胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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ヨークシン編
第17話


天空闘技場から少し離れたところ。大半がコンクリートで固められながらも、僅かな植物と照明が彩るその場所で、私はウイングやズシを隣に置いて、ちょっと微笑む。なんだか小さい子を見送るような気分だ。

 

世のお母さんの気分になっている。だがそれは少し違うだろう。子供の幸せを願う親と言うには、私はかなり血なまぐさすぎる。だからどちらかと言うと、子分が独り立ちするのを見送る頭くらいの気分か。

 

「リリコ!」

 

目の前でゴンが私を呼ぶ。

 

とても真剣な顔をしていた。

 

「オレ、ヒソカに負けて正直すごく悔しい。殺されるかもって怯んじゃったのも、負けた気がしてる。でも! ありがとね! ウイングさんも!」

 

ゴンが真摯に気持ちを伝えてくる。その瞳が、本心から言っているのだと告げていた。見たことがない人種だ。

 

ここまでまっすぐだと、逆にすごい心配になる。でも私はそれを素直に受け取る。次にゴンはウイングの方に向き直って感謝を伝えると、手を振って去っていく。それを私は見送った。なんだかちょっと汗が垂れた気がする。まあ気のせいだけど。

 

「今日は暑かったですね」

「?ッス」

 

ゴンに連れられていくキルアは、結局軽く挨拶を交わす程度で別れた。風情がないやつだ。しかしそういう奴だとは理解しているので、特に気にしない。

 

ただ気取ったやつは嫌いだ。嫌いったら嫌いだ。今もこっちを振り返りもせずに後ろ手だけ上げて、ムカつく。

 

まあ良いだろう。私は200階の名誉の先、フロアマスターに手をかけるヒソカを引きずり落とすという使命がある。

 

「おや、お顔が濡れてますね。ハンカチいります?」

「いる。いるぞー」

 

遠くで待機していたアニンが近づいてきて、ハンカチを手渡してくる。私は天空闘技場でヒソカを狩るついでに、ヒソカからフロアマスター挑戦権を奪取して大儲けするつもりだ。

 

と言っても、9月1日以降のサザンピースオークションまでに10勝してフロアマスターになれなければ、もう天空闘技場にいる気もないのだが。昔はここにも確かに興味はあったものだが、正直ゴン達を育てる方が楽しかった。まー天空闘技場はデザートみたいなもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局フロアマスターにはなれなかった。9月までのおよそ3ヶ月。戦闘準備期間の90日分でも、新参者という事も手伝って4回までは容易に戦闘を吹っかけられはした。

 

だがそれ以上となると、闘士が何十、何百人いると言えども、積極的に挑戦を受けてくれる相手はいなくなり、最後は戦闘準備期間が切れそうな選手と戦って5勝をあげて終わった。ちなみにヒソカには結局逃げられた。

 

だがアニンはその間にフロアマスターになったようだ。ちょうど暇だったので入れ替え戦を見たが、なかなか見応えのある戦いだった。

 

相手は操作系能力者。過去の対戦を見るに、愛用の糸しか使えない代わりに、その糸で一時的にでも相手を拘束したら、ほんの一瞬だけ相手の体感時間をおよそ0.9倍程度に落とす能力の使い手。

 

これがまた厄介で、愛用の糸はそんな固くない代わりに素早く、拘束も確実に行えた。そのためアニンは慣れるまで一方的に殴られ続け、しかしそれで決着はつかず、結局「殴られ続けても折れないか」の忍耐力の差でアニンが勝利した。

 

ハンカチを渡されてからなんだか距離が縮まった気がするので、これには思わず私もハイタッチだ。

 

天空闘技場は年間うん千万だか億だかの客が来るので、フロアマスターともなれば舞い込んでくる案件で大儲けだろう。私の全財産などすぐに越されるかもしれない。

 

 

 

 

 

アニンも私も天空闘技場には用が無くなったので、適当に近くの顧客優先な静かなカフェで、暇を潰す。

 

「あ〜疲れました。甘いものが欲しいよー」

「んー、アニンはこの後なにか予定あるのか? 私はヨークシンのサザンピースオークションを覗き見に行くつもりだけど」

「私も行きます行くんですよ。G.I.を買いたいんです。今バッテラが執着してるっぽいですから無理でしょうけど」

 

誰も見ていないからか、液体のように体を沈めるアニン。バッテラと言うと大富豪バッテラか。なんでもグリードアイランドのゲームクリア後のセーブデータに500億、ゲーム機本体に170億かけてるとの事だが。

 

まあそれだけの価値はあるのだろう。何せゲーム機本体の価格は定価で58億。100本限定販売。念能力者専用ゲーム。

 

おそらくそれほどとなると念によって作られているのはほぼ間違いなく、バッテラ程の富豪がそこまでの懸賞をかけるとなると、クリア報酬は「ある程度の願い」を叶えられるものと見ていい。

 

発売されたのが結構前なので、念能力者でもすぐに攻略できるものでは無いはず。100本は即完売した訳だし。さらに若い頃とはいえ、あのジン=フリークスがゲームの制作に関わったのも大きい。

 

ジン=フリークスと言えば、まさにプロハンターの中で現在も「実在の人物として」歴史に名前を残している者の一人だ。めっちゃ嫌われてるっぽいんだけどなー。偉人なのに。ソクラテスか?

 

カフェで休息を取りつつ、足元に回復魔術を展開してアニンの傷を癒す。

 

腑抜けた声が聞こえてきた。

 

いくら操作系で、闘技場の頂点になって鍛錬を怠っていた相手とはいえ、そりゃあボコスカ殴られ続ければ痛くもなるだろう。

 

甘いものを取りつつ、ちょっとずつ体を回復させていくアニン。こういう簡単に出来る回復魔術だと痛みの緩和が主な効果なのだが、意味はあったらしい。

 

アニンが羽を広げて背筋を伸ばす。それを見ながら、私は9月前くらいにヨークシンシティへ到着する飛行船のチャーターを電話越しに行った。大陸を跨ぐので、空の旅はそこそこ長くなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行船から這い出て、少しの浮遊感を感じながら地面に降り立つ。雲と海ばかりしか見えない空の旅も、ようやく終わった。ここはヨークシンシティ。世界最大のオークション会場がある場所だ。

 

そこには複数本のG.I.が出品されるという。果たして国際的な富豪バッテラに競り勝てるのかは疑問だが、一応マフィアが使ってるマネーロンダリングルートで盗みの時の金を洗浄しているので、私の資産と合わせて50億くらいは加算できる。

 

それでもアニンの財産と合わせて100億程度。到底足りないな。G.I.は念能力者専用ゲームだし、バッテラはG.I.を複数本狙う気だろうから、いっそ雇ってもらうかなー。

 

「とりあえず競売目録で1200万ですね。リリコは欲しい物ありますか? どうせG.I.は取れないのでお金出しますよ?」

「私はお祭り気分を味わいたかっただけだから特にねーかなー」

「私は気になった物があれば買うことにします。化石とかいいですね。私、化石を見ると太古のデカさを感じられるから好きなんですよ」

 

世界最大のオークション前という事もあって、その空気を味わおうと各地から集まった人の雑踏の中を歩く。隣のアニンは、羽を消せるのかワルキューレじゃなくなって普通の装いをしていた。それでも端正な顔立ちは変わらないのだが。

 

あるいは小規模のオークションに参加するのも良いかもしれない。

 

100億あれば、あるいはG.I.も落札できるから大したお金は使えないが、それでも珍品・奇品というのはどこかにある。掘り出し物っていうのもなかなか乙なものだ。

 

とりあえずメインのサザンピースオークションの競売目録を受け取りに、街の中央に位置するオークションハウスへと向かう。あとはボチボチ辺りのオークションを練り歩き、それでヨークシン一日目は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

私の顧客に、完全に掌握した小物マフィアがいるのだが、そいつの情報によるとヨークシンの裏の方の地下競売が襲われたらしい。判明した限りだと、襲ってきたのはほぼ間違いなく幻影旅団で確定のようだ。

 

何やってんだクロロ。別に私はマチ以外の団員とは顔合わせと、そこから少し行動を共にしただけで、深い情もないからいいんだけど、これでマチが死んだら割と悲しい。最初こそコスト的に仲間にした方がいいんじゃね程度の態度だったが、なんだかんだ面倒を見てくれたから。

 

正直姉みたいに思ってる。なのにクロロはなー。でもどうやって止めたら良いかも分かんないし。増してや正面からなんて無理も無理。幻影旅団相手に戦えるのは、最大でも戦闘員+非戦闘員までだ。足でまといがいてようやく戦いが成り立つレベル。

 

要するに、勃起不全になってないヒソカを一人相手にするようなもの。相性次第では勝てるが、確実じゃない。そんな賭けをするほど旅団に情はない。

 

一応マチにはあるけどマチも旅団だから、マチだけ助ける訳にもいかない。そこは分かってる。なかなか詰んだ状況だ。

 

「幻影旅団って……怖いですね」

「……まーなー」

 

一応そこそこ事情を省きながらも、ホテルの同室に泊まっているアニンに幻影旅団がどこどこを襲ったの情報くらいは知らせておく。その報告が怖かったのか、アニンは布団の中に潜って消えた。困ったものだ。これでは純粋にオークションを楽しめない。

 

クロロは大人しく仲良しサークルをしてれば良かったのに。まあなんか事情はあるんだろうけどな。

 

備え付けのベッドにぼすんと座りながらどうしようか考える。旅団、オークション。どちらを取るにしても、待っているのは実力不足。

 

まあお金の方は、もっと本気で世界に名が知れ渡るくらい技術を研ぎ澄ませればいいだけなので、そっちはいいのだが。問題は旅団。

 

すごい悩む。結構頭を悩ませた。そうしていると、隣でアニンが起き上がった。布団が宙に舞う。羽を生やしたアニンが、突然凛々しく立ち上がり宣言した。

 

「強者の魂。私の出番ですね。送ります」

「おわ? どうしたんだ突然」

「強者の魂が肉体から離れたんですよ! いいから行きますよ!」

「うぇっ」

 

有無を言わせず、顔を固く変化させたアニンに手を取られる。翼が羽ばたき、推力が生まれる。そしてそのまま、ホテルの窓に突っ込んだ。硝子が目の前に広がる。このままではぶつかる。

 

予測ではなく事実だった。

 

だが、天空闘技場の広告の時のような鐘の音が鳴ると、一瞬金糸が周囲を支配し、光景が切り替わった。透明な硝子を超えて、黄金の景色を超えて、目の前にヨークシンの夜が現れる。

 

そしてそんな景色も、羽ばたきの音が聞こえると一瞬で後ろに過ぎ去った。

 

辺りの色が黒一色に染まる。

 

粉っぽい風が渦巻いた。アニンに腕を掴まれながら下を見る。そこには荒野があった。

 

誰もいなさそうなところだ。

 

だがアニンは迷いなく視線を動かすと、その地点に向かって急降下した。

 

風を切り、落ちていく。まるで一条の矢のように落下する。そして地面が近づいた段階で空気を叩き、翼の羽ばたきで優しく着地した。

 

舞い降りたアニンの前には、不自然な盛り土。それを見て、アニンは何かを持つような動作をすると、天に向かって祈りだした。

 

ここで私は若干違和感を持つ。具体的に何とは言えないが、アニンが祈りの後天から授かったそれに見覚えがあった。疑問をそのままにしておくのもアレだったので、不自然なその盛り土を、私は魔術で吹っ飛ばしす。

 

「あ、え、ウボーが死んでるー!? アニンちょっと待て!」

 

見たところ大した外傷はないが、大男がそこには埋められていた。そしてそれは、勘違いでなければあのウボー。一体どうやって殺されたのかは分からないが、とにかくウボーが死んでいた。

 

ついでに、アニンが手に取ったそれが何なのかをおおよそ察する。おそらくウボーの魂。ワルキューレだから反応したのだろう。これはどうなるか。団員が一人死んだくらいでは、クロロが退くことはないだろうが。

 




ウボォーが死んだ!この人でなし!
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