胎内回帰願望《パンチーファンシー》 作:来い!ゲンスルー!
第13話
四次試験も終わり、回収された受験生各位は再び機上の人となった。中には、念を覚えてちょっと力強くなったゴンの気配もある。リナウジとも再会した。どうやら私がターゲットではなかったようで、あの受験生達を酩酊状態にさせ、一時集団記憶障害事件を引き起こした弓使いを、真正面からぶちのめしたらしい。
今は試験の一環か、館内放送で受験生達が順に呼び出されていっている。人数が多いので、しばらく寛いでくれと委員会からのお達しだ。しかし四次試験の終わりに集まった受験生達の姿は面白かった。たまに島を揺らす程の戦いもあったが、ほぼ全員敗残の将みたいな格好してやんの。
『44番の方お越しください』
リナウジと連れ添って通路を歩いていると、また館内放送が響いた。44番と言えば、ゴンに完全にしてやられたヒソカそのものだ。たまらない。思い出すだけでも笑えてくる。
「ぶふっ」
「どうしたリリコ?なにか面白い事でもあったのか?」
「いや、ヒソカがあのつんつん頭のゴンに完全に不意打たれた時の事を思い出してなー。今ゴンがオーラ纏ってるのは私が指導したせいだし」
「そうか。それは笑えるな。ヒソカは悪い奴だと聞く。因果応報と言うやつだ………多分」
自信なさげに言葉が萎むリナウジ。歩きながら萎んでいくので、なかなか段階的で味があった。曲がり角が見えてくる。
特に意味もない散策。
そのはずが、その曲がり角のところで、その先を覗くように金髪の青年……確かクラピカ……がいた。自然と私達もそれに興味を引かれ、クラピカの上から覗く。気づいたクラピカは、私達に静かにするように要求してきた。
「悪いな。居てもいいから少し静かにしていてくれるか?……すまない」
クラピカの言葉通り、私達は口を閉じる。曲がり角の先には、ゴンと、その仲間らしきキルアがいた。どこかキルアは調子が悪そうだ。顔色が明らかに悪い。なにかを伝えようとしているのか。
「ゴンはすごいな」
暗い音色で、キルアが呟いた。
「レオリオから聞いたよ。ヒソカを出し抜いたって。多分オレでもできない芸当だ。真正面からじゃなくても、オレじゃきっと殺される」
「そんなことないよ!キルアなら!」
「違う!……いや違わない。もしかしたらオレでもできるのかもしれない。でも逆らうと考えるだけで足が竦むんだ。だからオレ、最終試験を辞退するよ……悪い。もう関わらないでくれ」
「……キルア!」
ヒソカに逆らう、逆らわないというのは関係が見えてこないので、おそらく比喩だろうが、何が起こっているのか。悲しい顔をしたゴンがキルアに手を伸ばす。でもそれはキルアに払い除けられ、地面に向けられて落ちた。
覗いていたクラピカが小さく「何が起きた」と呟きながらゴンに駆け寄っていく。私達は事態がよく分からないのでしばらく様子を見て、問題はあったがどうしようもない事態にはならなそうだったので、静かにその場を去った。
それから、最終試験は始まる前段階で終わりを迎えた。どうも最終試験は一人だけが不合格になる仕組みだったようだ。そしてその一人がキルアになった……という事なのだろう。そんなんでいいのかという話だが、元々残っているのは念能力者ばっかりなので、一人落ちてくれるなら試験の意味もさほどなかったのだろう。
最終的に私達はプロハンター認定用の説明会を受け、それで終わった。なんだか思ったよりも呆気ない試験だ。上限が一流レベルで、下限が非能力者だから、ちょうどいい楽しめる塩梅がなかった。
試験終わりに、ゴン達とはせっかくなので連絡先を交換しておいた。
もっともゴンは携帯を持っていないみたいだったので、私のシンシンドロームの中から携帯を渡しての交換だったが。
ゴン達の件に関しては、なんとも後味の悪いものだ。だが私達が関わるべきことでもない。
試験も終わったし、次のなんかのイベントと言えば、サザンピースオークションか。
ツェリードニヒに当たったのは本当にたまたまだったので、私自身そんなすごい稼いでいるという訳でもないが。どうするか。
不人気品くらいなら買えそうだが、まあ色々イベントがあるらしいし、どっかの国のお祭りに参加するのもいいかもしれない。幸い魔術があれば食いっぱぐれることもないし。
「次はどーしよーかなー?リナウジはどうする?」
「おれはまた色んな国を回って旅をしようと思う」
「そっかー。じゃあ縁があればまた会おうなー!」
「ああ、そうだな……また会おう」
プロハンター認定の説明会も終わって、その帰り道。至って普通の石造りの建造物から出て、適度に街路樹が設置されたそこで、リナウジと別れる。縁があればまた会うこともあるだろう。多分同じ転生者だから、そういう運命的な再会の可能性は他よりは高いはずだ。
お互いやりたい事も違うし、一緒に旅をしたら楽しいだろうが、今はその時じゃない。まだまだこの世界は広いんだから、一人で楽しむ時間も重要だ。故に私は特になんのしこりも無く、ちょっと名残惜しそうなリナウジに別れを告げた。
目的地は特にない。強いて言えば世界のどっか。遠くなるリナウジを背に、私はひとまず帰路に着いた。
◆
家で仕事をしながら次の行き先を選定していると、傍らに置いてあった電話が鳴った。
手に取ってみると、件名はヒソカだ。あまり出たくはない。でもたまにいい事を言うので仕方なく出る。電話口でヒソカが私に告げてきた。
「ん?なんだー?ゴンがどうしたって?」
『ああ♦ゴンが天空闘技場に来たんだけど、想像以上に強くなっていてね♠でも満足できる程じゃないから君に責任を問いたいんだよ♣君だろ?♥ゴンに念を教えたのは♠』
「あー、まあいいぞ。今は暇だしなー。でもタダでとはいかないぞ」
『もちろんわかってるよ♠じゃあね♥』
ヒソカの言葉に適当に返事を返し、電話を切る。思わぬ臨時収入だ。私がハンターになったのは立ち入り禁止区域にもだいたい入れるようになる、という特権が目当てだったため、まだ具体的に「なんのハンターをやるか」は決めていなかったからありがたい。
とりあえず今は幻獣ハンター紛いの事をして、今までとは比べ物にならないくらい稼いでいるが、これも先駆者のおかげか。
なにぶんハンターは基本みんなの憧れの職業で、各分野で一線級の、それこそ歴史に名前を残すような人物がプロのハンターを管理するハンター協会には現在進行形で多数所属しているので、集まる特権が半端じゃない。まあ受ける恩恵の分、小国相手はともかく、近大五大陸が組織し運営するV5には逆らえないのだが。
まあ私は時間さえ掛ければ、それこそ政治家相手に罪の捏造とかもできるから、逆らえなくもないんだけど。もちろんそんな事やる気はないものの。とりあえず一応できるという話。
では億単位の報酬も決まったことだし、天空闘技場に行くとしよう。あそこなら、例えばヒソカをボコす事もできる。天空闘技場のルールの範囲内でしか戦わないなら、手数の多い私が勝てるからだ。
◆
天空闘技場。なんか高くて格闘家に崇められてる場所。251階あって、一階ごとにバトルリングがあるという格闘家の聖地。絶対どこかで赤字が出てると思うのだが、そんな事も無いのだろうか?
ひとまず私は、そんな世界第四位の高さを誇るらしい建造物の、だいたい100階くらいのロビーにいた。そこで私は、バトルの宣伝が行われている小型ビジョンを見つめる。
流れる映像は、大抵むさ苦しい現実的な殴り合いだ。これはこれで楽しいかもしれない。でも汗臭い。いっそプロレスのように振り切った筋肉の方が好みだ。ここは玉石混交といった感じ。
まあその中から好みの選手を探すのが楽しみ方のひとつなのだろうが、今はそういう気分では無い。
おお、子供選手が映った。ズシというらしい。心源流の武術を修めているようだ。確かあの二次試験に介入してきたネテロ協会長が、ウン十年前に設立した武術団体だったか。
映像が切り替わる。200階以降の宣伝映像のようだ。そしてなぜかは知らないが、画面から鐘のような音が響き渡る。ロビーを行き交う人も思わず足を止めて画面に注視した。視点が動く。カメラワークがそれを捉えていた。
それはまるで、唯一生身で存在しえる女神像のような。優美な瞳。神秘的な衣装。それはまるで歴史に残りえなかった名画のような。
映像に映る女性が、そんな雰囲気を醸し出す。姿がぶれる。影が掻き消えた。同時に、カメラに見向きもされなかった200階闘士が倒れる音が聞こえた。遅れてカメラワークがそれを捉える。
女神像のようなその女闘士が、倒れた闘士を見下ろすと、その闘士から意識を奪い去った剣をしまって優雅に会場を後にした。おお。
「私が撃ち落としたワルキューレじゃねーか。なんかうける」
カメラはすました顔のワルキューレを追った。しかし虫のように風に巻き込まれて四次試験の時に落ちた先を思い出すと、微妙にシュールだ。そして天空闘技場の見学紛れで広告を見ている間に、約束の時間も近づいてきた。ゴン達には、というかゴンには、事前に連絡を入れていたのだ。だからそろそろゴンが来るだろう。
「おーいリリコ。後ろ!」
広告ビジョンの前で座っていると、後ろから突然声を掛けられた。ちょっと肩が跳ねる。断じて驚いてはない。これはゴンの声だ。なんとなく予感して後ろを振り返る。するとやはり後ろにはゴンがいた。一丁前にピースしている。
「にひひ!」
やり返されたみたいで、ちょっとムカついた。
ヒソカ、出前(ゴン)を注文するの巻