胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第25話

ビスケから見て、ゴン達二人の戦闘技術は十分なようだった。むしろオーラ量に比して過剰なほど研ぎ澄まされているらしい。まあそれは私とウイングが画策して、特に反応速度を重点的に磨いたのだから、ある意味当然だろう。

 

強いて言えば、その分だけ基礎が若干物足りないとのことだったが、ぶっちゃけ修行を続けていけば自然と身につくので問題ないそうだ。

 

で、一体どんな修行をするのかというと──午前は体捌きを鍛え、午後はひたすらオーラ量増量訓練。可能な限り負荷をかけて、今の技術に見合うオーラ量まで引き上げる、という方針らしい。

 

まずは午前。私の目の前では、二対一の攻防が繰り広げられている。事前に武術の型などを一通り叩き込まれたうえでの対決。当然、一がビスケで、二がゴン達だ。数では勝っていても、力量ではビスケが明らかに数段上。

 

当然のようにゴン達の攻撃を察知して、捌いている。堅である程度オーラを広げているからか、ビスケにはそもそも「死角」という概念が存在しない。どころか、体術の崩れを逐一指摘する余裕さえあった。

 

「そこ! ゴン! 踏み込みすぎ! キルアは……悪くない! 続けな!」

 

「「押忍!」」

 

すっかりビスケの教え子と化したキルアとゴンが、果敢に挑みかかる。私が入り込む隙もあまりない。悔しいが、さすがベテランというだけのことはある。

 

私は視線を隣のアニン達との遊戯に落とした。

 

「穴熊かー、私嫌いだなー。長引くからよ」

「でも効果的ですよ?」

 

アニンと私では好みが違うらしい。本気の将棋対決なら私も穴熊はアリだと思うが、遊びの一局だとどうにも集中力が削がれる。単純に、平時の私相手には特攻だから苦手なのだ。

 

そばのリナウジは「穴熊?」と首を傾げている。将棋は知らないらしい。まあサッカーと比べたらマイナーだからそんなものだろう。ただ、ルールを軽く書き起こした紙を渡してあるので、何とか理解はしているようだ。

 

ちょっと集中を削られながらも、何とか駒を打つ。

 

すると傍でその様子を見ていたリナウジの気配が変わった。何か悪手でも打ったかと訝しんでリナウジ見る。だが異変はそっちではなく、リナウジの指輪から突然メッセージが流れ出てきた。

 

《他のプレイヤーがあなたに対して"交信(コンタクト)"を使用しました》

 

誰かが、私達に話があるらしい。リナウジが通信のためにブックを唱える。バインダーが空中に具現化した。

 

『久しぶりだなリナウジ。お前とはバッテラ氏の審査会以来か。見たところ、他にも審査会を通過した能力者と、バッテラ氏に直接プレイを許されたプレイヤーがいるだろう。No.75奇運アレキサンドライトについて交渉がしたい』

 

この声は……ツェズゲラか。現在90種近くを集めている最上位プレイヤー。そして今は、バッテラ氏の取引相手であり、私の取引相手。バッテラは失踪したが、代理人は予め立てられていたので、今も取引は継続している。無論私が秘密裏に引き継いだものだ。

 

メッセージを聞いたリナウジが、どうするかこちらに視線で伺ってくる。そんなもの、私もアニンも内容次第としか言いようがない。例えばツェズゲラが、今独占しているSランク以上のカードを全種類こちらに譲るというなら交渉に乗ってもいい。

 

それ以外は、申し訳ないがこちらが不利すぎるので受け付けない。

 

独占は「他プレイヤーにクリアさせないため」にやっているのだから、先方に独占カードを一種類でも残した時点で意味がない。つまりゲームの進み具合が違おうと交渉と銘打ちながらツェズゲラだけ独占カードを維持するなんてのは受け入れない。

 

『もちろん君達の懸念もわかる。そのうえで、オレ達は独占二種のカードを君達になら渡してもいいと考えている。無論、こちらがプレイで先行しているから手放しても構わない、という事情もあるがね。どうだ? 交渉に応じてくれるなら、他にSランク二枚もつけるぞ?』

 

現在、私達は71種所有。うち65がD〜Aランク。Bランクは全て揃っていて、残りのAランクも場所さえわかってしまえば、ほぼ力量勝負(木を一定以上の力で叩くだけ、など)なので、集めるのは難しくない。つまりそれで81種。そして、ツェズゲラの交渉が本当なら85種まで伸び得る。

 

Sランクは、この数ヶ月でさえ6種しか入手できていないのが現状。それが一気に85種。Sランクの攻略は、"道標(ガイドポスト)"で場所が見えても、ざらに十数日はかかると考えると、なかなか破格な数字である。

 

MMORPGのように、まずクエストの要求素材を満たし、装備を作り、そこからようやくSランク向けクエストの入口が開く。前準備にすらそれだけ時間がかかるのだから、本気で言っているなら確かに美味しい話だ。……が、それと信用できるかは別問題である。

 

「それ本当か? 私が言えたことじゃないけど、Sランク四枚はAランク一枚に対して破格すぎるぞ。実力が拮抗してないって言ってもなー」

 

『はは、リリコくん、君が言うか。あまり大人を舐めないで貰いたい……だがまあ、気づいた時にはしてやられたと思ったが、従来の契約通りだからそれはいい。実力が拮抗していないというのも認めよう。だがこれは公正な取引だ。お互い独占をやめて、手を取り合おうと言っているんだ。そちらのゴン、キルアペアと同じようにな』

 

「まあ理屈はわかったけどよ。それは私達の庇護下に入るって意味でいいんだな? 言っとくけど、そうなったら私が上であんた達が下だぞー」

 

『わかっている。正直悔しいが、今いるプレイヤー狩りの強者、ボマーの実力は未知数だ。ハンターである以上、オレも最低限の戦闘能力はあるが、明らかに戦闘を日常の一部に取り込んでいるあんた達には及ばない。屈するつもりはないが、下でいい』

 

ボマーと言うと、最近ツェズゲラが直接審査したバッテラ選抜のメンバーも、ボマーに殺されたらしい。つまり、最低でもツェズゲラが認めるレベルの念技術を持ったハンターがやられているということだ。警戒するのも無理はない。

 

周りで聞いていたリナウジとアニンも、最上位プレイヤーが、嘘か真か事実上の降伏宣言をしてきたことに眉をひそめる。……が、そうなると、逆に条件が足りない。

 

「交渉はOKだ。でも、それに加えてもうひとつ。一緒に行動するなら、能力を明かして欲しい。ちゃんとした能力だと私が認めない限り、交渉はともかく共同戦線は無理だ。もちろん、私達は発を明かさないぞ」

 

『……仲間と相談させてくれ。交渉の成立は了解した。会う場所の座標は───だ』

 

誇大妄想込みではあるが、「ツェズゲラ自身がボマー」という可能性も一応ある。最上位プレイヤーなら、プレイヤー狩りに転じた時の実力も申し分ない。だからこそ、能力の開示は必須条件だ。

 

この世界は、時間さえかければ格上を殺すのだって難しくない。私は魔術である程度の護身は敷いているが、他のメンバー全員がそうというわけじゃない。様子を伺っているリナウジだって、ボマーに怯えているアニンだって、相手の能力次第ではあっさり死ぬのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ツェズゲラと、草原で相対する。見晴らしのいい平原。向こうは仲間を三人連れている。対してこちらは六人。しかも全員が戦闘系の人間なので、戦闘力の格差は言うまでもない。

 

お互いのリーダー、つまり今回は"交信(コンタクト)"で話していたツェズゲラと私が前に出る。バインダーは互いに開いたまま。それはトレードのためでもあるし、相手がスペルカードを切る気配を見せた瞬間に対応するためでもある。

 

草を踏みしめ、私達の足が近くに並ぶ。ツェズゲラはスペルカードを切る気配を見せない。何か能力を使う様子もない。仮に仕掛けてきても、私なら万全に対応できる自信はあるが、さてどう出るか。まず、ツェズゲラの方から四枚のカードが差し出された。

 

「オレ達が独占していた『No.80浮遊石』と『No.85身代わりの鎧』……そして入手が難しい、カメレオンキャットと手乗りドラゴンだ。当然どちらもSランク」

 

カードを受け取り、念のためそれがスペルカードで偽造されたものではないか確認するために、聖騎士の首飾りを翳す。偽物ではないと確認できたので、そのままバインダーに収めた。

 

ツェズゲラには交渉の対価として、当初の約束通り奇運アレキサンドライトを渡す。ツェズゲラは、渋い顔をしながらもそれを受け取った。

 

「共同戦線の話だが、仲間の中に、能力をタダで開示するのは嫌だという者がいる。俺を含め、同意している者の能力だけ、というのは───」

 

ツェズゲラが、こちらに妥協案を出そうとして言葉を継ぐ。聞く限り、「まあ、その程度なら飲めるか」という条件だった。……が、そこで、ゲーム内で何度も聞いたことのある音が、上空から響いてきた。

 

自然と空を見上げる。光の繭がこちらに向かってくる。まったく話に聞いていない事態に、私はツェズゲラの方を見たが、ツェズゲラもそれについては知らないらしい。微妙に驚いた顔をしている。

 

光の繭が落ちてきて、地面に音を立てて着地する。光が剥がれ始める。その中から現れたのは、民族衣装らしきものを身に纏った黒い肌の男。肩には、どう見ても爆弾と思しきもの。さすがにボマー本人とは思えないから、おそらく被害者側か。

 

「……なんだと? ツェズゲラ組にビスケ組? ……これは望外の幸運だな。ちょうどいい。あんた達、話がある! ニッケス組がボマーに殺られた!」

 

黒人の男──そばのツェズゲラ曰く「アベンガネ」というらしい──は、相当むちゃくちゃなことをぶちかました。

 

ニッケス組が烏合の衆なのは事実だとしても、数十人の念能力者集団だ。ボマーがプレイヤー狩りの実力者だとしても、その人数で一斉にかかれば、返り討ちにできる可能性は高い……嘘だとは思えないが。

 

「どういうことだ? 説明してくれるんだろうな、アベンガネ」

「ああ、もちろんだ! ツェズゲラ組に、新進気鋭のビスケ組に、この情報を伝えられるのは大きな意味がある! 話そう!」

 

ツェズゲラに問われたアベンガネが、切羽詰まった様子で大きく頷く。どこか芝居がかった動きだが、話を聞くにはここは絶好の場所だ。見渡す限り私達以外に人影のない平原。盗み聞きの心配もない。

 

 

 

私達は、その場にいる十人ほどでアベンガネを囲み、話を聞くことにした。座る場所もないので、自然と立ち話になる。アベンガネは語った。ニッケス組に初期から紛れ込んでいた裏切り者の存在。

 

そいつの能力、名前。

 

そしておそらくしばらくすれば、そいつ、ゲンスルーが「ボマー」として表舞台に立つであろうこと。ゲンスルーは、クリアのためなら躊躇なく襲いかかってくること。何より、その計画性の高さがどれほど恐ろしいかを。

 

アベンガネの肩に付けられている爆弾も、まさにその能力と計画性の結晶らしい。ニッケス組で数年単位で潜伏して信頼を積み上げ、数十人の構成員全員が一堂に会するそのタイミングで、面倒な条件をクリアさせて仕掛けた、というわけだ。

 

「だからあんた達も気をつけてくれ。奴は狡猾で残忍……いや、あんた達で無理なら、ボマーを対処するのは不可能か。せめて、俺達ニッケス組亡き後に、あんた達がクリアまで辿りつくことを祈っている」

 

黒人の男は一瞬だけ目を見開くと、遺言めいた言葉を残してからバインダーからカードを取り出した。"再来(リターン)"のカードだ。男はそれを使い、唱えて去っていった。光の筋が空に走り、私達はそれを見上げる。

 

視線を地上に戻すと、ツェズゲラが真剣な顔でこちらを見ていた。

 

「君のハンター試験の様子は調べさせて貰った。ゲンスルーは知らないようだが、一流の念能力者と思しきヒソカと互角、しかも仲間を呼ばせるほどの戦いだったそうだな」

「まあ、ちょっと齟齬はあるが、そーだなー」

「やはり共同戦線をお願いしたい。君達の強さを知っていたなら、ゲンスルーもまた違う方法を取るはず……この状況では君達が切り札になりうる。それに理由も出来た。ボマーは脅威だ。お前たち、構わないな?」

 

こちらに頭を下げてきたツェズゲラが、そのまま背後の仲間達にも意見を確認する。ほぼ確定事項のような言い方だが、ツェズゲラの三人の仲間達も異論はないようで、硬く頷いていた。

 

「どうだろうか? こちらには探知系能力者もいる。決して足手まといだけでは終わらないと自負しているが」

「んー、いいぞ。それならクリアまでにボマーをボコろーぜ。能力の感じ、仲間はいそうだけど、面倒な条件からして同格レベルがせいぜい一〜二人ってとこだろうからなー」

「……感謝する!」

 

ツェズゲラと握手を交わす。想定以上に状況が悪く、もっと断られてもおかしくないと覚悟していたのか、本当に感謝している口ぶりだ。もちろん、共同戦線を張る以上、こちらもそれなりに有益な情報や戦力は出すつもりでいる。

 




ツェズゲラは本当にずる賢いけどちゃんと頭を下げられるお方。歳をとってみるとこんな大人に憧れる。
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