「ごめんね。大丈夫だったか?」
「……まぁ、うん」
ティアを気遣いながら立ち上がらせる紺色の髪の少女。
ちゃっかり手を借りて立ち上がるティアを見て、まるで
「君もごめんね、突然あたしが入ってきてビックリしちゃったよね」
「あぁ、いや、俺は大丈夫だけど」
「……ほんとそうだよ。キミはもうちょっと大人になるべきだと思うよ、
「あっはは……」
フユナと呼ばれた少女は苦笑いすると、燁斗の方に目を配り、
「初めまして、あたしは
「俺は
「――――
吐き出すようにティアはそう切り捨てた。
「……え?」
「だからいない……フユナが勝手にそう言ってるだけ」
「もう! 固い事は言いっこなしだぜティア! 三年前から家族同然の付き合いじゃん!
ほらほら、そろそろ『篠坂ティア』を名乗れよ~」
「名・乗・ら・な・い・よ!」
抱きつきながらほっぺをぷにぷにとしてくる冬菜をひっぺがそうと猫のように突き放すティア。
だが冬菜はその程度では離れず、より一層抱きついてくる。
「仲がいいんだな」
「うん! あたしは本当に弟だと思ってる!」
「僕はキミをお姉ちゃんとは認めてない……」
「嫌よ嫌よも好きのうちっ、てね!」
仲の良い
ここからなら、
……街の中心を起点として、半径三〇〇メートルが廃墟になっている。
ところによっては地下街や地下鉄までもが見えている……それがあのレイシが及ぼした被害がどれほどのものかを
(優花……美亜……)
優花の元には美亜が来たとは言うが、それでも心配だ。
優花はもちろん、美亜だって、燁斗からすれば家族同然の存在だ。
……五年前。
その時から燁斗や優花にとっては美亜はもう一人の家族だった。
「フユナ、邪魔しないで。ユウトのお昼作りに行くんだから!」
「燁斗のお昼作るの? なら、お姉ちゃんも一緒に作ってあげようー!」
不意に物思いにふけってしまったのは、あの
「――あ」
と。
冬菜は何か思い出したように足を止めた。
「……これから燁斗のお昼ご飯作りにいくんだよな……それなら――」
ガサッ! と。
この部屋に入った時に手にしていた大きい紙袋を手に取る。
「ねぇねぇ、ティア。燁斗に元気になってほしいよね?」
にっひっひ~、と悪~い笑顔を浮かべながら尋ねてくる。
「そ、それはもちろん……ま、待って、近寄らないで! その紙袋には何が入ってるの!?」
「――ふっふっふ。――ウィッヒッヒ……」
一歩引くようなティアの声を聞いて、冬菜は
「ねぇティア、最高の治療法って知ってる?」
「さ、最高の、治療法……?」
「あぁ、今の燁斗に最も必要な治療だ」
「ね、ねぇ……何で近づいてきてるの? やだ、怖い、離れて」
じりじりと近寄ってくる冬菜から、よそよそと距離を取るティア。しかしここは部屋。すぐに壁際まで追い詰められてしまう。
「燁斗――いや、全人類の男たちが即座に元気になる最高の治療法……それ即ち――
ガバッ! とティアにだけ見えるように紙袋の口を開く。
「――――――――――――――、んなっ」
みるみるうちに顔が青ざめていく。
一体袋の中に何が入っているのか? 目の保養とは何をする気なのか? 疑問で埋め尽くされていく燁斗の脳内。
「ま…………まさ、か…………」
当たっていて欲しくないと思いながら確認を取るが、もうー
「そのまさかだ! 正直、あたしが見たくて買って来たんだ――さぁ、ティア!
ブウゥゥゥンッ!! と、もはや『F1』を思わせる速度でティアを連れて部屋を出ていく冬菜――だが、
「ぐ……、う……ぬっ――!」
着替えさせられてたまるかと、両手足で踏ん張り、ドア枠を掴み必死の抵抗を試みるティア。
「往生際が悪いぞティア!」
「この場においては往生際が悪くてもいいと思う! 絶対にそんな恥ずかしい衣装に着替えさせられてたまるかぁー!」
外せるもんなら外してみやがれ! と言わんばかりに是が非でもそこから動く気のない様子だった。
どうしたら連れていけるのか、歯医者を嫌がる息子を相手にしているような気分の冬菜は考え……、
(――あ!)
ティアの腹に手を回したまま、冬菜は耳元に口を近づけていく。
「もし着替えてくれたら……新しくオープンしたお店のアイスクリーム、奢るぞ?」
「――――」
張っていた筋肉が僅かに弱まる。
「あー、そういえば最近バイト代が入ったんだー。弟と一緒に遊園地行こうかなー(棒)」
「~~~~~ッ!」
両足の
「――今ならティアの大好きなお姉ちゃんの特製パンケーキ作ってあ・げ・る♪」
――お姉ちゃんには勝てなかった。
……それで結果はわかることだろう。
「…………おい、嘘だろ」
事の
◆
「むぅ~……」
「さぁ着替えよう! すぐ着替えよう! いやー楽しみだなぁ!」
まだ納得がいかないといった感じで唇を尖らせるティア。
対する冬菜はニヤニヤしながらティアの背中をずいずいと押していき、
「――ふぅ……なぁ、ティア」
「なに? 今ちょっと走馬灯でも見ようかなと思ってるから邪魔しな――」
「真面目な話だ。
――燁斗には言わないのか? 街に降りてきた
「っ……、」
ティアの顔が自然と引き締まる。
それを察して、冬菜は話を続ける。
「降りてきたヤツ、おそらく
なら、燁斗にも無関係な話じゃないだろ?」
街に降りてきた“レイシ”。
厳密に言えば、あれは
そして……それに関して燁斗は全くの無関係というわけでもない。
「……ユウトは
「慎重派だな、ティアは。
あたしは部屋に入った途端に『――
ま、言うタイミングはティアに任せるよ」
そして、もう一度深呼吸をし、
もはや爆心地と言っても過言ではない廃墟となった鈴杷市の中心地の方に目を向けて――
「――――」
両の瞳に――
視界の先には壁がある……だが、今の彼女の『瞳』はそれらを『透かし』、見たいものだけを見る――そして、
「やっぱり……