に奔る、冷たい刃の感触。
……それは
「――――お兄ちゃんッッッ!!」
絹を裂くような妹の絶叫。
別ルートからビルに入っていた優花が、最悪にも燁斗の胸が開かれる現場に遭遇してしまったらしい。
「お前ぇぇぇーッ!!」
ブォンッ!! と、
斬撃は
「ッ!? ぐ……っ!?」
腹を貫かれたかと錯覚するほどの衝撃。
拳による腹部の激痛のみならず、その勢いで壁を貫くこととなった背中に走る激痛。
痛覚の暴走により意識を失いそうになるが、彼女は一つの思いで耐えてみせた。
(お兄、ちゃん……ッ!)
拳の一撃が彼女を外へと投げ出すが、優花の意識は中で倒れている彼へと向けられる。
母親に引き取られてから一緒に育ってきた家族。
その
「ぐっ……う……!」
体が悲鳴を上げても、『助けたい』という思いを胸に立ち上がる。
泣き言を言っている場合ではない。
すぐに立ち上がって追撃に備え/――
「ご、ぶッ!?」
件のレイシはもう目の前に。
頭を掴まれ、そのまま顔面に膝が刺さる。
「が……ぁ、あ…………、」
ドガァッッッ!! と。
膝の次は道路が粉砕する勢いでコンクリートに叩きつけられる。
「――ぁ……、ご、べ……ッ――!」
顔面の皮膚が裂ける痛みで息の仕方を忘れてしまう。
裂けた口内から溢れる血を反射的に吐き出す。
……三度目の衝撃が迫る。
顔を潰されそうとしている少女の意識は今にも消えて――
――
それよりも先に、レイシごとコンクリートを両断する一太刀が振り下ろされた。
離された優花が受け身もとれぬまま倒れ伏し、レイシはその場から飛び跳ねる。
僅かに開いた
青みがかった黒髪に、フード付きの丈が腰下まである黒い外套の『防具の零装』。
右手には『武器の零装』である紺色の剣『ルステナ』が握られている。
「優花! 私の声が聞こえる……!?」
優花を救ったのは他でもない、先ほど彼方まで投げ飛ばされた
「ぁ…………美、亜――?」
「っ――、待ってて、すぐに……!」
凄惨となった顔面を見て息を飲んだが、すぐに気持ちを切り替える。
何故なら目の前には、こちらの様子を伺っているレイシがいるからだ……美亜が戻ってきたことで警戒しているのか、燁斗や優花と対峙していた時より身構えている。
……だがそれも当然と言えよう。
レイシは美亜を脅威と察したからこそ東京都を超え、神奈川県にまでその身を投げたのだ。
――だというのに美亜は、
――『武器の零装』『防具の零装』『固有零術』。
そして、数分でここへと戻ってきた『神速』。
それは美亜が、燁斗や優花を
「ゲィア――ッ!!」
まるで虎のように姿勢を低くし飛びかかる。
狙うは美亜の首。――コイツは早々に殺さなければ。
自らの直感を信じてレイシは武器を振るう。
――――だが、
「――――」
レイシが到達するよりも早く、美亜は逆にその懐に飛び込み一閃――
「ヌ、イ!? ――ギボッ!?」
次いで放たれる槍のような
自ら飛びかかっていた勢いも合わさり、突き刺さった蹴りはレイシの内臓を損傷をさせ、その体を五〇メートル後方へと蹴り跳ばした。
「チィ――!」
即座に立ち上がったレイシは残る左手に零気を収束させる。
「っ、これは――」
瞬間、直感が走った。
凝縮、収束する零気。髪の隙間から見えるレイシのニヤケ
それが見えた途端、美亜は飛び退いていた。
「不味い――!」
血塗れの優花を抱きながらその場から離れる。
「リイィィィィアァァァァッ!!」
獣の雄叫びにも聞こえる、狂人の叫び。
左手が空へと向けられ、凝縮された零気は上空へと放たれる。
放たれた零気は雲を撃ち抜き空を開く――そして、
空より――――無数の
◆
優花を抱えていた美亜は悔しそうに歯噛みしながら
……そこからは地獄絵図。
雨の振る範囲にいた者たちは悲鳴と
救助活動をしていた人は、瓦礫に潰された人を助けながら死を覚悟し、
親とはぐれた子どもは、どうしたらいいのかわからず泣き叫び、
我が子と共に避難していた母親は、逃げきれないと悟り胸に我が子を抱きしめながら涙を流し、
胸を開かれた少年は、気絶したまま崩壊していくビルの下敷きとなり、
◆
「――やり方……なっちゃいないな……」
――
展開された煙は
……雨の威力は煙を時より
「ふ~ん……中々の威力だな……防ぐのも楽じゃない」
雨の射程範囲から離れた家の屋根に腰掛け、ニヤリとしながら少女は足を組む。
これ以上被害を出さぬよう
「人の悲鳴を聞くのは僕も好きだけど……やり方が下手すぎる。そんなんじゃすぐに無くなっちゃうじゃん、
一気に聞くんじゃなくて……ひとりひとり、じっくりと責めてから泣かせるほうが楽しいよ?
そう。何も少女は人を守ったわけではない。
……大好物のおかずの取り合いと同じだ。一気に楽しみを持っていかれそうだったため阻止した、それだけ。
「……ま、キョウダイとして一応は応援してあげるよ。僕の邪魔をするなら、
イカれたことを言いながら肩下まで伸びた灰色の髪を揺らして立ち上がる。
血のような赤黒い瞳は、既にレイシが