胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第23話

夜の闇の中で火を囲む。川岸の薄ら寒い空気に、陽炎が暖かな風を生み出していた。念能力者といえども結局は人間だ。代謝が違うリナウジは別として、人間にとっての適温が一番心地いいのは間違いない。

 

それでもわざわざ冷たい空気が流れる川岸にいるのは、日が暮れる前までそこで魚を獲っていたからだ。今でこそ月光を反射している水面も、ついさっきまでは陽を浴びていた。そろそろ冬ということだろうか。

 

「スペルカードはニッケスらのグループ、通称ニッケス組がほとんどを所有してる。やつらは攻撃系のスペルで囲んで叩くタイプだ。でもだからこそ、私達からすれば怖くない。やつらは烏合の衆。しかし数が多いってのは、カード化限度枚数があるこのゲームじゃ反則級だわね」

 

ビスケの言う通り、クリア報酬という争いの種がありながら「組むしかない」側に回っている連中は、そこまで怖くない。本来、協調性があるのは悪くないが、報酬が限られている中でそうするしかないというのは、「自分一人じゃ貰えない」と言っているようなものだ。

 

加えて攻撃系スペルが、基本的にカードに関する効果しか与えられないのも大きい。所詮スペルカードでハメるといってもそれだけしかできないから、スペル攻撃がスペルカードでしか防げないにしても、対応するスペルさえあれば凌げる。またスペルカードの効果範囲外に逃げれば攻撃は掻い潜れるので、そういう意味では単純な数も決定打にはならない。

 

それでもやはり問題なのは人数だ。あまりにも人が多すぎて、入手が難しい指定ポケットはともかく、入手が容易な指定ポケットは独占こそされていないものの、ほぼ食い荒らされている。

 

つまり、カード化限度枚数というシステムの限界だ。これには私達も頭を悩ませるしかない。そばで焼き魚を食べているアニンとリナウジも困り顔だ。もちろん、どう考えても運営側が対処しておくべき問題なのだが、そういう仕様で初めから作られている以上、文句も言えない。

 

それでも何とかしようとするなら、もう力でどうにかするしかない。幸い向こうは烏合の衆だ。

 

仮に一流が一人や二人紛れていようと、暗黒大陸原産疑惑があるほどの潜在能力を持つ私達と、経験豊富なビスケが連携すれば、潰すだけならわけはない。だがそんな真似をするくらいなら、いっそプレイヤーを一掃したほうがまだ筋は通っている。私達はそういうことをしたくてゲームをしているわけじゃない。

 

「まあカード化限度枚数問題は後回しでいいでしょう。食い荒らされているといっても、まだゲームは成り立つ程度です。それよりも、アレキサンドライトの独占を優先するべきです。まだ集まっていないんでしょう?」

「そうだわねー。こう、しょぼくれたやつが名乗り出てくれればいいんだけど、そういうやつほど注目されるのを嫌うだろうからね」

「うん。おれ達が『複製(クローン)』集めてるのは、どうしたって知られてるから。難しいな。仕方ないが」

 

どん詰まりの空気に、この場にいる全員が渋い顔をする。ニッケス組はあくまでハメ技がしたいだけで、他プレイヤーを追い詰めすぎたら自分達がジリ貧になるのは明白だから、高位の攻撃系・防御系以外はそこそこ入手しやすい。

 

それでも『複製(クローン)』を集めるには、マサドラに引きこもっているプレイヤーとの取引が必要だった。だからビスケ組はプレイヤー間でちょっとした噂になっていて、若干目立っている。このほとぼりが冷めるまでは、アレキサンドライトを持つプレイヤーとの交渉は難しいだろう。

 

「じゃあ、とりあえず指定ポケットカードを集めるとして、トレードショップで情報を買えるAランク以下を集める組と、Sランク以上を集める放浪組に分けるのがいいんじゃねーか?」

「うむ、それが理想的だわね。そしてパワーバランスを考えると、私とリナウジが念の実力では頭抜けてる。だから編成は……私とリリコ、アニンとリナウジ!」

 

私とビスケが放浪組。リナウジとアニンが定住組。パワーバランスはかなりちょうどいい感じだろう。ざっくり言えば、バランス型の放浪組に、特殊パワー型の定住組。

 

数時間前の魚獲りである程度お互いを知れたし、仲は行動しながら深めていけばいい。収集中に連絡を取ることもあるだろうから、なかなか理想的な編成だった。人格的にも相性は悪くない。というか、相手がヒソカでもない限り、基本トラブルにはならないので問題ないだろう。

 

編成が決まったあとも、私達はゲームのことから現実のことまで、夜が更けすぎない程度に話し合った。聞くところによると、リナウジは元いた部族が興した会社の副社長らしい。

 

彼ら部族にとってリナウジはまさに象徴のようなもので、いるだけで部族を宣伝してくれる歩く広告塔だから、旅に不自由しないよう収入源として世話になっているそうだ。

 

その強さも頼りにされているのだろう。リナウジは不労所得を得ているようだった。まあそれは申し訳ないからと、貰ったお金には手をつけず、日雇いの仕事で旅費を稼ぎながら旅していたらしいが。

 

うーん、家族愛。今世の私の母親にも見習わせたい。まあ、いい人だったらそれはそれで赤の他人だから、苦労していたんだろうけども。

 

 

 

 

 

 

夜も明けた空の下、私達放浪組は近くにあったという理由でマサドラに寄り、準備を済ませていた。主に用意したのは生活用品で、あとは万が一のときの資金。それで準備は整ったのだが、ビスケの一声もあって、スペルカードを買いにカードショップへ向かうことになった。

 

道を歩き、店の前で並び、扉を潜って店員に声をかける。ゲームらしい定型の受け答えを聞きながら、1パック3枚入り10000Jのスペルカードパックを買った。

 

このゲームでは10000J札がゲーム内通貨の最大だ。そしてそれはカード化していないと使えない。つまり、私達は持ち金最大まで20パック、計60枚を買い、それを開封することにした。

 

今のフリーポケットの空き個数からすると少しはみ出すが、店内から出なければカードは消滅しない。時間はかかるが、ここから厳選開始だ。最終的には30枚ほどに絞る算段である。

 

パックの開封はそうして始まった。というか、こうでもしないとレアカードは得られないので、ある意味常套手段だ。

 

そのうえでスペルカードは「常用してなんぼ」の類だから、ここに関してはニッケス組みたいな集団が独占を狙っても、攻撃系を除けば枯渇することはそうそうない。

 

「ちょ、ちょっと見なさいこれ! リリコ! これ! これ!」

 

隣で一緒にパックを開けていたビスケが、急に慌て始めた。私は無心で床に座ってパック開封に集中していたので、その声で強制的に現実に引き戻される。なんだか鬱陶しい。

 

それでも一応先輩なので、慌てながら指差しているカードを覗き込む。なるほど、慌てる理由もわかった。

 

「んぉ、『堅牢(プリズン)』じゃねーか。すげーなー」

「ど、どうしようどうしよう。今すぐ使う? う、うん、絶対それがいいわさ! えーと………どこに使うのがいいのかしら?」

 

自分で「それがいい」と言っておきながら、まるで使用法を考えていなかったビスケ。可愛いところを見つけた。おばあちゃんみたいだ。そりゃあまだ指定ポケットも全然埋まっていないんだから、使うも何もない。

 

「現状、攻撃呪文握ってるハメ組が烏合の衆だし、別に自分達で使う必要なくねーか? 例えば取引に回すとかさー」

「あ! それだわさ! あんたいいこと言うだわね。特別に弟子にしてやってもいいわよ」

「おお、それは本気でありがたい。検討しておいてくれよー」

「……そこまで言うなら、考えなくもないわさ」

 

本当は冗談なんだけど、とでも言いたげな顔をしている。だが検討してくれるなら越したことはない。ビスケは単純な体術だと、私なんかとは比べ物にならないだろうから。

 

パック開封の結果は、Sランクの『堅牢(プリズン)』一枚ほか、という感じで終わった。Aランクのスペルカードも複数手に入ったので、これからのプレイの戦略性は格段に上がるだろう。特に、数百キロは離れている各街に一瞬で飛べる移動スペルの入手は大きい。

 

あとは『堅牢(プリズン)』の使い道だ。万が一に備えて自分達で持っておくのもいいし、取引に使うのもありだ。上位勢はみんなハメ組が嫌いだろうから、ある程度欲しがるはずだし。

 

 

 

 

 

 

「ほんと? いいの? なんかの罠じゃないだろうね? じゃ、ありがとー。これは貰っていくわね」

 

アスタ組。集めた指定ポケットは60種を超える。比較的上位の組といっていいだろう。取引相手としては悪くない。場所は、崩れた家屋が目立つ廃墟の村落ち。そこでお互い待ち合わせをして、Sランクカードの交換をまさに今行ったところだ。

 

こちらが『堅牢(プリズン)』、相手がNo.99メイドパンダ。貴重さでいえば相手のほうが上だが、ある程度のプレイヤーになると、単純な防御呪文では防げない特殊効果の攻撃を仕掛けてくるので、対策が欲しいのだろう。

 

「はーい、じゃあなー。いい取引だったぞ」

「あんた達も、せいぜい精進することね。もっといい取引相手になることを願ってるわ。じゃ、『磁力(マグネティックフォース)』オン! アマナ!」

 

アスタがこちらを振り返り、手を振ってきた。私もそれに応じて手を振り返し、その後ろ姿を見送る。

 

少し離れたところで土を踏みしめたアスタは、「ブック」と唱えてバインダーを出し、カードを取り出して効果を発動。空に一条の光が走った。移動系スペルの軌跡だ。隣のビスケは、何か感慨深げに頷いている。

 

「うんうん。なんだか得しちゃったわー。スペルカード、買っておいてよかっただわさ」

 

それには同意だ。少し前にアニンから聞いた話だと、カードショップには根気よく並ばないと、そもそも店に入れないらしい。それを思えば、ちょっと並んで20パック買えたのは運がよかった。

 

また最近は、ニッケス組が本格攻略に動き出しているという情報もあったので、あいつらの手がスペルカードに届く前に確保できたのも大きいだろう。

 




アスタボンバー!(チチでけーな)
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