有翼の抑止力   作:雪山崇一

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第一章(8)静かな開戦

 すっ――と、美亜(みあ)は爆心地に足をつける。

 ここから半径三〇〇メートル先には立ち入り禁止のバリケードテープが張られている。

 そこに立つ警備の者に見られないように“境界(きょうかい)”に潜ってここまでやって来た。

 

(昼間、アイツが暴れていたのはこの辺りのはず……)

 

 見渡せば、辺りは崩れたビルや崩壊した道路の残骸だらけで、昼間までの活気ある街並みの面影など何処にもなかった。

 意識を集中させるが燁斗の零気は感じられない……感じられるのは三〇〇メートル先にいる人たちの零気だけだ。

 

(周りを見てもいない……ってことは建物の下敷きに!?)

 

 近くの崩壊した建物に走り寄る。

 零気で強化すれば、少女の力でも瓦礫を持ち上げられ――

 

「――!?」

 

 バチッ(・・・)!! と。

 不意に……体に電流が流れるような感覚が走った。

 だがすぐにこの感覚は零気を感じた時のもの(・・・・・・・・・・)だと思い当たる。

 

「この、感覚……」

 

 美亜は他者の零気を感じ取れるが、それにしてもこんな電流が流れるような感じ方はしない……それでも感じたということは、

 ……この零気の持ち主は、常軌を逸した存在(・・・・・・・・)ということ。

 そして、

 

「……ッ、」

 

 直感が示した方向……その方向には――半透明に揺らめく、ドーム型の何かがあった。

 遠くからでは確認できない、近くからでないと存在に気づけない不可思議な存在。

 ――電流を思わせる零気は、そのドームより漏れ出ていた。

 

「なに……アレ……、」

 

 恐れとは逆に、足はドームへと近づいていく。

 近づいたとしても、ドームからは何の反応もない。

 反応はない。

 ……反応ない。

 ――反応は――――/バキンッ(・・・・)!!

 

「ッ!?」

 

 ドームに亀裂が走った。

 反射的にその場から飛び退き……、

 

 ――カッッッ(・・・・)!!

 ドームを突き破り、天を貫く零気(ひかり)の柱が放たれた。

 

 ……これには見覚えがある。

 レイシが繰り出した零気の輝き。その後に来るものは――零気の雨。

 その考えに至りすぐに対処しようとして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「――――イィィィィィラッッッ!!」

 

 

 

 

 砕け散るドームの入れ替えになるように――ドームの中よりレイシが飛び出してきた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 斬ッッッ!! ……レイシの紫の剣(零装)が袈裟懸けに振るわれる。

 狙われたのはもちろんその場にいた美亜だ。

 

「く――!?」

 

 反射的に生み出したルステナ(紺色の剣)が一閃を防ぐ。

 衝撃はルステナを握る右手を一瞬で麻痺させ、その身を後方にある、崩れ落ちたビルへ叩きつけるほど。

 ……叩きつける、そんなレベルではなかった。

 斬撃の衝撃はビルを貫通させる威力だった……美亜の体はビルを貫き、向かい側へと飛ばされる。

 

「っ――!」

 

 ビルを貫いた美亜の体には『防具の零装(黒い外套)』が纏われていた。

 おかげでビルの衝撃を幾分か和らげることができた。

 着地と同時に空を見上げる。

 

「レウゥゥゥゥリァアアッ!!」

 

 上からの追撃。

 それを(かわ)し、コンクリートに鋭い斬撃が刻まれるのを見て、まともに攻撃を受けてはいけないと確信する。

 

 攻撃は止まない。

 薙ぎ払い、袈裟懸け、切り上げ、突き。

 それらを躱し、流し、受け、(さば)いていく。

 

(っ……コイツ、腕が……)

 

 切り飛ばしたはずの右腕が治っている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 どうやって治したのか……普通に考えれば零術だが――コイツの零術は、体の部位を治す領域にまで達しているというのか……。

 

「ぐ……!」

 

 昼間の時にはまだ(すき)があったというのに、今のレイシには隙が見当たらない。

 最初の戦闘の時に学習したのか……。

 いまカウンターを入れれば、間違いなく切られるという予感がある……だからといってこのまま怒涛の剣舞を受け続けていては倒せない。

 

 焦る。考える。思考する。

 周りに()(よぶん)はない。

 

 ――鈴杷市を覆う蒼炎に気づかないほどに。

 

          ◆

 

 カーテン越しでも見える輝光(きこう)に、優花は目を覚ます。

 眠りから覚ました光に唸った――その、次の瞬間、

 

「あ――、ぐ……!」

 

 ――昼間にも感じた、胸に(くさび)を打ち込まれたかのような激痛が走った。

 跳ね起き、ベッドの上で悶え苦しむ。

 その激痛の切っ掛けとなったのは、燁斗の■■(・・)も目覚めさせた、■■■(レイシ)のプレッシャーだった。

 

 ――燁斗が呼応(こおう)だとすれば、優花は共鳴(きょうめい)

 過去は忘れてしまっても、体と――魂が覚えている(・・・・・・・)

 その痛みが思い出させようとしてくる……レイシ(アイツ)が、何なのか――。

 

「はぁ……、あ――ッ……!」

 

 感じるのは――嫌悪感、不快感、憎悪、忌避――そして、親近感(・・・)

 

「お、え……ッ!」

 

 噛み合わない感情に吐き気を覚えた。

 親近感……? ふざけるな……街をこんなにして、あまつさえお兄ちゃんをあんな目に遭わせるようなヤツに、親近感など覚えてたまるか――。

 

 でも、

 なんで、

 どうして……?

 

 振り払おうとした親近感(きもち)が、嘘偽りのない真実を、そんなわけない(わすれていた)過去を浮かばせてくる。

 

 親近感どころじゃない……アイツは、

 

「やめて……」

 

 アイツは……同じ日に産まれた(・・・・・・・・)

 

「やめろ――」

 

 ――――お前の(・・・)家族だろ(・・・・)――?

 

「――――黙れッッッ!!」

 

 拒絶を示した瞬間、純白の突風(・・・・・)が優花の周囲より吹き荒れた。

 いや、一瞬のことでそれは突風に見えたが――吹き荒れたソレ(・・)を浴びた窓やベッド、壁の一部などに稲魂(いなだま)が残っていることから、それが突風ではないことは明白だった。

 

「ふぅ――、はぁ――」

 

 深呼吸をし、無くなった窓からベランダに出る。

 感覚が伝えてくる――爆心地(あそこ)にヤツがいると。

 

「不快な考えが無くならないなら……答えは一つだよね」

 

 ガシッ、と顔に巻かれた包帯を掴み、力任せに引き剥がす。

 

「不快の元を絶てばいいんだ――」

 

 剥がされた包帯の下に……傷は(・・)もうなかった(・・・・・・)

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