胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第22話

結果的に《奈落の底で待つ(メイドインアビス)》で大儲けだ。それに、ツェズゲラ達にはああ言ったものの、私とバッテラが共謀しているというのもあながち間違いではない。そもそもクリア報酬は別途あると言うが、誰がG.I.のクリア報酬を放棄すると言った? 誰も言っていない。

 

そしてクリア報酬とは、G.I.のカード三枚を現実に持ち帰れる権利。最高で大天使の息吹レベルが三枚! 最高だ。

 

……バッテラは言った。

 

私にクリア報酬の権利を委譲しても構わない、と。それはつまり、そういうことだ。誰がクリアしようと、ツェズゲラだろうとニッケスだろうと、バッテラと契約している限り、契約は守らなければならない。

 

でないと社会的信用が失われるからだ。つまりこの一連の出来事は私の一人勝ち!

 

バッテラからはすでに治療のお金を受け取ったし、バッテラ自身は魔女の若返り薬で恋人と駆け落ちするから、財産もわずかあればいいらしい。まあ財産は正直いらないのだけれど。

 

ともかくこれで私の完全勝利だ。できればゲームを純粋に楽しみたかったが、クリア報酬を確実に二枠取れる契約に加えて、ゲームも余裕を持って楽しめる状況とあっては、どうしても後者が勝ってしまった。

 

ヒソカのあほ面を拝めたとき並みに嬉しい。

 

思わず下手なダンスまで踊ってしまった。

 

 

 

今は仕事を終えて、アニンとの待ち合わせ場所に着いたところだ。近くで噴水が穏やかな水音を奏でている。

 

「嬉しそうですね。まあ当然ですか」

「まあなー。アニンは私がいない間、何してた?」

「少々情報収集とカード集めを。面白いですよ、このゲーム。例えばこのゲーム固有のトレードショップでは、様々な情報が………」

 

アニンが実例を交えながら、このゲームの魅力を熱弁してくる。どうやらそのトレードショップという店で得られる情報だけでも、世界観に魅了されるほど濃密な体験だったようだ。例えば今、目の前でアニンがブックから取り出した指定ポケットカード。

 

「No.11のBランク、黄金天秤。これを取るのは結構苦労しました。リリコがいない数日間、かなり格闘しましたよ。念の奥深さを象徴するかのように、戦闘能力だけでは手に入らない仕組みになっていましたね」

「おお、なんかすごそうだ。私は取引相手から聖騎士の首飾りを貰ったぞ。Dランクだな」

「Dランクですか。そんなのスペルカードの『堕落(コラプション)』で楽に手に入りますよ。これもトレードショップで買った情報です……ところで☆りりこ☆ってなんです?」

 

ブックを出したままのアニンが、私の設定した名前に突っ込んでくる。どうやって確認したのかはわからないが、アニンの手元を見る限り、そういうゲームの仕様を使ったらしい。

 

ブックを唱えると出てくるバインダーの何かにカードを嵌め込んでいるから、おそらくカードの効果だろう。

 

「ん? まーテキトー。それよりスペルカードってなんだ? ツェズゲラとかも透かしがどうとか言ってたけど」

「ああっと、それはわかりませんけど、スペルカードで色々できるらしいですよ。魔法みたいなものです」

「そっかー。でもスペルカードにもカード化限度枚数あるよなぁ」

「ありますね。私もスペルカードが売っている魔法都市マサドラに行きましたが、手に入れられたのはCランクが最大でした。例えばさっきの『堕落(コラプション)』とかですね。あれはBランク以上のカードをDランク以下に変えられます」

 

ふとした疑問に、アニンが指を立てて丁寧に教えてくれた。これまた面白いシステムだ。カード化限度枚数をうまく利用している。

 

例えばアイテムが一個しか入手できない仕様だったら『堕落(コラプション)』なんて役に立たないだろうし、逆にアイテムが無数に得られるなら、Dランク以下のカード価値が完全に暴落してしまう。カード化限度枚数がある環境だからこそ意味を持つカードだ。

 

アントキバに設置された椅子に座り、私は感心しながら相槌を打つ。他にもアニンは様々な知識を教えてくれた。私がいない間にずいぶんやり込んでいたようだ。

 

G.I.を入手するためにフロアマスターとして仕事をいくつか引き受けていた割には、自由そのものだ。資産も消費していないから、受けた仕事を終えたらもうやる気がなくなったらしい。

 

私は顧客を抱えているのでそうもいかない。羨ましい限りだ。どうやら資金稼ぎにと始めた魔術道具売りが裏目に出たらしい。まあそれはそれで楽しくやらせてもらっているからいいのだが。

 

そうしてゲームを続ける中で、アニンはリナウジに会ったようだ。会った感想は「いい子でしたよ。弟にしたいくらい」らしい。基準がよくわからないのでなんとも言えないが、たぶんいい評価なのだろう。

 

リナウジが今いる場所も知っているらしい。彼は私達より一か月ほど前から始めたため、かなり攻略が進んでいるとのこと。アニンに会うか聞かれたので、せっかくだから久しぶりにリナウジに会うことにした。ビスケという少女に会うのも楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

リナウジは普通にアントキバにいた。探すまでもなく、噴水前の広場から離れようと立ち上がったら、もうそこにいた。少女を連れて歩いているのも特徴そのままだった。すぐ近くの路地から出てきて、赤い背中をこちらに向けているリナウジに声をかける。

 

「ったく、奇運アレキサンドライトを独占しようとかき集めてみれば、結局取得条件が特殊すぎて、持ってるのはしょぼくれたやる気のないやつらばっか。その中から探して交渉するのも楽じゃないわさー」

 

えらくやさぐれた少女が、赤い背中の隣でぼやく。その声にかき消されて呼びかけが届かなかった。今度は名前を呼び、もう少し大きな声を出す。すると二人とも振り返り、こちらを見た。

 

「あんた呼ばれてるわよ。知り合い?」

「ああ、友達だ。ハンター試験で知り合った」

 

覚えていてくれたらしい。リナウジがそっと手を上げて応えてくれた。隣のビスケと思しき少女は、歳に似つかわしくない不躾な視線でこちらを品定めしてくる。

 

「ほー、ただの使い手じゃなさそうだわね。いいだろう。行ってきなリナウジ!」

「何を言ってるんだ? ビスケもついてくるだろう?」

「あんたったら、まあそうだけど、様式美ってもんがあるでしょーが! ここは私の威厳を見せるところなんだよ!」

「そうなのか。ごめん」

 

しょんぼりと赤い巨体を縮こまらせて、リナウジがビスケを連れてこちらへ向かってくる。根っこは相変わらずなようだ。私達の前まで来たリナウジが、ビスケを前に出す。

 

「この人はビスケ。色々癖があるけど、おれの友達だ。できればリリコも仲良くしてくれると嬉しい」

「ビスケット=クルーガー。ストーンハンターの二ツ星(ダブル)! あんた達よりもよっぽど先輩だけど、リナウジの友達だし、特別にビスケって呼ぶことを許可してやるわさ!」

 

なんと、間違いでなければ、あのハンター界隈名物みんなのお母さんことビスケット=クルーガーか。詳しく知っているわけではないが、聞いたことがある。たまたま知り合ったハンターの顧客が言っていた。確か御歳は今年で優に……。

 

「うぬ、確か五十はいってた気が……」

「ふむ。よっぽど先輩……ですか。やーいやーい」

 

今更年齢を気にするものでもないが、挨拶代わりに煽りを飛ばすアニン。我々転生者の間ではもはや挨拶のようなものだ。さすがに五十は盛りすぎだが、私も幾分か煽られる立場だ。

 

だが単なる冗談を、許せない者がいた。みんなのお母さんビスケである。彼女は肩を震わせると、オーラを荒ぶらせた。

 

「えっ、そんな怒ります?」

「怒るに決まってるわさこのバカチンどもが! 乙女なめんなーッ!」

「ぐわだぱッ!?」

 

ビスケの鉄拳制裁にアニンが哀れな声を上げて吹っ飛んだ。だがすぐに空中で体勢を立て直し、笑みを浮かべる。しかしその体はビスケのオーラに当てられて震えていた。舐められないよう態度を取り繕うのは結構だが、相手は選んだほうがいいな。うん。

 

「んぬぬぬ! コノヤロー!! 降りてくるわさ、無駄に可愛い顔しやがって! あんたもこの歳になってみればわかるわさ!」

「まあビスケ、落ち着こう。こんなものだ。それにおれ達、最近やっとアレキサンドライトを複製する分の『複製(クローン)』を揃えられたじゃないか。そんな怒ってると幸せが逃げるぞ」

 

リナウジに抑え込まれるビスケ。それでも怒りが収まらないらしくガルガル牙を剥いていたが、リナウジの穏やかな言葉に力を抜いて息を吐いた。表情が落ち着きを取り戻す。リナウジに抱え込まれて格好はつかなかったが、そこはさすがの年季で、リナウジの腕を軽く叩いて合図し、降ろしてもらって仕切り直した。

 

「そんじゃ改めて自己紹介するわさ。アニンも別に取って食いやしないから降りてきな」

「ほんとですか? 信じますよ」

「ああ、信じな。そんじゃ改めて……ビスケット=クルーガー57歳。念と武術には一日の長あり! このふたつについては、疑問に思うことがあったらなんでも聞くわさ! 石談義も受け付けてるわよ。まあ、話についてこられるならだけどね」

 

自信に満ちた言葉で自らを示すビスケ。特に初対面の私を意識するように自己紹介してくれて、その懐の深さが伝わってきた。私もそんなビスケに応え、固く握手を交わす。とても頼りになりそうな女性だった。

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