胎内回帰願望《パンチーファンシー》   作:来い!ゲンスルー!

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第26話

ニッケス組壊滅の報せを受けてから数日。私達は最近ゴン達の修行もあって、よく集まる岩山地帯で会合を開いていた。今回は少し緊急性の高いものだ。ここのところ結構伸びてきたゴン達も聞いている。

 

「クソ、やられた。ゲンスルーめ、厄介な事をする。まさかプレイヤー名の改名制度を使って混迷させてくるとは」

 

ツェズゲラが地面を叩く。

 

ここ数日で起こったことはまさにそれだった。

 

ゲンスルーから見てツェズゲラ組の拡大は脅威。しかも共同戦線を組めるような奴がいるという事は、そいつは最低でもツェズゲラが同格と認めるレベルの実力者。

 

おそらくゲンスルーはそう読んだだろう。だからゲンスルーはこの数日間ひたすら隠遁の為にプレイヤーを襲い、脅した。プレイヤー多数にプレイヤー名の改名を迫ったのだ。

 

この場にいる全員のほとんどは、それの厄介さを理解していた。だがその中でゴンは、一人首を傾げる。

 

「えーっと、改名してもそのプレイヤーのところには飛べるんだよね?でもどれがどのプレイヤーだか全然分からない。どひゃー。すごいこと考えるなぁ」

「あんたねぇ。感心してる所あれだけどあんたも危ないわよ。一人になったらドカンってなるかも!!」

「え?脅かさないでよビスケー」

「脅かしちゃいないわさ。ツェズゲラ以外ゲンスルーの素顔を誰も知らないのよ?」

 

ビスケの論説に、キルアやリナウジなども確かにと納得の表情を浮かべる。ゲンスルーは決して顔を隠していた訳では無いが、私達とはプレイヤーが数百人いることもあって数ヶ月接点がなかった。キルア達も会ったことはあるだろうが具体的に誰とは言えないはずだ。

 

だいたい、ゲンスルーの素顔を知っていたところでその仲間の素顔は一切知られていない。もしその仲間がゲンスルーと同格だとしたら程度によっては今のゴンとキルアでは危ない。

 

おそらく敵はツェズゲラよりもだいぶ強いだろう。だからこそ私達の存在を知るまでは計画を実行していた。

 

だがビスケより強いという事はほぼ間違いなくない。ビスケだって秀才か天才の類だ。しかも40年来の。それに単純に念能力だけで打ち勝つというのはほぼ無いと見ていい。

 

つまり見つけさえすれば余裕で囲んで叩ける相手。だがその見つけるのが今は難しい。行き詰まった状況に私達は頭を悩ませる。

 

「独占カードは依然私達が三種保持していますので有利は揺らがない。でも多分ゲンスルー組も闇のヒスイを独占している。イタチごっこですね」

「アニンは何か策とかないのか?おれはこのまま追い込んでいくというのくらいしか考えられない」

「私もです。場所さえ分かればリリコの能力で逃走を封じられるのですが。そこまでが遠いですね」

 

リナウジとアニンが意見を交わすが、出てくるのはやはり現状維持で確実に優位を保つ策だけ。場所と言うとツェズゲラ組が探知系能力を持っているが、ここまで徹底的に隠遁されるとさすがに分からない。一度でもゲンスルー組の誰かを捕捉できれば確実に追跡可能らしいが。

 

話題が袋小路に入る。これ以上は意味の無い議論が続くだけだった。そこで状況を見ていたキルアが纏めに入る。

 

「つまり取れる選択肢は、オレ達がこのまま人数固めて相手を追い詰めるか、人数ばらけさせて誘い出すかってところか。正直オレとゴンは舐められてるだろうから囮には最適だな」

「んー、なるほど。やる価値はあるなー。キルアじゃなくて私とツェズゲラで誘い出せば行けるかもしれねー。私なら万が一の逃走手段もあるしツェズゲラを守ることもできるから」

「マジ?バケモンだな。じゃーありなんじゃね?ゲンスルーはツェズゲラの実力を正確に把握してるから誘いだとしても釣られるのは有り得るし。逆にツェズゲラはボマーの実力理解しきれてねーって想定をゲンスルーはしてるだろうしな」

 

キルアが驚きながら作戦を肯定する。ゲンスルーはかなりこちらの事情を推察してきているが、所詮推察。憶測の域を出ない。そして私達をツェズゲラと同格の実力者として見ているという訳でなく、同格の実力者もいる集団として見ているはず。ツェズゲラと同格と目されているのは明らかに纏うオーラが違うリナウジだろう。

 

それ以外は全員才能があるだけの発展途上の子供だと思っているはずだ。もちろん違う可能性も考えているだろうが、全員が全員ツェズゲラと同格の能力者だと思っているとしたらゲンスルーだってクリアを投げ出すなり別の方法に出るなりしているはずだ。

 

それをしていないという事はまだ完全に推察出来ていないという事。そして私とツェズゲラが組めばそれなりに釣れる可能性が高い。なぜなら私の能力は既にバッテラ達をG.I.内で治療するのに最適な能力だと判明しているからだ。

 

つまり私は戦闘系ではない。ツェズゲラと同格の実力者では無いと考えられている。そこを突く作戦。

 

ゲンスルー組はツェズゲラさえどうにかすれば確実に戦力を削れるのだから、喜んでくらいついてくるだろう。それを考えればこの作戦はこれ以上ないものであるはず。

 

この場にいる全員も、作戦には理解を示した。酷な役割を受け持つ事になるツェズゲラも、それが有効な方法だと思ったのか、「やろう」と言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

ゲンスルーを釣る仕組みは単純だった。ツェズゲラと私以外はいつも通り固まって行動する。それだけ。きっとゲンスルーから見ればリナウジを軸としてツェズゲラ組の構成員が中核を成しているように見えるだろう。

 

そして私とツェズゲラ。大所帯を支える屋台骨の補給係。実力のツェズゲラと情報からして物質移動系の能力者の私。街へ行くためにツェズゲラに護衛してもらい、私が物資輸送の全般を担当する。こういう仕組みがゲンスルーには見えるはずだ。

 

疑われる余地はない。以前の私との取引に対しての余裕からして、ツェズゲラが一廉の人物であるのは明白だ。その人物が明確に下に着くような人物など、それこそ歴史に名前を残すような、二ツ星(ダブルハンター)レベル!ゲンスルーからして有り得ない事だ。そしてそんなすごい奴は、普通こんなゲームに入ってこない。

 

「いやあしかし、ビスケ氏にはオレも頭が上がらないな。まさかあのビスケット=クルーガー氏だとは。修行をつけてもらえるゴンとキルアが羨ましいよ。認められてるお前もな」

 

ここ最近何度目かの物質補給の為に街中のトレードショップへ行った帰り、ツェズゲラがちょっとぼやく。帰り道の森林で、周囲に聞こえないよう抑え気味に放たれたその言葉は、どこまでも自然体だった。

 

緊張はあまり見られない。しかし警戒はある。どこからどう見ても実力者相応の態度だ。年下の子供を認める柔らかい雰囲気もある。それは本心でもあるし、演技でもある。

 

私がその言葉に返事をしようとした時、視界の端で草木が揺れ動くのが見えた。風に従うように、私の横から後ろへと流れていく。木の葉が舞い散り、木々がさざ波立つように細かく揺れた。

 

静寂に、一瞬時が止まる。それでも私は笑顔を浮かべて返事を返そうとして───。

 

「動くな。動いたらこいつの首を吹っ飛ばす」

 

底冷えた声に、また一瞬だけ時が止まった。隣にいたツェズゲラのオーラが揺らぐ。目が私と合った。光の反射のせいか、不安に目が震えているように見えた。

 

背後で、葉が擦れ合う音が鳴る。かろうじて動かせる目で背後を見ると、額に不思議な刺青を入れた男二人が私の首を掴んでいる誰かの肩を叩いているのが見えた。

 

「やめろお前ら……さて、こいつの首を吹っ飛ばされたくなければ動くなと言った訳だが、掴んでいるのにどうやって吹っ飛ばすのか疑問に思っているだろう。思っているよなツェズゲラ?そこでこれからオレの能力について説明しよう」

 

ゲンスルーらしき男が万が一にも私を逃がさないように首をより強く握り締める。私はそれに自然と身を委ねた。背後ではゲンスルーが計画が成功した嬉しさすら全面に出さずに冷徹に語り出す。準備は出来ていた。

 

「まずこの少女の首を吹っ飛ばす能力。リトルフラワ────!?」

 

動かないツェズゲラに、私を使えると判断したのだろう。物質移動系の能力者を最初に抑えるのも見事。ただ、今回は私達の策が上をいったようだった。ゲンスルーには想定外な事だろうが、今まで動かなかったツェズゲラが、説明が始まったのを見て動く。

 

首越しに、ゲンスルーの動揺が振動として伝わった。だが次の瞬間、ツェズゲラが一歩目を踏み出した段階でゲンスルーの手に大量のオーラが集中される。おそらくアベンガネから聞いた能力だ。

 

それが今発動しようとしている。

 

ゲンスルーの視線は完全にツェズゲラに向かっていた。

 

都合がいい。私は今まで練っていたオーラを全力で身に纏う。

 

ゲンスルーの視線が今度は私に向き、その顔は驚愕に染まった。

 

その隙に身を捻る。

 

驚愕で揺らいだオーラが私の首に置かれた手の力を緩めた。手が首から外れる。私は身を捻った反動で後ろに振り返った。

 

ゲンスルーと、確実に目が合う。雰囲気が驚愕から明確な敵意を持ったものへと変わった。それでも弾いた手の分、私の方が大幅に早い。故に私は、ゲンスルーを前に拳を振り抜いた。

 

「がァァ!?」

 

ゲンスルーの体が何mか奥の背後で控えていた仲間の男達目掛けて吹っ飛ぶ。面を食らった刺青男達は、攻撃よりもゲンスルーを受け止める事を選択した。その間に私は、ツェズゲラの方に視線を向ける。

 

私の方に近づいてきていたツェズゲラは、こちらに手を伸ばしてきていた。それは私が殺されてしまうのを止めようとしていたから、ではなく。私の能力に乗っかろうとするため。

 

視界の横で、刺青男達がゲンスルーを受け止めたのが見えた。その瞬間に、私は覚悟を決めた形相で手を伸ばしてくるツェズゲラの手を勢いよく叩く。ツェズゲラが目の前から消えた。

 

「なんだと!?」

「こいつ一人残ったぞゲン!どうする!?オレ達は戦う準備出来てるぜ!多分こいつが隠し球だ!」

 

奈落の底で待つ(メイドインアビス)》発動。やっぱり受け入れてくれると発動が早い。ちょっと離れたところで、刺青男達が流で防御はしたものの、想定外に若干ふらつくゲンスルーを支えていた。片方の髪色が派手な奴が前に出て構えてくる。見たところ仲間には情が厚い幻影旅団タイプと見た。むしろそういう事ならやりやすい。

 

「クソっ、やめとけ。おそらくツェズゲラが連絡に行った。すぐに最低でもツェズゲラ級が二人来るぞ。そうなりゃオレ達の負け……おい、サブ、何してる?バインダーを出せ。"磁力(マグネティックフォース)"だ。おい!サブ!」

 

ゲンスルーが私の前で構える男に呼び掛ける。私を警戒して動けないのだろう。派手髪のサブの一歩手前で呼び掛け、自身は既に移動スペルを取り出している。でも使いはしない。サブがバインダーすら開こうとしないからだ。

 

「ショット+念弾」

 

ゲンスルー達からは見えないが、私目線では既にサブは無力化された。正面からの様子を見れば分かる。サブはもう戦えない。それはゲンスルー達があるカードを使わないと一生変わらない事実だ。

 

私からは、手足の接続部を撃ち砕かれたサブの姿が見える。立っているのすら奇跡だった。意識も、威力を調整した念弾で落とした。サブが反応することは……。

 

「ゲン……スルー。逃げろ。こいつは勝てねぇ」

 

サブが意識を取り戻した。そしてゲンスルー達がいる後ろに振り返る。驚いた。だからと言って何が出来る訳では無いのだが、事ここではゲンスルー達に効果があったらしい。

 

「なっ!?四肢が完全に!?あの一瞬で!?これは無理だゲンスルー!逃げるぞ!」

「ああわかってる!……ちくしょうッ!"磁力(マグネティックフォース)"オン!アスタ!」

 

ゲンスルー達がバインダーから移動スペルを取り出し、唱える。個人用の移動スペルカード。サブを置いていく覚悟で使ったか。

 

光の筋が空へ向かって走っていく。見たところやはり情には全員がかなり厚い様子。旅団と違って仲間を見捨てるのも躊躇する感じ。あぁ〜、これはサブを利用できる感じだなー。

 

奈落の底で待つ(メイドインアビス)

 

サブを念空間に収容する。万が一を考えてツェズゲラとは離しておく。あとは、ゲンスルー達を追うだけか。

 

「"同行(アカンパニー)"オン。アスタ」

 

光の繭が私を包み、目的地へと運ぶ。

 

スペルカードは十分あるし、逃がすつもりは無かった。行き先さえ分かれば名前がわからなくても問題は無い。ゲンスルーを捕まえるのも、あるいは時間の問題だ。

 

 

 

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