胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第24話

奇運アレキサンドライトは、今や私達以外に一組が所有しているだけだ。それ以外はビスケの言う通り、しょぼくれたやつらが持っていたので既に回収済み。

 

だから、その最後の一組さえ説得できれば、カード化限度枚数を利用して他プレイヤーに対して有利を取れる……のだが、その最後の一組が問題だった。定期的に確認しているランキング中位〜上位に、ある時期から急に顔を出すようになった連中。

 

「あちゃー、よりにもよってゴン達が持ってるのかー」

 

私達、仮称ビスケ組。放浪組と定住組が、たまにマサドラ近くの森林地帯で開く連絡会。その場で、私達は揃って頭を抱えた。

 

ここではビスケ以外は試験でゴンを知っているので、その厄介さから頭を抱えた。一方ビスケだけはゴンを知らないので、未知の話題に視線をあちらこちらへ泳がせている。

 

「え、あんた達、そのゴンってやつの知り合いなの? じゃあなんでそんな頭抱えてるのよ。そんなにやなやつなの?」

 

疑問を口にするビスケに、私達は首を振る。ゴンはむしろ「いいやつ」だ。というか、いい子だ。だが、意志の力が強すぎる。

 

簡単に言えば、頑固。私はもちろんアニンもそれをよくわかっているし、定期的に私と交流があったリナウジも、ある程度は知っている。その説明を聞いたビスケは、なおさらわからないといった顔になった。

 

「なら頼めばいいじゃない。うまく交渉すれば貰えるんじゃないの?」

「いや、ゴンだけならそうなんだけど、キルアがいるからなー」

「彼は計算高いですからね。独占は許さないでしょう」

 

アニンの言う通りだ。バッテラのプレイヤー採用試験からおよそ三ヶ月。もうゴン達もG.I.には慣れている頃だろう。カードの価値を見誤るとは思えない。

 

ビスケが顎に手を当てて考え込む。

 

その傍らで、私達はそのまま情報交換を続けた。といっても、「この前何があった」とか「指定ポケットをいくつ取った」だとか、その程度だ。

 

ただ、リナウジ達定住組のほうは、もうほとんどAランク以下のカードを集め終わっていた。大半の指定ポケットが、単純なギミック系イベントで、力で押し切れる内容だったらしい。

 

それに属さないものも、Bランク以下は条件さえ満たせばトレードショップで買えるようになると、カードをトレードした相手から聞いて、Bランクは完全制覇したとのことだ。

 

「ふーん、どんな条件だ?」

「ああ、それは同じトレードショップを50回以上利用することだ。おれ達も、ある程度は移動しながらカードを集めてたから、気づかなかった」

「一応『トレードショップの得意客になると何かいいことある』とは示唆されていたんですけどね」

「……あ! そうよ、得意客! 仲良くなればいいだわさ!」

 

アニン達と情報交換を続けていると、突然ビスケがひらめいたように声を上げた。意味がわからない。私達はもうすでにゴン達と仲がいいほうでは? その疑問をぶつけると、ビスケは指を振った。

 

「チッチッチ。あんた達、頭硬いわね。仲良くっていっても、ただ仲良くするんじゃないだわさ。『クリアする前までの共同戦線』! これならそのゴンってやつらとも衝突せず、独占を実質達成できるわさ」

「確かに。理解できるなー。ビスケ、たまには頭いいな」

「そうそう。でも一言余計よ? あんた、あんまり私を舐めてると痛い目見るわよ。大人の力、見せてやろうか?」

「はいはい」

 

ビスケが腕をまくる隣で、リナウジ達も私と同様に理解を示す。言われてみれば、確かにひとつのセオリーだ。リスクがゼロとは言わないが、信用できる相手なら十分有効だろう。

 

「そんじゃ納得しただろうし、早速行くわよ、あんた達!」

 

私達を納得させたビスケが、そのまま当然のように仕切り出す。こういう場面で頼れるのが、この期間でわかったビスケの長所だろう。本人の言うように、経験値が違うのだ。

 

 

 

同行(アカンパニー)」ON!

 

 

 

光の繭に乗って空を飛ぶ。定住組はゴン達と何度か会っていて、そのときアレキサンドライトの有無を聞いたところ、「持っていない」と答えられたらしい。だがアレキサンドライトの取得条件を考えると、その時点ですでに持っていた可能性が高い。

 

おそらく、キルアがゴンに黙っておくよう入れ知恵した、というところだろう。

 

移動スペルの駆動音で、周囲に飛行機の離陸音のような轟音が響いている。もうすぐ着きそうだ。やっぱりスペルカードは便利。

 

とは言えど、正直スペルカード40種と、指定ポケット100種を作ったこのゲームの製作者は、ちょっと頭がおかしいと思う。ジョイント型なのはまず間違いないにせよ、それにしたって、相互協力した程度でこんな能力を作れるのかという話だ。

 

まあ、すべてをこのG.I.の中だけで完結させているからこそ成立しているんだろうが。それにしても、一流の念能力者が何人必要で、何人が人生を棒に振る必要があるのか。それで出来上がるのが、たかが一ゲーム。どう考えても、リターンよりリスクに天秤が傾いている。……つまり、イコールで妙に強力な効果も成立しうるわけだ。

 

自分なりに納得したところで、私達を包む「同行(アカンパニー)」の光の繭が降下を始めた。体がわずかに下に引っ張られる。風は一切感じない。あらゆる慣性を無視した動き。

 

それが私達を目的地まで運び、気づけば鈍い重低音とともに地面に着地していた。光の繭が解け始める。目的地に到着したことで、膜がはがれていく。繭の外が少しずつ見えてきた。

 

周囲は岩山。砂が舞う地帯。風の乾燥具合でもそれがわかる。目の前には、身構えた人影がふたつ。急な来訪に驚いているようだった。私達と人影の間に警戒が流れる。だが繭が完全に解けると、それにつられるように構えも少し緩んだ。

 

お互いの姿が視界に入る。こちらは少女三人に大男一人。向こうは背丈の低い少年がふたり。見たところ、オーラの量自体はそこまで増えていない。元々の水準が高かっただけに、惜しい。G.I.は実力向上には、少し時期が遅かったのかもしれない。私は二人に向かって手を上げた。

 

「よー、久しぶりー」

 

師匠としては砕けすぎだが、元々そこまで堅苦しい関係でもないので、軽く挨拶する。彼らは一瞬警戒を見せたが、私の声にそれぞれの反応を返してきた。

 

「びっくりしたー! プレイヤー狩りってやつが来たのかと思ったんじゃんかー! 久しぶり! ところで隣の女の子は? リナウジさんは覚えてるけど……もし会ったことがあったらごめんね!」

「え? リナウジ? ロナウジーニョだかそんな感じの名前じゃなかったっけ? まあいいや、久しぶりだなー」

 

変わらない雰囲気を放つゴンとキルアが、それぞれ手を振る。キルアは控えめに片手を上げるだけだが、ゲーム開始から三ヶ月。こうして顔を合わせるのも、それくらいぶりだ。

 

 

 

 

 

 

風が吹き抜ける岩山の谷間で、合流したばかりのゴン達と向かい合う。リナウジとアニンは周囲の警戒役だ。

 

目の前の二人のオーラを見れば、やはり量そのものは大きく変わっていないとわかる。強いて言えば、体捌きがよくなった程度か。

 

まあ仕方ない。念能力を本気で磨こうと思ったら、消耗するほどの鍛錬が必要だ。だがそれは、安全が確保されていてこそできる行為でもある。少々ゲームの選択を間違えている気はする。

 

ゴンも、せっかくの能力を、せいぜい体術の鍛錬くらいにしか活かせていないように見える。おそらく、本当に戦闘能力を落とすレベルの念の鍛錬はできなかったのだろう。

 

観察を切り上げ、五人の会話に意識を戻す。ちょうど今は、ビスケがキルアを説得しているところだった。

 

「なるほど。ビスケっていったっけ? あんたの言うことはもっともだ」

「ならどう? そんなに酷い条件じゃないと思うけど。あんた達、悪くはないけど、まだまだ未熟だし」

「……チッ。でも、あんたを信用できる理由がねーんだよ。そんな実力者なら、なおさらオレ達じゃ敵わねーだろ」

「ふん。確かにそうね。でもわからない? 自信を持って言うことじゃないけど、あたしじゃ今組んでるリリコ達を倒せない。一対一でも危ういだろうね。正直、あたしは戦闘能力を重視してないから」

「……」

 

勢いよくキルアに顔を近づけ、いかに自分を信用するべきかを語るビスケ。ただしここで語られているのは、人間性ではなく「戦力バランスとして」の信用だ。ビスケの素直な様子に、キルアも警戒をわずかに緩める。

 

「わかったよ。実際、普通の女っぽいあんたより、後ろのリリコ達のほうが強そうだ。どっちにしろ警戒するだけ無駄! ってことだな」

「なんかムカつくガキだわね。……まあ、そーいうこと。わかったなら協力してちょうだい」

「OK、交渉成立だ。オレ達はあんた達に、クリア前まで協力するよ。そのうえで信頼して言うけど、オレ達、あんたらを利用して修行するから。今まで外敵警戒してて、全っ然修行になんなかったからな」

 

これまでの苦労を振り返るように首を振るキルア。ゲーム攻略自体は順調に進んでいるらしいが、私達との実力差を気にしているのが見て取れる。才能だけ見ればむしろキルア達のほうが上だから、単純に年季の差だろう。

 

「ねえリリコ! またオレ達の修行見てよ! 師匠がいるのといないのとじゃ違うんだ! できればウイングさんも呼びたいけど!」

「ウイングさんは理論がわかりやすかったからなー。ま、リリコには脳筋理論があるし、大丈夫だろ!」

 

ふざけつつも、なんだかんだで私を頼るキルアと、真面目なゴン。それぞれ好き勝手に育って。あたしゃ嬉しいよ。でも、そういう面なら、私よりも向いている存在が、ちょうどここにいる。

 

「私よりも、こっちのビスケのほうが師匠には向いてると思うけどなー。ことここに至っては」

「ん? あ、そうだわね。というかあんた達、ウイングの弟子なの?」

「なに? あんたウイングさん知ってるの?」

「えー!? そうなの!?」

 

ビスケの口から、当然のようにウイングの名前が出る。ゴン達が驚き、私もびっくりした。どういうことだ。

 

「知ってるも何も、ウイングは私の弟子だわさ。つまりあんた達は、私の弟子の弟子。孫弟子ってことになるだわね。すごい偶然」

「はァー!? んなわけあるかよ! こんなちっちぇえ女がウイングさんの師匠なわけねーだろ!」

「なに? 疑う気? なら早速修行見てやろうか? ほら、腕立て300回。ぼさっとしてないでさっさとやりな! それとも逆らうかい?」

「………クッソーッ!」

 

ビスケの威圧に屈したキルアが、悔しさをにじませながら腕立て伏せを高速でこなしていく。それを見たビスケが、フォームに対して厳しいチェックを開始。キルアはさらに屈辱を味わわされる。ゴンはそんな様子を、静かに目に焼き付けていた。

 

「すっげー! キルアが型なしだ! ビスケってすごいんだね! 多分ウイングさんの師匠っていうのも本当なんだよね!? オレ! 君の弟子になっていいかな! いや、ならせてください! よろしくお願いします! 押忍!」

「あら素直じゃない。いいだろう。この念を覚えて40年の超ベテランが! あんた達の面倒を見てやろうじゃないの!」

「ババアじゃん!」

 

いい流れになっていたところで、ビスケの指導から一瞬だけ解放されたキルアが、余計な一言を差し挟む。キルアには、そのあとさらに厳しい修行が待っていた。

 




リナウジ=ポーニョ→ロナウジーニョ。足技が得意

アニン=フロラッシュ→アバンストラッシュ。空を斬る斬撃の使い手。天地が合わさり最強に見える(海がないので見えるだけ)→なお作者はにわかな模様。

ツモ=タンキー→麻雀のツモと単騎。博打打ちの能力者
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