胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第10話

霧が立ち込めるそこには、日の光の温かみがなかった。空気は冷たく、感じる視線は悪意に満ちている。まるで人喰いの坩堝だ。ちょっとあっちを見れば、そこには人の死体が転がっている。喉を掻っ切られたのだろう。大動脈からの出血が酷い。

 

奥の方の霧からは、緊迫した声が聞こえる。その状況を作った怪物と、きっと対峙しているのだ。可哀想に。今年の試験でなければ、こんな目には会わなかっただろうに。

 

だが今年に参加してしまったからには……。

 

霧の奥で叫び声が鳴り響いた。そして直後、それもなりを潜める。音が消えた。遅かったか。だがその死は、無駄にはならないだろう。

 

霧の中に、私はシルエットを見た。細身ながら引き締まった体を持つ男。その前には、少年らしき影がひとつ。一人は無事だったらしい。

 

どうやら話しているようだ。ちょうどいい。男は油断している。私の気配も一切察知できていないように見える。

 

地面を蹴り、私は天高く跳躍した。霧で隠されていた太陽光が背を焼く。その感触に背を押されて、私は打つ。打つ。

 

ショットガン

 

指先を構え、魔力を充填し、地面を穿つように撃つ。それはやがて水の散弾となって、怪物の背中を襲った。ほぼ無音の攻撃。だが怪物も決して私に対して無警戒ではなかったらしく、予め大きく広げていたオーラから散弾を察知し、すんでのところで避けた。

 

ショット

 

連射は神経を削るが、できなくはない。怪物ことヒソカの影を、再び私の弾丸が貫く。地面に風穴を開けた。当たっていれば脳天直撃だから即死だが、やはりこれだけでは死なないか、影がかき消えた。

 

「いい!?ヒソカが消えた!なんで!?」

 

ヒソカと話していた少年、ゴンが、目の前に突然現れた傷痕とヒソカが消えた事実から、驚きの声をあげる。

 

それを見下ろしつつ、私はあの引っ張るやつで避けたヒソカを追い、追撃する。これからあと三秒くらい、魔術は使えない事になるが、それくらいならヒソカとも渡り合えるからだ。

 

霧の中、空中で身を捩り、落下を早めてから、人間業ではない軌道でヒソカの影を追い縋る。その途中で見えたヒソカの顔は、さすがに冷や汗をかいていた。

 

「む、むちゃくちゃやるね♦でも嫌いじゃない♠来なよ♥」

「うっせーバカヤロー!死ね!しねー!!」

 

まだ余裕ぶっているヒソカを、念能力に主軸を置いていないためできる特盛の念弾の雨で打つ。攻防力の薄いところがあればそこ狙い。平均的ならば全力の念で打つ。考えてみれば、肉弾戦をやるまでもない。オーラはガンガン減っていくが、防御力を損なわない程度にすれば十分だ。

 

「ゴン!大丈夫か!?」

 

奥の方で心配そうな声が聞こえる。気配の感じ、ゴンは無事だろう。念の洗礼も、あのヒソカを相手にしたのに受けていないようだ。声の主は質的に青年のクラピカか。奥の方でこちらを見ながら、お互いの無事を確かめあっている。

 

それと、叫び声をあげていたレオリオも無事らしい。視界の横で、誰かに背負われて三人で離脱していっているのが見える。

 

だが心なしかゴンがこちらを見て渋っているな。心配と……興奮?が半々か。よく分からない少年だ。

 

「ゴン!いいから行くぞ!死にたいのか!?」

「う、うん!……よくわかんないけど、さっきは飛び方教えてくれてありがとー!頑張ってね!」

 

クラピカの怒り混じりの言葉に、ゴンも私達の戦闘を迂回するように離れていく。だが霧で見えなくなる前に、ゴンはこちらに振り返り、状況に似合わない爽やかさで応援してきてくれた。

 

なるほど。ヒソカが気に入る訳だ。レオリオなどもなにか琴線に触れたのだろう。特にゴンはいかれているから。

 

ともかくヒソカとの戦闘の状況は悪くない、が良くもない。今回は前回私が幻術で騙した事もあってか、ヒソカが乗り気じゃなかった。そのせいで一時逃げられ、仲間を呼ばれた。ちくしょう。

 

 

 

 

 

 

結局ヒソカは仕留められなかった。呼んできた仲間もヒソカ並に強かったから、逆に逃げる羽目になった。これほどの屈辱は初めてだ。だが二次試験会場には、試験官をマーキングしてあったので、つくことができた。

 

そこでゴン達とも会ってちょっとだけ話した。クラピカとキルアには怖がられてあまり話さなかったが、ゴンはヒソカとの戦いを興奮気味に聞いてきたし、気絶していたレオリオには、結果的に助けた事もあって感謝された。

 

二次試験までの合間はそんな感じで過ごし、二次試験が始まると、結果的に再びヒソカと再開した。

 

二次試験の課題は、一次試験のサトツについて行くことから、何故か料理へと変化。その料理のお題は豚の丸焼き。試験官はとんでもなく恰幅のいい巨漢と、ナイスバデーなねーちゃんだった。

 

今はちょうど、試験会場のビスカ森林公園という場所の固有種、グレイトスタンプを自分とヒソカの分仕留めたところだ。

 

「ほらよ〜ヒソカお前のだぞー」

「悪いね♦でも君とやるとどうしても嵌められたの思い出しちゃってさ♠変な気持ちになるんだよ♥」

「おえっ」

 

気持ち悪さから、血抜きまでした巨体のグレイトスタンプを思わずヒソカに落としてしまう。何故かヒソカは構ってくるが、いざ戦闘となると急に奥手になる。意味が分からなかった。

 

潰れているヒソカを置いて、試験会場に戻る。

 

血抜きはしっかりしたし、素材の味を生かせる自信はあるから、不合格になることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

「あー食った食った。もーお腹いっぱい」

 

試験会場の真ん中で、人より大きな豚の丸焼きを90頭程喰らい尽くした悪夢みたいな試験官が、終了の合図を告げる。それに合わせて隣のナイスねーちゃんが銅鑼を鳴らした。

 

二次試験

セミもなくなく

三次の秋

 

あまりにもあっけない終わりだ。合格人数も多い。潰れていたヒソカすら合格している始末。酷い話だ。思わず頭を抱える。

 

だがあまりの事態に嘆いていると、二次試験はまだ終わっていないとの事だった。二次試験第二課題担当のナイスバデーのねーちゃん、メンチが自身の評論が辛口だと言った上で、二次試験の課題は……。

 

「スシよ!」

 

寿司だった。この世界にも寿司はあるので、間違いなく寿司だろう。こうなれば誰が有利かは明白だ。念能力者達はメンチのヒントを聞くまでもなく、ヒソカとヒソカの救援に駆けつけたイルミ以外の能力者全員が動き出す。

 

ここまではみんな大人しかったが、全員試験に合格するために本気なようだ。だが、ひとつ不幸なことがあった。

 

寿司を知っていたのが私達だけではなかったという事だ。ほんの一人だけだったが、残念な事に、ある男は知っていて、そしてそいつは基本的に軽率な性格をしていたらしい。

 

つまり真相は────不可避の、暴露である。

 

「え!?なんだぁおめーら!?もしかして魚が原材料だって知ってるべか!?……あっ」

 

……魚!!

 

この世界ではマイナーで聞いた事のない寿司の情報を、明らかに知っている奴が、受験生全員がいる前で口を滑らせた。彼の名前は確かハンゾー。念能力を除けば相当強い部類に入る受験生だったか。

 

ちょうどこの世界の寿司があるジャポンという国の忍者だという話なので、寿司を知っているのはそのせいだろう。にしても忍者の癖にとんでもなく軽率な性格をしている。忍者の中でも上位の上忍だとは言うが、どこまで本当か。

 

「なんだてめーその目は!?はっ!?まさか俺が忍者だという情報をどこかから掴んで!?てめーさては敵だな!?うぉぉぉ!」

 

勝手に一人で盛り上がるハンゾー。ヒソカの次は真性の馬鹿か。やってらんねー。まあその馬鹿も受験生の流れに押し流されて行ったので、とりあえずいいだろう。

 

私は転移というアドバンテージがあるので、それを生かすために物陰に隠れ、全員が出払っている事を確認して転移を実行する。海の幸には誰も勝てねーよ。

 

 

 

 

 

 

「しゅーりょー。はい合格者ゼロ名ー。ハンター試験終わり!解散!」

 

なん……だと……。

 

私の寿司は完璧だったはず。魔術っぽい事だから錬金術も当然得意で、料理だって嫌いじゃないのに。審査してもらう為に並んでいたら、いつの間にか試験が終わっていた。酷い。

 

あまりの事態に落ち込んでいた私以外にも受験生トードーも立った。だがプロ相手に勝てる訳もなく、顔面陥没攻撃を受けてどっかへ吹っ飛んでいった。グレイトスタンプは肉食だから、食べられないといいが……。

 

周りの受験生達も、困惑に声を潜めながら話し合っている。まあ全員、何故メンチがこうも横暴なのかはわかっているだろう。頭がおかしい変態ピエロが、襲われたら負けるくせに念能力者全員に無差別で殺気を送っているからだ。

 

本当にヒソカは頭がおかしい。特にそんな死にたがりなのに私から逃げたのがおかしい。でも問い詰めたら、理由を詳細に説明出来そうなのがなお嫌だ。

 

「とにかく、試験はしゅーりょー!」

 

メンチが宣言をする前に、食べた皿を重ねる。出した全員がほとんど寿司を知っていたため、一応食べはしたものの、全てまずいと言われたものの残骸だった。今更この癇癪に文句を言うほど子供なのはあまりいないが、どこか納得いかないのも事実だ。

 

受験生全員、不満は最高潮。でも言い出せない。そんな感じの空気で試験官と受験生の間にしばらく険悪な雰囲気が流れると、突然うえから電子音混じりの声が聞こえてきた。

 

『それはちと厳しすぎんかの?』

 

上を見ると、ハンター試験を取り仕切るハンター協会、そのマークがあるハンター試験審査委員会の飛行船の姿が………。空から何かが落ちてくる。というか人が落ちてくる。おそらく声の主だろう。見た目はかなり高齢と言ったところか。その人が落下の勢いのまま地上に落下した。

 

 

 

 

 

 

なんだかんだあって、審査委員会の介入により、二次試験は無事そこそこの合格者を出して終了した。

 

あのままの二次試験では厳しいとの事だったので、説得されたメンチ女史も考えを改め、度胸を試す試験として崖にあるクモワシの卵を取ってくる事を合格条件として受験生に課した。

 

ちなみにクモワシとは、なんかクモっぽい糸を出せる鳥である。卵は大変絶品だったと言っておこう。そうやって試験を乗り越えた今、私達は審査委員会が二次試験に乗ってきた飛行船の中にいる。

 

ヒソカとはようやく別れることができた。お前外はともかく実質屋内でまで付きまとうなよなと言えば、大人しく引いた。初めからそうすりゃいいんだバカヤローめ。

 

 

 

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