胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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時間外更新ですがもう一気に進めることにしました。なんにせよ毎日一話ちょっとずつは面倒くさいという事です。


第2話

あっちがいい、こっちがいい。そんな調子で彷徨うこと数ヶ月。停滞感の一因である実力の頭打ちを解消すべく、私は念具制作の傍ら、以前から気になっていたハンター業に手を出してみることにした。

 

もっとも、本格的に踏み込むつもりはない。魔術は念能力者に効きづらいという特性があり、ハンターとしてやっていくなら念能力者としての地力が不可欠だ。加えて、相手に干渉しない類の魔術——身体強化などは汎用性と引き換えに効果が薄い。

 

業界から漏れ聞こえてくる情報を鑑みても、本腰を入れるには賭けが過ぎる。だから今は確実にこなせる仕事をしつつ、空いた時間は地元マフィアへの義理立てとして、魔術的な効果を持たせていない装飾品を路上で売っていた。

 

「まいどー」

 

私の装飾品作りの腕は、純粋な技量では専門職に遠く及ばない。だが魔術的な加工術を加味すれば、ある程度は張り合える。路上販売なら暇潰し程度には売れる。安価な素材を安価で売っているというのもあるが。

 

「へえ、これかなりいいね」

 

道端に敷いた風呂敷の上、並べた装飾品を眺めながら、乙女ゲームに出てきそうなイケメンが一つの品で指を止めた。

 

「お客さん、それ気に入ったか? まあ見ての通り安物だけど」

「安物だからこそ良いものもある。そう卑下するものじゃないよ。少なくともオレは気に入った」

「ありがとな。じゃあ買うのか?」

「いや、それより別のものを見せてもらいたいかな。具体的には、これに関係したものを。なにしろオレは収集が趣味でね」

 

品物を指していたイケメンの指先が宙を向き、不可思議な靄を纏い始める。見間違いでなければオーラ。念能力の源だ。気づかなかった。どうやらこのイケメン、念能力者らしい。

 

通常、念能力者はオーラを纏っているもので、纏わないことはできても一般人と同じ雰囲気を醸すのは難しい。それをここまで完璧に隠していたとは。

 

「あー、悪いけどお客さん、そういうのは私の取引先を調べてそっちでやってくれ。ここは単なる趣味でやってるんだよ」

「そう? 悪いね、じゃあ名前を教えてもらえるかな。調べるにも多少の情報は必要だから」

「つってもお客さん、もう知ってんじゃねえの? なんで私に接触してきたのか知らんけど」

「……うーん、それは残念。街中じゃなければ、もう少し面白い会話ができそうなんだけど」

 

意味深な言葉を残し、イケメンが背を向けて去っていく。明らかに私より数段上の実力者だ。念能力者というのは恐ろしい。あのイケメンには勝てる気がしない。

 

だから私は、どこから監視されているとも知れないので、なるべく早く風呂敷を畳んでその場を離れた。そのまま路地裏へ向かい、足元に術式を描き始める。

 

古ケルトのルーンに似た形式で。安定、帰還、祈祷、繋がり。分かりやすく言えば、繋がりを辿って安定的に帰還したいという意図を込めた術だ。最近各地を回る中で編み出したもので、描くのに時間はかかるが、一度完成すれば何度でも使える。

 

ただ、転移を含む高等魔術はこうした準備なしには発動できない。それが弱点と言える。

 

転移陣が完成した。術式が満ちたことで、裏路地に淡い輝きが滲み出す。それを確認しながら、汚れた地面に手をつき、術式を叩いた。

 

術式が反応する。精神力に呼応して輝きは増し、回転しながら眩い閃光を放つ。一瞬にして路地裏が光に満たされた。私は目を庇う。それでも輝きは強まり続け、やがて視界の全てを覆い尽くすと、世界が白く眩んだ。

 

 

 

 

 

 

数日後。私は森の中にいた。

 

理由は二つ。街中にいるとあのイケメンに捕捉されかねないこと。そして純粋に実力不足を痛感したことだ。

 

正直、これまでの私は認識が甘かった。念能力者と実際に相対した経験がほとんどなかったせいかもしれない。念能力の知識はあったが、まさかあれほど練り上げられるとは思っていなかった。

 

無論、明らかなチートである私の魔術と比べれば一段劣る。だが純粋な力量で言えば、私とあのイケメンでは比較にならない差がある。

 

認識を改める必要がある。若いイケメンですらあのレベルなのだ。超一流ともなれば化け物だろう。魔術は万能な分、負けることはないと思っていたが……あれほどのオーラを前にすれば、対呪詛用の魔術防壁すら破られかねない。

 

故に今、私は拳を振るっている。万が一の際には念能力より魔術の方が頼りになるが、それでも鍛錬は必要だ。拳には多量のオーラを乗せ、とにかく全力で振るう。もちろん流も怠らない。

 

ひたすらな戦闘形態〈堅〉の維持と、攻防力移動〈流〉。

 

やることは単純だ。オーラを纏い、練り、凝る。それだけ。だが、それだけが難しい。今やっているだけでも基本技二つ、応用技三つのマルチタスク。特に私は元々オーラなど知らなかった人間だ。その分、難易度も一入である。

 

それでも集中してオーラを操り、突き出した右拳が周囲の葉を揺らす前に、そこへオーラを集中させる。そして、打つ。

 

一連の動作を終えれば、即座に逆足で地面を蹴り上げ、落ちてくる葉を足で狩る。もちろん先ほど右拳に込めたのと同量のオーラを乗せて。

 

轟音が響いた。スラムに辿り着くまでの五年。スラムで過ごした数年。その間に成長した身体が、オーラに支えられて凄まじい破壊力を生む。

 

「ふう」

 

今の年齢はおよそ十一から十二歳。誕生日が分からないから正確には言えないが、記憶している日数からすればそんなところだろう。念を覚えてからおよそ五年。身に纏うオーラは、あのイケメンを百として二十あるかどうか。

 

才能としては悪くないと思うが——と、その時。不意に木陰の方から拍手の音が聞こえた。明らかに人為的な音だ。

 

「やるな。その歳で大した練だ。たまにいる天才というやつだな」

「驚いた。団長の言う通りだ。強いね、このガキ」

 

男と女の二人組。片方はイメチェンでもしたのか、先日見たイケメン。もう片方は見覚えのない美少女。どちらも念使い。そして圧倒的な格上。

 

こうして見ると、スラム街がいかに小さな世界だったか思い知らされる。だからこそ外に出て良かったとも言えるし、出てこなければ良かったとも言える。

 

「何の用だよ、面倒くせえなあ」

 

どうやって追跡してきたのかは分からないが、ここまで執着されると困る。見たところ、ただ念具が欲しいだけでもなさそうだし。

 

「そう言うな。少し話そう。危害は加えない」

「そういうこと。どうせあんた、転移で逃げられるんでしょ?」

 

それは暗に、逃げられるものなら逃げてみろ、あるいは逃げられないだろうと言っているようなものだ。そして実際その通りだから始末が悪い。どうしようもない。

 

逃げようのなさに観念し、私はその辺の大きな石を三つ拾い、三人が対面できるよう配置した。向こうも意図を察し、私たちは座って向き合う。

 

最初に口を開いたのはイケメンで、名はクロロというらしい。美少女の方はマチ。彼らがどうやって私の居場所を突き止めたかといえば、クロロ曰く念能力を使ったそうだ。これほど広範囲の探知ができるのは相当な念能力者だけだと思うのだが。

 

クロロの説明によると、時間制限を設けるとか、危害を加えないといった制約を課すことで、ある程度詳細な探知が可能になるらしい。転移のこともそれで察知したのだとか。

 

言われてみれば納得だが、知識があっても実感がないと今一つ腑に落ちない。具体的な能力の実例を知らないのも良くない。だが制約と誓約の威力を知れたのは収穫だ。何しろ私の知識は念の技術面に偏っていたから。

 

「さて、種明かしはこれで十分だろう。次はお前の能力を見せてくれ、リリコ。もちろん嫌とは——」

「言えねえだろ。卑怯だよなあ。面倒くせえ。私の能力は『魔術っぽいことなら何でもできる』。例えばこんな感じで火を出したりとか。以上」

 

対面に座るクロロとマチに見せるよう指先を差し出し、ライター程度の火を灯す。我ながらかなり無法な能力だ。

 

「なるほど。では制約と誓約は? 例えば大魔術には儀式が必要とか。転移の後ここに来たのは休養のためと推察できるが……そうなると念具もそれによるものか」

「あー、まあ結構近いかもな」

「そうか。ではこの本の手形に手を置いてくれ」

 

考察を続けるクロロの言葉に合わせて指先の炎を消すと、今度はクロロが一冊の本を差し出してきた。怪しい。能力の詳細を聞いてきたことといい、嫌な予感がする。念能力で念能力を盗むというのがどれほどの難度なのかは知らないが、それを仕掛けられている気がする。

 

ふとクロロと目が合った。視線が本とクロロの間を行き来する。断るか、受け入れるか。どちらも良い結果には繋がらない。だがこの膠着が長く続くわけもなく——。

 

「ちょっと待って団長。やっぱりこいつ、仲間にしない? あたしたちに念具なんて必要ないけど、魔術はこいつじゃないと扱えない気がする」

「……それは勘か?」

「いや、ちゃんと考えてのこと。そもそも転移系って結構貴重だし、団長の予想が確かなら、盗んで使うたびに団長が消耗する。それは避けたい」

「理に適っているな。どうだ、仲間になるのは?」

 

マチに向けていたクロロの視線がこちらに向く。まずどんな組織なのか聞かないと判断できないが、おおよそろくでもない集団なのは想像がつく。となると、ここは——。

 

「おー、じゃあ体験入部扱いでよろしくなー! 気に食わなかったら抜ける! よろしくー!」

「なかなかやる気だな」

「あたしは体良く話を逸らしてるだけだと思うけどね」

 

とにかく勢いで押す。いよいよ駄目なら逃げに賭けるが、それまではある程度応じておく。もちろん今逃げた方が楽だろうが、こういう時のために用意した札はほぼ一度きりのもの。できれば温存したい。

 

「それじゃあオレたちのアジトに案内しよう。着いてこい」

「あーい」

「言っとくけどあんた、変なことしたら首切るから」

「……あい」

 

恐ろしいことで。

 

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