胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第15話

蹴りが眼前に迫る。抉るような鋭い蹴り。弧を描くそれに、私は右腕を斜めに構える事で対応する。さらにその腕には、全体100のオーラのうち70程を含めて防御。蹴りが私の腕と衝突する。

 

オーラがせめぎ合った。だがそれは一瞬で、私のオーラがその瞬間に勝る。だが伸びきっていたはずのウイングの足は瞬時に戻され、今度は拳が飛んできた。目に映ったそれを、私は軽く手で払い除け、逆に反撃に打って出る。

 

ウイングの拳を上へと逸らし、懐へ強く踏み込む。ウイングの体勢が崩れた。私はそれを好機と見て、拳を握る。だがウイングもタダでやられる訳ではなく、堅の状態で動かせる方の腕を唸らせ、こちらに攻撃の意識を向ける。どちらもが攻撃に意識を向けている状態だ。

 

防御か攻撃か。どちらかを選ぶのは難しい。

 

だが条件はこちらが有利。

 

攻撃に集中する。視界の端で、ウイングの攻撃してきている方の手が開くのが見えた。念弾か能力か。判断がつかないので攻撃を中断し、右に避けようとする。その瞬間、目の前で相手が手に集めていたオーラを他へ流した。

 

見る限り、足か。

 

おおよその気流の感覚と勘で、万が一がないように下半身全体に60程度のオーラを展開する。同時に、ふくらはぎら辺に強い衝撃が走った。ちょっと痛い。蹴りの威力で何mか吹っ飛ばされる。

 

「うおっ!?なんちゅー蹴りの威力!」

「防御したのもすっげー!オレもやってみたい!」

 

飛ばされた先で見学していたゴン達が騒ぐ。ズシはいない。才能は素晴らしいが着いて来れなかったので追試中だ。私は空を飛ぶ感覚を感じながら、無理やり体勢を変更して地面に手をつき、勢いを殺す。ウイングを前に、再び構え直した。

 

「と、この辺で終わりにしましょう。久々に全力で動いたので私は疲れました。ゴンくん、キルアくん、少し戦いの振り返りをしましょう」

 

少し拍子抜けだ。ウイングが戦闘態勢を解いてこちら側に歩み寄ってくる。私もそれに合わせて構えを解いた。ゴンとキルアが近くで残念そうな声をあげる。私もちょっと残念だ。

 

体に纏っていたオーラを沈めて、離れた場所に置いてあったホワイトボードを取りに行く。ローラーを引いて嘆くゴン達の前に置くと、戻ってきたウイングに礼を言われた。

 

戦いの講評が始まる。ウイングはボードに先程の念での戦闘の概要を書き記し、ゴン達にその意味を尋ねていく。

 

「ハイハイ!駆け引きが凄かった!行動のひとつひとつに意味があった気がするんだ!でしょ!?」

「そうですね。ではもう少し具体的に。キルアくん」

「ん、オーラの運用の仕方の工夫は大前提って感じだな。念は完璧な力じゃないから、相手の一撃一撃に警戒しなきゃいけない。逆もまた然りだ。正直、普通の戦闘と比べて念での戦闘はリスキーすぎる」

「よろしい。よくぞそこまで読み取りました。そう、応用技まで行くと念は格段に危険度を増します。過剰なほどに。特に流にまで行きつくと──」

 

筋の通った指導だ。ボードの前に立ちながらゴン達に説明するウイングは、まさに大人という感じ。私は元現代人だった割にはスラムとか色々なところに染まって戦闘民族の気があるから、こうはできない。多分、指導方針半々は正解だっただろう。

 

私は薬にもなるが毒にもなる。案外こういう所で教育方針が現れるな。私は「考える力」というより、(戦闘のために)考える力しか教える気がなかった。それにしてもゴン達は楽しそうだ。私も年甲斐なく混ざりたいくらいだ。まあそんな精神年齢でもないんだけど。

 

ゴン達の修行は順調だ。私の実戦形式も混ぜ合わせる事で、ゴン達の成長は加速度的にあがった。もはや戦闘ですら成長していくタイプの天才だ。羨ましい。この様子だと、そろそろヒソカから連絡が来る予感。

 

 

 

 

 

 

四股を踏むかのごとく足を踏み込ませ、腰を捻り、腕を一本の武器と化して相手を打つ。ここ最近よく行うオーラを伴わない打撃。それは打った相手の筋肉を穿ち、腹をへこませる。相手が吹っ飛んだ。

 

『オォォォォ!!』

 

リングの外側から歓声が降り注ぐ。この試合を見ていた実況が、マイク越しに勝利を叫んだ。地上1階から登ること190階。僅かばかりお金稼ぎの為に寄り道することもあったが、だいたい勝って階を跨ぎ、こうしてここも勝ち進んで200階への挑戦権を手にする。

 

これでヒソカには、いつでも王手を掛けている状態になる訳だ。ただし200階に到達した事で、もう闘技場自体には用が無くなった。200階以降はボクシングのポイント制みたいなルールを守れば、後は殺しも武器使用もありで、そのうえ名誉のみの戦いだからだ。

 

それでも200階で10勝すればその限りでもないのだが、私は結構旅をするのが好きなので、そこを目指す気もない。

 

だいたいお金だけなら、200階にたどり着くまでに十分儲けられるので、ある意味200階以降は本当に名誉しかない所だ。それでもそれ以外を求めるのは、基本馬鹿と呼ばれる者しかいない。

 

200階に登るための試合も終わって、一息つく。今私はちょうど200階の選手用受付口で選手登録を済ませたところだった。後はもう特に用事もないので、私が選手専用の個室に帰ろうとした時だった。いたのだ。

 

「うそ。なんでここにいるの?もしかして私を追って……やっ」

 

ワルキューレが……目の前にいた。なんかよくわからんが、すごい怖がられてる。ワルキューレの背中にある羽も、思わず震えていた。

 

どころか、ワルキューレは自分のその羽の様子を見つめると、それから顔を背けた………ああなるほど。空中から落とされたのがトラウマになっているらしい。

 

「あー、そんな事ないぞ。落ち着け落ち着け。深呼吸してみなー」

 

慌てふためくワルキューレに、見本を見せるようにして深呼吸で胸を膨らませる。軽く声を掛けて、真似するように促した。それに合わせて、ワルキューレも呼吸を整えだした。

 

「すーはー……。すみません取り乱しました。こんなところで会うとは奇遇ですね。お小遣い稼ぎですか?ここは良いですよね。強いだけで億万長者になれる」

 

一瞬すごい気弱なように見えたが、深呼吸をするとすぐに女神像のような冷たく完璧な表情になる。広告で見たそのまんまの姿が目の前にあった。

 

「おお、すごい変わり身だなー。面白い。ここには弟子の面倒を見に来たんだ。驚かせてわりーな」

 

印象が百八十度違う怜悧な声にちょっと驚きながら、私がここにいる理由を説明する。と言ってもヒソカに依頼されて来ただけなのだが、そこまで言うとまたワルキューレが怯えてしまいそうなので控えることにした。

 

「そうですか。なるほどあの子を。いい子ですよね彼。こんな弟いたら面白いだろうなと思いました……今更ですが私の名前はアニン=フロラッシュ。以後お見知り置きを。でも200階で対戦するのは勘弁願いたいですね」

 

ワルキューレはアニン=フロラッシュというらしい。なんとなく許されそうなので、今後はアニンと呼ぶことにする。アニンは私と戦うのが本当に嫌らしい。まあ当然か。私の能力は他転生者に比べてひとつひとつの威力は劣るだろうが、かなり嫌らしい組み合わせをしている。だからヒソカも戦闘性勃起不全になったのだ。

 

「よろしくなー。アニンはこの後何か予定あるか?ないなら話さねーか?なんか適当にだべろう」

「いいですね。私はそこそこ前からこの闘技場にいるので、いいカフェを知っていますよ。行きましょう」

「決まりだな。じゃーいこー」

 

アニンを連れ添って、天空闘技場を降りていく。天空闘技場200階と言えば「戦闘準備期間」という制度があって、選手には試合まで最大90日の猶予が与えられる訳だけど、それを過ぎたら選手登録が抹消されたりする。

 

それはそれとして、今は同じ転生者同士交流を深めよう。そうすれば見えてくるものもあるだろうから。ま、とにかく人って面白いってことだ。

 

 

 

 

 

 

天空闘技場での日々は悪くないものだ。ゴン達の修行を見て、たまにちょっと和解したアニンとカフェ巡りと洒落こんだり。そんな特別な会話はしないが、仲は悪くない。ゴン達の修行も順調だ。最近はこの前見せた流を使っての戦闘を学び始めた。キルアは少々基礎不足が否めないので、基礎も固めつつだが、悪くない日常だ。

 

しかしそんな日常も、いつか終わるのが常である。ヒソカの連絡が来るのは多分秒読みだった。なぜなら私から見てもゴンは面白い。まだ「戦いたい」と思うほど優れた念能力者では無いが、ヒソカにとっては味見しておきたいくらいの熟練度だろう。

 

それでもゴンは、そんな事を知らず今日も私の念空間で鍛錬に励む。ゴンに関しては、私の実戦形式の風弾&私本体の攻撃の嵐を受けて、流などはほぼ完璧に仕上がっている。特に反射神経の向上は著しい。動きはともかく感覚だけなら、既に私と並びかけている。純粋に化け物だ。

 

そんなゴンが、なぜか離れたところでしていた鍛錬をやめ、こちらに近づいてきて手を振って声を掛けてきた。なんの用だろうか?

 

「ねえリリコ〜!」

「なんだー!?」

「オレ自分の能力を今思いついたんだけど、見てくれないかなー!?」

「へー、いいぞー!」

 

ちょっと距離が離れているので、声を張り上げて返事をする。ゴンが顔を喜ばせ、すごい勢いで走りよってきた。なんかの犬みたいだ。

 

そしてここはあくまで念空間なので、遠いと言ってもゴンとの距離はあまり遠くない。そのため、すごい勢いで飛んできたゴンは、空間の無機質な光景のせいもあり、私の横くらいで止まろうとしたものの、そこは壁であり、それを失念していたゴンは、そこに思いっきりぶつかった。

 

「あいた!?……うー、いってー!」

「ばっかだなー。それで能力っていうのは?基本能力は隠すものだって教えたと思うけどなー」

「う、まあそうだけど、でも見てよこれ!『血豆を超えて(カタクツヨク)』!いい名前でしょ!制約と誓約も考えたよ!」

 

自信満々な様子で、ゴンが私に紙を渡してくる。そこには能力の詳細が端的に書かれていた。能力も、教えたところで大した損は無いタイプだ。

 

─────

 

血豆を超えて

《カタクツヨク》

 

・鍛錬をする事で成長を加速させる

 

制約 :

1. 行う鍛錬を一切怠ってはならない

2. 鍛錬を放り出す事はできない

 

誓約 :

制約1を破ったらこの能力を失う

制約2を破ったら「放り出す」度に激痛が走る

 

─────

 

悪くない能力。強化系としては理想的。しかしこれは……。ちょっと頭を傾げてゴンを見つめる。思わず胡乱げな視線をゴンに向けざるを得なかった。

 

「何さその目。何か文句あるの!オレの能力に!」

「いや、すげーけどイカれた能力だなーって思ってよー」

「具体的にどこがさ!」

「全部。お前これ、解釈次第で日常生活にも身を……まあ元々日常生活もクソも無さそうだしいいかぁ」

 

目の前で不服そうに顔を顰めているゴンには悪いが、そうと言うしかない。これはそういう、だいぶイカれた能力だ。

 

そもそも念能力なんて、お金稼ぎとか趣味のために作った方が何倍も有用なのに、戦闘用に作っているのがまずおかしいのだ。私の場合はスラムという危うい所にいた経験もあるのでまだわかるが、大多数は戦闘以外の能力を作るだろう。

 

言ってしまえば、ハンター試験に集った念能力者兼転生者っていうのは、そのごく限られた戦闘系能力者のほぼ総力だと考えていい。それ以外は産業系にスキルを振っているはずだ。証拠に最近はそういう業界で注目されている新人は多い。ほぼ間違いないだろう。

 

それをゴンは当然のように。もう呆れることもできない。最近見たヒソカのメールからして、そろそろ味見に乗り出てくる頃だろうから、こんなイカれた能力を作るゴンにはいい刺激になるだろう。多分一気に成長を遂げるはずだ。その天賦の才を最大限生かす形で。

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